鬼を狩る鬼殺隊の柱である悲鳴嶼と、悲鳴嶼に助けられた夢主(容姿、名前あり)の何気ない日常

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長閑なる朝

 

ジュワァアア。

 

 

鉄のフライパンが鈍く香ばしい音を立て、ぐつぐつと卵焼きを踊らせていた。

パチパチと卵黄卵白が混ざりあった液体が炙られ徐々に固まっていくに伴い、なんとも言えない食欲を湧かせる匂いが台所に充満していく。

 

その出来具合にまい子は微笑み、同時に苦笑した。

 

悲鳴嶼の貢ぎ癖には困ったものがある。

 

何ヵ所か欠け、持ち手が取れてはいたもののまだ使うことも出来た焙烙の変わりとして贈呈された最先端の料理器具。

確かに毎日使うものではある。以前古い焙烙を使った事で幾度か火傷を負った事もある。しかし買い替えるにはなんとも言えない勿体なさを感じるのは、自身が貧乏性だからだろうか…と。

 

(優しい事に変わりはないですが、それにしても過保護ですよねぇ…)

 

白身が白濁に固まり黄身と混ざったそれを菜箸で摘まむ事が出来た事を確認し、同時に炒めていた大豆と春菊を巻き込み、素早くそして手早く丸める。

 

悲鳴嶼と出会う前の奉公場所で覚えた技術を惜しみ無く使い、焦げ一つないそれをまな板の上に乗せ包丁で切り分ける。

切り分けたそれの幾つかを小鉢によそい、他の小鉢が乗った箱膳に乗せる。

 

あとは竈で炊いていたご飯と、具材が煮込まれ出来上がった味噌汁を盛り付ければ朝食の出来上がりだ。

だけれど。

 

「ぁつ、ッ!」

 

料理も終え油断し、窓の外の気配確認していたそれを誰が責められようか。

パチパチと跳ねとんだ卵の油でうっかりと指先を焦がれ焼かれてしまった事に。

 

慌てて手を抑え確認しても、微かに赤らんでいるだけで痕も残っていないそれにホッと息を吐く。

これならば川の氷水よりも冷たいそれで冷やしたりせずとも、大丈夫だろう。

何事もなかった。このまま声に紡がなければなにも起こらなかったと同然に出来る筈だった。

 

 

「何事だ…?」

「!」

 

 

筈だったのだが。どうやらそうは問屋がおろさなかったらしい。

まい子の庭先に鳴く小鳥にも聞こえなかっただろう小さな声は一番聞かれたくなかった彼に届いてしまったらしい。付近にいないだろうと油断していた彼の。

声の方向に向けば勝手口を屈み込みながら入ってきている男の姿が。

 

それは大柄という言葉では収まらない体躯を持つ屋敷の主、悲鳴嶼行冥。

朝練として近くの林に出掛けていた筈なのだがどうにも丁度の折に戻ってきており、漏れた悲鳴を聞かれてしまったようだった。

 

 

「ぎっ…行冥様!お、おかえりで!?」

「ああ。そろそろ時間だろうと、手間取らせる前に戻ってきた。で、どうした」

「それはそれは、お心遣いありがとうございます!丁度朝食の準備が出来たとこで!」

「そうかそれはよかった。で、どうした」

「………」

 

誤魔化せない。はぐらかせない。

寧ろ他の言葉を紡ぐ事に寄せられる眉の如く不機嫌になっていくそれに大人しく降参するしかない。

悲鳴嶼は性質上怒鳴る事も喚く事もしないが淡々と怒るかの如く諭す事はするのだから。そして彼女はそうをされる事を望んではいない。

 

ならば捨てるべき恥。

はぁ、と軽く息を吐く。

 

「えっとその……。…情けないのですが、飛んできた油で指を火傷して…」

「どの指だ」

「しまいま……。…えっ?え、左手の人差しゆ……ぇ、あっ!」

 

いうが早く、手をとられる。

悲鳴嶼は目が不自由だというのに、身動きや空気の動きの音でまるで見えているかの如く動く事が出来るのだから。

素早いそれは流石鬼殺隊最高の位、柱の動作。

 

高く高く、遥か上にまで持ち上げられた自身の手をまい子は見送った。

そしてそのまま。

 

ベロリとヌメらかな舌先に舐め上げられたそれに慌て、目をそらす。

 

 

見なくともヌルついた感触も、ちう、ちゅぅ、と幾度かとの触れ吸う口吸い音に頬染めの赤らみが止められない。到底見ていられない。

 

「ひぅ、っ!」

「気をつけてくれ…」

 

そうしてまい子の顔色が熟したトマトよりも赤く染まりきるほどの時が経った時。

次々と指をはむように巡っていた唇がとある一つの指をぢぅ、と強く吸い。

 

「私の見えぬ目では気付けぬのだ…傷痕をつけられたとしても」

 

ゆるりと優しく愛おしくて仕方ないかと如く撫で回したあと離し、まるで自分のものだと抱え込んでいた手をまい子の元へと手を返す。

震える左手を見る。何をされたのか、どうされたのか明らかなる左手を見て。

そして、言葉も発さず抱え込んだ。

 

 

とある指には真っ赤に色付く、痕が残っていた。

 

 

「……ちょ、朝食………朝食に、しませんか、行冥様」

「ああ…。そうだな、冷めてしまう前に頂こう…」

 

 

二人が去った厨房には、微かな音をたて崩れる薪だけが音を立てていた。

 

 


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