サムライミ版のピーターに憑依した男っ!!   作:紅乃 晴@小説アカ

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第五話

 

 

どうも、新設されたラボでの研究が始まって半年経ったピーターです。

 

軍に売却されたAIは順調にデータバンクを更新し続けていて、その膨大なビッグデータのせいで、オズコープ社内で管理していたマザーユニットの容量がついにスペックオーバーを引き起こしました。エアコンガンガンに効かせてるはずなのに部屋に入ると「サハラ砂漠かな?」っていうくらいの暑さでハリーと一緒に溶けた顔をしてしまってたぜ。

 

その後、軍が購入したスパコン……IBM社のパチモンみたいな名前の企業の代物にデータを移して完全に軍が管理することになりました。

 

オズコープの利益としてはノーマンがマネーパワーで買った専用の衛星通信の使用料金があるのと、基礎であるマザーユニットの定期的なメンテナンスや、リース費用があるので手離れしても利益は見込めるのだが、開発した俺とハリーからすれば少し寂しいところもあった。

 

だがしかし、そんな感傷に浸っている場合ではない。今俺たち二人は空前絶後の忙しさを味わっていた。

 

 

「ピーター、そこの端子をとってくれないか?」

 

 

そう言って特徴的なルーペをつけている博士に、先に組んでおいた端子をそっと渡した。大きさにしてわずか数ミリ程度。腕時計の超小型部品のようなそれを、博士はピンセットを使って端子の上に置くと、熱伝導で融着させるコネクタに溶着させた。

 

一通りの作業が終わって、俺と博士は思いっきり息を吐き出した。とてつもない精密作業で、ぶっちゃけめちゃくちゃしんどい。けど、こうしないと今開発している機械は部屋に収まりきらないほど巨大化してしまう。

 

ビルワンフロアを余裕で食い潰す設計図を見たハリーが死ぬ気で頑張ってテーブルの上に乗るくらいまで小型化してくれなかったら今頃ラボのリフォームで終わっていただろう。当のハリーは疲労からかラボの隅に置いてあるソファで爆睡しております。

 

 

「これで第三工程は完了だな、ピーター」

 

「えぇ、オクタヴィアス博士。きっとうまくいきますよ」

 

 

そういうと優しそうな笑みを浮かべて汗を拭う博士。そう、オットー・オクタヴィアス博士。アルフレッド・モリーナで声が銀河万丈さんの方な!!そんな彼が我らのラボにいるのだ。ちなみにスパイダーマン2で4本の作業アームを操るメインヴィランとなる人物である。

 

なんで彼がまだ1の序盤にもいってない状況で俺ことピーター・パーカーと面識があるかというと話は長くなるが、俺が博士をラボにスカウトしたからだ。

 

ハリーと一緒に新型モジュールのプレゼンに行った帰り道で、行きつけとなったカフェでぐったりとカフェオレを煽っていたら斜め向かいに奥さんであるロージー・オクタヴィアスと一緒に座っていたのを見て思わず吹き出してしまった。

 

そこからは俺が猛烈アプローチ。オクタヴィアス博士の論文も読んでいたのもあるし、何より彼が着目する「トリチウム」という物質を使った新たなる核融合エネルギーが理由だ。彼が長年研究を続ける夢でもあり、ドクター・オクトパスというヴィランとなってしまう理由でもある。

 

すぐさまハリーにも紹介し話を聞くとなんでもトリチウムが高価すぎて実験が進んでおらず、スポンサーを探していると言ったのでハリーに無理を言ってオズコープのラボで共同研究を持ちかけたのだ。

 

だがオクタヴィアス博士、割とプライドが高い。最初は自分の研究は自分だけで完成させると言ってオズコープからの支援は求めたが共同研究はOKしなかった。それもそうだろう、彼が生涯をかけて研究してきた代物だ。俺やハリーが関われば研究成果を横取りされるのでは?という疑念もあるに違いない。

 

