切島「ずっと前から聞きたかったんだけどさ、AFOと戦った時、戦兎は怖くなかったのか…?」
神野の決戦から数日、戦兎が目覚めて3日のこと。緑谷、切島、轟、八百万、飯田の5人が戦兎の病室に見舞いに来ていた。
戦兎「んだよ、らしくない質問だな」
いつも熱血な切島だが、今日はやけに落ち着いている。
切島「実際、オールマイトを助けに戦兎と万丈の2人が駆けつけた時、俺たちは駆けつけられなかった…。手が震えちまってよ…。」
A組の5人は助けに行かなかった。今行っても足手纏いになる、先生の言いつけを守らなければいけないと自分に言い聞かせて恐怖を誤魔化していたのだ。だから戦兎らが怖がらなかった理由を聞きたくなった。
戦兎「俺は常にラブアンドピースのために戦ってきたからな。お前らとは経験が違うんだよ」
戦兎の返事は非常に軽かった。あしらわれているのか、誤魔化しているのか。なぜか彼はA組に対しては多少おちゃらけたような、自分の奥底を隠したがる態度を取る。
戦兎「…っていうのは冗談で、怖いか怖くないかで言ったらそりゃ怖かった。俺が初めてビルドに変身した時も、傷だらけのボロボロになってようやく変身したからな。」
今でも鮮明に覚えている。初めてビルドに変身した日のことを。石動惣一にビルドドライバーとフルボトルを渡されて、強くなれると分かっていても、スマッシュと戦う恐怖に負けて変身できなかった。すがりつくしかない状態になって初めて変身できたが、それはあくまで自分が死にかけていたからにすぎなかった。そして今も恐怖心を拭いきることなどできた試しがない。
戦兎「でも俺にとっては、戦う恐怖よりもヒーローじゃなくなることの方が怖かった。」
戦兎は右手に握りしめたラビットフルボトルを見つめながらそう言った。
戦兎「…敵も味方も誰も死なせない。でも俺のせいで死なせてしまった。その時までは俺も戦いに挑む覚悟が足りなかったんだ…。同じだよ。俺も最初は愛と正義を守るヒーローになりたいって思ってた。それだけで動けるほど戦いは甘くはなかった。」
記憶を失った戦兎を支えていた唯一のもの、それが仮面ライダービルドでいること、すなわち誰も死なせない正義のヒーローであることだった。しかし青羽を一度でも殺してしまったことで肉体と精神ともに疲弊し、戦えなくなったのはいうまでもない。
戦兎「でもみんなを守るためには戦わなきゃいけない。どんだけ苦しくても怖くても戦うしかない。そこで挫けたら戦いの恐怖以上に怖くて辛いことが待ってるってわかったからにはな…。」
戦う恐怖と戦わない恐怖、それを天秤にかけ、戦わない恐怖が戦う恐怖を上回らなければヒーローにはなれない。特にヒーローになるという漠然とした夢を語るのであれば尚更だ。しかしこの世界のヒーローはその限りではない。だからこそ自覚しなければいけないのだ。ここで負けたらどうなるか、逃げたらどうなるかを。
切島「戦い以上の…恐怖…」
戦兎の話を聞き、切島をはじめとするA組5人は下を向いて黙ってしまった。戦い以上の恐怖、それについて深く考え始めてしまったのだ。
戦兎「っていうかなんだよ藪から棒に。んな辛気臭いこと話してたらつまんないだろ?せっかく俺のお見舞いに来たんだったらお土産の一つくらいよこして楽しい話でもしなさいよ」
俯いているみんなに対して戦兎はふざけた様子でそう言った。
八百万「そ、そうですわね!でしたらお茶にしましょう!個室のベッドですし、私プリンとお紅茶をお持ち致しましたの!」
轟「それなら俺と緑谷で買ってきたフルーツもあるぞ。食うか?」
切島「おっ、じゃああれ作ろうぜ!プリンアラモード!」
戦兎「なんでだよ!…まあ上手く食べれるならなんでもいいけど」
八百万「でしたら私が容器をお作りしますわ!」
