4³-2³⁺¹-1=47話
あの事件から翌日の夕方。戦兎は負傷した雄英生徒のお見舞いに来ていた。その雄英生徒の中でも一際酷いのは緑谷だった。彼は高熱と激痛により気絶と悶絶を繰り返しているという。それもそうだ。本来出すべきでない力を限界を超えて引き出し、さらにその後も大惨事なほど負傷しているにも関わらずずっと動き回っていたからだ。
少しだけ思考を巡らしているとガラガラと引き戸を引く音がした。
切島「おう戦兎。お前も来てたんだな。」
戦兎「切島、轟。お前らもな。」
切島と轟がドアを開けて入って、小さな丸椅子に座った。どうやら彼らも緑谷や他の生徒が気になっていたらしい。
切島「あのさ、今八百万の様子も見ようと思ってアイツの部屋チラッと見てたんだけどよ…」
戦兎「知ってる。オールマイトや刑事たちと話してたんだろ?内容は知らんが…」
轟「あん時お前と戦った脳無がいるだろ?アイツに発信器を取り付けたらしい。」
轟がそう言うと、2人は神妙な顔つきになった。空気がガラッと変わった。
切島「そんでこっから本題だ。このことはもう八百万にも相談してんだけど…助けに行かないか?アイツら2人を。」
八百万から発信器の受信機を借りることができれば彼ら2人の居場所を知ることができる。そうすれば救出くらいはできるはずだ。
そう考え、この行動に至ったと言う。
轟「プロのヒーローに任せておけば良いってことは分かってる。でも俺は助けに行きてえ。お前、前に言ったよな。『半端な気持ちで正義のヒーローになれると思うな』って。…この気持ちは…半端な気持ちか?」
切島「俺も轟と同じだ。ヒーローに任せればいい。でも今ここで行かなきゃヒーローでも男でもねえ。お前もヒーローを志すなら…そう思ってんだろ?だったら一緒に…一緒に来てくれ。頼む。」
切島は頭を下げて手を差し伸べた。助けに行きたいと言う気持ち。それだけが彼らを突き動かしている。
戦兎「…やっぱり考えることは一緒なんだな。」
それは戦兎も同じだった。
戦兎は自身の椅子の横に置いてある大きなカバンからノートパソコンを取り出して膝に置き、電源を入れた。
切島「これは…!?」
戦兎「万丈の位置情報だ。今日の朝からふと思い立って調べてみたら一定の場所から動いてない。もちろん警察にも情報共有済みだ。それにここは林間合宿の場所じゃないから拐われてるんだとするならここだ。」
轟「いやちょっと待て。思い立ったから調べたで調べられるようなことじゃねえだろ。どうやって調べたんだよ。」
あまりの展開の早さからストップをかける轟。確かにあっけらかんと『調べた』と言っているが、容易に調べられることではない。しかし戦兎のパソコンには確かに、万丈がいるであろう詳細な地図と万丈らしき赤いドラゴンのマークが存在している。
戦兎「あーそうだな。簡略に説明すると…俺たちは普段から武器を召喚してるだろ?あれは各種ドライバーの位置情報を取得してから自動転送されることで召喚してるんだ。その際にいつでも召喚できるよう、変身中はベルトが位置情報を常に武器側に送信してる。だからその通信を傍受すればベルトの位置が分かるわけだ。もし万丈がベルトを持って拐われたのなら…」
轟「万丈の位置情報が手に入る…。」
戦兎「そういうこと。八百万のデータと合わせればより確実性が増すな。」
切島「毎度毎度すげえよお前は…。」
分かってはいるが…やはり戦兎の天才ぶりに驚きを禁じ得ない。さすがは天才物理学者と言ったところだろうか。
切島「何はともあれ、戦兎も加わるってんなら心強い!ぶっちゃけ八百万は来るかわかんねえし…」
戦兎「他はまだ誘ってないのか?」
轟「ああ。たった今思いついたばっかだからな。明日みんなでお見舞いに来るっていうからそん時に参加者を募る。緑谷が起きてれば明日の夜、7時ごろここ集合だ。」
戦兎「なるほど。じゃあ早くて明日…か。アレ、完成するか…?」
