天才物理学者と筋肉バカのヒーローアカデミア   作:いぷしろん

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A=[a_ij](a_11=1,a_22=3,a_33=23,i≠j⇒a_ij=0,1≦i,j≦3)⇒det(A)=69話

一海「いってぇ…。こんなことなら変身しときゃよかった…。ってかここどこだよ」

 

突然地面に大穴が開き、さらに下の階層に落とされた。辺りはコンクリートの壁に囲まれており、北の方のみに一本道が続いている。

自分の周りを見渡してみても、プロヒーローはいない。

 

一海「分断されちまったか…。おーい!誰かいねえのか!!!」

 

「…その声は…一海か?」

 

北の方の通路から聞き覚えのある声が聞こえた。雄英四天王が一人、天喰環だ。

 

一海「環…お前もここに落とされてたのか。他の奴は?」

 

天喰「プロも警官もいない。ファットガムとも離れてしまった…。」

 

一海「こっちもだ。三馬鹿もヒゲもいねえ。つーことは他の奴らも隔離されてるだろうな。しょうがねえ。俺たち二人で上に戻るか。」

 

はぁ…とため息を吐きながらポリポリと頭を掻く一海。多少不安要素が残るが歩いて上に行くしかない。

 

天喰「一海、お前は…怖くないのか?」

 

廊下を歩きながら天喰は一海にそう尋ねた。

 

一海「怖いって何がだよ。」

 

天喰「…今さっき、治崎を見て勝てるわけないって思ってしまった。あの空間をたった指先一つで破壊できる"個性"…。人にもあの"個性"が容赦なく襲ってくると思ったら…いくらファットガムやナイトアイでも対応できない…。そもそもこうしている間にも向こうはいくらでも逃げ場があるんだ…。女の子も救えないかもしれない…いや、もしかしたら俺たちも…」

 

一海「環!!!」

 

ボロボロと弱音を吐く天喰に一海は一喝した。思いの外声が響き渡り、天喰は思わずビクッと身体をすくめた。

 

一海「その話はあとでいくらでも聞いてやる。ヴィランの方を見ろ」

 

天喰「ヴィラン!?」

 

俯いてボソボソとネガティブなことを呟いていたから分からなかった。顔を上げると目の前には少し広い10畳ほどの部屋があり、ヴィランが3人待機していた。

 

「俺たちのことガン無視すんなよ。」

 

金髪のヴィラン、窃野がそう言って天喰の顔面に発砲してきた。環はすぐさま顔に貝殻や甲羅を幾層にも再現して防いだ。

 

一海「お前ら…八斎會の幹部だな?」

 

窃野「だったらどうする」

 

一海「決まってんだろ…ぶっ倒すだけだ!」

 

一海は懐からスクラッシュドライバーを取り出した。

 

天喰「待て一海!それは…!」

 

一海「あ?…ってねえ!?ドライバーがねえ!?」

 

わずか一瞬だった。ドライバーを腰に当てようとした瞬間、ドライバーが一海の手から消えてしまった。

 

窃野「ドライバーって…これのことか?」

 

窃野はニヤニヤしながらスクラッシュドライバーを見せつけた。窃野が持っているのは間違いなく一海のドライバーだ。

 

一海「なんでアイツが持ってるんだ…!」

 

天喰「…アイツは"窃盗"の窃野。身につけてる物を瞬時に手元へ移動させることができる…」

 

一海「そういやそんなのあったな…。しまった、完全に忘れてた…。」

 

仮面ライダーになるには絶対に腰にドライバーをつける動作が必要になる。まさにライダーシステムの天敵と言えよう。

 

天喰「あと二人は"結晶"の宝生、"食"の多部だ。」

 

一海「分かった。とにかくまずは俺のドライバーを取り返す!」

 

一海は窃野の元へ全力疾走。しかし宝生が邪魔をする。

 

一海「そこをどけ!」

 

一海は宝生の顔面を殴った。しかしダメージを受けたのは一海の方だった。顔に結晶を生成させてカウンターを喰らわせたのだ。

 

宝生「そんなパンチは効かない…!」

 

宝生は右腕にゴツゴツとした鉱石を生成。メリケンサックのようになった右拳が一海の右頬にヒットした。

 

一海「ガハッ…!」

 