だが、俺に抜かりはなかった。ハリーと共にオズコープ社内で子会社を設立して、オクタヴィアス博士の研究は彼自身の功績である、それをいかなる理由であっても侵害しない、という行政誓約書を発行して再度、博士にアプローチをかけたのだ。ちなみにノーマンさんも了承済みで、オズコープの役員全員の同意判子も押してもらっている。

 

それに驚いた顔をする博士に、さらに追撃。

 

トリチウムによる核融合。それは凄まじいエネルギーを発生させるが、スパイダーマン2では実験が失敗に終わっている。博士の理論では核融合エネルギーを発生はさせられるが、制御することができなかったのだ。核融合はストッパーがなければ無限にエネルギーが作り続けられてゆく仕組みだ。そんなものが制御不能に陥れば、下手をすればニューヨークが更地になりかねない。

 

だが、それを真っ向から否定すればプライドの高いオクタヴィアス博士は余計むきになって共同研究の話を蹴ってしまうことになる。

 

そこで、俺は一つの提案をした。

 

エネルギーを循環させればいいじゃない、と。

 

 

「トリチウムを円形に加工し、重水素とパラジウムによる化学反応を利用してエネルギーを循環させる方式……私では考えられなかったアイデアだ」

 

 

いや、それは別世界の天才のアイデアです。なんて口が裂けても言えなかった。俺がオクタヴィアス博士に持ちかけたのは博士の夢を具現化させると同時に俺が目指したものを作る目的もあった。

 

そう、この世界で「アークリアクター」を作ろうとしているのだ。

 

映画ではアークリアクターの動力源はパラジウムだったが、そんな夢の設計なんてピーターの頭を持ってしても不可能で、半ば諦めかけていたところでオクタヴィアス博士の理論を応用すればいけるんじゃね?という天啓が舞い降りたのだ。

 

だが課題も多くあった。

 

 

「あー……ピーター?これは流石に大きすぎるんじゃないか?」

 

「でーすーよーねぇー!!」

 

 

まず作ろうと原案図面を引いたらめちゃくちゃデカくなったのだ。

 

まじでビルワンフロア食い潰すサイズ。

 

その図面を見たノーマン氏が浮かべた苦笑いに俺とオクタヴィアス博士は何も言えなかった。デザインセンス皆無な中年博士と異世界転生トビー・マグワイアでは出来ることに限界がありましたよ。

 

そこで白羽の矢が立ったのが俺の親友、ハリー・オズボーンだった。

 

高校も夏休みだし、とりあえずこのビルワンフロアサイズのやつを自動販売機サイズにしようぜ!って補習終わりのハリーに持ちかけたら思いっきり頭を叩かれた。解せぬ。

 

そこからはオクタヴィアス博士と俺とハリーの三人でのバトルだった。

 

朝起きて論争しては設計図書いて、検討しては設計図書いて、想定しては設計図書いて、オクタヴィアス博士の奥さんが作ってくれたシャワルマ食べながらラボで爆睡して起きて設計図書いて寝るみたいな生活を続けているうちに、三人は徐々にぶっ壊れ始めた。

 

たまに手伝いに来てくれるベンおじさんに向かって俺が壊れたラディオみたいにアークリアクターの基礎理論を説明したり、未成年なのにノーマンの持っているワインを一本空けてベロベロに酔ったハリーが書いた図面が外観の図案になったり、積み上がった不採用の設計図をビリビリに破ってオクタヴィアス博士が食べ出した頃がマジでやばかった。

 

そんな検討と検証と図面書く生活を続けて、やっとテーブルの上に乗るサイズまで小型化できたのだ。

 

マジで捕虜生活の中でガラクタからアークリアクター作ったトニー・スタークは天才だと思う。

 

そんなこんなで部品もミリ単位、もしくはそれ以下となったが、オクタヴィアス博士と二人三脚で組み上げてやっとアークリアクター(仮)は形になったわけだ。

 

だが、実験はまだ成功していない。理論上は制御できるはずだが、もし失敗すれば何が起こるか誰にも予想がつかないのだ。

 

とりあえず長い夏休みも終わりを迎えたので、俺とハリーは学校へ。オクタヴィアス博士もリフレッシュするために奥さんと一緒に一時帰宅。

 

