万丈と鉄哲のその単細胞っぷりに再び呆れつつ、がむしゃらに走り続けること数分。スタークのコブラヘッドゴーグルの赤外線センサーに何者かを感知したのが分かった。
万丈「見つけたッ!!!」
拳藤「ちょっ、万丈!?」
その影がある場所へ、万丈は2人のことを気にも止めずに1人飛び込んだ。
近づくにつれて何かブツブツと声のようなものが聞こえて来る。
マスタード「でも哀しいね。どれだけ優秀な個性があっても人間なんだよね」
スタークのその姿が見えた瞬間、学ランでガスマスクを着けたヴィラン、マスタードは万丈の方向へ拳銃を向け、すぐさま発砲した。
普通の人であれば致命傷、鉄哲や切島でさえ銃弾の抵抗力を受けて後ろによろめくだろう。しかし相手が悪かった。
万丈「効くかそんなもん!!!」
いくらガスの揺らぎで行動が分かっても、先制攻撃が出来たとしても、人間は予想外の展開に対して約1秒ほどの硬直が生じる。"銃弾を受けても怯まない"という予測不能の展開による約1秒ほどの隙。そこを突いて万丈はマスタードの顔面を思いっきり殴りつけた。
すると、マスタードのガスマスクが破損し、マスタードはたった一発殴られただけで気絶。それと同時にガスが霧散した。
拳藤「えっ…あっ、もう決着ついたの?」
遅れてやってきた拳藤と鉄哲はあまりの事の運びの早さにポカンとしていた。どんな強敵が現れたかと思ったら万丈のパンチで解決。意外とあっけないものだった。敵の慢心や万丈との相性の悪さもあったかもしれないが…。
万丈「ぶっちゃけ弱かったな!」
万丈は変身を解きながらそう言った。何はともあれ無事にヴィランは撃破。そう思った時だ。
戦兎「おい!そっちの方で銃声が聞こえたんだが…って万丈!」
と、真上から戦兎の声がした。上を見上げるとそこにはホークガトリングフォームのビルドがいた。戦兎はゆっくりと地面に降りてきた。
万丈「ヴィランがいたんだけど…ほら、この通りだ」
万丈が後ろをチラッと見るとその視線の先には見事に気絶しているマスタードが。万丈がTシャツを破って、その布切れで手首をぐるぐる巻きにしたらしい。
戦兎「だったらちょうどいい。万丈、お前は俺と来てくれ。爆豪の護衛だ。」
拳藤「やっぱ爆豪狙われてんだね…」
戦兎「ああ。今何人かで護衛してるけど…こう言うのは人数が多い方がいいだろ?ま、最もアイツはこういうの嫌がるだろうけどな。」
実際、戦兎が担いで施設まで連れて行くと提案したが、爆豪が暴れ出しそうだったので止むなく護衛しつつ施設に向かうことにしたという。
万丈「そういう事なら任せとけ!拳藤たちは…」
拳藤「うちらは唯たち連れて避難するよ。」
戦兎「分かった。それじゃあ行くぞ万丈」
戦兎は万丈を抱き抱えて緑谷たちのいる場所へと飛翔した。といってもそこまで距離はなかったため数十秒で目的地についた。
緑谷「戦兎くん!万丈くん!良かった!2人が居てくれたらなおさら二百人力だよ!」
障子に背負われている緑谷はそう言った。しかし目を輝かせている緑谷とは逆に万丈は顔をしかめた。
万丈「そんでその爆豪はどこいんだよ」
「「「えっ?」」」
そう言われてみんなは爆豪がいるはずの後ろへ振り向いた。しかしそこにはただ、歩いてきた道があるだけ。よく見ると爆豪だけでなく常闇もいない。
コンプレス「彼なら俺のマジックで貰っちゃった。こいつぁ
気づけば木の上に変な仮面とコートに身を包んだヴィランがいた。手には二粒のビー玉。あのビー玉が爆豪と常闇だろう。
戦兎「2人を返せッ!!!」
すぐさまコンプレスに飛びつくも彼はジャンプして華麗に回避。そのまま木の間をぴょんぴょんと飛び渡って逃げていってしまった。
コンプレス『開闢行動隊、目標回収達成だ。短い間だったがこれにて幕引き。予定通りこの通信後5分以内に回収地点へ向かえ』
全ヴィランにその通信が行き渡った。あっという間に爆豪らを奪われ、嵐のように過ぎ去ってしまった。
戦兎「まだだ!今ならまだ間に合う!!」
ソレスタルウイングを展開。みんなを待つ事なくコンプレスの跡を追って飛び立った。ヴィランらが撤退する前に彼らを取り戻す。それだけで頭がいっぱいになった。
戦兎「待てッ!!!」
飛び続けること数十秒。ようやく視界にコンプレスを捉えた。目視で大体100m先にいる。
