飯田「…申し訳なかった。緑谷くんや轟くん、君をこんなことに巻き込ませてしまって…。」
戦兎「人を助けるのがヒーローの役目だろ?お前が罪悪感を感じることはねえよ。」
飯田「そうか…。にしても君はすごいな。ヤツに出会ってすぐに俺たちを逃してくれたし、一人でヤツに打ち勝ってしまうし、本当頭が上がらないよ。」
戦兎「俺に出来ることをやっただけだ。それに、緑谷が脳無に連れ去られた時、緑谷を救えたのは俺じゃなくてヒーロー殺しだった。お前が思ってるほど俺は優れてなんかねえよ。」
飯田「だとしてもだよ戦兎くん。僕の中では君はもう尊敬すべき人物なんだ。」
戦兎「それは嬉しいな。ま、その話は26話の中でもっと話していきますか。こんな感じで第26話どうぞ!」
戦兎たちが路地裏でステインと戦った『保須事件』から一夜明け、緑谷、轟、飯田は保須総合病院に入院していた。戦兎は検査後、大した怪我は無かったためホテルに一度帰宅。翌日、病院に駆けつけ、お見舞いに来ていた。
戦兎「おはよう。怪我大丈夫か?って言える感じじゃなさそうだな。」
緑谷は右腕と左脚、轟は左腕と胸元、飯田は両腕に包帯がグルグルと巻かれていた。命に別状はないものの、職場体験をするのは絶望的だ。
轟「軽い怪我だけでヒーロー殺し倒しちまうお前が異常なだけだ。」
緑谷「でもアイツは本気じゃなかったと思うんだよね。僕と轟くんは確実に生かされてた。そう言う戦い方だったよ。」
戦兎「むしろあんなに殺意を向けられても立ち上がった飯田がすごい。俺が初めてスマ…ヴィランと戦った時もしばらくビビってたしな。」
惣一に初めてビルドドライバーを渡された頃のことである。自分が傷ついてもビルドドライバーを使えなかった。使うのが怖かったからだ。
飯田「違うさ。俺は…」
グラントリノ「おぉ!起きてるな怪我人共!」
と飯田が言いかけたところでドアが開いた。やってきたのはグラントリノ、マニュアル、そして…
グラントリノ「こちらは保須警察署署長の面構犬嗣さんだ。」
なんと保須警察署署長が直々に出向いて来たのだ。今回の事件はそれほど大きなものだったのだろう。戦兎たちは慌てて立ち上がるが、『腰掛けたままで結構だワン』という言葉で再びベッドに座った。
面構「君たちがヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね。ヒーロー殺しだが火傷に骨折となかなかの重傷で現在治療中だワン。」
ちなみにどちらも主に戦兎がもたらしたものである。特に火傷に関しては。
面構「超常黎明期、警察は統率と規格を重要視し個性を武に用いない事とした。そして、ヒーローはその穴を埋める形で台頭してきた職だワン。個人の武力行使、容易に人を殺められる力…。本来なら糾弾されて然るべきこれらが公に認められているのは、先人たちがモラルやルールをしっかり遵守してきたからなんだワン。資格未取得者が保護管理者の指示なく個性で危害を加えたこと。たとえ相手がヒーロー殺しであろうともこれは立派な規則違反だワン。」
これは事前にエンデヴァーに指摘されていたことだった。誰かの監視下にないと"個性"を使えない。戦兎が脳無を倒したのはエンデヴァーの監視下にあったということで認可されているが、ステインの方に関してはエンデヴァーでさえ知らなかった。当然監視下に無く、規則違反になる。
面構「君たち4名及びプロヒーローのエンデヴァー、マニュアル、グラントリノ、この七名には厳正な処分が下さなければならない。」
と署長が説明するといきなり轟が立ち上がった。
轟「待って下さいよ。飯田が動いてなきゃネイティブさんが殺されてた。緑谷が来なけりゃ二人は殺されてた。戦兎が来なけりゃ俺たち4人は今頃植物人間状態だったかもしれねえ!誰もがヒーロー殺しの出現に気付いてなかった!なのに規則守って見殺しにするべきだったっておかしいだろ!」
面構「結果オーライであれば規則などウヤムヤで良いと?」
轟「人を救けるのがヒーローの…」
そこまで言いかけたところで戦兎は轟にやめるように言った。そしていつにもなく穏やかに語り始めた
戦兎「俺は以前、救えなかった人がいた。救いたくても救えなかった命だ。」
その人とはかつて万丈の恋人であった小倉香澄のことだ。戦兎は未だに彼女を救えなかったことをずっと悔やんでいるのだ。それが例え、新世界の復活で生きながらえている命だとしても。
戦兎「規則を守らないといけないのは確かだ。でも人が死ぬのはもう見たくない。そのためなら…人を守るためなら俺は…犯罪者にさえなれる。」
握り拳を作り、じっと署長を見つめる戦兎とその言葉を聞きながら唇を噛み締める轟。2人はもう既に我慢の限界だ。