起動実験は学校終了後の夕方となるのだった。え?原作のプロレス?知らない子ですねぇ……。

 

 

 

 

 

ピーター・パーカーとハリー・オズボーンはとても優秀な青年だ。それが共に研究を行うことになったオットー・オクタヴィアス博士の素直な感想だった。

 

二人との出会いはニューヨークの一角にあるカフェテリアだ。妻のロージーと共に日課の朝食とカフェを楽しんでいたところ、ものすごい形相をしたピーターが話しかけてきたのがきっかけ。ハリーはそんなピーターを止めながら驚いている私とロージーに頭を下げている。そんな印象が強く残っている。

 

高校を卒業もしていない二人の青年、特にピーターは私の行なっていたトリチウムを使った新たなるエネルギー研究にとても強い関心を示しており、論文の一部や私自身が学会で報告した資料の一部を引用しながら捲し立ててくるピーターに圧倒された気分だった。

 

だが、私もひとりの科学者であり、探求者だ。

 

たしかに私の研究が陽を浴びる事はなかった。学会でも誰もに鼻で笑われてあしらわれた。そんな私に投資をしようとするスポンサーもいない。誰にも理解されない中で妻であるロージーには多くの苦労もかけてきた。

 

しかし、私はそれでもトリチウムでの新たなるエネルギーが実現できると信じているし、それを達成できるのは自分ひとりだと断言できた。たとえ自分を尊敬し、慕ってくれる若者だとしても、彼らと共同で研究をするつもりはなかった。

 

だが、彼らはそんな私の凝り固まったプライドを忘れさせるほどのアイデアを携えて、再び私の前に現れた。

 

私の中にあったイメージはトリチウムのエネルギーを内包した手に収まる太陽だった。だが、ピーターはエネルギー体ではなく、それを循環させエネルギーの発生比率を安定させようと提言してくれたのだ。彼は確信していたのだ。私がトリチウムからエネルギーを作り出すということを。その上で、作り出したエネルギーを制御する方法を出してきた。

 

私は言葉を失った。誰もが私の研究は不可能だと笑ったというのに、ピーターは私の研究が成功すると信じていた。それだけで、意固地になっていた私の心はどこか救われたような気がした。

 

改めてエネルギー発生装置を見る。トリチウムで円を描いた伝導体に、重水素とパラジウムが内蔵された二重構造体のコアユニット。

 

トリチウムは私が。

 

重水素とパラジウムの部分はピーターが。

 

外観のコアユニット構造はハリーが設計してくれている。

 

この三人がいなければなし得なかった偉業だ。

 

 

「アナタ」

 

 

ロージーが私の手を握ってくれる。握られて初めて私の手が震えていることに気づいた。緊張からか、不安からか?いや、違う。大いなる力の一歩に心が震えているのだ。

 

安定装置の数値データを監査しているピーター、そしてコアユニットの同調率をみるハリーが私を見て頷く。

 

私も頷いて、長年愛用してきたゴーグルを着用し、この時のために設計した作業用アームを取り付ける。本来なら脊髄にケーブルを通して神経パルスでの操作をする設計だったが、ピーターとハリーが開発したコクピットモジュールと、脳波デバイスを用いて神経接続は取りやめた代物となっている。

 

神経系への悪影響を考慮したピーターからの提案だったが、そのモジュールシステムはまさに画期的だった。神経接続よりも負担は少なく、スムーズにアームも操作できる。

 

彼らは素晴らしい才能を持っている。センスもだ。彼らと共に仕事ができたことは、私にとっての誇りだ。

 

作業アームがコアユニットをつかむ。誰もが緊張の表情を浮かべる中、コアユニットをエネルギー発生装置へとはめ込む。それを見てピーターが起動装置のスイッチバーを少しずつ上げてゆくと、トリチウムとパラジウムのリングが少しずつ光を発してゆく。

 

40、60、80と出力が上がってゆき、スイッチバーはついに100の値へと到達した。リングの光は極光に達して、静かにエネルギーを発生させていく。

 

ハリーが同調率を見て笑みとサムズアップを掲げた。我々は、新たなる可能性の扉をついに開いたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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