サムライミ版のピーターに憑依した男っ!!   作:紅乃 晴@小説アカ

13 / 29
第十一話

 

 

そこからのことはあまり覚えていない。まるで夢でも見てるかのような感覚だった。

 

気がつけば家に帰っていて、気がつけば叔父の葬儀が終わっていて、気がつけば叔父の墓の前に一人で立っていた。

 

思い出せる限りの中で、メイおばさんはずっと言ってくれた。ピーターのせいじゃないと。叔父さんは最後まで、俺がやってきたことは間違っていないと言ってくれていたこと。そして成したことに対する大いなる責任についても、ピーターはよく理解できていると言っていたそうだ。

 

その言葉すらもあやふやで、まるでもやが掛かっているように掠れていくような気がした。

 

ただ、はっきりと覚えているのは夜の家の中で、メイおばさんが一人で泣いてるところだった。どうして私を置いて逝ってしまったの。どうしてこんなことに。どうして……あぁ、神様、どうして。

 

自分に対して、途方もない怒りがあった。メイ叔母さんは、ピーターのせいではないと慰めてくれたが、なんでこんなことになったかと問えば、それは俺が有名になってしまったから。アークリアクターなんてものを開発してしまったから……それを望むもの、奪いたいもの、独占したいものが多かれ少なかれ存在していることだ。

 

そいつらはどんな手段でも容赦なく使ってくる。悪党や犯罪者を使ってまた生活を脅かしてくるだろう。そして、それを呼び込んでいるのは紛れもなく俺自身だ。

 

叔父の墓の前で多くのことを考えていた。犯人が言っていたオズコープのこと。ノーマンが主犯だということ。そして誰かがアークリアクターの秘密を狙っているということ。

 

手に握っていた新聞はぐしゃぐしゃになっていたが、その一面にはオズボーン・スキャンダルと書かれた一面が大きく書き出されていた。

 

若き天才、その才能をみたノーマン・オズボーンは嫉妬に狂い、その青年の家を強盗に扮した企業スパイに襲わせ、彼の唯一の叔父であったベン・パーカーを殺害させた。事件後の彼は行方をくらましており、オズコープは役員会議にて、全会一致でノーマンをオズコープから追放させることを決定した。警察やCIAもノーマンの行方を追っているが未だに手がかりはない。

 

デイリー・ビーグルを始め、ニューヨークタイムズや他の新聞社も同じようなことを書き出していた。その新聞を見てショックを受けたメイおばさんは余計に心労が酷くなり、一時は一人で立って歩くことすらできない危険な状態まで陥っていた。幸い、今は回復しておじさんの葬儀は家族のみで執り行うことになった。

 

叔母さんは神父の方や葬儀関係者と一緒に先に家に帰っている。叔母さんは俺が無理を言ってすぐにセキュリティがしっかりとしたマンションに引っ越してもらうことになっている。今の家は俺の部屋を除いて空き家同然だった。

 

 

「ピーター」

 

 

さわさわと新緑の葉が風で揺れる音が聞こえる中、俺を呼ぶ声が聞こえた。振り返るとそこには、ハリーとオクタヴィアス夫妻が立っていた。

 

ハリーは件の記事のせいで身を隠さざるを得なくなり、しばらくの間はオクタヴィアス夫妻の元にいたらしい。格好も喪服ではなく、目立たないジャケット姿にサングラスと帽子を深く被っていた。

 

 

「ピーター……なんて言えばいいのか……ずっと考えていたけど……俺は……」

 

「ハリー。いいんだ」

 

 

言葉に悩んでいるハリーに振り返らずに言う。ハリー自身も、あの新聞の記事や、オズコープを追放された上に行方を晦ましている父の行動に戸惑いを隠せていないのだろう。

 

 

「何がいいんだよ、ピーター……!お前の叔父を殺したのは……」

 

「よせ、ハリー。ピーター、私たちの話を聞いてはくれないだろうか?」

 

 