面構「だから君は卵だ。まったく。良い教育をしてるワンね。雄英もエンデヴァーも。」
轟「この犬ッ!!!」
投げやりな言葉に轟は署長の胸ぐらを掴みかけるが戦兎が轟の腕を掴んでなんとか止めさせた。
戦兎「俺はどんな罰でも受ける。その覚悟はできてる。ただコイツらにはまだ先がある。責任を負うのは俺だけで良い。どうかコイツらだけにはヒーローをさせてやってくれ。頼む…!」
歯軋りをしながら、頭を下げる戦兎。未来ある若者に罪なんて背負わせたくない。せめて彼らだけでもと、悔しい思いをしながら署長に懇願した。いざとなれば雄英をやめることだって厭わない。それほど強い覚悟だ。
グラントリノ「その選択肢を選ぶのはまだちと早えんじゃねえか?とにかく話は最後まで聞け。」
下げた頭に軽いチョップをされた。拍子抜けした顔で戦兎は頭を上げる。
面構「以上が警察としての意見。で、処分云々はあくまで公表すればの話だワン。公表すれば世論は君らを褒め称えるだろうが処罰はまぬがれない。一方で汚い話、公表しない場合はヒーロー殺しの火傷跡からエンデヴァーを功労者として擁立してしまえるワン。幸い目撃者は極めて限られている、この違反はここで握りつぶせるんだワン。だが、君たちの英断と功績も誰にも知られることはない。」
希望の光が病院の窓から差してきた。戦兎の強張った顔にも段々と緩くなってくる。
面構「どっちがいい!?一人の人間としては前途ある若者の偉大なる過ちにケチをつけさせたくないんだワン!」
親指を突き立てて熱く語る面構署長。どちらにせよプロヒーロー3名は処罰は免れないという。ならば選ぶ選択肢は一つに決まっている。
戦兎「よろしく…お願いします。」
戦兎は再び頭を下げた。そして飯田、轟、緑谷もこの事件のことについて謝罪の意を述べ、頭を下げた。
面構「大人のズルで君たちが受けていたであろう称賛の声はなくなってしまうが、せめて共に平和を守る人間としてありがとう。」
深くお辞儀をし、面構署長が出ていこうとしたその時、署長から茶色の光が出現。戦兎の鞄へと集まっていく。しばらくして鞄が茶色く光った。もしかしてと思い、鞄の中を漁ると案の定、ドッグフルボトルが生成されていた。
それを見届けた面構署長と2人のプロヒーローは軽くお辞儀をしてから部屋を離れた。
緑谷「なんか色々と…凄かったね。」
轟「そうだな。救われたよ。」
そう言って腰を抜かすようにベッドに座る。ようやく一件落着だ。その時医師が彼ら3人と入れ替わるように入って来た。飯田の診察の時間ということで飯田は出て行った。
戦兎「あ、そうだ。一応果物とか買っといたから食うか?」
緑谷「ありがとう。じゃあ少し…」
と言ったところで緑谷のスマホが鳴った。麗日からだ。
緑谷「ごめん、先外すね!」
緑谷は急いで廊下に出た。残されたのはエンデヴァー事務所へ職場体験に行っていた2人だけだった。
戦兎「なに食べる?オレンジとかブドウとかバナナとかメロンとかあるけど…」
轟「じゃあリンゴで。」
注文を承った戦兎は、フルーツナイフで丁寧に皮を剥いていく。その間、ただただ沈黙が続いたがそれはすぐに破られた。
轟「なあ戦兎。お前さっき、『救えなかった命がある』って言ったよな。何があったんだ?話を聞きたい。」
リンゴを切り分け、皿に乗せる戦兎をじっと見る。
戦兎「…そんな野暮なこと聞くなよ。誰にだって言いたくないことくらいある。まあそのうち話せたら良いな。」
轟「すまねぇ。」
戦兎「構わねえよ。」
切り分けたリンゴの一つをシャクッと音を上げて食べながらそういう戦兎。
前世界の出来事なんて言わない方がいい。知らない方がいいこともある。
そしてまた沈黙が始まった。ただリンゴの匂いとシャクッという音が部屋に充満している。
飯田「診察終わったよ。」
しばらくして、飯田が診察から戻って来た。戦兎は飯田にオレンジを投げ渡し、食べるように勧める。そのすぐあとに緑谷も電話を終えて戻って来た。
轟「飯田、今診察終わったとこなんだが…」
飯田「左手、後遺症が残るそうだ。両腕ボロボロにされたが特に左のダメージが大きかったらしくてな。腕神経叢という箇所をやられたようだ。」
己の左腕を見ながらそう言う飯田。不幸中の幸いか、神経移植で完治するらしく、痺れや動かしづらさもそこまで活動に支障をきたさないほどだと言う。
飯田「ヒーロー殺しを見つけた時何も考えられなくなった。奴は憎いが奴の言葉は事実だった。だから俺が本当のヒーローになれるまで、この左手は残そうと思う。」
緑谷「僕も同じだ。一緒に強くなろうね」
