万丈「俺が今確か4.7くらいだっけ?んで戦兎が確か…」
戦兎「4.5だ。ハザードトリガーのおかげで少し上がったんだ。ま、林間合宿の時に襲来してきたヴィランと戦ったり、ヴィランに攫われたりしてたからお前の方が上昇幅は高いんだが…そういやお前誰に攫われたんだよ」
万丈「いや俺も分かんねえってかさ。気づいたら捕まってたんだよ。」
戦兎「はぁ…なんで捕まったことにすら気づかないのかねぇこのバカは…」
万丈「馬鹿じゃねえ!あん時あの場所に俺がいなかったら暴走したお前を止められなかっただろうが!そのための作戦に決まってんだろ!」
戦兎「いやだいたいお前が攫われなかったら俺だってハザードトリガー使わなくて済んだんだよ!結局幻さんは仮面ライダーローグに変身したわけだし、俺も殺人を犯さないですんだから良かったものを…」
万丈「んなこと言ったってしょうがねえだろ…!」
戦兎「ま、なんやかんやでお前も爆豪も奪還できたことだし、一件落着ってことで第五十四話へどうぞ〜」
幻徳「なん…だと…」
戦兎から全ての話を聞かされた幻徳は、ことの壮大さと信じられない話ばかりで驚愕している。特に一番ショックを受けたのは…
幻徳「俺が…人体実験を…していたというのか…?」
戦兎「ああ。」
幻徳「そしてお前の恋人と多くの人を怪物に…」
万丈「それも事実だ。」
人を救うヒーローのはずだった彼が、ネビュラガスの影響で一時的ではあったとはいえ、闘争本能に駆られて人をスマッシュに変え、非人道的行為もしてしまっていたという事実にショックを受けたのだろう。幻徳は少し立ちくらみを起こし、丸椅子に腰掛けた。
戦兎「…もう一度言うが…これは嘘じゃない。俺たちは本当に地球外生命体と戦い、この新世界を作った。信じ難いかもしれないけどな」
幻徳「…このことを知っているのは?」
戦兎「俺と万丈、あとはカフェ『nascita』の店長の石動惣一だ。」
今思い返してみれば誰にもこのことは話していなかった。別に話して悪いことはないだろうが、相手がその真実を知っても良い気分になることはあり得ない。幻徳でさえこうだったのだ。前世界のことなんて忘れていれば…
「ん?俺のこと呼んだ?」
思案を巡らせていると何やらドアの方から陽気な声が聞こえてきた。そのドアの方を見てみるとサングラスと抹茶色のエプロンをつけたマスターがいた。
戦兎「マスター!」
惣一「よう2人とも!入院してるって聞いたから少しお見舞いでもしてやろうと思って」
美空「ついでに横浜旅行も楽しんできたよ!」
カフェ『nascita』は雄英から徒歩圏内にあり、東京神奈川とは地理的にも近くには立地していない。なので横浜は少しだけ気分が上がる場所なのだろう。
美空「あっ、そうだ戦兎、ボトルできてるよ。はいこれ」
美空はそう言ってカバンの中からピンク色のフルボトルを取り出し、机の上に置いた。するとその瞬間に、戦兎は奪い取るかのようにすぐに手に取った。
戦兎「これはUFOフルボトル!トラフルボトルと合わせればベストマッチだ!」
いつものように後ろのアホ毛をぴょこんと立たせてUFOフルボトルをじっと眺めた。しかしそれを邪魔するように何者かが戦兎からフルボトルを強奪した。指は細く、ネイルをつけている女性の手だ。
「なにこれ?新しいボトル?」
戦兎「ちょっ、返せよ…って紗羽さん…なんでここに…!」
紗羽「なんでって、そりゃあ取材に決まってるでしょ?しかもなんでか分かんないけどここにはプロヒーロー、ローグこと氷室幻徳さんに元宇宙飛行士の石動惣一さんも!当然取材しないわけにはいかないでしょ?」
幻徳「取材も何も、マスメディアは通れないようになってるはずだが…」
今でも外にはテレビや新聞等のマスメディアが大量に群がっている。窓を見れば一目瞭然だ。
紗羽「だって私戦兎くんの知り合いだもん。」
