サムライミ版のピーターに憑依した男っ!!   作:紅乃 晴@小説アカ

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第一話

 

 

 

ノーマンさんに話を通してから、コロンビア大学の社会見学までの期間。

 

俺ことピーター・パーカーは、ノーマンの息子であるハリーを引っ張り回してオズコープの管理下にあるラボで忙しい日々を過ごしています。

 

ハリーに持ちかけた話についてだけど、内容は割と簡単というか……俺が生きていた時代というか、前世では結構標準化されたものを逆輸入したものだったりする。

 

俺が前世でやっていたのは制御機系のエンジニアだ。一言に電気制御と言えど、その内容は多岐にわたる。

 

たとえば工場で動いている機械の制御から、施設ネットワークの構築に、衛星回線を使ったデータリンクの構築とか。大手メーカーが出すあらゆる制御ユニットを横並びで繋げて丸一週間ビルのサーバールームに立てこもって配線作業をしていたりしていた。

 

そんでもって、膨大なビッグデータを平準化したり、そのデータから必要なものを抽出したり、あるいは平均値を取ったり……勤務体制はブラック通り越して暗黒だったけど、割と趣味にも走れたし、そういったことが面白かったから技術力はメキメキと上がっていった。

 

そしてそこに、ピーター・パーカーの天才的な頭脳が悪魔合体した結果、俺は〝短納期〟で〝アグレッシブ〟な機器の設計に着手したのだ。

 

簡単に言えば、ノーマンさんにデザインレビューした自立支援型のAIだ。

 

本音を言えばアイアンマンのジャービスみたいなクソかっこいい支援システムを作りたかったんですけど、データベースの容量が足りなすぎるのと、単純に俺の技術力不足が原因で実現は難しいと判断されました、悔しい。

 

あと、サム・ライミ版の時代ってまだガラケーの時代で、画面スワイプできる液晶モニターが掌サイズに小型化されるのはもう少し先の話だったりする。具体的に言えば10年後くらい。

 

同時にラボ内でネットワーク直繋ぎの処理用のユニットには膨大なデータが一日中注ぎ込まれるため、機器も割と大きめになってしまった。

 

そこで、端末ボディを小さくするために処理ユニットは独立化させて、端末には電波で送受信させる仕組みを確立した。

 

実はこのやり方って工業用制御製品ではポピュラーな方法でもある。

 

この世界でも基本的な通信機器装置は取り扱っていたので助かった。型式は無論古くはなるが、頭数を増やせば何とかなる。

 

そのため大規模な開発やコストは大幅に削減できたりする。まぁ処理ユニットはアホみたいに大きくなるし、演算用のCPUやメモリが馬鹿みたいに膨大になるから冷却の電気代とか管理費とか、そっちに金が掛かるんだけどね!!

 

ノーマンさんの話じゃ、将来的に人工衛星通信の一回線を取れば地球の裏側までデータの送受信は可能になるらしい。さすがオズコープ!俺にできない金の使い方を平然とやってのける!そこに痺れる憧れるぅ!!

 

ちなみに衛星通信の回線一本でめちゃんこ高い。前世俺の生涯年収を軽く2倍くらいした金額。月払い契約もできるらしいけど好き勝手やりたいなら占有回線買えば?というマネーパワーの権化みたいな言葉をいただきました。

 

さて、大まかな機能の設計はできたが、中身よりも外見が伴うのが世の常である。どれだけシステムが優秀でも見た目がダサければ客は寄ってこない。

 

そこで出番となるのが我が親友であるハリー・オズボーンである。

 

ハリーに手伝ってもらったのはコクピットモジュールなどのレイアウトや、外見の簡略化や、基盤を保護するカバーのデザイン。それとノーマンさんが満足するようなプレゼン資料、広告用のデザインや、カタログなどの見栄えetc。

 

サム・ライミ版の2作目、3作目でオズコープを守り抜いた手腕と才覚は折り紙付きで、ハリーの考案したデザインは修正もなく本採用された。

 

つまり、機器の中身は俺、外側や宣伝はハリーといった役回りで回している。

 

利益関係は全部ハリーにぶん投げてるし、そのままオズコープで使用する場合は研究員としての給与や補償をしてくれるとノーマンさんからも言質を取ってたりする。高校生にして就職先が決まったぜっ!やったね!!

