サムライミ版のピーターに憑依した男っ!! 作:紅乃 晴@小説アカ
「アル……?」
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
A.I.Mのラボからほど近い路上は、さっきまでデストロイヤーが暴れ回っていたせいで、辺りにはひっくり返った車やら砕けたアスファルトやらが散乱している。
その真ん中にソーとジェーンがいて……ソーの腕の中に、アルがいた。
「アル……おい、アル!」
ウォーリアーズ・スリーが懸命にデストロイヤーと戦っていることなんて忘れ、俺はウェブでスイングしてすぐに駆けつけ……そして言葉を失った。
「あぁ……なんてこった……」
アルの身体、その半分が焼けていた。
服は炭化して、皮膚は見るに堪えないほど焼け爛れている。あのデストロイヤーのビームをまともに受けたのか。生身であんなものを受けたらひとたまりもない。ぴくりとも動かないアルの頬を手で覆って、俺は声を上げる。
「ダメだ、ダメだダメだダメダメダメ!目を閉じるな、アル!気をしっかり!」
虚ろではあるものの、微かな光がある目が閉じそうになるのを、声を上げて引き止める。アルのそばに膝をついて、その身体を抱き起こす。
どうする。どうすればいい。病院?いや、この状態で間に合うのか?A.I.Mのラボなら最低限の医療設備がある。ウェンディに連絡し……いや、でもこんな大火傷をどうやって治す。
頭が回らない。
考えろ。考えろ!異世界転生をしたトビー・マグワイアピーター・パーカーだろう!お前はこういう時のために頭を使うんだろ!
「やぁ……ピーター……」
「アル!」
微かな声でアルの言葉が聞こえる。いつもの余裕たっぷりの顔じゃない。弱々しく、それでも俺を見て少しだけ笑っていた。
「そんなに……騒ぐな……ちょっとした火傷だ……」
弱々しくも笑みを浮かべて言うアル。ただの火傷なわけあるものか。弱り切っている無事な方の手を取って、俺は何度もアルの言葉に頷く。
「すまない、ピーター……」
するとソーが、苦しそうに口を開いた。
「あの兵器がジェーンを狙った。彼は……彼女を守るために……」
ソーがハンマーに導かれ、そのままニューヨークに流れ着いた時と同じく、アスガルドから父、オーディンによって追放されたソーを探しに来たウォーリアーズ・スリーと共に、ニューヨークに来たジェーン・フォスターとセルヴィグ博士。
そこに現れたデストロイヤーからニューヨーク市民を逃がすため、避難誘導に協力していた二人をソーは見つけてしまった。その瞬間、流れ弾のように飛んできたビームがジェーンに迫る。ソーの悲鳴が上がった時、彼女を庇ったのは、なんとアルだったのだ。
たまたまジェーンのそばで、A.I.Mで雇っていた体の不自由な労働者の避難をしていた最中のことだった。
「ごめんなさい……本当に……なんと言えばいいのか……」
ソーの隣にいるジェーンも震えていた。そんな二人の言葉で、何が起きたのか理解した。
「アル、この馬鹿野郎!雷神様のガールフレンドを助けてトゥーフェイスになるなんてシャレになってねぇぞ!?」
「はは……相変わらず……こういう時でも、君は……」
「喋るな!いいから黙ってろ!今ウェンディに……」
「ピーター……」
「静かにしてて!助けるから!」
「何故、泣く?」
言われて初めて気づいた。視界が滲んでいた。マスクの中を涙が伝っている。
「君と私は……単なるビジネスパートナーじゃなかったのかい?」
「……ふざけんじゃねぇぞ、このすっとこどっこい……!」
声が震えた。止めようとしても止まらなかった。
「泣くに決まってるだろ!俺にとってお前は……大切な友人なんだぞ……!」
アルの目が少しだけ見開かれた。それから、本当に嬉しそうに笑った。
「そうか……」
小さく息を吐く。
「はは……そうだったな……ピーター……お前は、出会った時からそういう奴だった」
「アル……?」
アルは俺から視線を外し、その向こうに立っていたソーを見ていた。
「アスガルドの王子よ……」
「……なんだ?」
そう言って焼け爛れた腕でデストロイヤーを指し、ソーを見据える。彼には、それが死にゆく者が託す遺言ではなく、激励だと直感で理解できた。
「これは、君に課された試練だ……」
アルはデストロイヤーを見る。
「なすべき事を……成せ……」
そして、アルの体から力が抜けた。
