サムライミ版のピーターに憑依した男っ!! 作:紅乃 晴@小説アカ
赤く僅かに光る皮膚。その下には赤熱した光が浮かび、まるで血管を伝うようにオレンジ色の輝きが全身を駆け巡っている。
そして何より異常なのは、その再生速度だった。
焼け爛れ、ボロボロになっていた皮膚が剥がれ落ち、その下から新しい皮膚が姿を現す。朽ち果てていた肉体が、俺たちの目の前で見る見るうちに再生していく。
アルは……アルドリッチ・キリアンは、さっきまで死んでいた。間違いなく、俺の腕の中で動かなくなった。
それなのに、今にこやかに微笑み、俺の前に立っている。
「ピーター、すまないな」
アルは謝罪の言葉を言いつつ、再生した自分の手を眺めていた。その指を一本ずつ動かし、握り、開く。長年のハンディキャップを克服した自分の身体を確かめるように足を踏みしめながら、いつもの笑みを浮かべた。
杖はもういらない。生まれつき、僅かに引きずっていた足はしっかりと彼の体重を支えていた。
「あれは……感動的な別れだと思ったのだが、どうやら私は賭けに勝ったらしい」
理解が追いつかない。
固まる俺の頭の中で、つい数分前の光景が何度も再生される。
半身を焼かれたアル。力なく閉じられた目。俺の腕の中から失われていった体温。
…………え?生きてる?
俺が完全にフリーズしているのを不思議に思ったのか、アルが顔を覗き込んでくる。
パチンと、目の前で何度か指を鳴らされて、ようやく俺の思考回路が再起動した。
「ピーター?」
「それ……エクストリミス?」
「正解だ」
アルはあっさりと認めた。エ、エクストリミス……エクストリミス!?人体実験はスケジューラーでは最短で再来年じゃなかったっけ!?
「一度の投与では拒絶反応の可能性があったからな。日に分けて希釈したものを投与し続けてきた」
「聞いてないんですけど!?」
「言っていないからな」
いや、そういう意味じゃなくて!?動物実験もまだ治験段階で、本格的な人体への投与実験にはまだ時間がかかるねって、前に話してたよね!?
精神面への影響や欲求の加速といった問題についても、動物実験の段階ではかなりクリアされてきていたけど、肝心の肉体への負担が大きすぎるって!
エクストリミスはその性質上、細胞の異常活性や発熱、過剰代謝が過大で、最悪の場合、被験体そのものが耐えきれなくなる可能性もあった。
なので、そのひとつずつ動物実験で解消してから人体への治験をしていこうって、ストローム博士と一緒に決めてたじゃん!?
あ、ストローム博士も超人血清の研究を続けていて、エクストリミス理論を見てアルと意気投合して、よくエクストリミスの視察に同行してくれていた。超人血清も順調で、完成も間近だとか。まぁノーマンはエコロジー企業を目指しているから大々的な販売は予定しておらず、研究の一環として続けていくとか言ってたけど!
だからもう少し様子を見ながら進めようって言ったよね!?俺、言ったよね!?
