サムライミ版のピーターに憑依した男っ!! 作:紅乃 晴@小説アカ
「まさかグライダーを持ってエレベーターに乗るとは思ってなかったよ」
思わず無機質な業務用のエレベーターの天井を見上げながら俺は言った。デカァァァァァいッ説明不要!!なオズコープの業務用エレベーターに、グウェンとノーマンで乗り込んでいるのは複雑な理由があった。
「仕方ないでしょ?飛んで外に出ていくルートなんて無かったんだから」
思いの外、複雑ではなかった。ゾラ博士がウルトロンと化しグライダーで飛び立った後、敵は出入り口を全て塞いでしまったのだ。専用の中央シャフトすら閉鎖され、外に出るにはグウェンが最初に提案したダクト内を這い上がるルートしかなかったのだが、グライダーを担いで通れるスペースもない。
というわけでノーマンの手によって取り戻したウェンディのアクセス権を使用してオズコープのセキュリティシステムの一部を乗っ取ることにしたのだった。
《ゾラ博士には感謝をしています。こうやって今は私を生み出してくれたマスターと話をすることができるのですから》
マスターはよせ(某ガンダムのイケオジ風)。指向性とはいえ使用者のアシストをする目的があったので、簡単な発声システムとコメントブックは搭載していたのが、まさかそれがそのまま疑似人格を与えられて好きに喋るなんて思っても見なかったんだぜ。これあれだ。ジャービスが不在になって、スタークさんが新たに作ったAIみたいなノリだわ。
声はかなり少女チック……強いて言えば、CV坂本真綾さんみたいな声色です。誰だ、ウェンディをこんな声にしたのは!あ、ノーマンさんですかナイスゥ!!(本音)
そんなわけでウェンディの能力を借りて今は乗っ取ったオズコープの業務エレベーターの中にいます。
「はぁ、堂々と搬入用エレベーターで上に向かうとはな」
くたびれた研究着からスーツに着替えたノーマンが疲れたように言うが、その目は少し楽しげそうだった。こう言ったスパイものが好きだったんだよ、と悪戯っぽく眉を上げるノーマンに、俺は少しばかり忠告をした。
「オズボーンさん?もしこれに敵が乗ってきたら……」
《マスター、このエレベーターの権限は私にあります。万が一にも敵が乗り込んでくることは……》
その会話の最中、ポーンとエレベーターの停止階のランプが光った。回数は地上までまだ下で、俺たちが指定した階数でもない。だがエレベーターは確実に減速し、そのフロアに止まった。ウェンディが搭載されているグライダーを見ると、さっきまで元気よく点滅していたディスプレイがフッと光を消した。
「僕らのことはスパイダーマンとウーマンって呼ぶようにしてくださいね!!」
エレベーターの扉が開くと同時、俺とグウェンは飛び上がって入り口で行列を作っていたオズコープの武装警備員に向かって拳や蹴りを繰り出した。銃を構える?ダメダメ!そんな物騒なものは出しちゃダメだよ!!そう叫びながらウェブで相手の構えた銃を器用に奪ってゆくと、丸腰になった敵の顔面にグウェンがブラジリアンキックを叩き込んでいた。
ワァオ、割とアグレッシブなのね、彼女。
「全身タイツの不審者なんて聞いてないぞ!!」
「今全身タイツって言った!?失礼だぞ!?」
バララッと放たれたマシンガンを建物内を器用にウェブで飛び回って躱してから敵の両足をウェブで巻き付けて、力の限り振り回して壁に叩きつけた。グウェンも敵を制圧したようで、残りはあと一人だ。
「オクタヴィアス博士とノーマンの息子を捕らえろという命令だけだぞ!?それを……むぐぅ!?」
エレベーターの入り口まで辿り着こうとした男の口をウェブで塞ぎ、目の前に着地した勢いのまま男の顔面を殴り抜ける。
「はい、右ストレートでおねんね!!エレベーターは上に参りまーす!!」
リズミカルにウェブで上に向かうボタンを押すと、開いていた扉が閉まって再びエレベーターは上へと向かい始めた。
《あまりリスクはない移動になりますね》
ウェンディのとぼけた物言いに思わずグウェンを見るが、彼女は肩をすくめて、ノーマンは気まずそうに眉を顰めるばかりだった。
「とにかく、早く上に行ってオクタヴィアス博士とハリーを助けないと!!」
おそらくさっきの集団が何倍にもなってオズコープに正面から喧嘩を打ったオクタヴィアス博士とハリーを取り囲んであるに違いない。もしかすると捕まって……最悪の事態が頭の片隅によぎったが、それを振り払って俺はエレベーターが地上階に着くのを待った。
ノーマンもグウェンと複雑な表情をしている。とにかくエレベーターが到着し次第、すぐに飛び出してハリーたちを助けないと。
「なんだ、まさかエレベーターで上がってくるとは思ってなかったぞ」
エレベーターの扉が開いた瞬間に、待っていたオクタヴィアス博士とハリーに言われた最初のセリフがそれでした。えぇ、となりながら俺は二人の後ろに広がる光景を見て言葉を失った。
外から見ていた分、小綺麗だったオズコープの正面玄関とエントランスはボロボロに荒れ果てていて、受付のカウンターや近くにあるソファには吹き飛ばされた敵の警備員や、ヒドラの構成員たちが伸びて横たわっているのが見えた。
「あー、二人とも?無事?」
念のため聞くと、二人は互いに顔を合わせてからなんでもないように「見ての通りだな」と答えた。