緑谷「じゃあ僕と飯田くんで足りないもの買ってくるよ!」
暗い話から打って変わって、何故か病室でプリンアラモードを作ろうとという流れになった。とはいえ辛気臭い話をされるよりはマシだし、何より美味しいものが食べられるならそれで十分だった。
そしてその日を終えるころにはもう戦兎の話はすっかりと切島の脳内から消えてしまっていた…。
天蓋「まさか天井を破るとは…」
時は現在、万丈がツインブレイカーで天井を落とした後のことだった。
切島は"硬化"で軽傷、ファットガムは既にある脂肪と万丈が庇ったことによってほとんどダメージを受けていない。
乱波「天蓋!バリア出すなっつったろ!」
そして乱波と天蓋は"個性"のバリアでガード。ほとんど誰にも被害はなかった。
天蓋「しかしヒーロー…、こんなことをしても我々は倒せませんよ」
乱波「天蓋無視すんな!泣くぞ!」
乱波は天蓋のバリアを内側からドンドンと叩く。このバリアは乱波の力程度では割れないようだ。
天蓋「はぁ…仕方ない。バリアは解く。だが早く終わらせろ」
そういうと天蓋はため息をつきながらバリアを引き上げた。
乱波「あいよ!っつーわけで兄ちゃん!第二ラウンドだ!」
万丈「望むところだ!俺もコイツを使う隙が欲しかった!」
そういうと、万丈は戦兎から事前に受け取ったとあるものを右手で取り出した。
乱波「なんだその武器は…!」
万丈「クローズマグマナックル!最強の武器だ!」
それは紅蓮の
桐生戦兎がこの戦いをするにあたって、ギリギリで仕上げてきた強化武器だ。しかしまだ万全ではない。
万丈(確かまだ変身はできねえんだったよな…)
そう、まだ万丈は変身できない。理由は主に二つ。
一つは時間が足りなかったために装備をまだ作りきれていないこと。そしてもう一つはドラゴンマグマフルボトルが未だに完成していないことだ。
特にドラゴンマグマフルボトルに関しては現在の技術では代用不可能。しかも単にドラゴンゼリーを燃やしたり加熱すればいいというわけでもない。
これによりこのクローズマグマナックルは変身機能を失っている。
乱波「最強…!いいなお前!!!」
万丈「お前こそ!」
乱波は万丈の言葉に触発されて殴りかかった。
それと同時に万丈はクローズマグマナックルの
万丈「俺はもう止められねェ!!!」
乱波の拳と万丈のナックルがぶつかり合う。その度に
乱波「アッ、熱いッ!!!」
マグマの如き拳は触れるたびに乱波の皮膚を爛れさせる。今までは速度のある拳で押すことができたが、万丈の攻撃が熱く突き刺さるために拳の速度も維持ができない。
万丈「オラオラァ!」
さらに万丈は果敢に攻める。だんだんと乱波は疲弊し、ダメージの蓄積が大きくなり、さらには拳も落ちていった。
乱波「はぁ…はぁ…」
天蓋「まずい!バリア!」
その様子を見た天蓋は再びバリアを生成。少し乱波を休ませようという魂胆だ。
万丈「クソッ!バリアが破れねえ!!!」
バリアをなんとか破ろうと何度も何度も殴るが、それでもバリアは割れない。ドラゴニックイグナイターを何度も押し、極熱の炎にして殴り続けてもなお割れない。もうすでに20回は殴っている。
万丈「こうなったら…これでどうだ!」
万丈はドラゴンフルボトルをクローズマグマナックルのフルボトルスロットにセットした。
【Bottle Burn!!!】
そしてドラゴニックイグナイターを押し続けてエネルギーをチャージ。待機音が流れ、どんどんと蓄熱されていく。
万丈「オラァ!!!」
【Volcanic Knuckle!!!ACha!!!】
万丈は思いっきりバリアを殴った。するとバリアはピシピシと音を立て始め、ヒビが入っていく。
万丈「もう一回!!!」
【Bottle Burn!!!】
