サムライミ版のピーターに憑依した男っ!!   作:紅乃 晴@小説アカ

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第三話

 

 

目が覚めたら体がマッチョマッチョになっていましたピーター・パーカーです。

 

某ワクチンの1回目と2回目の副作用とインフルエンザ級の寒気とかがいっぺんに来たような体調不良に見舞われて一夜。

 

まじで起きたら体が激変していた。悪かった視力も良くなり、両目の視力は2.0以上は固いくらい。体も筋肉がついており、昨日までの貧相な姿とは本当に別人と言えた。

 

鏡の前で思わずマッスルポーズを取ってしまう原作ピーターの気持ちがよくわかる。コンコン、と自室のドアをメイ叔母さんが叩いた。

 

 

「ピーター、大丈夫?」

 

「あぁ!大丈夫だよ!」

 

「何か身体に変わりはない?」

 

 

うん、そうだね!すごく変わった!そう答えると、朝食はできてるわとだけ伝えてメイ叔母さんが降りてゆく音が聞こえる。視力もそうだけど聴力もかなり向上しているらしい。五感全般が鋭敏になったような感覚だ。

 

手早く着替えを済ませてゆっくりとドアを開ける。いつものようにドアノブを握ると、異常な握力でノブが果物みたいに潰れてしまいそうだった。

 

 

「おはよう、ベン叔父さん」

 

「あぁ、おはよう。ピーター」

 

 

今朝の朝刊を読んでメイ叔母さんの作ってくれた朝食を口にするベン叔父さんだが、その様子は普段通りだった。

 

原作で職を失って間もない頃だったベン叔父さんであるが、ここでは少し違う。俺やハリーが立ち上げたラボの手伝いをしてもらったりしているし、ラボであげた成果をノーマンさんに買い取ってもらい、そのお金を家に入れたりしているので、家の経済状況が苦境に立たされているということはなかった。

 

叔母さんの作ってくれたオムレツをペロリと平らげ、追加で傍に置いてあったシリアルを皿に入れる。アメリカのココナッツミルクは最高だ。シリアルとココナッツミルクをかきこむ俺の姿を見て、メイ叔母さんは珍しそうな顔をしていた。

 

 

「よく食べるわねぇ、ピーター」

 

「うん、美味しいよ。メイ叔母さん。昨日晩ごはんも食べずに寝ちゃったからお腹ぺこぺこだったんだ」

 

 

事実である。一晩で肉体が文字通り作り変わった俺は、今は消費したカロリーを求めている。原作のピーターはよく朝食べずに出たよな。多分、ここでのんびり朝ごはん食べてるからMJの後ろ姿見ながらポエミーなことをいうシーンのフラグは折れてるだろうけど。

 

ごちそうさま、と空っぽになった皿をシンクへと置いてカバンを背負うと、老眼鏡をつけていたベン叔父さんが呼び止めてきた。

 

 

「ピーター!今日は台所のペンキ塗りだからな」

 

「わかってるよ、叔父さん」

 

「逃げるなよ?」

 

 

学校が終わったらまっすぐ帰ってくるよと伝えて、俺は家から出て大通りを通ってすぐに裏路地に入る。

 

そこで指先をじっと眺めた。指の腹にはびっしりと末端毛束が生えているのが見える。肉体にスパイダーマンの能力の兆候が現れていた。

 

俺は意を決して見上げる建物の壁へと飛び上がる。普段では考えられない跳躍。壁に手を貼り付けると、手は滑ることなくピタリと壁に吸い付いた。いや、くっ付いた。

 

片手を離してもう一手。さらにもう一手。壁を這うように登ってゆき、俺はついに実感した。

 

 

「Foooooooooッ!!!」

 

 

俺の身体に、スパイダーマンの能力が備わったことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(改めて見ると、本当に凄い力だ……)

 

 

試しにビルを数棟飛び越えながら学校への道をショートカットしたのだが、普段徒歩で行けば一時間近くかかる道のりを僅か20分程度で走破してしまった。しかも息切れも無し。ビルの合間を飛び越えて進み、人目につかない学校近くの路地を壁蹴りの要領で降りて着地する。

 

 

(何か壊さないように気をつけないと)

 

 

足場にしたアメリカンな非常階段の手すりが一部凹んだが、軟着地である。手を払って何食わぬ顔で学生たちが行き交う学校前の大通りへと出た。

 

 

「ピーター!」

 

 

すると、すぐに人をかき分けてハリーがやってきた。その表情は普段の気怠げなものとは違う。どこか怒りや焦り、驚きに染まっているような表情だ。

 