宝生「さっきの勢いはどうしたんだ…!」

 

さらに一海の腹部にも強烈なボディブローが炸裂。

 

窃野「ほらもういっちょ!」

 

一海「ウガァァァァ!!!」

 

かがみ込んだ一海の背中を抉るように窃野が日本刀で切り裂いた。血が大量に流れ出ており、意識も朦朧としてくる。

 

天喰「一海!今助ける!」

 

天喰は慌ててタコ足を腕に再現して3人を絡め取ろうとした。しかし…

 

多部「飯!飯!」

 

天喰「アグッ…ァァァ!!」

 

多部がガツガツとタコを食いちぎる。痛覚を伝える神経は環本人まで通じているためかじられる痛みが伝わってくる。

 

宝生「こっちも平等に嬲ってやる!!!」

 

天喰の顔面に宝生の鉱石左ストレート。間一髪で甲羅を生成して防いだものの、その甲羅は薄く、鉱石の衝撃を全然いなしきれなかった。鉱石の破片で顔の至る所に切り傷がつき、殴られた衝撃で壁に叩きつけられる。これほど苦戦を強いられたのは初めてだ。

 

一海「環!」

 

窃野「おっと動くな。動けば殺す。」

 

窃野は一海の首元に日本刀を突きつけて制圧。あっという間に倒されてしまった。左腕をガッチリと窃野に捕まれ、身動きができない。フルボトルで最低限の強化をしようと思っても窃野に取られてしまえば意味がない。"個性"の把握不足と相性の悪さが影響してしまった。

 

窃野「まずはタコ、お前からだ。お前から始末してやる。」

 

天喰「クソ…やっぱり…やっぱりまだ早かったんだ…。プロの足元にも及ばないのに…俺がプロのように戦えるはずがなかった…。」

 

完全に戦意を失った。3人は勝ちを確信した。絶望の顔だ。環のメンタルの弱さがここにきて…

 

一海「んなことねえぞ!!!」

 

一海は叫んだ。『黙れ!』と頭部を宝生に殴りつけられ、血がダラダラと流れる。しかし一海は話すのをやめない。

 

一海「…お前は本当は凄い力を持ってる。俺もミリオも敵わねえ力を持ってるはずだ。でもお前がどうして卑屈になっちまうのか…どうしてミリオや俺を上に見ちまうのか…。それはお前が…心の火を…心火を燃やしてねえからだ…!」

 

天喰「…心火…?」

 

一海「そうだ…!引っ込み思案なのが悪いってことじゃねえ…。はぁ…ただな、大事なもんのために戦うってんなら…誰かを守るために戦うってんならな…自分の持つ力を賭けなきゃなんねえ…!だから…」

 

宝生「いい加減に…!」

 

一海「心火を燃やせ!太陽すら喰らう者(サンイーター)!!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、ビリっと電気のようなものが体に流れた。

そうだ…。ミリオも一海も…必死になってヴィランと戦っている。みんな頑張ってるんだ…。

 

天喰「心火を燃やして完封する!!!混成大夥キメラクラーケン!!!」

 

顔に甲羅の仮面を身につけ、自分の手足を全てタコ足に変え、さらに甲羅で完全武装。そんな状態で部屋いっぱいにタコ足を振り回した。足元は鶏のようになっており、脚はタコと軍鶏のミックスしたしなやかで丈夫な筋繊維でできており、タコのいかなる運動にも耐えることができる。まさにクラーケンだ。

 

宝生「嘘だろッ…!」

 

窃野「まだこんな力が…!グハッ!」

 

多部「美味いタコ…!飯!!!」

 

再び多部はキメラクラーケンのタコ足にがっつく。甲羅で武装されていても頑丈な歯を持つ多部には武装などないに等しい。多部は甲羅を食い破ってまでタコを捕食したが…

 

多部「ウグッ…身体が…痺れる…」

 

タコ足を飲み込んだ瞬間、多部の身体が動かなくなった。

 

窃野「多部!?どうした!?」

 

天喰「マダコの唾液に含まれる神経毒(テトロドトキシン)を再現したんだ…。しばらくは動けないぞ…!」

 

先ほどはタコ足をむしゃむしゃと食われてしまったが、その反省を活かして毒を盛っておいた。フグ毒にも含まれるテトロドトキシンは少量でも死に至るが、流石にそこは上手く調整して身体を痺れさせる程度にとどめた。