「…………アル?」
声をかけても返事がない。
「おい」
揺さぶっても動かない。
「アル?」
嘘だろ。
「アル!おい!アル!!」
返事をしろ。
いつもみたいに困った顔で。
ピーター、君は実に面白いとか。
また危険な研究をして俺に怒られて。
それでも懲りずに実験して。
勝手に俺の研究室にも入ってきて。
オクタヴィアス博士やロージーとワインを飲みながら、訳の分からない話をして。
「……アル……ごめん……ごめん……助けられなくて……ごめんなさい……っ」
俺はゆっくりとアルの身体を地面へ横たえた。
悲しみが胸の中に渦巻く。俺は結局、また大切な人を救うことができなかった。叔父さんを失ったあの日から何も変わっていない。
肝心な時に、このパワーはなんの役にも立たない。
俺は……無力だ。
でも……もう、わかっている。
立ち上がる。
頭の中から、迷いは消えた。
さっきまで悲しみに打ちのめされていた自分を、スイッチを切り替えるように自分の後ろに背負う。
わかってるよ。ベンおじさん。
大いなる力には……。
デストロイヤーがこちらへ歩いてくる。一歩進むたびに地面が揺れる。顔面のバイザーが開き、エネルギーを蓄えているのが見えた。
この街には、まだたくさんの人がいる。
ソーも、ジェーンも、セルヴィグ博士も。
多くのニューヨーク市民がいる。アルを失って、悲しんで、立ち止まっていては、その多くの人も取りこぼす。
大いなる責任を伴う。
その責任を、俺は果たさなきゃ。アルもきっと、それを望んでるのだから。
「……ぶっ飛ばしてやる」
右腕を構え、開いたバイザーの淵にウェブを放つ。
ウイングスーツNo.025、全システム起動。蜘蛛由来の筋力をさらに高める人工筋肉を得たアーマーの力で、弾丸のように放たれた俺の体は、ビームを放とうとしたデストロイヤーを殴り飛ばす。
人工筋肉による補助と、強化炭素によるグローブとサポーターのおかげで、強固なデストロイヤーの身体を殴っても俺の拳はびくともしない。
それに、お前がどれだけ硬かろうが知ったことか。
アダマンチウムより硬い?ヴィブラニウムより硬い?ウルより硬い?
だからなんだ。
俺は、スパイダーマンだぞ!!
「これ以上好き勝手できると思うなよ、このブリキ野郎!」
倒れたウォーリアーズ・スリーの頭上を飛び越え、体勢を立て直したデストロイヤーに追撃を放つ。真正面から蹴りを放ち、ウェブで身を翻してパンチを繰り出す。踏みつけて頭上に飛び上がって、真下にいるデストロイヤーへスーツに備わる小型ミサイルを一斉に放つ。
「こいつもくらえ!」
爆炎にたじろぐデストロイヤーへ、腕のアーマーからせり出した分子カッターを使って切り裂く。だが、ミサイルもキックもパンチも、嫌になるほど効果はなく……分子カッターも刃が欠けていた。
「はぁ、オズボーンさんの言うとおり3枚刃にするべきだった」
《マスター!危険です!》
インカムから聞こえたウェンディの言葉と同時に、俺の体はデストロイヤーの拳で吹っ飛ばされた。続いてビームも飛来するが、それは叩きつけられたビルからすぐに飛び上がって躱す。
「うがっ!?」
だが、そのビームも囮。ビームを躱した先へ狙い澄ましたように飛び込んできたデストロイヤーに押さえつけられる。
「ぐっ、この、インチキロボめ……!」
ウォーリアーズ・スリーが加勢しようとこちらに来るのが見えるが、開いたバイザーから出るビームが俺を焼く方が早い。なんとかしないとまずい。手に力を込めて、押さえつけてくるデストロイヤーの拘束を解こうとした時だった。
横合いから飛んできた何かが、デストロイヤーの頭部へ張り付く。
規則正しい音は徐々に速度を上げていく。ふと視線を向けると、そこにはボール型のガジェットが張り付いていた。
同時に炸裂音。ねばっとした粘着性の半固形液体がボールから溢れ、バイザーを開いていたデストロイヤーの頭部を覆い尽くすと、途端に固形化する。
これはハリーとオクタヴィアス博士が研究し開発した瞬間セメント材だ。特定条件では半固形液体として運用でき、空気に触れた瞬間から固形化する優れもの。
内部密度が高く、内部からも外部からも加わる力に強い新素材で、建材向けに作った代物なのだが……。
頭部をそれで覆われたデストロイヤーの巨体が僅かに揺らぐ。
空を見ると、そこには高速で旋回する人影。
見覚えしかない!!