 

「やぁ、ハリー。おは……」

 

「朝の挨拶はどうでもいいんだ!父が……」

 

 

深刻そうに言うハリーに俺は内心でビビっていた。

 

原作ではオズコープの経営苦境の打開策として、ノーマンが筋肉増強剤を服用し人体実験を断行。その結果、精神異常が生じて人間の欲や狂気を全面に押し出した第二の人格と、グリーン・ゴブリンが誕生すると言った展開がある。

 

 

「ノーマンさんがどうかしたの?!」

 

 

まさかグリーン・ゴブリンになるような真似をしたんじゃ?そんな不安を押し殺してハリーに問い詰めると、彼は言いづらそうに口ごもってから、静かに言った。

 

 

「父が俺らの研究を軍に売ったんだ」

 

 

セェエェエェェーーーーーーフッ!!!!

 

まじビビった。ノーマンさんがグリーン・ゴブリンになってたらハリーの悲劇ルートがある意味確定する。それを見越して、俺はオズコープの利益になるように人工知能の開発をノーマンさんにプレゼンしたわけだが、思惑通り、ノーマンさんは軍に俺とハリーが作った代物を売って、経営苦境を打開したのだ。

 

計画通りッ!勝ったな、フラッシュに昼食をスパーキングしてくる。

 

だが、ハリーからしたらそんなことなど知ったこともないわけであって、俺が安堵してる様子を見て不満そうに顔をしかめた。

 

 

「ピーター、俺らの研究を父が軍に売ったんだぞ?ここから先の研究は全部オズコープが管理する機密扱いだ……俺らがやろうとしてきた実験も発表も全部パーになったんだ」

 

「あぁ、ハリー。気持ちはわかるよ。僕だって悔しいよ。けど、あの研究の出資をしてくれたのはノーマンさんだし、研究で得た成果の利権はオズコープに……」

 

「そんなこと、俺だってわかってるよ!……俺が怒ってるのは、なぜ相談もせずに父は俺らの研究を軍に売ったんだって……」

 

 

まぁ、多分昨日のコロンビア大学の研究室見学中に商談は纏まったのだろうな、と勝手に想像する。ノーマンさん自身も、俺やハリーには、開発した補助システムについて何度かそれとなく話はしていたし。ただ、軍のお偉いさんが来ているなら……多少は仕方ないのかもしれない。

 

 

「……やむにやまれぬ事情ってやつさ、ハリー。ノーマンさんには事情をしっかり聞こう」

 

 

そうは言ってみるが、ハリーの不機嫌は解消されなかった。ピーター。お前はそれでいいのかよ、と更に食ってかかってくる。

 

 

「んー、まぁ、よくないよ。けど、そういうモノだと割り切るのも必要だと思ってる。お金が絡んでる話だからね」

 

「お前は大人だな、ピーター」

 

 

不貞腐れるハリーを見て、俺は少し可笑しくなって笑った。なんで笑ってんだ?と不思議そうな顔をするハリーに、俺は咳払いと共に愉快な気持ちを追い出した。

 

 

「僕はハリーを尊敬するよ」

 

「え?」

 

「それほど本気になってくれてたってところにさ」

 

 

ぶっちゃけ、俺が人工知能の理論について話したとき、ハリーは乗り気じゃなかった。スポンサーとしての仕事はしてくれたけど、あくまで主体はピーターで……といった他人事のような雰囲気があったのだ。

 

だが、ハリーが外観のデザインや社内コンペで最優秀を取ってからみるみると態度が変わった。ノーマンさんから褒められたというのも大きかったのだろうが、そこにやりがいを自分なりに見つけたのだろう。

 

それがなくたって怒っているハリーを見れば、企画当初の彼とは比べ物にならないほどの進歩だった。

 

俺は困惑するハリーの肩を叩いた。

 

 

「さ、次の研究だよ、ハリー。人工知能は取り上げられたけどインターフェースの課題は山積みだ。あれを完成させれば、そこから次のテーマも見えてくるよ」

 

「……当面の目標は視線操作で車の運転、だったよな?」

 

「ノーマンさんが軍に売ったんだ。その恩恵は倍にして投資してもらうとするよ」

 

 

そう言う俺の顔を見てハリーもまた悪巧みしてそうな笑顔で応じた。

 

 

「ピーター、大人だと言ったのは前言撤回。お前、俺よりも怒ってるよな?」

 

 

はっはっはっ!何のことかわからないなぁ!!できることならもう少しシステムを詰めたい箇所もあるし、まだまだバグもある。商品として売るにはクオリティが低すぎる。それを売ったノーマンさんに物申したいことはあるが、すでに後の祭りなので早々に次の実験に切り替えるとしよう。

 

今後の構想もある程度は練れているしね!!