切島「すまねえ。出来るだけ早く行きたくてよ…!」
戦兎は首を傾げながら思案に耽った。何か作らなければいけないものがあるようだ。明日までに完成させたい様子だが、ここは長野県。普段とは違って移動に少しばかり時間がかかってしまう。そのためハードスケジュールとなってしまうのだ。
戦兎「分かった。明日の夜七時だな。明日のお見舞いを削ればなんとかなるだろ。」
戦兎は自らの鞄を持ち、徐に立った。そしてそう言い残して部屋のドアを開けた。
切島「おう、それじゃあまた明日な。」
戦兎「…ああ。」
切島に背を向けながら手を振り、そのまま部屋を出た。その後ろ姿はなんだか少し寂しそうに見えた。
切島「おっ、来たか。」
あの日からさらに一日経ち、夜七時。約束通り、病院前にやってくるとそこには切島と轟がいた。
轟「すまねえな。用事あったんだろ?」
戦兎「まあな。でもなんとか間に合わせて完成させたから大丈夫だ。それよりも…ほら、来たみたいだぞ。」
戦兎は顎をクイッとさせて病院の窓口付近を指し示した。すると奥から小袋を持った八百万、そして緑谷が出てきた。頭部に包帯を巻いているが、特に重体ではないようだ。
戦兎「怪我は…大丈夫なのか?」
緑谷「うん。」
切島「んじゃあさっさと行こうぜ。あんまり遅いと新幹線に遅れちま…」
「待て!」
切島の後ろから聞き馴染みのある野太い声が聞こえた。後ろを振り向くとそこには委員長の飯田が立っていた。
飯田「何でよりにもよって君たちなんだ…。俺の私的暴走をとがめてくれた、共に特赦を受けたハズの君たち3人がッ!何で俺と同じ過ちを犯そうとしている!?あんまりじゃないか!」
切島「おい、そりゃあ一体なんの…」
そう言ったところで戦兎が切島の肩を叩き、切島を黙らせた。
飯田「俺たちはまだ保護下にいるはずだ!君らの行動の責任は誰がとるのか分かってるのか!?」
飯田の言葉に胸が痛くなる。戦兎は地面を見つめた。…何も言えない。
自分がしようとしていることは法が許してはくれない。一歩間違えればヒーローから犯罪者に転落してしまう。でも、それでも爆豪や万丈を救うことが出来るのなら…。
緑谷「違うんだよ飯田くん!僕だってルールを破ってもいいだなんて思っちゃ…」
その時、飯田の拳が緑谷の頬を殴った。ゴッという鈍い音が闇夜に響き渡る。
飯田「僕はクラス委員長だ!爆豪くんや万丈くんだけじゃない!他の…君たちのことだって心配でたまらないんだよ!緑谷くん、君の怪我を見てると兄さんの姿が重なってきてしまう。」
轟「待て飯田。俺たちだって正面切ってカチこむ気はねえよ。」
切島「隠密行動!それが俺らに出来ることだろ!」
八百万「私は轟さんを、戦兎さんを…皆さんを信じています。しかし万が一を考えて同行するつもりで来ました」
3人は切島に同調して飯田を説得しようとした。しかし戦兎は一向に口を開けない。
飯田「戦兎くんは…どうなんだ。さっきから黙ってはいるが…」
戦兎「俺は…」
戦闘にならないとも限らない。むしろ今回作ったものだって
飯田「黙秘…か。だったら俺もついていく」
緑谷「えっ!?」
飯田「その代わり約束してくれ。また学校に登校してくると。これが守れなきゃ君たちとは絶交するからな。」
そう言うと飯田は右の小指立てた。緑谷、轟、切島、八百万も小指を立てて絡めた。そして戦兎も。
戦兎「分かった。それなら守れる。」
切島「んじゃあそろそろ行くか。」
こうして6人は病院を後にし、駅まで向かって新幹線に乗り込んだ。途中、駅弁などを買ったりして、半ば修学旅行気分ではあったが今はそんなことを考えている場合ではない。
戦兎「万丈の位置情報は東都…じゃなくて神奈川県横浜市、神野区だ。八百万の発信器が示した住所と少しズレてるが…ほぼ一致している。神野区にいるのは間違いない。」
