ハザードトリガー。それはかつて葛城親子が設計、製作した禁断のアイテムであった。万能強化剤のプログレスヴェイパーによってあらゆるステータスが上昇。さらに使用時間に比例してハザードレベルもゆっくり上昇するという代物だ。しかしハザードトリガーが"禁断"と呼ばれるべき所以はそこではない。
緑谷「なんだ…あの変身…!」
モニター越しに映ったのは真っ黒なビルド。今まで全く見たことがなかった。ただ、今までのフォームとは何かが違う。ヒーローと呼ぶには、それは恐ろしい姿だった。
飯田「…行っちゃダメだぞ、緑谷くん。」
飯田は彼を、戦兎を止められなかった。常に彼のそばにいるべきだった。しかし今はそれを悔やんでも仕方がない。今は他のみんなが行かないように止めるしか出来ることはない。
緑谷「分かってるよ。いや、今から行っても僕たちは脚を引っ張るだけだ。それに…」
爆豪「怖いってか。」
緑谷「…うん」
切島「いやむしろ怖くねえ奴のがおかしいって。」
緑谷は手が震えていた。飯田も、切島も、そして爆豪でさえも。それほどまでに恐ろしい。
それは奴と対峙したものにしか分からない。奴を目にしたものにしか分からない。
切島「アイツ…ヤベエよな。」
今一度、改めて戦兎の凄さを再確認した。恐怖を感じてなお、立ち向かい続けるその姿に。
何もできない自分たちにはずっと、モニター上に映り出される彼らの戦いの行方を眺める他なかった。漠然とした不安を抱えて。
AFO「今度の変身は…どんな強さを見せてくれるのかな?」
奴は"超再生"によってゆっくりと今まで受けた傷を回復しながら、奴は戦兎の前へと歩み寄り、小手調べに"膂力増強×3"を右腕に集約させ、戦兎を殴った。
戦兎「見せる間も無く終わらせる。」
しかしそのパンチを受けても戦兎は微動だにせず、黒いモヤを纏いながら右脚で奴の腹へ、捻り込むように蹴りを入れた。
AFO「ガハッ…」
予想だにしない攻撃からか、"衝撃反転"を使う前に攻撃を受け、口から唾を吐き出しながら後ろのビルに衝突した。
AFO「今ので全くダメージを受けないとは…。今のは痛かった…」
そう言って、笑いながら奴は立ち上がった。その行為がまた戦兎を刺激させる。
戦兎「ふざけるな!お前が人に与えた痛みはそんなもんじゃなかったはずだ!」
AFO「仕方ないだろ?それも僕の大いなる野望のためさ。君もそのための尊い犠牲となってくれ。」
奴は強大な"電波"を放って戦兎の動きを一時停止させ、その隙にAFOは足の筋肉を増幅させて地面を蹴り飛ばし、目にも止まらぬ速さで戦兎に近づくと同時に"筋骨発条化"+"瞬発力×4"+"膂力増強×3"の三つを発現させて、右腕で殴りかかった。しかし戦兎はそれを左手で受け止め、逆に右腕でパンチを繰り出すも、AFOは戦兎同様に左手で受け止めた。
戦兎「何が尊い犠牲だ…!悪戯に人の命を弄んでいるだけだろ!」
AFO「それはこっちのセリフだ。そこに転がっているオールマイトも、僕の仲間を蹴散らしてきた。やってることは同じじゃないのか?」
戦兎「それはお前たちがみんなを苦しめて、平和を脅かしたからだ!」
AFO「君たちヒーローも僕が築いた平和を脅かしてるじゃないか。もっとも、君はヒーローでも何でもない、
奴はそう言うと両腕をブルブルと膨張させ、今発動中の"個性"に加えて"空気を押し出す""個性"を発動。戦兎は真後ろにドカンと吹き飛ばされて瓦礫に衝突。それでも戦兎は立ち上がる。
戦兎「それでも構わない!今、ここでお前を止める!!!」
【Ready Go!!! Hazard Attack!!!】
戦兎は再びボルテックレバーをグルグルと回し、右拳に黒いモヤを纏った。
何度も何度も攻撃を与えても"衝撃反転"で反転されたり“超回復"で回復されては意味がない。ならばその許容上限を上回るほどのダメージを持って奴に攻撃すれば良い。
ただその思いで奴に向かって走り続けた。だが…
戦兎「うぐッ…、い、意識が…」
頭が、身体がフラフラし始めた。視界がだんだんと真っ黒になっていく。身体もだんだんと自由が効かなくなってきた。
万丈「アイツ…やっぱり…!」
万能強化剤のプログレスヴェイパーが神経系を通ってきて、脳みそに働きかける。破壊衝動が湧き上がってくる。
薄れゆく意識の中で、葛城巧の言葉が脳裏に浮かんだ。
巧『戦闘が長くなると脳が刺激に耐えられなくなり、理性を失う。』
ふらふらになり、もう目の前のAFOさえも視認できぬほどに意識が薄れている。AFOが先程放った空気砲でビルの瓦礫がボロボロと落ちている音も聞こえなくなってきた。