「落ち着け。肉体の変化はこれまで確認できなかった。私自身、失敗したと思っていたんだ」
「人体実験した本人が一番落ち着いてるのが怖いんだよ!」
アルは俺の抗議などどこ吹く風で、再生した手を握る。その皮膚の下を、オレンジ色の光が走っていた。
▼
エクストリミスの研究を続ける中、ピーター・パーカーとの出会いはアルドリッチ・キリアンにとって、まさに運命と呼ぶべきものだった。
学会の誰もが眉唾物だと切り捨て、論文を文字通りゴミ箱へ放り込んでいく中。
ピーターだけが違った。
彼だけが真摯に話を聞き、研究の目的を聞き、理論を聞き、提出した論文を最初から最後まで読み込んだ。
ピーターとの出会いは、オズコープが新たに設立した子会社との提携を目的とした面談でのことだった。
零細企業……いや、企業と呼ぶことすら憚られる個人研究者でも面談可能。そんな触れ込みをアルドリッチは最初、疑っていた。
だが、バックにはあのオズコープがいるし、そして何より、あのアークリアクターを世に送り出したピーター・パーカー本人が研究者との面談を担当してくれるらしい。その噂を聞き、アルドリッチは一縷の望みを賭けて面談に挑んだ。
そしてピーターは入室してアルドリッチの顔を見た途端、その場に膝から崩れ落ちた。
今思い返しても、あれは非常に印象的な初対面だった。もっとも、何故ピーターが自分の顔を見た瞬間に絶望したような表情を浮かべたのか、アルドリッチには未だに分からない。
ピーター・パーカーからしてみれば、理由なんて単純極まりないのだが。なんでアイアンマン3のラスボスがここにいるんだよ!!と内心で叫んでいたことなど知る由もない。
そんななんとも言えない第一印象から始まった面談だったが、研究について話し始めると空気は一変した。ピーターはアルドリッチの持ち込んだエクストリミスの概要や、発表した過去の論文を読み込み、すぐに議論を始めた。最初は質問から、薬効による人体への影響や危険性、精神の凶暴化や脳への影響なども含めて多面的に議論をした。
アルドリッチにとって、エクストリミスはまだ理論上の話で机上の空論。自分は実現できると確信しているが、ピーターはまるで「エクストリミスは実現したのでその結果を考えよう」というスタンスで話をしていた。
すこしずれはあったものの、アルドリッチにとっては毎回学会で否定されていた理論であり、アークリアクターというとんでもないものを発明したピーターが、そのエクストリミスを実現できると言う確信を持った発言をしたので、アルドリッチは卑屈にならず、真っ向からピーターと議論を重ねていったのだった。
「エクストリミスの理論は画期的だけど、ちゃんと安全を考えて研究を進めなきゃダメ」
夜が更けるまで議論を交わした結果、ピーターはアルドリッチの理論をそう評価した。
否定ではなく、アルドリッチを笑いもせず、狂人扱いもしなかった。
エクストリミスという研究そのものには、間違いなく価値がある。ただ安全性を犠牲にしてまで急ぐ必要はない。
それがピーターの出した結論だった。
「安全性は確かに保証できない。だが、効果は絶大だ。結果が求められるのが研究者の常だろう? 多少の危険を許容してでも、結果を求めるべきではないのか?」
当時のアルドリッチはそう問い返した。
研究には金がかかるし、時間もかかる。
そしてスポンサーが求めるのは成果だ。結果を出せなければ資金は途絶える。資金が途絶えれば研究は終わる。それが研究者の世界だと、嫌というほど思い知らされてきた。
しかし、ピーターは平然と言った。
「そういった過程を大事にするために、この面談を設けたんだよ」
そして、とんでもないことを平然と言ってのけた。
「納期?スケジュール?まだ研究段階のものにそんなこと言う相手はアークリアクターの利益でぶん殴って封殺するけど何か?」
「…………」
なんだ、この男は。
アルドリッチは本気でそう思った。
研究を急がせるのではなく、研究者を急がせる原因そのものを殴り飛ばす。サイエンスパワーの権化みたいな男だった。
その後、細々と立ち上げていたA.I.Mは正式にピーターとの提携を結んだ。さらに後日。ピーターがオズコープを離れ、パーカー・エレクトロニクス……P.E社を立ち上げた際には改めて契約を結び直した。
結果、A.I.Mは潤沢な資金と研究設備のもと、エクストリミスの研究を進められるようになった。
たまにデイリービューグルから取材が来るが、大々的に報じられることはあまりなく、P.E社の新たな取り組みとして広報の一部に掲載されるくらいのものだった。だが、その寛容な体制がアルドリッチには非常に心地よかった。
資金の心配をする必要がなく、設備の使用時間を気にする必要もなく、実験結果を急かされることもない。
必要なら何度でもやり直せるし、経験豊富なスタッフも集まった。A.I.Mを創設当初から支えてくれていたスタッフたちについても、ピーターは一人残らず受け入れてくれた。