「よぉ、スパイディ。調子どう?」
「ハリー!」
空中を旋回したハリーは、グライダーをさらに改造したグライダーⅡを操り、デストロイヤーへミサイルを撃ち込みながら、こちらへ手を差し伸ばす。
「手を握れ!」
すぐさまハリーの手を握って遠心力で勢いをつけてから、デストロイヤーをドロップキックで吹っ飛ばす。そのまま俺の手を離したハリーは、グライダーⅡを巧みに操作して、さらにデストロイヤーへ追撃を叩き込んでいた。
「ヒュー!さすがハリー!かっこいい!やっつけろ!」
「任せろ!」
グライダーⅡは、ハリーの父、ノーマン・オズボーンの設計した物を大胆に軽量化。可変翼となったウイングを大きく展開することで安定性と旋回能力を得ることができるし、ウイングを閉じることでサーフボードのような流線形の形態にも変形する。
『スパイダーマン3』でニューゴブリンとなったハリーが乗っていたスカイスティックとの合いの子みたいな感じになったものだ。
「ウェンディ!補助は頼んだぞ!」
《おまかせを!》
グライダーⅡの操作はウェンディが補助していて、ウイングスーツを身につけているハリーは、背中に備わる単分子ブレードを構え、デストロイヤーへと切りかかる。
ハリーの着るこのウイングスーツ。
実は特車のスパイダーマンスーツたちの技術を注ぎ込んで作られたスーツである。
ぶっちゃけ、ハリーのスーツのためにいくつもの試作品が作られ、それがスパイダーマンスーツになったと言ってもいい。
筋肉や骨格を補助する機能もハリーのために開発されたものであり、その恩恵を受けて、ハリーは超人血清を飲まずともデストロイヤーと戦える力を手にしていた。
「北欧神話で作られたロボットが攻めてきたと聞いた時は正気を失ったけど、なるほど、これは確かに今まで以上に厄介な相手みたいだ!」
「地球の北欧神話はマイルドな表現をしていたんだねって思い知らされるよ」
「手を貸してくれ!」
俺も地面を蹴る。ハリーの操るグライダーⅡから放たれたミサイルがデストロイヤーの体を襲い、その直後にウェブで勢いをつけた蹴りをお見舞いする。
「どっせぇぇぇい!!」
そして俺とハリーで、全力で顔面を蹴り飛ばす!
ゴォンという鐘みたいな音が響き、硬ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!足折れたかと思った!
けれど、デストロイヤーは未だ健在……それどころか、ハリーが喰らわせた瞬間セメント材も手で無理矢理ボロボロに剥がしている。
「まじかよ、あれ結構自信作なのに」
ハリーの軽口をよそに、露出したバイザーが赤色に変わる。俺もハリーも、そして加勢に来たウォーリアーズ・スリーも身構える中。
「ピーター!!」
ソーの大きな声に思わず振り返る。
彼は、俺たちの後ろに立っていた。
だが、さっきまでの彼とは違う。
その目には迷いがなかった。
「下がれ!」
その言葉と同時に、空が鳴った。
雷。稲妻が轟く。ニューヨークの空そのものが割れたんじゃないかと思うほどの轟音。
そして、何かが飛んでくる。
「……まさか」
知ってる。
俺、これ知ってるぞ。
猛烈な速度で飛来したそれを、ソーが手を伸ばして掴み取った。
ムジョルニア。
次の瞬間。
凄まじい落雷が、ムジョルニアを手にしたソーへと降り注ぐ。
「うおおおおっ!?」
そのあまりのパワーに、俺は吹き飛ばされそうになってウェブを地面へ撃ち込む。
雷光の中心で、ソーの姿が変わっていく。
鎧に、赤いマント。そして右手にはムジョルニア。
さっきまで普通の人間だった男は、もうそこにはいなかった。
雷神……ソー。彼はムジョルニアを構え、デストロイヤーを真正面から睨みつける。
「我が名はソー!」
雷が迸る。
「オーディンの息子!アスガルドの王子だ!」
……うん。
カッコいい。
すげぇカッコいい。
悔しいけどめちゃくちゃカッコいい。
「ハリー」
「なんだ?」
「僕ら、ちょっと離れよう」
「奇遇だな。僕もそう思ってた」
だってこれもう、俺たちが混ざっていい戦いじゃない。雷神様VSアスガルド最強兵器。後は映画の主役に任せよう。
俺とハリーが少しその場から離れようとした時だった。
「素晴らしい。彼がアスガルドの王子だと言うのは本当だったようだな、ピーター」
そんな言葉が聞こえた。
え?この声。
隣にいるハリーは声の主を見て、口をあんぐりと開けて驚いている様だった。ちなみにハリーはアルと面識はもちろんあるが……ハリーはアルが死んだことを知らない。
ゆっくり振り返る。
そこには……。
「……アル?」
「あぁ、ピーター」
アルがいた。さっきまで半身が焼け焦げて死んでいたはずの男が、何事もなかったように。
いや……何事もなくじゃない。
いつも愛用していた杖はなく、僅かに引きずっていた弱々しい足はなく、痩せ型だった身体は筋肉をまとっている。
そして何より、身体が赤かった。
書きかけで止まってた分です!
すいません!続き描きます!