サムライミ版のピーターに憑依した男っ!! 作:紅乃 晴@小説アカ
祝★アークリアクター(仮)稼働テスト合格!!
残念ながらまだまだ完成じゃないんですよ、とハリーに言ったら祝賀ムードで意気揚々とワインを出していた彼の顔がスンってなっていた。ごめんよ、ハリー。だがお祝いはするからワインは仕舞おうな!ワインがぶ飲みで天啓が降りてきて以降、どっぷり酒の沼に親友がハマったような気がした。
オクタヴィアス博士と奥さんはまるでノーベル賞を授与されたようにお祭り騒ぎで二人してシャンパンを開けていた。ここラボで僕ら未成年なんですけど!?まぁいいか、俺もベンおじさんとメイおばさんを呼んで懇意にしているピザ屋から何枚かアメリカンピザを注文。
実験が成功するまでは設計図や失敗作の残骸や加工したパーツのゴミで溢れかえっていた机をノリと勢いで片付けて、光り輝くアークリアクター(仮)を中心に、テーブルの上いっぱいにご馳走を並べて、全員で完成を祝った。
といっても、リアクターの稼働効率は10%以下で発電量もまだまだ少ない。できて豆電球の電源を向こう百年以上維持できる程度のエネルギーしか出せていない。オクタヴィアス博士とハリーはそれを知ってガッツポーズしていたけど、目標は毎秒3GJですって言ったら二人とも真顔になってました。目標は高く持たないとね!!
そんなわけで何項目かのテストを三人で行ってから、まずは最大のスポンサーであるノーマン氏にプレゼンを行うことに。
ドライヤーの消費電力程度なら余裕で賄えるほどのエネルギーを永続的に生み出すアークリアクター(仮)をノーマンの書斎へと運び込み、オクタヴィアス博士主導でプレゼンを実施したところ、企業として博士と契約を結び、アークリアクターの独占販売を行いたいと正式に打診すると太鼓判を押してもらえた。
すぐにオズコープ経由で学会にも発表される手筈が整っており、申請資料にもオクタヴィアス博士の名前がしっかりと乗っていた。ここで手柄を奪うとかすると後々の遺恨になるからな!オッケーを出してノーマンに申請書を返そうとしたとき、オクタヴィアス博士が待ったをかけた。
「これは私一人ではなし得なかったことだ。ピーター、そしてハリー。君たちの名も共同研究者として載せてもらえないだろうか?」
予想外だ。思わずハリーと顔を見合わせる。ぶっちゃけていうとかなり嬉しい話であるが、共同研究にするとなるとオクタヴィアス博士がこれまで積み上げてきたトリチウムからのエネルギー発生論も俺たちの成果となってしまうのではないだろうか?それを危惧してオクタヴィアス博士の言葉を断ろうと思ったのだが、彼は首を横に振って笑顔を向けた。
「学会で誰もがトリチウムからのエネルギー発生論を馬鹿にしていたが、君とハリーは私がそれを成功させると確信していた。だから、その後のことを考え、このアークリアクターが出来上がったのだ。手の中に太陽を、そう願って続けてきた私の生涯の研究は……君たちと巡り会うために続けてきたのだろう」
彼は言う。共同研究として共に名を連ねるのはオクタヴィアス博士からの恩返しであると。思わずその言葉に涙が出そうになった。ハリーなんて隣で男泣きしてるし、ノーマンもつられて泣いているように見えた。博士は本当に満足げな顔で俺たちに手を差し伸ばしてきた。涙を堪えながら……ハリーは泣いてるけど、俺たちは差し出された博士の手をしっかりと握って握手する。
こうして、俺たちは三人でアークリアクターの正式な発表を行ったのだ。
オズコープ経由で公表された論文と研究成果であるアークリアクターは瞬く間のうちに反響を呼び、多くの研究者や研究機関がオズコープに注目して株価が見たこともない速さで爆上がりしていった。これはこのままオズコープがこの世界のスターク社になるのでは?という勢いだった。
ついでに「我が社の研究にも出資を!!」という声も多く、ノーマンから俺とハリーが選別担当を任されて目ぼしい研究をしている企業を片っ端からヘッドハンティングしてこいと言い渡された。
スポンサー契約のための面接や資料選考に目を通す傍らで学校に通ってオクタヴィアス博士とアークリアクターのアップグレード案も考えて、あれ?研究してた時よりも忙しくなってね?って思った頃には、学校新聞にも俺とハリーの名が大々的に載るようになっていた。
これまでオズコープのバカ息子と陰で腫れ物扱いしていたハイスクールの教師や関係者たちも面白いくらい手のひら返しをしていて、いつもなら止まってくれないバスの運転手も気がつけばパーカー家の目の前に停車して俺を待ってくれるようになっていた。なにそれこわい。
いつもは威張って俺とハリーから隙あればカツアゲをしようとしていたフラッシュやその取り巻きたちも態度を一変させていて、逆に気味悪いからいつも通りで頼むよとお願いする変な状況になっていた。
あとアークリアクターの利権の給金も入ってるらしく、その金額を見て口座を管理しているメイおばさんがぶっ倒れた事件があったり、オクタヴィアス夫妻がラボから近い場所に家を建てたり、その引越しの手伝いをしたり、ハイスクールの科学オタクたちからの言及からのらりくらり逃げたりと色々と周りが大きく変わっていた。
そんな中、なんとハリーに恋人が!相手はMJ!原作よりもかなり早くお付き合いを開始したようだ。
