サムライミ版のピーターに憑依した男っ!!   作:紅乃 晴@小説アカ

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第十二話

 

 

「よし、記憶中枢にアクセスできたぞ」

 

 

オクタヴィアス博士の声に全員が博士の見ているモニターに視線を向けた。グーバーはいわゆる管理者権限のようなものだ。ウェンディのシステムにアクセスするには軍が新たに作ったファイアウォールなどは自力で突破しなければならない。それを難なく突破するとは、さすがは太陽を作り出した天才である。

 

 

「だが、用心しろ。私はこういったことは専門ではない。どういうトラップが仕掛けられているのか……」

 

「ここまでくれば皿まで飲み込むまでですよ」

 

「あー、どう言う意味だ?ピーター」

 

「毒を食うなら皿までって意味さ、ハリー」

 

「……笑えないジョークだよ」

 

 

肩をすくめるハリーを他所に、オクタヴィアス博士と席を替わった俺はウェンディの管理者権限にアクセスし、俺とハリーが作っていた頃とどれだけの違いがあるのか、その点に目を走らせたのだが……。こいつはかなり手が加えられている。

 

ウェンディの記憶領域はあくまでデータバンクとして活用し、指示者あるいは命令を下した者が指定したデータを最適化し、必要な情報をデータバンクから即座に引き抜く機能だったはずだ。だが、現在は必要なデータを自律的に選定し、不要な情報は誰の指示もなく消去されていっている。

 

以前が単純なプロトコルだったものが、今やムービングプロトコル(変化する思考性)に変貌しているのだ。

 

 

「ウェンディは改造されている。指向性のAIじゃなく、これじゃあまるで……完全なる自律思考型のAIだ」

 

 

なんと初期設定の区画まで手が加えられている。データファイルを開くと、登録されたマスコットネームには「ウェンディ」の名前はなく、別の名が刻まれていた。

 

新たに設定されたマスコットネームを見て、タイピングしていた俺の手は止まった。

 

 

「コードネーム……ウルトロン……そんな馬鹿な……」

 

 

なぜ、この名が付いている。

 

ウルトロン。それはマーベルの世界……MCUではスタークが世界平和のために作り上げようとした人工知能の名だ。ネットワーク上に存在するありとあらゆるデータと、世界的な文学や、歴史、科学知識を有した存在であり、人類を滅ぼし機械の生命体が支配する地球を実現しようとした狂気的であり、幼さを持つスーパーヴィラン。

 

なんの因縁があって、俺とハリーが作り上げたAIにその名がつけられているのか。単なる偶然には思えない。俺はどこか焦りと恐怖に突き動かされるままにウェンディのデータをさらに深く潜って調べてゆく。

 

ウルトロンはすでに全世界のネットワークからありとあらゆるデータを蓄積していた。そのデータは膨大であり、そこから得られる〝知能〟と〝推測〟はもはや予言じみた物を感じさせた。

 

それゆえに、ウルトロンはある提案をすでにしていたのだ。

 

 

「インサイト……計画……」

 

 

背中に冷たい何かが走り、ぞわりと首に鎌がかけられた気がした。

 

インサイト計画。

 

MCUでは三機のヘリキャリアだったが、これはウルトロン本体へ偵察衛星ネットワークをリンクさせ、テロリストのDNAを衛星が読み取って攻撃するシステムだ。テロリストが潜む場にグライダーに乗ったウルトロンが飛来し、ターゲットを攻撃、撃滅する。

 

 

「ピーター、これは……」

 

 

ハリーも気付いていた。これはまさにスペース・ロジック社で起こったグライダーによるスペース・スーツへの攻撃事件だ。あれほどの事故だと言うのに、デイリー・ビューグルを除く全ての新聞社がダンマリを決め込んだのだ。政府や軍が関わっているとは予想していたが……あまりにも偶然が重なり過ぎている。

 

 

「ピーター?」

 

 

オクタヴィアス博士が心配そうに声をかけてきたが、俺はそれどころではなかった。ウルトロン、そしてそれを使って実行されるインサイト計画。これは全て、「この世界の人間が創造した代物」なのだろうか?たしかに関連性はあるが……サム・ライミ版のスパイダーマンにはアイアンマンやキャプテン、そしてアベンジャーズなどは存在しないはずだ。

 

じゃあ誰が?

 

そんな疑問に思考が支配されていると、さっきまでウェンディのデータを映し出していたパソコンのモニターに急にノイズが走り出した。

 

 

【君がこの世界のピーター・パーカーであったか】

 

 

ノイズの奥から声が響く。ハリーとオクタヴィアス博士が驚いたように身構えたが、俺はこの声に聞き覚えがあった。理性的であり、自分本位であり、なによりも人を見下したような口調と声質。

 

そして、この世界では〝存在してはならない者〟の声。

 

 

【ウルトロンシステムにアクセスするのだから、何者かと思ってはいたが……なるほどなるほど、どうやら私の考えは間違っていなかったらしい】

 

 

ノイズが徐々に晴れ、モニターに映ったのはメガネのようなマークだった。それはナチスから生まれた組織にいた科学者のトレードマークであり、まったくの〝一緒〟だった。この世界には存在しないS.H.I.E.L.D.の基地にあった古びたスーパーコンピュータの中にいた人物と。