彼は木と木の間をぴょんぴょんと飛び跳ねることで距離を取っているが、障害物が全くない戦兎の方が速い。あと少しで追いつける。
戦兎はホークガトリンガーでコンプレスを撃つが、どれも華麗にかわされる。
コンプレス「ああ、そう言えばキミみたいなのいたね。全く、面倒だよ!」
彼はズボンの右ポケット小さなビー玉を取り出し戦兎の前方に投げた。するとビー玉から大きな氷塊が出現。戦兎は思いっきり氷塊にぶつかり、頭を打った。その衝撃で少しよろめいた。
コンプレス「これで少しは足止めになるだろう。もうすぐ集合場所につく。」
戦兎「待てッ!」
それでもめげずにコンプレスを追いかけ、ついに彼のマントを掴むことにロングコートを掴むことに成功。コンプレスは戦兎の手を引き離そうと強引に前に進もうとするが、流石に戦兎の力には勝てない。腕ごと掻っ攫って行くしかない。そう考えてコンプレスが"個性"を使おうとした時だった。
何かが上から降ってくる。唐突なことに対処できずにコンプレスはその落下物に激突。そのまま地面に打ち落とされた。
緑谷「やった…!作戦成功!」
落ちてきたのは障子とその彼に抱えられた轟、緑谷の三人だった。麗日、蛙吹、万丈の3人の助けで人間砲弾のようにして飛び込んできたと考えられる。しかし落ちてきた場所が最悪だった。
トゥワイス「知ってるぜこのガキども!誰だ!?」
そこはヴィランの集合場所だった。トゥワイス、荼毘、トガヒミコ、コンプレス。ヴィラン連合の精鋭が4人もいる。ヴィランらが"集合場所"と言っていたため、もっと多くのヴィランが集まると予想される。
初めにアクションを起こしたのは荼毘だった。
荼毘「Mr.、避けろ」
そう言うと荼毘は生徒らの方向に青い炎を放った。轟は氷結で対抗。戦兎は慌てて避け、ホークガトリンガーで荼毘に弾を数弾撃ち込んだ。そのうちの一発が顔の右頬に掠り、血がたらりと流れた。
荼毘「チッ。銃持ちかよ。トゥワイス、増やせ」
荼毘はトゥワイスの方に腕を伸ばし、手を差し出した。
トゥワイス「OK!増やしてやんねえよ!」
轟「させるかッ!」
荼毘がトゥワイスの手に触れようとした瞬間に轟が氷塊を出現させた。
轟の氷でトゥワイスと荼毘が分断されたが依然として脅威のままだ。さらにそこへ脳無が出現。背中から6本の腕が生えており、ドリルやチェンソーなどを装備している。
荼毘「ちょうどいい。脳無、そいつの相手しとけ」
戦兎「ちょっ、おい!」
荼毘の命令で彼と戦っている横から脳無がチェンソーを振り下ろして横入りしてきた。慌てて避けながら銃弾を喰らわせるも怯む様子もない。ホークガトリングではパワーが足りない。別フォームに変わりたいが、何かいいフォームは…
緑谷「戦兎くん!これ使って!」
そう言ってボロボロになった右腕で戦兎にボトルを投げつけた。戦兎は脳無の攻撃を掻い潜りつつボトルをキャッチし、チラッと一瞥した。
戦兎「ありがとう緑谷!」
脳無の攻撃を避けながらタカとガトリングのボトルを引き抜きつつ新たなボトルに入れ替える。
【Gorilla!Diamond!Best Match!!!Are you ready!?】
戦兎「ビルドアップ!」
【輝きのデストロイヤー!!!ゴリラモンド!!!イェーイ!!!】
こうして戦兎は仮面ライダービルド、ゴリラモンドフォームへと変身。何故緑谷がゴリラボトルを持っていたのかは謎だが…今はそれより脳無だ。
脳無「ネホヒャン‼︎」
脳無は奇声を発しながらチェンソーを振り下ろし、ドリルを突き刺そうとした。しかし戦兎はそれを身体で受けた。それでも傷ひとつつかない。モース硬度10のダイヤモンドのおかげで怯むことも無く、動揺した脳無を
黒霧「合図から5分経ちました。行きますよ荼毘」
その時、どこからとも無く全ヴィランの近くに黒いモヤモヤが現れた。ワープの"個性"を持つ黒霧だ。脳無、トゥワイス、トガの三人はすぐさまモヤの中に入った。
タイムリミットだ。このまま逃げられれば爆豪が…
コンプレス「あらら、残念だったねヒーロー諸君。君たちが取り返したかったものはずっとここにあったってのにさ」
コンプレスは仮面を外し、アインシュタインのように舌を伸ばした。そこにはビー玉のようなものが2つ。よく見ると中には小さく爆豪や常闇が映っている。これが彼ら2人の本体だ。
コンプレス「そんじゃ、お後がよろしいようで」