大企業の社長の息子でいつも出来損ないと言われて自信がなかったハリーだったが、俺とAIを開発したことや、オクタヴィアス博士との共同研究ですっかり自信がついたらしく、自らMJにアプローチをかけたのだ。無論、先にMJに恋心を抱いていた俺にも相談をしてきたのだが、俺は二つ返事で「ゴー!」と返したのでハリーはMJに告白。見事にお付き合いということになったのだった。
ちなみに俺はMJと距離を縮めるフラグを全て折っているので告白どころかアプローチをする暇もありませんでした。MJのために車を買う計画をしてる時期は、研究に行き詰まったオクタヴィアス博士とハリーと俺とで深夜のラボ内でバスケットボールをして守衛のスタン・リー似のおっちゃんに三人仲良く怒られていました。
ハイスクール内でラブラブの二人を眺めつつ、MJに捨てられたフラッシュを慰めてるとめちゃくちゃ仲良くなったという。今度、フラッシュが出るアメフトの試合へオクタヴィアス夫妻と一緒に応援に行く約束までしてしまったぜ。
そんなこんなで研究と学業を上手いこと両立させつつ、ノーベル賞受賞まで秒読みとなったある日、俺とハリーとオクタヴィアス夫妻とノーマンは、ニューヨークの広告企業や新聞会社が主催する祝賀パーティーに招待されたのだった。
▼
「おお!君がパーカーくんとオズボーンくんか!会えて光栄だ!私はデイリービーグルのジェイ・ジョナ・ジェイムソンだ。よろしく頼む。ロビー!二人にシャンパンを用意してやれ!」
「しかし二人は未成年ですが……」
「ならジンジャーエールやら何やらあるだろう!さっさと持ってくるんだ!」
うわ出た、生のJ・K・シモンズだ!じゃなかった、J.J.ジェイムソンだぞ。めちゃくちゃ上機嫌に話してこられてピーターは困惑してます。
ドレスコードに準じたドレスに身を包むMJを横に連れるハリーと談笑しているところにジェイムソンが部下を引き連れて特攻を仕掛けてきた。ハリーがMJを連れてくるのは知ってたけど別に悔しくないやい!オクタヴィアス博士が知り合いの学生を紹介しようと言ってくれたから寂しくないもん!
ジェイムソンと握手を交わすなんて想像してなかったわ。彼にはデイリービーグルの編集デスクで喚き散らすイメージしかなかったわけだが、まさかこの祝賀会に来ているとは……。
「二人のような若く優秀な者が活躍することは嬉しく思う。君たちが作り上げたものは素晴らしい!二酸化炭素は排出しないし、放射能も出さない!まぁ酸化イオンの廃棄物は出るが、タバコの煙よりはマシだろうからな!私はクリーンエネルギー推奨委員会に入っているので君たちの成果を正当に評価することができる!ホフマン、今のセリフ、メモしておけ!あとで本にかける」
はい、わかりましたとおどおどと答える部下のホフマンと、申し訳なさそうにこちらを見るロビー、そしてマシンガントークを続けるジェイムソンにハリーとMJは圧倒されっぱなしで、俺はあぁ、ジェイムソンだと内心で感動していた。
原作でも彼は憎まれ役で、ピーター/スパイダーマンを真っ向から批判している人物でもあるが、それは彼の奥さんが覆面の強盗に殺害されたという過去があるからであって、覆面のヒーローを認めたくないという心からああいう行動を取っていたのだろう。
だが、彼の方からは俺とハリーの名しか出てこないのであえて突っ込んでみた。
「ありがとうございます、ジェイムソンさん。しかし、今回の研究はオクタヴィアス博士の長年の研究がなければそもそも実現すらできませんでした。僕らは博士の研究にほんの少し助力したに過ぎません」
俺の言葉にハリーも深く頷いているが、ジェイムソンはどこか納得してない様子で咥えている葉巻を上下に動かしながら答えた。
「ドクター・オクトパスの研究はたしかにあるが、それを実現できたのは君たちの力でもある。では記事にはこう書こう!天才二人がいかれ科学者の窮地を救う!オクトパスの夢は二人が叶えた!これで一面は決まりだな!」
ハリーは怪訝な顔をして俺は頭を抱えたくなった。なぜそうなるのか、ジェイムソン……。あとで部下のロビーが話してくれたが、以前デイリービーグルがオクタヴィアス博士の研究を取材し、発行した新聞でボロクソにこき下ろしていたのだとか。なんでもニューヨークを更地にしかねないマッドサイエンティスト、ドクター・オクトパスと銘打って書き上げたらしい。うん、ジェイムソンらしいし、その記事はあながち間違ってないのが悲しいところだ。道理で別の場所で取材を受けているノーマンとオクタヴィアスの方に近づかないわけだ。ちなみにノーマンもデイリービーグルからのネガティブキャンペーン被害者の会の人の一人です。
そんな感じで捲し立てるジェイムソンとの会話をしている中、少し気になる話を聞いた。なんでもオズコープのライバル企業である、スペース・ロジック社がアークリアクターを使ったスペース・スーツの開発をしているらしい。
たしかにアークリアクターはオズコープ主導で販売をテスト的に開始しているが、あくまでそれはリアクターの有用性を知らしめるためのデモンストレーションであり、実験目的はもちろん、兵器運用は絶対禁止として取引をしている。
そもそもノーマンがライバル企業であるスペース・ロジック社に今後の企業根幹ともなるであろうリアクターを取引するだろうか?
満足して帰っていったジェイムソンを見送り、俺はハリーに相談。パーティー後、研究成果で買った高級車でMJを送り届けたのち、俺とハリーはラボへと向かうのだった。