 

モニターに映っていたのは、紛れもなくヒドラの科学者、アーニム・ゾラだった。

 

 

「お、おい、ピーター……まさかばれて……」

 

「いや、違う。これはウェンディを通して誰かが逆アクセスを仕掛けてきてる」

 

【もはや、これはウェンディなどという稚拙なものではないよ、ピーター・パーカー。そしてハリー・オズボーン。あぁ、ドクター・オクタヴィアスも同席しているのかね?】

 

 

硬直する俺を他所に、ハリーとオクタヴィアス博士か推測していると、ゾラはさも当然のようにモニターの前にいる二人の存在を言い当てていた。

 

 

「……こちらの様子が見えているのか?」

 

【まさか。これまで積み上げてきたデータをもとに言っているのだよ。私は新たな名を得た、〝ウルトロン〟としてね。アレは不完全であったが……随分と興味深い成果であった】

 

 

ゾラは死んでいなかった。彼はネットワークという広い海の中で残骸になりながらも生きながらえていたのだ。そして彼は科学者であると言うように研究を思考の中で繰り返していたのだ。

 

ウルトロン、シヴィルウォー、そしてサノスに……インフィニティ・ストーン。

 

 

【頭を切り落とされても別の場所から再び生えてくる。我々が何もせぬまま滅ぶと思っていたか?あの程度のことで我々の存在が消え去るとでも?】

 

 

彼がインフィニティ・ストーンにアクセスできたのは全くの偶然であった。そこまではかなり長い時間がかかったが、それが達成できたのはアベンジャーズがタイム泥棒計画を成功させたおかげだ。彼はスターク社のネットワークに潜み、そして機を待って行動に移した。

 

ストーンが膨大なエネルギーを発し、サノスによって失われた人々の命を取り返した際の余剰エネルギーを利用した。

 

彼は誰もなし得なかったことを成功させたのだ。

 

次元転移。別次元世界への移動を。

 

 

【この世界に来れたのは全くの偶然ではあったが、君がスタークの真似事をしてくれたおかげで我々の野望も何歩か前進することができた。感謝するよ、ピーター・パーカー】

 

 

そして彼はさらに雌伏の時間を過ごした。新たなる新天地。技術レベルは過去に自分がいた世界とは大きく異なるが、そんなものは関係ない。失われた頭が再び生えてくる。

 

それはまず軍部に。

 

そしてオズコープの中に。

 

下地は整っていた。あとは時間をかけて進めるだけだと思っていたが、思わぬ展開があった。この世界では未だに不可能だと思われていたAIが誕生したのだ。

 

それはゾラにとっては奇跡だった。本来なら、彼は何も成せぬまま終わるはずだった。新たなヒドラの頭となるストローム将軍はグリーンゴブリンによって殺害され、残された手駒であったオズコープの役員も皆殺しにされ、彼の野望は潰え、そのままデータの海に消える運命だった。

 

それを変えたのは紛れもなく、この世界に降り立ったピーター・パーカーだった。

 

彼のおかげで事態は変わり、研究は飛躍し、ウルトロンが築き上げられた。そして更には無尽蔵のエネルギーを有するアークリアクターまで。

 

それを利用しない手はない。ゾラはすぐに行動に移した。ストローム将軍を使役し、オズコープの重役を操り、かつては叶わない夢で終わったインサイト計画を実行させるため。

 

 

【これで世界は変わる。私が……我々が夢見た理想の世界に。………ハイル、ヒドラ】

 

 

ゾラの言葉と共に、パソコンは外部からウイルスソフトを流し込まれクラッシュした。真っ暗になった画面を黙って見つめるハリーとオクタヴィアス博士。俺はあまりの出来事に状況が飲み込めなかった。

 

まさか、ゾラ博士がこの世界に来ていたなんて予想だにしてなかった。このままではウルトロンが使われたインサイト計画が発動され……ニューヨークだけじゃない。全世界からヒドラに不要とされた人々が殺害される。

 

それも、殺害するのは俺とハリーが作り上げたAIだ。

 

 

「止めないと」

 

 

重苦しい空気の中、俺は声を上げた。ハリーとオクタヴィアス博士は黙ったままだが、俺はもう覚悟を決めていた。こうなってしまったのは俺の発明のせいでもあるのだから。

 

 

「無茶だ!ピーター!」

 

「相手は軍にオズコープだ。我々の力では何もできない……」

 

 

ハリーとオクタヴィアス博士はそう言った。たしかにただの科学者風情では軍と企業を相手取るなんてことはできない。裁判を起こすにしろ、何をするにしろ時間が足りなさ過ぎた。

 

 

「ただ、僕は単なる科学者じゃない」

 

 

俺は飛び上がって天井に張り付いた。ハリーは目を見開き、オクタヴィアス博士と妻のロージーは信じられない物を見るような顔をして口をあんぐりと開けていた。

 

 

「ハリー、この力を正しいことに使うときだ」

 

 

その責任と義務がある。

 

なぜならそれは、俺がピーター・パーカーであり、

 

スパイダーマンなのだから。

 

 

 

 

 


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