俺の言葉に感情的になったハリーを止めながらオクタヴィアス博士がそう言ってくる。たしかにノーマンは計算高く、必要なら君たちの実験成果を売るような冷徹さを持ってはいる。だが、ハリーを気にかけていたことや、ピーターに期待していたこと。そして自分達三人でアークリアクターを作り上げたときはまるで自分のことのように喜び、二人を称賛していたのだ。オクタヴィアス博士はそれを側で見てきた。どんな取材や仕事の話がこようとも、彼はピーターと、ハリー、そしてオクタヴィアス博士の成果を褒め、そして認めていた、と。

 

 

「だから、ピーター。彼が君の成果を横取りするような矮小な男だとは私には考えられない。……君が辛いのはわかるが……だが」

 

 

どうか、ノーマンを悪だとは思わないでくれ。そう頭を下げるオクタヴィアス博士に、ハリーも妻であるロージーも言葉を無くした。

 

俺は叔父の墓を見つめる。

 

あぁ、そうだ。叔父が言っていたことを思い返す。スパイダーマンとして、親愛なる隣人として胸に灯し続けた言葉であり、これからの人生を決定づける呪いの言葉を。

 

 

〝大いなる力には、大いなる責任が伴う。忘れるな、ピーター〟

 

 

 

俺はこの世界にやってきてすぐの頃に、幼い子供と親を助けた。あの時に体は動いた。正しい方向に。

 

俺は一輪の花を叔父の墓に手向けて、三人の方へと振り返った。

 

 

「三人とも。ついてきてくれ」

 

 

 

 

 

それから向かったのはパーカー家だった。叔母はすでに新しいマンションに出ていて、ここには今日は帰ってこない。俺は三人を自室に案内してから、すぐに部屋のパソコンを起動させた。

 

 

「ハリー、僕らのラボはどうなってるの?」

 

「それは……」

 

「私から説明する。あのラボはほぼ閉鎖状態だ。事件翌日に警察とオズコープの社員が来て、ラボを強制的に閉鎖したんだ」

 

 

ハリーは朝から飛び込んでくるようにやってくる誹謗中傷をしてくる市民から逃げるのに必死で、ボロボロになりながらラボにたどり着いたところでオクタヴィアスが救助したらしい。説明をしてくれた博士も朝イチでラボに入ろうとしたらすでにカードキーの暗証番号がロックされていて、ラボ内の備品を持ち出せないまま追い出されたらしい。

 

 

「明らかに用意周到が過ぎる。ノーマンの一件でオズコープが手配をしたとしても、ここまで強引なやり方をしてくるとは……」

 

「俺の家も警察の捜索の手が入ってる……部屋にあった資料も全部やられてるはずだ」

 

 

あまりにも手際が良過ぎる。叔父が撃たれてから新聞社がノーマンの記事を出すまでも。まるであらかじめノーマンがその事件を起こすことを知っていたかのように……。

 

だが、どれを考えても推測にすぎない。ノーマンがやっていないと言う証拠もないし、新聞各社もノーマンの音声データや企業スパイをさせた指示書などの証拠を掴んでいる以上、何を信頼すればいいのかわからないのだ。その事実を困惑するハリーの顔が雄弁に物語っているように思えた。

 

 

「確かめる方法はある」

 

 

だからこそ、俺はここにきた。

 

 

「確かめるって……何をするんだよ、ピーター」

 

「ハリー、君に渡した〝ラプラスの鍵〟は肌身離さず持ってるよね?」

 

「あ、あぁ、これか。ウェンディの機動実験成功の時に作ったやつ」

 

 

ハリーが思い出したように首元にあるネックレスを取り出す。そこには長方形に加工したパーツが付いている。俺はハリーからそれを受け取ると精密ドライバーでパーツの一部をこじ開けた。

 

 

「なるほど、グーバーか!」

 

 

それを見た途端、オクタヴィアス博士は納得したように手を打った。ハリーはよくわからないようだったが、〝ラプラスの鍵〟と言ってハリーにウェンディ起動記念に渡したこれは、もしウェンディが悪用された場合に使う最終手段。いわゆる世界を救うための仕掛けとして用意したものだ。

 

 

「なんでこんなものを俺に預けてたんだ?」

 

「ウェンディの生みの親は僕達二人だ。だからこれを使うときは君の許しも必要だったんだ」

 

 