そう言ってコンプレスがゲートをくぐろうとした瞬間だった。草むらの影からレーザー光線がコンプレスの顔を掠めた。慌てて避けようとしたせいでコンプレスは爆豪と常闇を地面に落としてしまった。その瞬間を生徒らは見逃さなかった。障子、轟が2人に手を伸ばす。障子は無事に掴み取ることができたが、轟はあと一歩のところで
荼毘「哀しいなあ。轟焦凍」
と言い放った荼毘にビー玉を取られてしまった。そしてそのまま荼毘はゲートの中へ逃げる。
荼毘「確認だ。解除しろ」
コンプレスへ命令すると爆豪、常闇がビー玉から出現。常闇は地面に伏しているが、爆豪は荼毘の右手に首根っこを掴まれたまま引き摺り込まれていた。
緑谷「かっちゃんッ!!!」
緑谷は体を動かして彼の手を握ろうと手を伸ばす。しかし爆豪はそんな彼を睨みつけて言った。
爆豪「来んな。デク」
そうして爆豪はゲートの中に消えていった。
何の意図があったのかは分からない。ただ屈辱だったのか、作戦があるのかは彼のみぞ知る。
後を追おうとするもゲームは跡形もなく消失。爆豪は拉致されてしまった。
緑谷「かっ…ちゃん…」
爆豪が拐われたことで脳内のアドレナリンが切れたのだろうか、緑谷の体に激痛が走り、その場にパタリと倒れてこんでしまった。
轟「おい!おい緑谷!しっかりしろ!」
戦兎「おそらくガタが来てたんだろ。再会した時にはもう既にほぼ満身創痍だったし、洸汰くんも背負ってたしな…。そうか!このフルボトルもその時に…」
変身を解除し、緑谷から渡されたゴリラフルボトルを見つめながら緑谷を担いだ。
麗日「みんな!大丈夫!?」
爆豪が奪われてから少しして、ガサガサと生い茂る木々をかけ分けて麗日と蛙吹がやって来た。
蛙吹「ここに常闇ちゃんがいて爆豪ちゃんがいないってことは…」
戦兎「…連れ去られてしまった。不甲斐ないな…」
麗日「しょうがないよ。ヴィランだって強かったんだし…。今はとにかく先生たちのところに戻らないと。」
戦兎「いや、みんなは先に行っててくれ。俺と万丈で集合してない奴らを探してくる。」
戦兎はそう言いながら緑谷を障子と轟に任せ、再びタカとガトリングのボトルを取り出した。
戦兎「行くぞ万丈。」
そう呼びかけるも返事がない。不審に思って後ろを振り向き、ここにいる人をもう一度確認した。
緑谷、轟、常闇、障子、麗日、蛙吹、そして自身を含めた計7人。
戦兎「7人…?おい、万丈はどこ行った!?麗日たちと一緒にいたはずじゃ…」
蛙吹「確か緑谷ちゃんの提案で緑谷ちゃんと轟ちゃんと障子ちゃんを投げ飛ばして、そのあと『俺も行ってくる!』って張り切って走っていったわ。だからそっちにいるものかと思ってたけど…」
戦兎はてっきり蛙吹や麗日と一緒にいたのかと思い込んでいた。人間弾として飛んできたのが障子、緑谷、轟の3人だけだったからだ。今このタイミングで万丈のことを初めて口に出したのも麗日らと一緒にこちらへ来たからだと、そう思い込んでしまっていたからだ。
轟「拐われたのか?」
万丈に限ってそんなことはないとも言い切れない。黒霧のワープゲートの出現可能領域の範囲は少なくともUSJの敷地内であることは分かっている。そしてあの時、麗日らのいた場所から戦兎らがのいた場所はその範囲内に入るほどの距離であった。
なによりあの時、誰もが油断していた。狙いは爆豪及び常闇のみ。しかもヴィランの『ミッション達成』という声。油断するはずない状況の中に油断してしまうような状況が生まれていた。
戦兎「…嘘…だろ…」
蛙吹「あの状況じゃしょうがないわ。みんな爆豪ちゃんの方に集中してたから…」
轟「蛙吹の言う通り、そんなに落ち込むことはねえよ。爆豪も万丈も強い奴ってことはお前もよく知ってんだろ?必ず戻ってくる。」
戦兎「…ああ、分かってる。今はとにかく先生たちのところに戻って現状を報告だ。」
こうして楽しいはずの林間合宿は幕を閉じた。
生徒42名のうち、重体12名、軽傷者11名、無傷の者は17名、そして行方不明者2名だった。さらにプロヒーローのピクシーボブは後頭部を強打されて重体。ラグドールは何も残さず行方不明。確保できたヴィランはマスキュラー、マスタード、ムーンフィッシュの3体のみ。流石に雄英と言えども林間合宿は中止。生徒らは事態が収束するまで自宅待機となった。