戦兎「いや、まあそうだけどそうじゃないっていうか…。でもせっかくこのメンバーで集まったんだし、まあいいか」
なんやかんやで一海を除く今まで出会ってきたビルドメンバーがここに集合した。と言っても女性陣は前世界のことを知らされていないのでその話は出来ない。しかし記憶を失っていてもやはりここにいるメンバーとはなんだかかつてを思い出させるように会話が弾んだ。
オールマイト「次は確か…戦兎くんのお家だったっけ?」
相澤「そうですね。話が早いと助かりますが…」
あの日から約一週間後、戦兎らは無事に退院し、相澤たち教員は寮制度の許可を得るため、各生徒らに家庭訪問を行っていた。
相澤「つきました。ここですね。」
戦兎は雄英高より少し郊外に出た場所に住んでいた。思ったよりはなんの変哲もない一軒家である。今は家族で暮らしているがアメリカにいた時はデイビッドの家にホームステイさせてもらっていたらしい。
兎苺「あっ、どうもいらっしゃい」
オールマイトがベルを鳴らす前に、この世界の戦兎の母親、桐生兎苺が出迎えてくれた。2人は『お邪魔します』と言って玄関からリビングへ。そしてそこには戦兎が既に座っていて、粗茶と甘めの卵焼きが用意されていた。兎苺は戦兎の隣、オールマイト、相澤の2人は彼らの前に座った。
相澤「えー、事前にプリントを郵送しておりますが、雄英高校全寮制について本日はお話しに参りましたが…お母様及びお父様はどのようにお考えでしょうか?」
兎苺「賛成ですよ。元々戦兎のやることは全力で応援していくって昔から決めてましたから。この子、すぐ行動しちゃうでしょう?6歳になってすぐ海外へ行った時も、中2の頃に突然帰ってきてヒーローになるって言い出した時も、資金源含めて全部自分で色々やってきましたから。だから私たちの出来ることといえば、応援くらいで…。ですから、戦兎が行くと決めた高校が決定したことに異議を唱えるつもりはありません。」
相澤は用意されていた甘めの卵焼きを口に運びながら、その言葉を聞いていた。
オールマイト「そういうことでしたか。分かりました。それと…大変申し上げにくいのですが、先日の事件のことについて…」
オールマイトがそう言うと一気に場が静まり返った。この場の誰もが数十秒は黙っていた。オールマイトの指示…ということにしてなんとか厳しい処置を免れたものの、犯罪者であることには変わりない。それが例え、勇気ある、正しい行動だとしても。
相澤は卵焼きをごくんと飲み込み、口を開いた。
相澤「うちとしては戦兎くんに対して、しばらく謹慎処分をしなければなりません。寮生活に入って間も無く、八月中旬には登校が再開するのはご存じですよね。そこから九月上旬にヒーロー仮免の取得試験があります。それまでの約1ヶ月、自宅謹慎等を課す予定です。」
一ヶ月の謹慎。長いようで短い謹慎期間だ。頭を冷やすのにはちょうど良いのかもしれない。
オールマイト「しかし我々雄英は、桐生戦兎くんにヒーロー仮免取得試験を受けてもらいたいと考えております。授業等は受けられませんが、それでも彼は必ず受かる。彼だけじゃない。一年全員が必ず受かる!そう言い切れるような教育をしてきたのは確かです。ですのでご心配なく。」
オールマイトは兎苺の目を鋭い眼光を以てそう言った。
相澤「そして仮免を取得した後、戦兎くんを復学させようと思っております。少し勉強面や実力面の上昇率として少々劣ってくる部分も有るでしょうが…そこは自身の責任ということで。分かったか?戦兎」
相澤は戦兎の目をじっと見た。少し戦兎はしょげながら『はい』とだけ返事をした。
相澤「それでは話は以上になります。お母様からは何かございませんか?」
兎苺「いえ、特には…。」