それに立派な犯罪行為だしね、とだけ伝えてハリーは「それなら仕方ないか」と許してくれた。このグーバーは、ウェンディが使用する衛星回線に不正にログインするためのツールだ。もちろん、このグーバーを使用すれば不正なアクセスは相手にもバレる可能性はあるし、下手をすれば国家機密にアクセスした罪で牢屋行きとなる。

 

それでも、これを使えばわかることは多くある。ウェンディのサーバーは国家運営となってはいるがその大元はオズコープのサーバーにダイレクトにつながっているし、それに依存しているはずだ。そこから逆に検索を掛ければ本当にノーマンが企業スパイの指示をしたのか、それとも何か他の陰謀があるのかがわかる。

 

 

「その役目は私に任せてもらおう」

 

 

グーバーを差し込みソフトが起動したところで、オクタヴィアス博士がそう言ってきた。だが、博士は今回は完全な被害者でありとばっちりだ。俺とノーマンの関係や、ウェンディのことで危険な目に遭う必要はないはずなのに。するとオクタヴィアス博士は優しい笑みを浮かべてこう言った。

 

 

「君たちには世話になりっぱなしだからな。ここは大人の威厳というものを発揮させてもらうとするよ」

 

 

それだけ言ってグーバーのハッキングを始める博士。俺とハリーはそんな博士の背中を見て、肩をすくめるとサブPCで博士がダウンロードした情報を整理する準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは一体どういうつもりだ?」

 

話は前に戻る。

 

叔父が殺される前、ノーマンは仕事帰りに覆面の男に拉致されていた。目隠しの袋を外されて座っていたのはオズコープの社内であり、目の前には取締役員の面々が座っている。

 

 

「ノーマン。君の先見の明には随分と世話にはなった。だが君の野望もここまでだ」

 

「まて、何を言ってるんだ?」

 

「役員は君の存在が疎ましくなったのだよ」

 

 

そう答える役員たちにノーマンはまだ事態が理解できていない様子だったが、彼らが何をしようとしているのかは直感的に理解はできた。

 

 

「私を追放するつもりか?私が作り上げてきた……このオズコープから!!」

 

「追放……とは少し違うな。君はここに囚われることになるのさ。永遠にな」

 

「なんだと?」

 

「プロジェクト・ウルトロン。これが完成すれば世界はより安定した治安維持システムによって保護され、世界秩序は達成される。アメリカ合衆国と、オズコープの力によってな」

 

 

役員の後ろから現れたのはスローカム将軍だった。彼は自信に満ちた顔で囚われているノーマンを見下ろす。

 

 

「あとは君がその事実を認めるだけだ。簡単なことだ、ウルトロンに備わる自律思考型のAIを完全な物に仕上げるだけだ」

 

「馬鹿な!そんなことをすれば、我々の命令ではなく、ウェンディは自律した思考を持つ存在となる!そんな不安定な存在が兵器になるなど……!!」

 

「不安定ではない。それは美しく、完璧な存在だ。脅威となる者を排除し、平和をもたらす。兵が死ぬことはなくなり、テロリストがアメリカの地を踏むこともなくなるのだ」

 

「その最終決定は善意がある人間が行うべきだ!それがあるからこそ、私は貴方にウェンディを……」

 

「もはやアレはウェンディではない。我々のウルトロンだよ、ノーマン」

 

 

そこで切り上げた将軍が手を挙げると、ライフルを持った兵がノーマンの両脇に立ち、彼を無理やり立たせた。

 

 

「君には二つの選択肢がある。私の要求を断りピーターの叔父を殺した犯罪者として逮捕されるか。それとも私に協力しウルトロンを完成させるかだ」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、ノーマンの顔つきは激昂したそれに変わった。

 

 

「ピーターやハリーたちに手を出してみろ……!!ただでは済まさんぞ!!」

 

「ならウルトロンを仕上げることに全力を尽くすのだな」

 

 

連れて行け、と将軍の言葉と共にノーマンはオズコープの地下研究所へと運ばれてゆく。スローカム将軍は葉巻の煙をくゆらせながらニヤリと笑みを浮かべる。彼がウルトロンを完成させれば将軍の地位も確固たるものになるのだ。

 

 

「将軍、ウルトロンの公式発表は何時ごろに?」

 

「予定は変わらない。タイムズスクエアのフェスティバルで大々的に発表するとしよう」

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。