 

そんな話をしながらハリーとロッカーの前に来た瞬間だった。

 

周りの雑踏がクリアに聞こえ、あたりに漂ってあるハエや、空気感すら感じ取れるほどの感覚が危険信号を発した。

 

と、同時に無意識に顔を横へと避けると俺の使っていたロッカーの扉が拳でベコリと凹んだ。

 

そんな!こないだ買い替えてもらったばっかりなのに!!

 

振り返るとやる気満々で怒り怒髪天なフラッシュが拳を構えて立っていた。

 

 

「昨日はよくも馬鹿にしてくれたな、パーカー!!」

 

「あー。やぁ、フラッシュ。今日ももしかしてご機嫌斜め?」

 

「ああ、お前を殴ったら少しはスッキリするさ!」

 

 

そう言ってフラッシュが拳を振るう。右、左。だが当たらない。咄嗟に上半身のスウェーだけで対処してしまった。俺はすぐに体を入れ替えてロッカーを背にする間合いから抜け出す。

 

 

「ピーター!」

 

「ごめんハリー、ちょっと後で話があるんだ」

 

「けっ!喋ってる余裕なんかあるかよ!」

 

 

驚いているハリー。あ、フラッシュの後ろにはMJもいる。僕は悪気がなかったって言っても、フラッシュも「じゃあ俺もパンチを当てるが悪気はない」とかいういじめっ子特有のトンデモ持論を展開していた。

 

あたりには一限目前なので学校生徒が円を作って俺とフラッシュの喧嘩を見物している。すぐに賭け事が始まるのは、なんというかアメリカンだなぁと思う。

 

と、フラッシュの拳が飛んでくる。昨日までは目では見えている!が、避けれるとは言ってない!!と言う速度で飛んでくる拳であるが、スパイダーマンの能力を手に入れた今はかなり話が違う。

 

 

「何やってんだよフラッシュ!はやく当てろよ!」

 

 

周りが手加減してるんじゃねぇぞ、ともてはやすが、フラッシュの表情はそんな余裕めいたものをしていなかった。右、左、フックや蹴りをしてもことごとく避ける俺に戸惑っているのが目に見えて分かった。

 

 

(ほんと、止まってるように見えるな……)

 

 

まるでスローモーションのように飛来するフラッシュの拳。邪魔な角度で来た時は横に払って軌道をずらすなどして対処してゆく。

 

むっ、後ろから気配。と、条件反射する様に俺の身体は宙に上がってバク転をかました。ああー、華麗に避けるつもりだったんだけどなぁ!ちょっとここら辺の反射神経の感覚もトレーニングが必要かな!

 

俺の身体能力にビビる仲間をどかして、フラッシュは本格的なストリートファイトに移行した。足を使って、腰を入れて、頭を振って拳を振るってくる。そして、その全てを避ける。体を逸らして、手で軌道を変えて、半身になって。うん、勉強になる。フラッシュには悪いけどスパイダーマンの能力の実験台になってもらおう。

 

しばらく拳をくり出し続けるフラッシュ、その全てを避けている俺。

 

ギャラリーも最初はフラッシュの手抜きだとヤジを飛ばしていたが、それが1分、2分と続くとみんなが黙りこくった。

 

息が上がるフラッシュと全く息を乱していない俺の対比を見たあたりで、周りの反応は正体不明のなにかを見るような、恐れ慄いた気配に変わっていた。

 

そろそろ潮時か。

 

俺はフラフラになったフラッシュの拳を受け止め、そしてちょいとフラッシュを押した。すると彼の体は後ろへと吹き飛んでゆく。まじか、ちょっと押しただけなんですけど。

 

 

「フラッシュ!!大丈夫!?」

 

 

ズササーと滑ってゆくフラッシュに駆け寄る取り巻きだが、MJだけは信じられないようなものを見るような目で俺を見ていた。俺は咳払いをして、隣で待ってくれていたハリーの元へと戻る。

 

 

「行こう、ハリー」

 

「え……ぁ……ま、待てよ、ピーター!!」

 

 

居心地の悪いロッカーエリアから立ち去る俺を、若干放心状態だったハリーはすぐに追いかけてきた上に、俺にさっきのは何だったのか?と質問攻めをしてくる。

 

 

この後めちゃくちゃハリーに説明した。

 

 

 

 

 


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