相澤「分かりました。では失礼させていただきます。本日は忙しい中、わざわざ時間を取っていただきありがとうございました。」
相澤、オールマイトはペコリと礼をした。そしてそのまま外へ。戦兎も見送りということで玄関先に出た。
相澤「良い親を持ったな、戦兎。」
戦兎「俺もそう思います。」
あくまで遺伝子的に血が繋がっているだけで、記憶的には彼女は母ではない。それでも彼女はれっきとした母親のように思えてくる。葛城京香に次ぐ第二の母親だ。
相澤「それと、これから言うのは、教員でもヒーローでもなんでもない、あくまで"相澤消太"という一個人としての言葉だ」
相澤はそう言うと戦兎の頭の上に手を置き、不器用に頭を撫でた。
相澤「あの時、あの場でAFOを倒せたのはお前しかいなかった。よくやったよ。」
相澤は少し照れ臭そうに微笑んでそう言った。素直に嬉しかったものの、その普段とは異なる笑顔にちょっとした寒気を感じたのは…気のせいだろう。
相澤「それじゃあこの辺で…」
オールマイト「あ、ちょっと待ってくれ相澤くん。AFOで思い出した。これ、渡すのすっかり忘れてたよ」
そう言ってオールマイトが差し出したのは紺色をしたやや黒光りしたボトルだった。
戦兎「このボトルは…?」
オールマイト「AFOから取れたものさ。君、気絶した時にいろんなアイテムをばら撒きながら気絶したからね。そのうちの一つが奴に反応して出来たみたいでさ。ずっと私が持ってたんだけど渡すの忘れてたんだ。すまないね」
AFOから取れたフルボトル。どんなものかとじっとラベルと柄を見た。今までに見たことのないボトルだった。でも…使い道は知っている。
戦兎「もう一つの…
ずっと欲しかったものの一つだった。あともう一つ、素材があれば…
相澤「そんじゃ、次は学校で。あ、そうだ。卵焼き、美味かったと伝えといてくれ。じゃ、またな」
2人はそういうといそいそと車に乗り込んだ。その車が去ったあと、その場にはほんの少しだけ寂しさが残った。
「ここか…。アイツがいると言う場所は…」
彼がやってきたのは某所、巨大なビルが大きく聳え立っている場所。その中でも一際大きく、Dの文字を背負うビルがあった。
「たのもー社員のみんな!元気かー!?」
正面から自動ドアのガラスを突き破って入ってった。当然彼がここに入るのは初めてである。突如として黒服でサングラスをかけた厳つい顔をした高身長の黒人に囲まれた。
「よぉ、アンタらがボディーガードの皆さんか。俺はアンタらんとこの社長に用があって来たんだ。ちょっと通してくれるか?」
「ダメだ。お前のような者を社長に合わせるわけにはいかない」
そう言って置くから出て来たのは眼鏡をかけた1人の男性だった。
「おお!まさかまさか、こんなところでアンタに出会えるなんてなぁ!」
彼はその眼鏡の男性の肩に手を回して肩を組んだ。
「いやぁ、懐かしい。11年も前になるか?生真面目で堅い奴だったお前が難波を裏切って杖を思いっきり折った時は傑作だったよなぁ?な?内海?」
彼はマスク越しに内海と呼ばれた眼鏡の男を睨んだ。
内海「なぜ俺の名前を…!」
内海成彰。この世界では難波チルドレンではなくここで社長秘書兼技術者として働いていた。
「そりゃ知ってるさ!俺たち共に戦って来た仲間じゃねえか?裏切られもしたけどそんなことはどうだって良い。俺はお前と会えて嬉しいよ」
内海「なんの…話だ?」
彼の話していることが全く飲み込めていない様子。それもそうだ。内海とてやはり記憶を失っているからだ。
「ああ、なんでもない。こっちの話だ。本題は別にある。実を言うと俺はな、お前たちの仲間になりに来たんだ」
内海「仲間…社員になりたいということか?だったら今はそんなの受け付けて…」
「違えよ。こっちの話だ」
彼は一冊の本を取り出した。タイトルの一部には"異能解放"の文字が刻まれている。