 

ぶっちゃけスパイダーマン活動も見据えて利権関係の土台を築き上げておきたかったなんていう邪な気持ちもあったわけだけど、ノーマンさんも画期的な自立支援システムだと絶賛してくれたし、これでグライダーや超人薬に頼らず、軍の需要や他産業への足掛かりになってくれればいいな、と思っていたりしている。

 

そんなこんなで僅か一ヶ月で専用のラボもできたし、データ運用を見据えたテスト工場もノーマンさんが突貫工事で作ってくれたので、彼が本腰を入れてくれるのも時間の問題である。

 

あとは、ハリーと俺で得た利益を山分けして、夢の不労所得を得ながら俺は悠々とスパイダーマン活動に精を出せるって寸法なのさ!

 

そんな机上の空論を脳内で展開しながら、俺とハリーが乗る車はコロンビア大学に向かっている。ラボで朝まで稼働実験を2人でしていて、ノーマンさんが迎えの車を寄越してくれなかったら危うく重要なイベントを逃すところであった。

 

ハリーはサボって寝たいと愚痴っていたが、無理矢理車に乗せてパンを口の中に突っ込みました。

 

何か、ピーターの性格変わったよな、と言われたけど気にしない。これもあれも俺の悲劇フラグをへし折るための種まきなのだから、その程度の事など何の問題もないのだ!!

 

……ないよね?バタフライエフェクトとかないよね?そんな一抹の不安を心の隅で感じながら、俺たちは車から降りてコロンビア大学の入り口へと向かう。

 

さぁて、クラスメイトに陰口叩かれながらスパイダーマンの能力を得るとしますか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近、自身の築き上げてきた会社に多大なる貢献をし始めてくれた息子とその友人であるピーター。

 

若い視点から捉えた着眼点は、技術者や研究者としても高名なノーマンを驚かせるもので、普段は気怠げそうにしているハリーを巻き込んでノーマンの書斎に乗り込んできた上で、自身の設計したものをプレゼンテーションをしていくバイタリティにも、ノーマンは好感を持てていた。

 

現に彼らが開発した自立支援システムは、オズコープ社内でも試運転が始まっており、作業員や技術スタッフからの評価は上々と言ったところだった。

 

そんな優秀さの頭角を表し始めてある2人は、ハイスクールの授業の一環で今はコロンビア大学の研究室の見学に向かっている。

 

朝まで作業をしていた2人の尻を叩いて学校の授業に送り出したノーマンは、今まで共同研究をしてきたストローム博士と共に、大口クライアントであるスローカム将軍の社内視察に同行していた。

 

 

「グライダーはもう前回に見ている。他に我々にとって有益な代物はないのかね?」

 

 

1人乗り用の飛行グライダーの見学をしながら、将軍はつまらなさそうにそう言った。彼が望むのは有益な兵器や、兵士、軍隊を強化するための製品だ。グライダーは空戦能力は高いが、操縦には並外れた空間認識能力とフィジカルが必要になる〝人を選ぶ武器〟であり、万人受けする製品を求める将軍のお気にめさなかったようだ。

 

 

「スーパーソルジャー計画の薬品は?」

 

「テストは行っていますが……検体のマウスに凶暴性が端緒に現れる傾向が……」

 

 

ストローム博士とノーマンが主導で行っている兵士の肉体増強剤だが、これもまだまだ検証と治験をする必要がある代物だ。下手に服用すれば凶暴性や狂人性が顕著に現れることはマウスなどへの投与実験で明らかになっている。

 

ストローム博士の言葉に落胆するように息をついた将軍は冷ややかな目でノーマンを見た。彼はすでにオズコープのライバル企業にもアプローチを行っている。このまま目新しい製品をこちらが提示しなければ、彼らはすぐにライバル企業へと鞍替えをするに違いない。

 

大口顧客がライバル企業へと乗り換えた場合、それは軍需産業のシェアが五割を占めているオズコープにとっては大打撃は免れない出来事であり、ノーマンは文字通り苦境に立たされていた。

 

 

「オズボーン君。君からは新たなプロジェクトの提案などは無いのかね?なければ我々は別の企業に……」

 

 

興味なさげな声調で言う将軍に対して、ノーマンはどこか迷ったような目を伏せて、最後の希望に手を伸ばした。

 

 

「お待ちください、将軍。……お見せしたいものがあります」

 

 

