サムライミ版のピーターに憑依した男っ!!   作:紅乃 晴@小説アカ

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小話

 

 

 

薄暗い部屋の中。アメリカのどこかの軍施設内に設けられた会議室にはテレビ電話による会議が行われていた。部屋の中央にあるテーブルに座るスローカム将軍は、彼を取り囲むように映っている映像を見回し、満足そうな笑みを浮かべていた。

 

そこにはAIである「ウルトロン」が搭載されたグライダーによるスペース・ロジック社の襲撃映像が記録されてきた。グライダーに取り付けられたガンカメラは、実験中だったスペース・スーツが完膚なきまでに破壊されている様がはっきりと記録されている。

 

 

「作戦はうまく行きましたな」

 

 

テレビ会議に出席するスーツ姿の初老の男性がそうつぶやく。彼はオズコープの役員の一人だ。他に出席している人物もオズコープ社の中枢に深く関わる者や、役員が多い。これは社長であるノーマンにも秘密で行われていた取引であった。

 

 

「スペース・ロジック社もバカな真似をしたものだ。オズコープが開発したものを土台にしているくせに、それに乗ってオズコープに優ったと豪語したのだから」

 

 

誰かがそう言って、残骸と化したスペース・スーツに消火剤をかけているスペース・ロジック社の人間を見下す。彼らは軍との秘密契約でプロジェクト・ウルトロンに参加していた企業の一つだ。主に戦場で自立AIに従って戦闘を行う無人アーマー兵器の開発を進めていたが、開発コンセプトを最適化するウルトロンの性能や、オズコープ社から流れたグライダーのエンジンシステムを手に入れたことで計画から外れた有人アーマーの開発に欲を出したのだ。将来的には欧州やロシア方面にも売り出そうという思惑もあったことがCIAの調査で明らかになったことで、軍は極秘にスペース・ロジック社の瓦解を行ったのだ。

 

資金面でも既に手を加えており、彼らは有人アーマーに投資した莫大な金を回収しきれずに人知れず自滅する運命が確定している。

 

 

「彼らの行った実績も、「プロジェクト・ウルトロン」にとっては非常に有益なものであった。まぁ、甘くみた分は痛い目を見てもらうことになるがね」

 

 

スローカム将軍は彼らを滅する前に入手したアーマーの設計図を眺めながらそう言った。動力源はオズコープからテスト的に支給されたリアクター。複雑な姿勢制御や動作指示、管理AIなどはすべてオズコープの軍施設が入るタワーの地下に設置されたウルトロンのマザーユニットから送信される。

 

ピーターとハリーが開発したAIは軍施設に送られたわけではなく、ニューヨーク市内に立つオズコープ本社の地下にあるのだ。軍施設に置かれているものはあくまで戦場や諜報部で採取されたデータバンクの容量の一部に過ぎない。

 

オズコープは軍と極秘に契約し、ウルトロンを完全無人兵器として運用するためのテストに協力していたのだ。

 

 

「独立型のAI機能、無人のボディアーマー、そして飛行するグライダーに無尽蔵のアークリアクター。まさにアメリカ合衆国にふさわしい夢の兵器だ」

 

 

これが完成すれば、これまでの戦争は大きく変貌する。兵士を戦場に送ることもなく、平和な街でコーヒーを楽しみながら、ウルトロンが世界中の前線で戦ってくれるのだから。

 

 

「オズコープ社とはこれからもよろしくお願いします」

 

「ああ、無論だとも……だが、少々厄介な者たちを追い出さねばならんな」

 

 

トントン、とスローカム将軍はテーブルに置かれているノーマンの写真を指先で叩いた。プロジェクト・ウルトロンに遅れが出ているのは全てこの男のせいだ。彼がウルトロンのマザーユニットに介入する限り、完全無人の自立AIは完成されない。どこかに必ず人が判断しなければならない指向性を残しているのだ。それを指摘しても彼はのらりくらりと躱して我々の思うように動かないのだ。

 

先日提供されたアークリアクターも簡単な部品については説明があったが、肝心のコアユニットについては全てがブラックボックス扱いだ。軍の研究員も解析を行なったが、理論が分からない限り複製も量産もできないのだ。ノーマンはその情報を開示しようとしない。もし我々が欲すれば、ノーマンは躊躇いなく法廷で争うだろう。その覚悟が提供されたアークリアクターと共に同梱された誓約書に滲み出ていた。

 

その姿に苛立っていたのはスローカム将軍だけではない。オズコープの役員たちも苛立ちと焦りを覚えていた。

 

 

「ノーマン・オズボーンは最早オズコープには不必要な人間です。役員たちの丸め込みもすでに整っています。彼が目をつけた若き天才たちも」

 

 

すでに役員総員の可決でノーマンを代表取締役から退任させる方向で意思は統一されている。彼を社長の座から引き摺り落とし、首にさえすればいいと、誰もがそう思っていた。

 

だが、事実は異なる。

 

ノーマンを首にしようが、彼のプライベートマネーで作られた子会社がある。オズコープという後ろ盾をなくしても、その子会社にはトリチウムの権威であるオクタヴィアスをはじめ、画期的なコクピットモジュールを開発し、アークリアクターの設計を行なったピーター・パーカーと、息子でもあるハリー・オズボーンがいる。その功績と成果で完全にノーマンを叩き潰すことは不可能だ。

 

だが、それはあくまで正攻法で行なった場合の話。

 

 

「彼らが開発したものはまさに革命的なものだ。だからこそ、彼らのような希望は我々が管理しなければならない。ノーマン・オズボーンではなく、我々がな」

 

 

オズコープの役員たちが黒い笑みを浮かべる中。

 

スローカム将軍の後ろにあるウルトロンの演算ユニットは、中央にあるカメラを赤く光らせながら見つめているのだった。

 

 

 

 

 

 


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