それに途中、妙な事件もあった。
ピーターが腕時計型デバイスを発明し、それによって得られた利益が想定を遥かに上回った結果、P.E社の社長であるノーマン・オズボーンが、頭を抱えながらA.I.Mへやってきたのだ。
「頼む。研究してくれ」
「……え?しているが?」
「もっとだ。このままだと税金がやばい。土地を買ってもいいのだが……とにかく研究費を使って研究をしてくれ。なんなら新たな機材を買ってもいい。とりあえず金を使ってくれ」
アルドリッチからしたら、お前は何を言ってるんだ状態だったが、その時のノーマン・オズボーンの目はマジだったので誰も反論することはできなかった。
スポンサーから、金を使ってくれなどと懇願された研究者が、この世にどれほどいるだろうか……少なくともアルドリッチは他に知らない。
そんな珍事までありながら、エクストリミスの研究は順調に進んでいった。
だからこそ、アルドリッチ・キリアンはピーター・パーカーに、とてつもなく大きな借りと恩がある。
研究を認めてもらったからだけではない。金を出してもらったからでもない。
自分の研究に価値があると。
急ぐ必要なんてないのだと。
結果だけではなく、そこへ至る過程まで大切にしていいのだと、初めてそう言ってくれた人間だった。
だから、ピーターが「安全第一!」と言うのなら、それに従うつもりだった。
……つもりだったのだが。
アルドリッチ・キリアンもまた、研究者の端くれ。自分自身の探究心にだけは、どうしても勝てなかった。
動物実験によって精神の歪みや欲求の増大、その他の心身への影響がないことが確認されてから、ピーターには内緒で少しずつ……本当に少しずつ、自分の身体へエクストリミスを投与し始めた。
もともとはこの自分の不自由な身体を治したいという希望もあった故だった。
もちろん、原液をそのまま使うような真似はしていない。十分に希釈し、極めて低い濃度に調整したものを投与し、血液検査に、細胞変化、精神状態。ありとあらゆるデータを記録しながら慎重に投与した。
ただ、効果らしい効果はほとんど現れなかった。
具体的に言えば、指先のささくれがなくなったとか、顔のニキビや吹き出物がなくなったとか、小さな切り傷が以前より少し早く治ったとか。
精々その程度で、長年患っていた足が治ることもなく、筋力が劇的に向上することもない。超人的な再生能力が発現することもない。
だからアルドリッチ自身も「この程度の結果なら」と、投与は継続していたものの、それからも劇的な変化など一度も起こらなかった。
そう。今日までは。
▼
「……おそらく、死にかけた私の身体の中で何かが起こり、エクストリミスが爆発的に活性化したのだろう」
アルは自分の胸へ手を当て、その指先から腕へ、腕から肩へ。赤熱した光が皮膚の下を走っていく。アルの身体から発せられる熱の影響で、彼の周囲はゆらゆらと揺らめていているように見えた。
隣にいるハリーもアルの変わりように目を見開いて驚いていた。
「希釈したエクストリミスを投与し続けたことで、私の肉体にはそれに順応する土台ができていた。それ故に、今回の致命傷をきっかけとしてエクストリミスが一気に活性化したのかもしれない」
研究者の顔だ。この人、自分が死にかけた直後なのに完全に研究者の顔してやがる。俺、一回この人が死んだと思って号泣してるんですけど!?
「強く生きたいという意志か。それとも大量の細胞死と、それに伴う修復機能の活性化が原因か……」
アルはぶつぶつ呟きながら自分の腕を触り、皮膚の温度を確かめ、指を曲げ伸ばしする。完全に実験モードだ。
「アル?」
「極度の生命危機そのものがトリガーとなった可能性もあるな。神経系への影響も調べる必要がある。体温は……かなり高いようだが、不快感はない。痛覚にも変化があるようだ」
「アル?」
「筋肉量の増加も興味深い。単純な細胞修復では説明が……」
「アル!」
「ん、とにかく、こうやって実験結果が一気に表層化したわけだ」
「あのさぁ!!」
怒りたいのか、泣きたいのか、喜びたいのか、呆れたいのか、さまざまな感情が濁流のように合わさった脳が混乱するわ!さっきまで死んだと思ってたんだぞ、こっちは!俺の涙を返せ!!
「研究者としてそういうのは気持ちはすごーーーくわかるけどさ!!でも、そういうことはちゃんと言ってほしいというかさ!?」
「ピーター」
「なに!?」
そう言ってからアルは微笑んで。
「さっき大切な友人だと?」
「言ってない」
「言ったぞ」
「言ってない!」
「それもワンワンと泣きながら」
「おいおいマジかピーター。なら親友の俺だったらもっと凄いか」
「アル!ハリー!二人ともシャラップ!!」
こいつ元気だ!!ハリーも悪ノリするし!
ああ、もう!間違いなくいつものアルだ!!
