サムライミ版のピーターに憑依した男っ!!   作:紅乃 晴@小説アカ

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第十三話

 

 

「作戦はこうだ」

 

 

出前で頼んだ中華料理の空き箱を乱雑に退かせ、ウェンディへのアクセスがシャットダウンする前に保存していたオズコープ本社の見取り図を広げながらオクタヴィアス博士とハリー、ロージーに説明を始めた。

 

ウェンディ……ウルトロンはオズコープ社内の地下15階の隔離エリアに本体が置かれている。ノーマンは同階に閉じ込められており、今もウルトロンを完全なる自律AIにするように改造を強要されていることも分かった。

 

今回の作戦の目標は、1に人質となったノーマン・オズボーンの救出。2にゾラ博士によって改造されたウルトロンの中枢ユニットを分離、それを奪還することだ。中枢ユニットはウルトロンのコア部にある三枚のパネルで構成されており、ガードシステムを解除すれば簡単に取り出せる設計は残っているはずだ。

 

オクタヴィアス博士とハリーと三人でガードシステムを無効化する抗ウイルスソフトは作ったものの、問題はどうやってオズコープの中に入り込むか。

 

対策は案外簡単に思いついた。

 

 

「はぁい、ピーター。オクタヴィアス博士も。何かあった?」

 

「グウェン。頼みがある」

 

 

グウェン・ステイシーは今専攻学科のためにオズコープにインターンシップをしている。オクタヴィアス博士や俺とも面識がある彼女だ。巻き込むのは申し訳ないが、やることは簡単だ。中に入り、一般に解放されているパソコンのUSBに俺たちが使ったグーバーを挿すだけ。それだけで数分間はオズコープ社内のあらゆる監視システムが凍結する。

 

その間に忍び込んで……というのが囮だ。

 

その役目はオクタヴィアス博士とハリーがやってくれる。正面からオズコープに二人が乗り込めばオズコープの社員や、ヒドラに属する構成員も対処する羽目になる。

 

その間に俺が通気口の内部に侵入。地下へ繋がるシャフトを通って一気に地下へと潜入する作戦だ。

 

 

「すまない、グウェン。君にこんなことを……」

 

「いいのよ、ピーター。それに……誰かとそういうのをするのってなんだかワクワクするしね」

 

 

そう言ってウインクをしてくれたグウェンはやっぱりいい女の子だと思う。不幸体質持ちのピーターより別の人と仲良くなって是非とも幸せになってほしいものだ。

 

さて、俺のスーパーパワーを見たオクタヴィアス夫妻の反応はと言うと、意外にもすぐに冷静になっていた。なんでもアークリアクターの開発などで年相応には見えない姿を感じており、そんなピーターがスーパーパワーを持っていると言っても、「あ、はい」という感想しか思いつかなかったらしい。

 

それよりも二人はすぐに、その力をどうやって有効利用するか議論をし始めた。てっきり質問攻めに合うだろうと、「ピーターのパワーバレた時の言い訳語録」を用意していたハリーは肩透かしを食らったような表情をしていた。

 

 

「ピーターになぜ能力が備わったのかは我々じゃ説明はできない。だが、その力の使い方を考えることはできる。伸縮素材は昔、ロージーが研究していたんだ」

 

「任せて。空気抵抗が少ない最高のものを作るわ」

 

 

そう言って張り切って家の倉庫から伸縮素材を引っ張り出してきたロージーが型紙を元にスーツを作り始めてゆく。伸縮性に優れた布の研究。その論文発表会でロージーと出会ったんだと馴れ初め話をするオクタヴィアス博士に、彼女もまんざらじゃない笑顔を浮かべていた。居合わせたグウェンも「博士ったら同じ話ばっかりするのよ」と呆れた顔をしていた。

 

 

「コクピットモジュールを応用してカメラアイを作った。サーマルゴーグル、暗視モード、望遠、なんでもござれだ」

 

 

ハリーは家にある機材で特徴的な視界保護用のレンズに映像投影の技術や、この時代ではまだ出来ていないはずのオートフォーカス機能、小型カメラと連動させたズーム機能やその他諸々の機能を作り上げてくれた。ガラクタが多いこの家でそんなものを作り上げるハリーもまた天才の領域に足を踏み入れつつあるのかもしれない。

 

 

「インナーは私が研究した素材だ。粘り強く、防弾と防爆に強い。コストが高くて軍には採用されなかったがね」

 

 

パンっと素材を広げるオクタヴィアス博士。その生地の上にロージーが手がけたスーツの原型が覆いかぶさる。こもった空気は吐き出し、外気は取り入れない。これなら冬の寒さに負けることはない。ただし、夏は相応に暑いだとか。

 

 

「デザインは決めてるのか?」

 

 

ハリーがそう問いかけてくる。俺は机の中に仕舞っていたスケッチブックを取り出してハリーに渡した。何ページかチェックして、ハリーはスケッチブックを閉じて眉を上げる。

 

 

「ピーターにしては、いいセンスじゃないか?」

 

 

そう言ってくれた親友と、俺は拳を静かに合わせる。

 

 

 

 

 

 

三人が作ってくれたスーツを身にまとい、夜のダウンタウンを舞う。

 

THWIP!!!

 

手首から放たれた蜘蛛の糸がビルの壁に張り付き、グンと体を加速させてゆく。スイングは最高だ。視界も良好で、空気の抵抗感も全くない。

 

赤と青のスーツはこの体にフィットし、全く違和感を感じさせない。今ならどんな高い場所も飛べるような気がした。

 

「WOOOOOOOOOO!!!!!!」

 

 

高さ30階以上のビルから身を投げ出す。ニューヨークの摩天楼が煌めき、輝いていた。その中をスイングで駆ける。飛んで、壁を走り、手で障害物を乗り越え、そしてまた飛ぶ。

 

宙に舞った体はふわりと滞空して、落ちる。

 

THWIP!!!

 

糸のしなるまま前へ。上へ。そして空へ。

 

蜘蛛の巣のデザインをあしらったスーツを着こなした俺は、そのままの跳躍でエンパイアステートビルの天辺まで舞い上がった。

 

ニューヨークの街を見下ろせる摩天楼の頂に立つ。

 

 

 

捧げられた力。

 

定められた使命。

 

 

 

 

俺は、スパイダーマンだ。

 

 

 

 

 

 


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