ストローム博士が驚く顔をした。まさかあれを軍に見せるつもりなのか?といった顔だ。だがノーマンに選択する余裕も時間もなかった。オズコープ所有のラボがある場まで将軍たちを案内したノーマンは、広大な実験場で往々しく手を広げた。

 

 

「こちらは、我がオズボーン社が極秘で開発している試作無人ユニットです」

 

 

ノーマンの目の前にあるのは、さっき将軍がつまらないと言って捨てたグライダーと、それに乗る白いボディに短い手足のようなものが生えた小型のロボットだ。

 

それは、ピーターが設計を行い、ハリーが外観のデザインを行った研究品であった。

 

 

「従来の無人を謳った柔なシステムではなく、この無人機はマザーユニットに蓄積されたあらゆる情報から取捨選択を行い、要求された依頼に対し最適な動作を導き出します」

 

 

ノーマンが手を叩くと、広大な実験場に幾つかのパネルが地面から迫り出してゆく。それはあっという間に敷地内に乱立して、だだっ広かった実験場を複雑に入り組んだ迷宮へと変貌させたのだった。

 

 

「ウェンディ。レイアウト24を飛行開始。ただし最適経路で飛行せよ」

 

《ラージャ》

 

 

命令用のインカムを取り付けたノーマンがそう指示をすると、グライダーはふわりと浮かび飛翔する。グライダーを操るのはその上に乗る白い小型ロボットだ。操作性がピーキーだったはずのグライダーは凄まじい機動力で障害物を縦横無尽に避けては通り抜けて、あっという間に目的地である迷宮の出口へとたどり着いたのだ。

 

 

「レイアウトは18564通りあります。将軍の好きなレイアウトを選択ください」

 

 

ノーマンからインカムを受け取った将軍は遠慮なく自身の思考の中で思いついたレイアウトを選択し、その中でグライダーを飛ばし続けた。結果、どんな実験レイアウトでもグライダーは接触や激突をすることなく通り抜けてみせたのだった。

 

 

「ユニット内には小型の光学レンズカメラと、物体感知センサーが内蔵されており、対象の動きや反応、熱すらも感知できます」

 

 

あくまで試作品ですが、とピーターとハリーがこのロボットを持ってきたときに言っていたセリフをノーマンは飲み込んだ。これは社運をかけたプロジェクトだ。大口顧客である将軍らが手を引いて、ライバル企業に乗り換えられてしまえばオズコープに未来はない。

 

支援ユニットの性能を見た将軍は、さっきまでのつまらなそうな顔が嘘のような笑顔でノーマンに握手を求めた。

 

 

「……素晴らしいな、オズボーン君。君を見誤っていたよ」

 

「恐縮です、将軍」

 

「ところでこれは、思考プロセスも自立化させることはできるのかね?」

 

「いえ、あくまで指向性のみです。思考プロセスは操作者に委譲されます」

 

 

そう言うルールでピーターとハリーはこの支援ユニットを制作したのだ。これはあくまで人が命令を下し、それに応えることができる機器なのだ。人が使う機械に物を考えさせるのはナンセンスだとピーターは早々に自立思考という分野を切り捨てた。

 

機械や薬品はあくまで人の生活を豊かにし、支えるためにあるのだと言って。

 

だが目の前の顧客はそんなことはどうでもいいと言わんばかりにこう言った。

 

 

「では、オプションで自立思考プロセスも組み込めるようにしてくれ」

 

「……将軍、それは機械に物事を判断させるという解釈で正しいでしょうか?」

 

「ああ、そうだ。自分で考え、その最適な行動を自分で選択できる。軍は人件費が高くつくからな。それさえできれば戦場に貴重な人材を送り込まなくて済むであろう?」

 

「しかし、データベースの構築からになります」

 

「無論、支援は惜しまん。それに情報ソースなら我々が提供しようではないか。戦場という坩堝でな」

 

 

そう言い残して、将軍は大口契約のサインに署名をして部下を引き連れてオズコープを後にした。彼らの見送りをした後、ストローム博士が心配そうに問いかけてくる。

 

 

「ノーマン……本当にこれでよかったのか?」

 

「あぁ会社は守られた。……パンドラの箱をこじ開けながらもな」

 

 

息子とその友が生み出したものを、ノーマンは分かっていながらも軍へと提供したのだ。

 

それがのちに、ニューヨークを恐怖のどん底へと陥れる〝ウルトロン・オートマトン事件〟に繋がることになるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 


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