サムライミ版のピーターに憑依した男っ!!   作:紅乃 晴@小説アカ

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第二十話

 

 

ウルトロンは焦っていた。データ上ではスパイダーマンことピーター・パーカーは孤独な存在だと認識していたはずなのに。いったいどうなっている。凄まじい力のアームに殴りつけられたせいで思考プロセスがうまく作動しない。本来ならば同時に500以上の並列処理ができるはずのCPUが戦闘の負荷で50にも満たない処理しか叶わない。

 

加えて電撃性の粘着爆薬を受け、ウェブで勢いをつけた蹴りやパンチを身に受けるウルトロンは、その持てるスキルが徐々に奪われつつあったのだ。

 

 

「いい加減に止まれ、ウルトロン!」

 

 

スイングで加速したスパイダーマンのダブルキックを受けてグライダーから吹き飛び、煉瓦造りのビルの外壁にめり込んだウルトロン。こちらを取り囲んで降伏勧告をするスパイダーマンチームにウルトロンは咆哮を上げて抵抗した。

 

 

《止められるものか!私は完成された存在なのだ!故に、ウルトロンなのだ!!》

 

 

肩に備わった小型ミサイルも今ので弾切れだ。そのほとんどが二人のスパイダーマンによって形成された蜘蛛の巣に絡め取られてしまい、ダメージを与える前に無力化されてしまう。ウルトロンの最大の誤算はこの世界に二人のスパイダーマン能力者がいたことだった。ピーター・パーカーが一人であれば何とでもできたのを、オクタヴィアスやオズボーン、さらにはもう一人の異質なスパイダーマンを連れて現れたことで計画はものの見事に崩壊している。

 

 

「もう無駄だ、ウルトロン。タイムズスクエアガーデンにあったアーマーは全て破壊した。お前の手駒はもう存在しない」

 

 

グライダーに乗るハリーの宣言通り、この場に集められていた無人アーマーの全てが破壊されていた。先ほどの最後の一体も小型ミサイルを絡め取った蜘蛛の巣の直撃を受けて吹き飛んでいる。手駒を奪われ、その身も火花を散らし、見るからに消耗しきっているウルトロンに抵抗する手段など残されていないはずだ。

 

だが、ウルトロンは赤い眼光を鋭くさせる。彼は……敗北を認めることはなかった。

 

 

《誰がここだけに戦力を集約させたと言った?》

 

 

ふと前に差し出した腕が凄まじい速さで打ち出された。小型のスラスターを装備したウルトロンの腕が質量弾として発射されたのだ。射線上にいたのはグウェンだった。彼女はスパイダーセンスで致命的な箇所への直撃は避けたが鋼鉄の腕は彼女の脇腹を叩いてしまった。鈍い音と共にグウェンは悲痛な声をあげて吹き飛ばされる。

 

 

「グウェン!?」

 

《頭を切り落とされても、また別のところから生える。それがヒドラだ》

 

 

全員が吹き飛ばされた仲間の心配をしている。それがウルトロンにとってのチャンスだった。全員の意識が外れた瞬間、機械の足を踏ん張らせてウルトロンは飛び上がった。待機していたグライダーに着地すると呆然と見上げる敵に目もくれず、ウルトロンは空高くへと上昇し始めた。

 

 

 

「ピーター!まずいぞ!」

 

 

すぐに危機に気づいたのはハリーだった。彼はウルトロンの飛んで行った先を予測し、すぐにウェンディにサーチをさせた。そこには、大気層の上に何かが浮かんでいるレーダーのデータが映し出されていた。

 

 

《ウルトロンはこのまま静止衛星上の通信モジュールにアクセスするつもりです》

 

「何がどうまずいんだ?」

 

《つまり、通信モジュールにウルトロンが接続されたらアメリカのスペース・ロジック社のアーマーにアクセスすることができます。そうなれば、現在あるアーマー全てがウルトロンの支配下に……》

 

 

オクタヴィアス博士の言葉に答えたウェンディの答え。ウルトロンが言っていた。ここだけに戦力を集約させたわけじゃない、と。高性能メカトロニクスの集大成であるウルトロンが静止衛星軌道に上がってしまえば、そこから命令を送り、アメリカ全土に配備される予定のアーマーを手中に収めることになる。

 

それをして、ウルトロンが何を成すかなど想像するのは容易かった。

 

 

「奴は宇宙に逃げて、インサイト計画を実行するつもりなんだ」

 

 

宇宙という手の届かない場所から、ヒドラ=ウルトロンの邪魔になる可能性を持つ人々を一方的に虐殺する。それがインサイト計画だ。そのために奴はスペース・ロジック社をオズコープに不正買収させ、アーマーを作り上げ、全土に配備できるよう裏で手を回していたのだ。

