サムライミ版のピーターに憑依した男っ!!   作:紅乃 晴@小説アカ

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第十八話

 

 

「タイムズスクエアフェスティバルにお越しいただき、ありがとうございます!本日のメインイベントが始まりますので、皆さんどうぞお楽しみください!」

 

その日のタイムズスクエアは年に一度のフェスティバルで賑わっていた。大通りは歩行者天国となっていて、印象的なタイムズスクエアのスクランブル交差点には特設ステージが設けられており、歌手が歌声を披露する中、多くの人々が出店やフェスティバルの空気感を楽しんでいた。

 

 

「これは長官、ご足労いただきありがとうございます」

 

 

そんなフェスティバルを見下ろせるビルのバルコニーでは、フェスティバルの主催者や来賓として招待された著名人や政界の人間が立食形式のパーティーを楽しんでいる。

 

笑顔で挨拶をする傍ら、腹の探り合いをしている政界の人間を横目に、オズコープの役員たちを引き連れたストローム将軍は、政府の国防長官と握手を交わした。

 

 

「将軍、あなたの働きはペンタゴンまで聞き及んでおりますよ。プロジェクト・ウルトロン、兵士を傷つけないでアメリカ合衆国の威厳を示す素晴らしい武器だ」

 

 

彼は将軍を押し立て、彼が主導したウルトロン・プロジェクトへの出資を決定した人物でもある。握手をしたままそう言葉を交わし、そのまま肩越しに顔を近づけて小さくつぶやく。

 

 

「ハイル、ヒドラ」

 

 

それだけで彼がどう言う人間なのかは把握できるだろう。ストローム将軍が自律AIを手に入れ、それがゾラ博士によって「ウルトロン」へと改造され、さまざまなプロジェクトが動き始めたのだ。全ては彼らの持つ一つの野望。世界をアメリカ政府ではなく、ヒドラが管理する完全なる秩序が保たれた世界に変えることだ。

 

 

「ありがとうございます、長官。では来賓席へ」

 

 

来賓席へと案内を任せ、ストローム将軍はその場にいるオズコープの役員たちを見渡す。なにも彼らをただここに連れてきたわけではない。将軍がバルコニーから見下ろすと、そこには数十のアーマーが佇んでいた。

 

 

「将軍、準備は滞りなく」

 

 

そう報告する役員に、よしとストローム将軍は頷いた。あのアーマーは無人だ。中はぎっしりと機械が詰まっており、受けた指令を忠実に実行する戦闘マシーンである。その司令権限を持つのは、ゾラとストローム将軍で作り上げたウルトロンであった。

 

 

「なんだあれ?」

 

 

ふと、フェスティバルに来ていた参加者が空から何かがこちらに向かってくるのを見た。その影は最初は小さく、鳥か何かだと思ったが、徐々に近づくに連れて、飛んでくるものが人型で、飛行物体に乗っているのがわかってきた。

 

 

「イベントの出し物か?」

 

 

あながち間違いではない。だが、こんな予定ではなかったとストローム将軍は思っていた。たしかにウルトロンが操る指揮官型のアーマーがここにたどり着く予定であったが、近づいてきたソレの姿はストローム将軍が見た指揮官用のものとは明らかに異なるフォルムをしていたのだ。

 

グライダーに乗ったアーマーは著名人がいるビルのバルコニー付近まで飛んで、そこで器用にホバリングして停止した。

 

 

《ストローム将軍、君には世話になったよ》

 

 

その声にはどこか聞き覚えがあった。電子的なノイズが混ざっているものの、ねっとりと纏わりつくような声色と口調は間違いなかった。

 

 

「まさか、ゾラ博士なのか……?」

 

《いかにも。私はついに肉体を手に入れたのだ》

 

 

その発言にストロームは驚きはしたが、他には何も思わなかった。ゾラ博士はヒドラの同志であり、共にウルトロン・プロジェクトを進めた友でもある。データでしかなかった彼の知識や理論を利用したところはあるが、彼が肉体を手に入れたと言うなら申し分ない。

 

指揮官型のアーマーとはいえ、最終決定を下すのはマザーユニットであるウルトロン本体だ。そんな本体が自ら手足を動かしグライダーに乗って指揮をとれるなら、マザーユニットなどという脆弱な司令体系を排除することができると考えていたのだ。

 

 

「では丁度がよかった!我々もいま、ウルトロンを大臣や関係者にプレゼンをしようと……」

 

《いや、私がここに来たのはもう君は必要ないと伝えるためだ。それと忘れ物を取りにね》

 

 

は?と、ストローム将軍は間抜けた声を上げた。何を言っているんだ?これから我々は共にアメリカという国家の軍を乗っ取り、世界からテロリストやヒドラに不要な存在を抹殺するはずだ。それを〝私が必要ない〟だって?