巧『理性を失ったその瞬間、目に映るもの全てを破壊する。』
完全に意識が切れた。首がガクッと下がり、首から下は気力が無くなっていた。
完全にニューロンにプログレスヴェイパーが浸透し、戦兎の意識は破壊衝動に支配されている。こうなれば…辿る道はただ一つしかない。
AFO「どうした?もう終わりなのかな?」
AFOはそう呼びかけるも戦兎は反応しない。そこにあるのは…破壊兵器、ビルドだ。
不穏な風が吹く。彼ら2人の間には緊張感が走る。ビルドの真後ろにある崩れかかった廃ビル。そのビルの上階のガラスが風によってバランスを崩したのだろう。重力加速度に従って自由落下し、そして瓦礫の破片とぶつかってパリンと音を立てて砕け散った。
その瞬間、ビルドは首を上げながら黒い衝撃波を放った。
AFO「なんだ…?」
AFOはようやくビルドの異変に気づいたようだが、もう遅かった。ビルドは脱兎が如き速度で近づき、気づいた時にはもう目の前にいた。
AFO「速いッ…!」
そう声を上げた時、自らの下腹部に捻り込むような痛みを感じた。ビルドは弾丸が如きボディーブローで奴にダイレクトアタックを決め、さらに遥か遠くまで蹴り飛ばした。
6年ぶり、いや百何十年ぶりの、痛みだろうか。もはや腹を突き破られているかのようにも感じる。背筋がゾクゾクとしてきた。武者震いか、狂っているのか。どちらにせよワクワクしているのは間違いない。
AFO「"個性"なしでその力…。素晴らしい…!君を全力で捩じ伏せたくなった!」
奴は"筋骨発条化"+"瞬発力×4"+"膂力増強×3"+"増殖"+"肥大化"+"鋲"+"エアウォーク"+"槍骨"+"電波"を発動。全身が異様に膨らみ、体表には電子の波を流すことで高電圧の電流が流れている。
【MAX Hazard on!】
【Gorilla! Diamond! Super Best Match!!!】
しかしそれに対抗しているかのように、ビルドは再びハザードトリガーのBLDハザードスイッチを起動。さらにゴリラフルボトルとダイヤモンドフルボトルをセット。そしてボルテックレバーを回した。
【Are you ready!?】
戦兎「………」
ベルトの呼びかけに戦兎は何も反応を示さなかった。ビルドはただ、ベルトの機能によって出現したハザードライドビルダーに再び挟まれ、強化剤を流され、さらに凶悪になって戻ってきた。
【Ready Go!!! Over Flow!!!………ヤベーイ!!!】
そしてビルドは仮面ライダービルド、ゴリラモンドハザードフォームへと変身。全身はラビットタンクハザードフォームのように真っ暗であるが、右腕には通常よりはるかに力を引き上げられた漆黒のサドンデストロイヤーを装備し、右複眼は水色に、左複眼は茶色に光っている。
どちらのハーフボディも相手を殺すためだけの強化ということは容易に想像できるだろう。
AFO「勝負だ桐生戦兎!どちらの力の方が強いのか試そうじゃないか!」
奴の言葉には裏があった。"衝撃反転"を使い、相手が与える力、衝撃そのもの全てをそのまま相手に与え返す、いわゆるカウンターだ。カウンター技に加えて自身の本気を出した"個性"たちならビルドを破壊できる。奴はそう考えた。
万丈「マズイ…このままじゃ
万丈が危惧していたのは戦兎の方ではない。AFOの方だ。いくら彼が悪人とはいえ殺してはならない。その行為は最も正義とは遠い行動となる。ヒーローならば必ず殺さず、生かして捕まえなければならない。
【Ready Go!!! Hazard Finish!!!】
ビルドはさらにボルテックレバーを回転させ、サドンデストロイヤーに黒い瘴気を纏い、限界まで出力を高めた。
そして…2人の拳は互いに頰を殴りあった。AFOはうまく行ったと確信した。これほどの攻撃ならばビルドを破壊できる。しかし、残念なことにそれでもハザードは止まらなかった。もはや痛みすら感じないビルドは、AFOの衝撃などものともせずにそのまま奴の頬をぶち抜いた。
何キロ先に飛ばされたのであろうか。AFOの身体は止まることを知らなかった。殴られた時のビルドの拳の最大瞬間速度は音速を超え、周囲にソニックブームが発生。衝撃波とその音の波が神野区中に響き渡った。それほどの衝撃を受けたAFOは吹き飛ばされる中で初めて恐怖を覚えた。顔面は横から潰されたかのようにペシャリと潰れ、脳震盪を起こして気絶。いや、むしろ死亡しなかっただけおかしいと言えるだろう。