「まぁ、怒らないでくれ、ピーター。君に言われた通り、実験は安全にしているのだが……やはり自分で試さんと気が済まないタチでね」
「安全って意味、今度辞書で一緒に調べようか?」
「善処しよう」
政治家みたいなこと言いよってからに!あとこれ絶対しない顔だ!!
「だが……」
そこで、不意にアルの表情が変わった。
先ほどまで浮かんでいた、いつもの人を食ったような笑みが消える。
アルはゆっくりと視線を落とし、再生したばかりの自分の手を見つめた。かつては思うように動かすことすらできなかったはずの体が、今は何の抵抗もなく彼の意思に従っていた。
「確かにこれは……君と出会わずに使っていたら、私は過ちを犯していただろう。精神面への影響は少ないと思っていたが……多幸感や全能感がどうしても抑えられない」
その声は、思っていたよりも冷静だった。
だからこそ、俺も真面目になる。
エクストリミス。
肉体を強化し、再生させ、超人的な力を与える技術。アルが人生を懸けて追い続けてきた研究の、一つの到達点。
けれど力っていうのは、人間を変える。
いや、もしかすると、変えるという表現は正しくないのかもしれない。元々その人間の中にあったものを、力という光で強烈に照らし出してしまうだけなのかもしれない。
自信は傲慢に。使命感は狂信に。小さな怒りは憎悪に。そして、ほんの少しの優越感は……自分なら何でもできるという、全能感へと。
エクストリミスが肉体だけじゃなく、そういう部分まで増幅しているのだとしたら。
「エクストリミスの効果なの?」
思わずそう尋ねる。
「いや」
アルは首を横に振り、そして笑った。今度の笑みは、さっきまでとは少し違って見えた。
自嘲とも、歓喜ともつかない。長い間、暗闇の中を歩き続けてきた人間が、ようやく自分の進んできた道が間違っていなかったと知ったような……そんな笑みだった。
「私の目指したものが正しかったことへの確信だな」
その言葉に、俺は何も返せなかった。
誰からも、ずっと否定されていたエクストリミスの理論。人間の肉体そのものを書き換え、失われた機能を取り戻し、さらには人間という種の限界さえ超える。
そんな話をすれば、夢物語だと笑われる。
危険だと非難される。
狂気だと切り捨てられる。
アル自身、きっと何度もそういう言葉を浴びてきたのだろう。
俺と出会ってから研究は進んでいた。だけど、その歩みが遅々としたものだったのも確かだ。理論を組み直し、実験を重ね、問題が見つかれば一度立ち止まる。
効果より安全性。完成より確実性。
俺はそれが当然だと思っていた。
人間の身体に使うものなんだから、慎重すぎるくらいでちょうどいい。アルだって、それを理解していると思っていたし、実際に理解はしていたんだろう。
ただ理解できることと、納得できることは別だ。自分が人生を懸けて追い続けてきたものが目の前にある。
理論上は正しく、あと少しで届くところなのに、安全性という名の鎖を一つずつ外していかなければ、その先へ進むことはできない。
そんな日々の中でやるせなさや、焦りは、確実にアルの中に積み重なっていたのかもしれない。
そして俺は、それに気付けなかった。研究を安全に進めることばかり考えて、アル自身が何を感じているのかまで、考えられていなかった。
それをフォローできなかったのは、俺の責任だ。
「勘違いしないでくれ、ピーター」
考え込んでいた俺の思考を読んだように、アルが言った。顔を上げるとアルは真っ直ぐ俺を見ていた。
「君がエクストリミスを実現できると確信してくれたことは私にとっての救いだ。だからここまで来れた」
一度、アルは自分の手を見る。その指を握り締める。赤い光が、皮膚の下で静かに瞬いた。
「これは……私一人ではできなかったことだ。君がいたからできたんだ」
そして、再び俺を見る。
「だから……ありがとう」
……なんだよ。
そういうの、反則だろ。
何か気の利いたことを返そうと思った。
でも、こういう時に限って言葉が出てこない。
隣にいたハリーが、そんな俺の肩を軽く叩いてくれる。視線を向けると、ハリーは何も言わなかった。ただ、その目には余計なものはなかった。
アルにも、嫉妬も、皮肉も、茶化すような色もない。あるのは、純粋な感謝だけだった。
俺は小さく頷いた。
それ以上、言葉はいらない気がした。
だから俺は、差し出されたアルの手を握りしめた。
……熱っっっ!?