何はともあれ天喰の天敵、多部をついに撃破。八斎會幹部の3人は完全に天喰のペースに乗り込まれ、タコの打撃を喰らう。雰囲気が完全に変わった。一方で…

 

一海「よし、今だッ…!」

 

一海は隠し持ったクマフルボトルで窃野の腹部を仕返しと言わんばかりに殴り返した。すると懐から取られたスクラッシュドライバーがポロッと落ちた。すぐに取り返し、窃野が混乱しているうちに彼から離れる。

 

一海「よくやった環!あとは俺に任せろ!」

 

そして窃野に"個性"を使われる前にドライバーを腰にあて、ロボットスクラッシュゼリーをスロットにセットした。

 

Robot Jelly!

 

一海「変身!」

 

潰れる!流れる!!溢れ出る!!!

Robot In Grease!!!BRRRRRAAAAA!!!

 

ビーカーが一海を中心に展開し、グリスの素体が生成された。その中に黄金のヴァリアブルゼリーが充填。そしてレバーを倒すとギュッとゼリーが一つにまとまって、一海は仮面ライダーグリスへと変身を遂げた。

 

一海「ようやく仮面ライダーグリス、完全復活。祭りの始まりだコラァァァァァァァ!!!」

 

宝生「ガキが…イキがるんじゃない!!!」

 

宝生は再び右腕に鉱石を生成し、右ストレートを放った。それを一海は顔で真正面から受け止める。

 

一海「効かねえなぁ…。パンチはなァ、こうやって打つんだよ!!!」

 

一海は渾身の一撃の右ストレートを宝生の顔面に打った。鉱石で防いだといえど生身では仮面ライダーの衝撃は全然いなせない。さらにこれでもかと言わんばかりに追撃の連打を喰らわす。

 

一海「友情!熱情!激情!これが俺と環の力だァァァ!!!」

 

Scrap Break!!!

 

エネルギーが溜まっていく。黄金のヴァリアブルゼリーが肩のマシンパックショルダーから勢いよく噴射しながら宝生にライダーキックをお見舞いした。

 

窃野「や、やめろぉぉぉ!!!」

 

宝生の延長線上には気絶した多部、窃野がいた。しかし一海は止まることを知らず、そのまま3人まとめて壁に激突。その衝撃で壁は崩壊し、3人とも気絶してしまった。

 

一海「はぁ…はぁ…これでようやく終いだ…。」

 

そう呟いて一海は地面に座り込んだ。変身も解け、身体に力が入らない。流石に出血しすぎた。

 

環「…あっという間に倒してしまった…。やっぱり凄いよ、一海は…」

 

気絶した3人をタコ足で捕縛し、武器を押収しながら環はそう言った。

 

一海「凄いのはお前だ環。あん時いつものお前だったら俺は死んでた。お前がいたから勝てたんだ。そうだろ…?」

 

環「…ああ、そういうことにしとくよ。」

 

そう言って二人は目線を合わせてグッドサインをお互いに向けた。

 

「おい!こっち誰かいるぞ!!!」

 

満身創痍の二人の耳に、自分たちがやって来た方向から突如としてそんな声が聞こえて来た。また敵か…?と警戒する二人だったが、もうロクに戦う力も残っていない。

 

「あれもしかして…カシラじゃない!?赤ちゃん!青ちゃん!こっちこっち!」

 

「カシラ…!カシラーッ!!!」

 

一海「なんだお前らか…。んだよ驚かせやがって」

 

やって来たのは三羽烏。離れた部屋にいたものの、黄羽の嗅覚で人を見つけ、赤羽、青羽の剛腕で壁を破壊しながら救助活動をし続けたと言う。

 

赤羽「にしてもカシラも環さんも、またずいぶんとやられましたね…」

 

青羽「やっぱ俺たちがいないとカシラはダメだな。」

 

一海「お前ら、俺の苦労も知らねえでなぁ…。ったく…」

 

文句を言いつつも笑みが漏れる。これこそがいつもの日常だ。

この状況では捜査を続けるよりもこのまま二人の応急手当て、待機をすることのほうが優先。この笑いある時間は激闘を制した2人へのささやかな報酬だった。

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