オクタヴィアス博士の作業アームマジで強すぎて笑える。映画みたいにゴツゴツした感じではなく、収納性も考えて伸縮できるよう設計し直したんだけれど、それに伴って耐久性も少し落ちてるはずなのに全くの無傷。なぜ?と思っていたら動力に小型のアークリアクターと骨格の材質を変えたんだと。いったいどんな素材を使ってるんですかねぇ?と聞くと、バツが悪そうにオクタヴィアス博士は目線を逸らした。これはあとでロージーと共に尋問しなければならないな。
「父さん!!」
そんなやりとりをやっている後ろでは、父の無事を確認したハリーが人目も憚らずノーマンに抱きついていた。ノーマンは少し驚いたような顔をしていたが、抱き締める息子の背に手を回して抱き返す。
「ハリー、すまなかったな……」
その言葉には多くの意味が篭っているような気がした。ハリーも父を助けるために割と危ない橋を渡ったものだ。グリーンゴブリンの爆弾を改造したり、スパイダースーツのディスプレイを改造したりとか。
「あぁ、ノーマンさんも助けてめでたしめでたしでエンドクレジットに行きたかったんだけどね」
「ウルトロンか?」
オクタヴィアス博士の言葉に頷くと、今度はノーマンが説明を始めた。
「奴は、おそらくタイムズスクエアに向かったんだろうな。あそこでストローム将軍はウルトロンのお披露目をする予定のはずだ」
そのために自立型のAIを作れとノーマンは急かされていたらしい。しかもタイムズスクエアの会場にはスペース・ロジック社が手がけた無人のアーマー・マシンがいるらしく、その操作権や命令権を持つのはコアユニット。つまりウルトロンの思うがままに動かすことができるようだ。
「で、どうする?」
「決まってるさ」
迷わず俺はハリーに答えた。タイムズスクエアに向かってウルトロンの野望を止める。あれが全世界にばら撒かれたら、インサイト計画のようにゾラ博士こと、ヒドラにとって邪魔な組織や人間を抹殺されることになるだろう。ここにいる全員にも危害は確実に及ぶ。
「絶対に上手くいかない気がする」
「それは同感だね」
軽い口調でそう言ったグウェンは、俺と一緒にスクエアに向かうようで、ボロボロになったオズコープの入り口から歩いて行った。俺はマスクを脱いで耳からインカムを外すと、それをハリーになげた。
「これって、ウェンディの指令用インカムじゃ……」
「グライダーで付いてきてよ?僕は自前のエンジンがあるからさ。いくよ、グウェン!」
返答を聞かないまま俺は待っていたグウェンと共にニューヨークのビルに糸を放って空へと駆け上がった。
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しばらくインカムと去っていったピーターの後ろ姿を眺めながらハリーはため息をついた。
「……まったく、スパイダーマンはこれだ……」
「ウイングスーツを渡した意味はなかったかもな」
「あー、だが防御力は上がってるぞ?」
グライダーに乗っていくだろうと思っていたらまさかのハリーへのバトンタッチだったことにノーマンは驚きと戸惑いを隠せない様子で呟く。たしかにウイングスーツの装甲で防御力は飛躍的に向上しているだろうが、問題はそうじゃないのだ。
ハリーは少し考えてからインカムを耳につけると地面に置かれているグライダーに両足を乗せた。
「ウェンディ、飛行プロセスを実行」
カチンと両足が固定されるのを確認して、インカム越しから指示を放つ。ハリーはグライダーにウェンディを乗せる前に自分で乗る訓練もしていたのだ。まだ浮いてないのでバランスは取れるが、これが浮き上がると難易度が一気に跳ね上がる。
ピーターはついてこいと言っていたが、あのスイング速度についていける自信など、どこにもありは……。
《了解しました、マスター》
「マスターはよしてく……うわぁああーー!?」
ハリーの返答を待つ前に、ウェンディが補助するグライダーはふわりと浮き上がって、そのまま半壊したオズコープの入り口を出ると直角にビルを登って飛んでいった。上に乗っているハリー?マトリックスパート1で弾丸を避けるネオみたいな姿勢になっていましたが何か?
「まぁ私がテストしてた時よりは綺麗に飛んでるな」
フォローになっていない言葉を入れるノーマンにオクタヴィアス博士は小さく苦笑いした。すると、今度はオズコープのガラスを突き破って一台の車が二人の前に停まった。
「なにしてるの、二人とも。早く乗って!」
運転をしていたのはロージーだった。なんでもピーターやハリーたちからの連絡が途切れたので大急ぎで車を用意してこの場所まで走ってきたらしい。ノーマンとオクタヴィアスは急に出てきたロージーに少し固まったが、すぐに車に乗り込んでゆく。
「少し揺れるけどしっかり掴まってて」
レストアされたミニのエンジンが唸りを上げるとギャリっとタイヤが地の上で空転する音が響き、同時に今まで体感したことのない加速度で車は再びオズコープのガラスを突き破ってその場を後にする。
「ロージーはたくましいな」
「自慢の妻だ。手は出すなよ?」
「流石に作業用アームで八つ裂きにされるのはゴメンだな」
左右へ振り回される中、必死にベルトを握り締めるノーマンと慣れ切った顔をするオクタヴィアス博士。二人もまた、ピーターたちが向かったタイムズスクエアへと向かってゆくのだった。