戦兎は弁当を頬張りながらそう言った。ご飯も食べずに作業をしていたようでよほど腹が空いているのか、緊張感もなく食べまくっている。
緑谷「そういえば、みんなには詳細とか伝えてるの…?」
切島「言ったら余計反対されたけどな。ま、そりゃ反対されるのは目に見えてたし、実際やろうとしてるのが法律スレスレのグレーゾーンだってことはわかってんだけど…」
もう後戻りはできない。覚悟はもう決まっている。
新幹線に揺さぶられること2時間。横浜市神野区に到着。あまりの人混みに緑谷は少し混乱していた。
切島「さァどこだ!」
先に突っ走ろうとしている切島だったが、八百万が彼の腕を掴んで静止させた。
八百万「お待ち下さい。ここからは用心に用心を重ねませんと!私たちヴィランに顔を知られているんですのよ」
戦兎「だったら俺の"個性"で…」
八百万「いえ、私提案がありますの!こっちですわ!」
そう言って連れて行かれたのは…某ドンキホ○テ。何故ここ…?と思いながら八百万の成すまま買い物を終えた。買ったものは服やカツラなど。しかもまあまあ派手なものだ。
轟「なるほど、変装か。」
戦兎を除く5人の変装が終わったようだ。彼らの服装のほとんどを八百万が担当したため、彼らが普段好む様相とは少し異なっているが…まあまあ似合っている。
切島「あっ、戦兎出てきた。…ってなんだそりゃ!?」
満を辞して戦兎が登場…したわけだが、あまりに奇抜な服装と髪型であった。髪はあらゆるところが跳ね散らかしており、全身赤いツナギ、その中には真っ白なTシャツを身につけている。首にはゴーグルがあり、額の上には丸いサングラス。
戦兎「なんで俺だけこんな服装なんだよ!むしろ悪目立ちしちゃうでしょうが!」
彼の姿は完全に佐藤太郎そのものであった。
八百万「耳郎さんに佐藤太郎さんとそっくりだと言うお話を聞いていたのでつい…」
八百万は自分のスマホを操作してみんなに佐藤太郎の姿を見せた。
切島「うおすっげ!そっくりっつーか同一人物じゃねえかよ!」
飯田「これは驚いたな…。本人と言っても差し支えないぞ!」
戦兎「いや差し支えろよ!100歩譲って似てたとしてもこれだと目立ちすぎるって!」
あまりに騒ぎすぎているのか、はたまた戦兎があまりに佐藤太郎に似ているからだろうか、周囲から怪奇の目で見られている。悪目立ちし過ぎた。
八百万「一応もう一着予備で買ってありますわ。こちらなら良いんじゃないでしょうか?」
と言いつつ出したのはいつも万丈が身につけているようなスカジャンであった。ツナギの上着を脱いで腰に巻き、スカジャンを羽織る。髪の毛もツンツンとしたものから多少ボサっとしている程度に止めた。
戦兎「これだったら大丈夫だろ」
これでは変装というより万丈のコスプレだが細かいことは気にしないでおこう。
切島「変装も完璧だしさっそく…」
切島はそう言って後ろを振り向いた。その瞬間、視界に入った街灯モニターに相澤、ブラドキング、根津校長がマスコミに向かって謝罪会見を開いているのが見えた。
切島「おい…見ろよこれ!」
はしゃいでる緑谷や他のメンバーたちの肩を叩いて謝罪会見を見せた。当然唖然とした顔を見せた。
相澤『この度、我々の不義からヒーロー科1年生28名に被害が及んでしまった事、ヒーロー育成の場でありながら敵意への防衛を怠り社会に不安を与えた事、謹んでお詫び申し上げます。まことに申し訳ございませんでした。』
万全を期した上での襲撃。どこから情報が漏れていたのかは分からない。それでもでき得る最善を尽くした。
しかしそんなこと一般市民が知っているはずもない。街灯モニターの周囲にいた人はザワザワと騒ぎだし、雄英を非難し始めた。USJの時も相まって不信が募っているようだ。しかしこうも雄英を非難されては気分が良くない。
戦兎「行こうみんな。俺たちにはやるべきことがある。」
緑谷「えっ、あっうん…」