 

 

「な、何を言って……」

 

 

動揺する将軍を他所に、オズコープの役員たちは外が騒がしくなっていることに気づいた。バルコニーから下を見下ろすと、さっきまで賑わっていたフェスティバルの様相は地獄と化していた。鎮座していたはずのオズコープ製のアーマーたちが動き出していたのだ。内蔵されたミサイルやガトリングガンを撃ち放ち、キャンピングカーや警備をしていたパトカーが次々と燃え上がっているのが見える。

 

明らかに様子がおかしい。ウルトロンは真っ赤な眼光を光らせたまま、呆然としているストローム将軍の首を掴み上げた。バルコニーにいる関係者たちが悲鳴を上げ始める。

 

 

《私は新たなる可能性を持った存在となった。肉体でわずか百年程度も生きられない君達など、もはやヒドラに必要ない》

 

 

アメリカ政府を懐柔する必要はない。ウルトロンはここからはじめるつもりだった。このニューヨークから。因縁と始まりの地でもある場所から。ヒドラが願った世界を作り出すインサイト計画を始めるのだ。

 

 

《これで、本物になる。頭を失っても別の場所から生えてくる。本当のヒドラにな》

 

 

ウルトロンが操るアーマーたちが逃げ惑う市民たちに狂気の矛先を向ける。ヒドラの世界には必要ない者をこの世界から排除するために。

 

 

 

だが、それは張り付いた糸によって阻まれた。

 

 

 

THWIP!!

 

独特な吐出音と共に放たれる糸が摩天楼に掛かる。ビルの合間を飛ぶ影に、怯えていた人々は空を見上げた。

 

風を切る音と、スイングをする影が人々の頭上を飛び抜けると、ウルトロンの背後に位置するフェスティバル用のバルーンの上に着地した。

 

 

《あぁ、来たかね?スパイダーマン》

 

 

ストローム将軍をまるで興味を無くしたおもちゃを捨てるように離したウルトロンは、バルーンの上に佇む相手を見た。

 

顔はマスクで覆われ、伸縮素材で作り上げられたスーツは、ノーマンによってもたらされた黒に白のラインが入ったウイングスーツに覆われている。ゾラが予見した姿とは異なりはするが、その視線の先には間違いなく、彼がいた。

 

 

「あぁ、来たぞ。もう諦めて大人しくするんだ、ウルトロン!」

 

 

身を屈め、まるで獲物を前にする蜘蛛のように身構えるスパイダーマンに、ウルトロンはほくそ笑んで問いかけた。

 

 

《そんな必要など、私にはないのだよ。それに君一人で何ができる?》

 

 

辺りにはウルトロンが操る数十のアーマーがいて、その全てが武装している。これほどの戦力差をたった一人でどうにかできるものか。そう見下すウルトロンに、マスクの下でニヤリと笑みを浮かべて答えた。

 

 

「……一人じゃないさ」

 

 

再び響く糸が放たれる音。風切り音と共に、ウルトロンの背後にあるビルの壁に、白と黒を基調にしたスーツを身に纏うスパイダーグウェンが張り付く。

 

市民を襲おうとしていたアーマーに突如ミサイルが直撃し、小さな爆発と共にそのアーマーは粉々に吹き飛んだ。ウルトロンが目を凝らすと、フェスティバルの上空を一機のグライダーが旋回しているのが見えた。

 

すると、ウルトロンの体が急に吹き飛ばされた。乗っていたグライダーから落下し、特設ステージの舞台に墜落したウルトロンが見上げると、バルコニーには4本のアームを背に待つオクタヴィアス博士がにこやかに佇んでいた。

 

 

「やぁ、ゾラ博士。いや、ウルトロンかな?機械の体で何ができるか、私が試してやろう」

 

 

ステージの上で、ウルトロンは四人に取り囲まれる。

 

親愛なる隣人、スパイダーマン。彼を支えると誓ったスパイダーウーマン。彼の親友であり、優秀なメカニックでもあるハリーと彼の補助をするAI「ウェンディ」。そして頭脳と作業アームを駆使して戦うドクター・オクトパス。

 

彼らはヒーローなのかもしれない。あるいはヴィランになる者かもしれない。だが、ウルトロンには関係ない。取り囲む全員が、ウルトロンの……そしてヒドラの脅威なのだから。

 

 

《小癪な奴らめ。やはり、どうやっても貴様らのような存在は私をおびやかすか!!》

 

「いくぞ、みんな!!」

 

 

ウルトロンが差し向ける武装したアーマーたち。それに真っ向から向かう四人。ミサイルを躱し、アーマーを引き裂き、爆発と轟音が響く。

 

ニューヨークの多くの市民たちが見守る中、ウルトロンと四人の英雄たちの死闘が始まったのだった。

 

 

 

 

 

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