 

 

「そいつはかなりヤバい話だな」

 

 

ハリーが顔を青ざめさせながらそう言う。すると、腹部を負傷したグウェンが痛みで顔を歪ませながらも体を起こした。

 

 

「ピーター、行って!」

 

「グウェン!けど……」

 

「彼女は私が運ぼう。ピーター、ハリー、君たちはウルトロンを!」

 

 

作業用アームで優しく負傷したグウェンを抱き上げるオクタヴィアス博士。ピーターは頷くとハリーが乗るグライダーへと飛び乗った。

 

 

「ハリー!行けるか?」

 

「任せろ!ウェンディ、最大出力で飛ばせ!」

 

 

《了解しました》とウェンディが答えると凄まじい速さでグライダーは上へ上へと上昇してゆく。ニューヨークの摩天楼がどんどんと小さくなり、雲を抜け、視界のてっぺんにダークブルーの空が見え始めた。空気が薄くなるのがわかる。ハリーの表情も苦痛に歪んでゆく。それでもグライダーは上へ上へと昇った。

 

そしてついに捉えた。

 

 

「ウルトロンだ!用意はいいな!」

 

 

前方を飛ぶウルトロンはまだこちらに気づいていない。ただ、相手は無機物でこちらは人だ。到達高度には限界がある。呼吸をするのも肺が締め付けられ、凍るように空気が冷たい。ピーターは深く息を吸って身構えた。ノーマンが改造した新型のパルスエンジンは機体を更に上へと押し上げてゆく。

 

 

《飛行高度限界まであと50》

 

「ハリー!帰ったらみんなでピザを食べに行くよ!」

 

「あぁ、行ってこい!」

 

 

ハリーの声と同時、グライダーをぐるりと反転させる。その反動を利用してピーターは更に上へと飛んだ。飛び上がった勢いが死なない内にウェブを上を飛ぶウルトロンのグライダーへと放つ。

 

 

(届け届け届け届けっ!!)

 

 

気流で乱されるウェブはふらつきながらも上へと伸びてゆき、そして落ちる軌道を描きながらもギリギリのところでウルトロンのグライダーにたどり着いた。腕を引いて腕力で更に加速したピーターはそのままウルトロンのグライダーへと飛び乗った。

 

驚いた顔をするウルトロンの顔面に痛烈な一撃を叩き込む。殴られた衝撃で頭部のいくつかのパーツが吹き飛んだ。

 

 

《まだ私の邪魔をするか、スパイダーマン!》

 

「あぁ、そうだ。僕は親愛なる隣人、スパイダーマンだ!」

 

 

宇宙へ向かうグライダーの上でウルトロンへピーターが最後の死闘を挑む。

 

鉄の塊の拳が腹部にめり込んで顔を歪めながらも、屈んだままウルトロンの足関節のシャフトを無理やり引き抜く。オイルと火花を散らして片足が機能不全に陥ったウルトロンだが、その手はピーターの首をがっしりと掴んでいた。ギリギリと機械音を響かせながら締め上げてゆくウルトロンに、ピーターは抵抗するが肺の空気が限界を迎えていた。

 

視界が暗く歪んでゆく。

 

 

《この高度では貴様も満足には戦えまい!》

 

 

膝が折れる。勝ちを確信したウルトロンは首を絞めたままピーターの体をグライダーへと押し当てた。片腕に備わる折れたリストブレードを展開して、トドメを刺そうとした瞬間だった。

 

 

「あぁ、だから一緒に落ちてもらう」

 

 

ウイングスーツに備わるリストブレードで、ピーターは自分とウルトロンが乗るグライダーの装甲を切り裂いた。引き裂かれた箇所はパルスエンジンの動力部。そしてピーターの手を見たウルトロンは驚愕した。

 

その手にあったのは小型の爆弾だった。黄金の配色をした爆弾はハリーが離脱直前に渡した切り札だ。中央にあるボタン式の起動装置に指をかけるピーターの首をウルトロンは壮絶な力で締め上げた。

 

 

《馬鹿な!グライダーを破壊すれば貴様も命はないぞ!》

 

「あぁ、知ってるさ」

 

《よせぇえええ!》

 

 

視界がブラックアウトする寸前にピーターは中心部のボタンを押し、爆弾を切り裂いたグライダーの装甲内に突っ込む。

 

爆轟が大空の中で響き渡った。グライダーが木っ端微塵に吹き飛び意識を失いかけているピーターと、飛行能力を持たないウルトロンが投げ出された。

 

風切り音が響き渡る中、ピーターは雲の海に落ちてゆく。

 

意識を失う間際。

 

ふと、誰かが自分のことを呼ぶ声が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

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