気分を変えるためか、真っ先に口を開いたのは戦兎だった。多少ショックを受けているみんなだったが、無駄な時間を過ごしているわけにはいかない。
しばらく歩き続けること数分。何か思い出したかのように切島が口を開いた。
切島「そういえばこれって八百万の発信器の方と戦兎の方どっちに向かってんだ?」
八百万「私の方ですわ」
戦兎「警察は俺の情報をメインで使うって言ってたからな。八百万の方に向かった方が警察にバレにくいだろ?」
切島「なるほど。」
彼ら2人の位置情報は厳密には異なっている。と言ってもどちらも神野区内だ。また、脳無の情報も確かに信用できるものではあるが、脳無はあくまで"アジト"の情報。ヒーローは救助を優先しなければならない。戦兎の情報は万丈の位置情報がほぼ確実に分かるため、戦兎の情報を優先したようだ。
そして再び数分後。
八百万「ここが発信機の示す場所ですわ」
ヴィラン連合のアジトに到着。そこはまるで廃墟であった。電気も付いておらず、土地周辺には草が生い茂っている。壁はところどころ黒ずんでいて、フェンスには赤錆がこびり付いていた。
緑谷「どうにか中を確認したいけど…」
轟「堂々と言ったら怪しまれるからな。裏に回ってみるか」
轟の言う通りに、周囲の塀に沿って建物の裏に回った。すると鉄格子の窓がいくつか並んでいた。
緑谷「あの高さなら中の様子見れないかな?」
鉄格子の高さは3m弱。肩車でもすれば見ること自体は出来そうだ。
轟「でもこんな暗いのに中なんて見れんのか?」
切島「それなら大丈夫だ。こういう時のために暗視鏡持ってきてるから。一個だけだけど…」
切島は懐から暗視鏡を取り出した。AMAZ○Nで購入したらしい。
そして飯田、轟が緑谷、切島を肩車。少しグラついてはいるがこうでもしなければ中を見れない。
残った戦兎と八百万は外の見張り及び逃走経路の確保をしている。本当はビルドに変身して中を見ようとしたのだが、いかんせんこの場が狭いのと音が出ることから変身を諦めた。
切島「うおっ!?な、なんだこれ…!!!」
轟「どうした!何が見えた!?」
切島が見たもの。それはこの世で最も恐ろしく悍ましいもの、すなわち培養液に漬けられた大量の脳無だ。
緑谷「嘘だろ…!?あれ全部脳m」
その時、ドシンと衝撃波が響くと同時に突然視界から脳無がいなくなった。いや、いなくなったのではない。何か巨大なものに上から押しつぶされ、倉庫自体が潰れたのだ
戦兎「なんだ!?」
見張りをしていた戦兎は倉庫の方を振り向いた。そこには巨大化して戦うヒーロー、マウントレディがいた。どうやら彼女が倉庫を踏み潰したらしい。
さらによく見るとNo.4ヒーローのベストジーニスト、そしてワイルドワイルドプッシーキャッツの虎、ギャングオルカなどのヒーローもだ。
飯田「ヒーローは俺たちなどよりもずっと早く動いていたんだ!さぁすぐに去ろう!俺たちにもうすべき事はない」
飯田は帰ることを催促した。何か間違ったことが起こる前に早く帰らなければ。委員長としての使命感がそう告げている。
しかしみんなはその場を動こうとしない。いや、
「すまない虎。前々から良い個性だと思っていてね。丁度良いから貰うことにしたんだ」
奥から何やら禍々しい声が聞こえる。人がいる。彼の威圧感で戦兎らは動けなかった。
彼は一歩踏み出し、ヒーローの方に歩み寄ろうとした。その瞬間ベストジーニストは服の繊維を縛って拘束。しかし…
「せっかく弔が自分で考え自身で導き始めたんだ。出来れば邪魔はよして欲しかったな」
ニヤリと笑いながら彼は手を前に出した。するとそこから前方約30mが全壊。たった一瞬で、プロヒーローを吹き飛ばした。
これが死。そう思わせるような一撃だった。今はただ声を顰め、彼に勘付かれないようにしてアイツが過ぎ去るのを待つしかなかった。
そしてこの場でその正体を知るのはただ1人。緑谷だけが認識していたのだ。
彼こそが最凶のヴィラン、