戦兎「………」
完全にビルドの勝利であった。上空のヘリから撮影していたマスコミらはもはやその強さと恐ろしさに引くほどだったが、何しろ奴に勝利したのは間違いない。モニター越しで見ていた緑谷らも声を上げて勝利を喜んだ。
しかし1人だけ、日本でたった1人だけ、勝利を喜べない男がいた。万丈龍我だ。彼は知っている。ここからが…真の恐怖の始まりであると。ビルドを止めなければ素直に喜ぶことはできない。
戦兎を殺す気でビルドを止める。決死の覚悟でスクラッシュドライバーを腰に当てがったその時だった。ビルドの隣、約30m先から小さなコンクリートの破片がカランと落ちる音がした。
「救けて…」
1人の女性が倒れたビルの下敷きとなっていた。ビルドとAFOの戦いが白熱しすぎたためか、次から次へと戦闘範囲が広がり、避難区域もどんどん広がっていた。そのため避難が遅れてしまったのだろう。実際、他のプロヒーローも避難誘導などの仕事が優先されてAFOは戦兎らに任せっぱなしなっていた。
しかしそのことが更なる不幸を呼んだ。ビルドは無言でその女性の元へ歩いて近づいた。
万丈「止めろ戦兎ッ!!!」
万丈は慌てて走りながらドラゴンスクラッシュゼリーをベルトにセット。そのままレンチを倒した。
【Dragon Jelly!】
万丈「変身!」
【潰れる!流れる!!溢れ出る!!!
Dragon In Cross-Z Charge!!!BRRRRRAAAAA!!!】
決死の覚悟で万丈は仮面ライダークローズチャージへと変身。さらに万丈は冷蔵庫フルボトルを取り出し、スロットへ装填。レンチを倒した。
【Discharge Bottle!潰れな〜い!Discharge Crush!!!】
冷蔵庫フルボトルによる吹雪でビルドは足元が凍結。その隙に万丈はビルを破壊し、なんとかその女性に手を差し伸べようと彼女を見たその時、彼は酷く驚いた。
彼女の顔は完全に見知った顔だった。
万丈「香澄…!」
こんなところでどうして再会してしまったのだろうか。こんなところでなければ思いっきり喜べたのに。
まさかの再会に呆然としていると、横からサドンデストロイヤーの強い衝撃が万丈を襲った。
万丈「ガハッ…!」
横腹を殴られた。痛い。辛い。それでも戦兎の暴走でかつての恋人、香澄を殺させてしまうわけにはいかない。
やることは単純だった。ビルドを香澄から遠ざければ良い。そのためには…
万丈「お前は逃げろ!俺が…コイツを倒す!」
万丈はビルドを香澄から遠ざけようと、戦兎の身体を押し動かした。その間ビルドは何度も何度も万丈の身体をいたぶり、殴っていたけども万丈は何とか耐えていた。最悪な事態を回避するためならそれくらい出来なきゃいけないと言い聞かせて耐えていた。
「おい香澄!大丈夫か!?」
そうやって耐えていると少し遠くからそんな声が聞こえてきた。そしてその声を聞いて再び、万丈は驚き呆れた。その声の主は、もう1人の万丈龍我だったのだ。正確にはエボルトの遺伝子を持たない黒髪の万丈龍我である。
彼は颯爽と現れ、足を負傷した香澄を抱き抱えてそのまま去っていった。
万丈「良かった…!」
そう安堵したのも束の間、もう身体が耐えきれなくなってきたのか、ビルドの強烈なパンチで吹き飛ばされて変身が解除されてしまった。
万丈「クソッ…」
ビルドはゆっくり歩いてくる。ラビットとタンクのボトルを振りながら…。
【Rabbit! Tank! Super Best Match!!!】
一歩ずつ、着実に歩を進めてゆく。戦兎の意志などとうの昔に消え失せている。
【Are you ready!?】
死の宣告。死の準備は出来ているかとベルトが問いかけてくる。残酷なものだ。正義のためのシステムがこんなことに使われることになるとは…。
【Ready Go!!! Over Flow!!!………ヤベーイ!!!】
ビルドを止めることはできる。事前にもらったアイテムのうちの一つ、強制停止装置を使えば良い。制御装置のフルフルボトルもない今、強引に止める方法はそれしかないと戦兎が事前に作って万丈に渡していた。しかしそれを使うのは最終手段。それを使えば戦兎のハザードレベルが急上昇し、その影響で死亡することになる。
万丈「ここまでかよ…。」
「諦めるな万丈龍我。まだ終わりじゃない」
吹き飛ばされ、地面に座り込んでいた万丈の前に現れたのは…
万丈「幻さん…!」
氷室幻徳。ローグと呼ばれた男だった。