「って熱い!」
反射的に手を離す。いや待て熱いなんてもんじゃない。一瞬、熱したフライパンでも触ったのかと思ったぞ。
見ると、アルは自分の手と俺の手を交互に見比べ、それから妙に冷静な顔で頷いた。
「体温調整は火急的な課題だな」
「そこ、今気付く!?」
「それが熱いくらいで済むピーターも大概だよな」
横からハリーがぼそっと呟いた。
「ハリー、うるさいよ」
せっかくちょっと感動的な空気だったのに台無しじゃないか。アルなんてもう研究者の顔に戻って、自分の腕を眺めながら何やらぶつぶつ呟いている。
「皮膚表面からの放熱が追いついていないのか……あるいは代謝そのものが想定以上に上昇している可能性も……」
「今それ考える!?」
本当にこの人は。俺は呆れながらも、少しだけ笑った。
アルは変わった。肉体は間違いなく、人間の領域を大きく踏み越えた。
けれど。
こうして見ている限り俺の知っているアルは、ちゃんとここにいる。
それだけで、今は十分だった。
その時だった。
轟音と共に一瞬、世界そのものが震えた。遅れて、空気を引き裂くような雷鳴が響き渡る。
反射的に振り返る。
空が白く染まっていて、幾筋もの稲妻が雲を貫き、大地へと降り注いでいる。
ソーだ。
その雷光の中心から、巨大な何かが飛び出した。
いや吹き飛ばされてきた。
デストロイヤーの巨体が、地面を何度も抉りながらこちらへ向かって転がってくる。土煙と岩片が爆発するように舞い上がった。
そして最後にもう一度、大きく地面を跳ね轟音とともに、デストロイヤーが俺たちのすぐ近くへ叩きつけられた。
さっきまでの静かな空気は、一瞬で消し飛んだ。
煙の向こう。巨大な影が、ゆっくりと起き上がる。その顔面に刻まれた隙間の奥で、灼熱の光が灯った。
そうだった。
まだ、終わってない。
むしろここからが本番だ。
「蜘蛛男!空飛ぶ騎士!戦士なら……アルドリッチ?」
そう言って着地するソーは、復活したアルを見て目を見開く。それを見てアルは目を輝かせた。いや比喩じゃなくて、本当に赤く輝いた。
「さて、ブリキくん」
アルの身体から熱が立ち上る。
「君相手にどこまで出来るか、試してみよう!」
真っ赤になった拳をデストロイヤーに振るうと、火花のようにぶつかった衝撃でデストロイヤーは吹っ飛んでいく。筋力の向上は想像以上だった。
デストロイヤーの強力な装甲は熱で赤くなり、とてつもなく硬い装甲を殴ったアルの手は一瞬潰れたように見えたがすぐにエクストリミスで再生していた。
「アルドリッチ!」
吹き飛んだデストロイヤーを見ながら、ソーが豪快に笑う。
「貴様はまさに燃える男だな!」
「燃える男はダサいな」
え、そこ気にするんだ。起きあがろうとするデストロイヤーに追撃するアルに続き、俺とハリーも加勢に加わる。ウェブで動きを拘束した隙にアルとハリーがコンビネーションパンチを決め、さらにハリーはブレードで切り掛かる。
そして仕上げに雷をまとったムジョルニアを振り上げて再びデストロイヤーを吹き飛ばしたソー。その光景を見つつ、アルはつぶやく。
「ピーターにもスパイダーマンというヒーロー名があることだし……そうだな」
アルが顎に手を当てる。
「マンダリンとでも名乗る……」
「いや、それはダメ」
そりゃもう全力で止めた。
それだけはダメ。歴史がなんか変な方向へ収束しようとしてる。
「マンダリンって、元は中国語圏の官僚とか柑橘系の果物のことだよ。ダサすぎる。アルのセンスじゃない」
「そうか?ふむ……」
アルは少し考える。そして指を鳴らした。
「なら、これならどうだろう」
赤熱する身体に炎。そして再生。一度死の淵から蘇った男。
「フェニックス・ガイ」
「うん、それなら大賛成!」
こうして本来なら世界を脅かすはずだったエクストリミスは、一人の科学者を死の淵から蘇らせ、ついでに、また一人……この世界に妙なヒーローが誕生したのであった。
……いや。
本当にどうしてこうなった?