2人は向かい合ってそう約束した。自分達はまだまだ未熟だ。戦兎も、飯田も、緑谷も、轟も。だからこそ僕らのヒーローアカデミアで成長していかなければならない。
轟「なんかわりィ。俺が関わると手がダメになるみてぇな感じになってる。ハンドクラッシャー的存在に…」
真剣な眼差しで冗談みたいなことを言う轟。その言葉に3人は思わず吹き出してしまった。戦兎に至っては吹き出すというより笑い転げている。
戦兎「轟!お前そんな冗談も言うんだな!」
轟「冗談じゃねえ。真面目な話だ!」
当の本人はふざけてる様子も無く至って真面目だ。その顔を見て戦兎はさらに笑いが加速した。
戦兎「あ〜笑いすぎて腹痛え。お前意外と天然なんだな。初めて知ったよお前のそう言うところ。」
轟「そ、そうか?俺は前からこんな感じだぞ。」
今思い返してみればそんな気もする。親のエンデヴァーも意外とお茶目な部分があったり、親バカだったりするので親子で遺伝子が引き継がれているのかもしれない。しかも本人たちは真面目なのがまた遺伝をよく表している。
戦兎「みんなの状態も分かって、みんな元気も出たことだし、俺はそろそろ…」
緑谷「ちょっと待って!」
退出しようとする戦兎にそう声をかける緑谷。戦兎は緑谷の方を向いて首をかしげた。
緑谷「せっかくだし戦兎くんとも話したいなーって。ほら、戦兎くんいつも学校終わったらすぐに帰っちゃうし。」
すぐに帰るのは万丈のハザードレベル上げを手伝ったり、発明するのに忙しかったりしたからで別にA組のみんなを嫌ってるわけではない。と自分に言い聞かせる。実際のところ、A組のみんなとは年齢が離れすぎていたり、そもそも時代が違うため話題が分からずちょっとだけ話しにくかったりしていたというのが原因である。
戦兎「別に用事があるわけでもねえから良いけど…」
飯田「だったら僕はなんで君がヒーローを志したのかを聞きたいな。」
緑谷「あっ!僕もそれ聞こうと思ってたんだ!飯田くんや轟くんからはなんとなく話聞いたことあったけど、戦兎くんはプロヒーローに憧れてって感じでもなさそうだし…」
轟「てかお前あんまりプロヒーローのこと知らねえだろ?オールマイトはともかく、エンデヴァーのことは雄英入るぐらいに知ったって一昨日言ってたしな。」
確かに戦兎はプロヒーローのことをほとんど知らない。世界的に人気なヒーローであるオールマイトは流石に知っていたが、エンデヴァーでさえ雄英入学時に知ったのだそう。しかし戦兎の口からは衝撃の事実が返ってくる。
戦兎「そりゃ俺アメリカにいたからな。中二の4月にちょうどこっちに戻ってきたから…だいたい7年くらい。」
緑谷「ホントに!?」
その言葉に驚きが隠せない3人。だが戦兎があまり今の日本について知らないのも納得はいく。
戦兎「言ってなかったっけ?"個性"について勉強するためにアメリカに行ったんだよ。確かライセンス取得後だから6歳くらいの時になるか。」
実はフルボトルの成分と"個性"の関係性について研究を行うため、とある人物の元で勉強していたのだ。また、ビルドのライダーシステムの制作作業も最新鋭の設備が整っているアメリカで行っていた。帰国してからは自宅に研究室を作り、そこでさらにライダーシステムの制作作業を行なっていた。といってもエンプティボトルを60本作るなどの単純な作業であったが…。
なんにせよ恐るべし小学一年生である。
緑谷「す、凄いや…。もうなんか凄いしか感想が出てこないよ。ってかなんでそんなこと言ってくれなかったの!?」
戦兎「いやだって聞かれなかったし…」
別に経歴を誇るほどではないと思っていた戦兎。隠すつもりもなく聞かれたら答えるというスタンスだったらしい。
飯田「というか君たち話がズレてるぞ!戦兎がヒーローになりたい理由じゃなかったのかい?」
相変わらずロボットダンスのような腕の動きをして緑谷を指摘した。
戦兎「そうだったな。強いて言うなら…誰かの力になれたら心の底からうれしくなって、クシャッてなるんだよ。俺の顔。マスクの下で見えねえけど。それが俺の戦う理由だ。」
緑谷たちが思っていたのとは曖昧な答えが返ってきた。
憧れたからだとか、お金のためだとか、自分のためだとか、名誉のためだとか、そんなんじゃない。なんだか貫禄のある言葉だ。
でも内情はそうじゃない。不安でそのことさえも忘れたこともあった。ただ、自分のなりたい正義のヒーロー像に陶酔し、他者への思いやりを貫き通したい。それが今の戦兎の思いだ。
轟「やっぱお前は凄えよ。なんか大人びてるっつうか。少し意地悪なとことか変なとこもあるけど。」
戦兎「最後の一言はいらないでしょうが!」
轟の言葉にツッコミを入れつつ、自身が差し入れで持ってきたブドウを口に入れた。まだまだ楽しい時間は続く。