内海「…ちょっとこっちに来い」
内海はそう言うと社内の奥の社長室へと案内した。何か物々しい雰囲気のある場所だ。しかし彼は物怖じせず歩を進めた。
内海「失礼します」
内海はコンコンコンとドアを3回ノックし、ドアを開けた。するとそこには何やら気さくそうな男が1人。アレが社長だと思われる。
「やあ、どうしたんだい?…って、君は…」
内海「社長の仲間になりたいと社内で暴れまわってましたので」
「暴れるなんてことしてねえよ。俺はアンタの仲間になりたかっただけだ。もちろん、社員って意味じゃない。こっちのほうだ。」
再び彼はその本を社長の前に掲げた。すると社長の顔が一気に厳めしくなった。
「…それは私が"異能"解放軍のデストロの息子、リ・デストロと知ってのことかね?」
リ・デストロと名乗った男は額に黒いアザを映し出し、睨むようにしてそう言った。
「ああそうだ。元々俺は今のこの窮屈な世界が仕方なくてなぁ。"異能"を思いっきり解放した世界…。それが俺の望む物だ。仲間にしてくれないか?」
デストロ「…ふむ、我々と利害は一致してるが…」
「そっちにメリットがあるかってことだろ?当たり前じゃねえか。俺は一応これでも情報屋でねえ。知りたい情報はなんでも手に入れてやる。例えば…ヴィラン連合…とかな?」
デストロは唾を飲んだ。ヴィラン連合。それは最近世間を騒がせているヴィラン団体。団体とは言ってもこちらの"異能"解放軍とは異なり規模的にかなり小さい。しかし厄介なのはつい最近までバックにAFOがいたこと、そしてその跡を継ぐ死柄木弔の存在だ。潰しておかなければいけない。
デストロ「ほぉ…。それは良い…。元よりこちらは大歓迎だ。しかしそこまでできるとは期待していなかった。ま、それも嘘かもしれな…」
「四ツ橋力也。四ツ橋主税の息子で、ライフスタイルサポートメーカー『デトネラット社』代表取締役社長としての肩書を持つが、裏の顔は"異能"解放軍の最高司令官を務める。"個性"はストレス。貯蓄したストレスを自らの力に変換する"個性"。最近の趣味は部下の山下のイジリに笑って返す事で彼を"異能"解放軍に入れようか入れまいか悩んでいる。それと自身の髪の毛の前髪の後退が進み始めたのが最大の悩み。近年のデトラネット社の意向としてプロヒーロー用のサポートアイテム業界を議論しているが、裏ルートで試作品やアイテムを裏社会に流通させて戦闘データを集めて自身の強化をしようとしている…。ざっとこれくらいか?」
彼はペラペラペラペラと情報を話し始めた。表に出ている情報からとても個人的な情報まで。その様子にデストロも内海も仰天した。
デストロ「わ、分かった分かった。君の情報が素晴らしいことは分かったよ。まさか私の個人的なことまで当てられてしまうとは…。だがそこまでするということは…なにか目的でもあるのかな?」
「流石社長!話が早いなぁ。俺の目的は…コイツを修理してもらうことだ。それさえして貰えば良い。」
彼はそう言うと持っていたアタッシュケースを取り出し、中身を見せた。
内海「これは…」
「極秘ルートで手に入れた品物でな。俺の手では修理できなかった。そこで裏社会にサポートアイテムを流通させているアンタらに直してもらおうってわけだ。俺の目的…いや、"異能"解放という大いなる目的のためにな。」
彼はマスクの下でニヤリと笑った。全てが上手くいっている。今のうちに…奴が力をつけてしまう前に力を取り戻さなければ…。
デストロ「はっはっはっ、君とは長い付き合いになりそうだ。」
「ああ。これからも仲良く頼むぜ。そんじゃ、俺はここで…」
デストロ「ちょっと待った。君、名前は?」
「"シンイリ"。それが俺の名前だ。チャオ♪」
シンイリと名乗りながら彼は部屋を出て行った。あとはじっくりじっくり、ことが進むのを待つだけだった。