再び万丈はドラゴンフルボトルをセット。ドラゴニックイグナイターを押してチャージを始めた。しかし…
万丈「熱ッ!!!」
途中、万丈はあまりに熱くなったクローズマグマナックルに耐えきれず、ナックルを投げ出してしまった。20回以上もエネルギーを溜めれば熱もその分溜まる。さらに一度必殺技を放った後でこの蓄熱。もはやクローズチャージに耐え切れる熱量じゃなかった。
天蓋「今だ乱波!」
万丈がナックルを投げたその隙を敵は逃さない。バリアがすぐさま解除され、乱波の拳が今にも殴り掛かろうとしている。
切島「させるかァァァッ!!!」
しかし乱波が万丈を殴るよりも早く、切島が体を張って乱波のパンチを受け止めた。しかもそのまま吹き飛ばない。
天蓋「なにッ!?貴様…恐怖に屈したのではないのか!」
切島「そうだ!でも今はちげぇ!戦うことより…動けねぇで後悔する方がよっぽど怖ぇ!!!だから戦う!!!そうだろ!戦兎!!!」
万丈「戦兎じゃねえよ万丈龍我だ!」
ふと思い出した戦兎の言葉。戦うことよりも怖いもの。それが戦いへと突き動かす。動かなければ…戦わなければ勝てない。
乱波「なんだこいつッ!倒れねえ!!!いいな!!!」
それを理解した切島は倒れない。割れた側から固めていく。今の切島にはそれが精一杯。万丈みたいに反撃も、動くことすらもできない。しかしそれでいい。守り抜くこと。それこそが"盾"の役割なのだから。
切島「これで…十分か…」
万丈「ああ…!あとは任せろ!!!」
熱くなったクローズマグマナックルを気合いで拾い、構える。加えてスクラッシュドライバーのレバーを押し下げた。それと同時に切島はダウン。地面に倒れ伏した。
天蓋「バリア!最大防壁!」
乱波「無駄だ。割られる。」
2人は万丈の気迫を感じとる。最大の攻撃。それに勝つことはできない。
【Volcanic Knuckle!!!ACha!!!】
【Scrap Break!!!】
発動途中であったクローズマグマナックルの必殺技、そしてクローズチャージ自身の必殺技、二つの力を右拳に集結。その拳は天蓋のバリアを貫き、乱波、天蓋もろとも数十センチもの穴が開くほどに吹き飛ばした。
万丈「…勝ったぁ…にしても疲れたぁー!」
勝利を確信した万丈はようやく変身を解き、ゴロンと床に大の字になって寝そべった。
乱波「やるな…お前…」
万丈「うおっ!?まだ戦えんのかお前ッ!」
徐に立ち上がった乱波に驚き、急いで立ち上がってドラゴンゼリーを取り出した。
乱波「…待て…。奥で応急処置くらいはできる。そいつらみんな手当するぞ。ケンカはそっからだ…」
万丈「…は?えっ、あっおう…わかった」
突然の提案に万丈は混乱していたが、今の乱波にはさきほどのような力も残っていないと判断。さらによく見るとバリアのヴィランは気絶。それならばもし何かあっても苦戦しないだろうと、大人しく切島とファットガム、天蓋を運び出した。もちろん天蓋は手首を締めて。
万丈「これでよし…!はぁ疲れたーっ!」
万丈は椅子に思いっきり腰掛けた。
万丈「てかお前、ヴィランなのにお前良いやつだな!」
乱波「お前らこそ…強くていいやつだ。赤髪のそいつも、ベルトのお前も。俺はお前ら2人が気に入った!再死合をしよう!」
万丈「おう!次はタイマンでな!」
そういうと2人は熱い握手を交わした。
ファットガム「…ほんまごめん、邪魔するようで悪いんやけど、自分この後捕まるんやで」
ようやく気絶から起きたファットガム。2人の話からとりあえずヴィランは無事に倒し、何故か意気投合しているということだけは察した。
ファットガム「…すまんな、君たち2人に任せてしもて。」
万丈「なんとかなってんだしそれでいいじゃねえか!」
ファットガム「それはそやけども…」
万丈「って、そうだ!他のみんなも迷子になってるかも知んねえ!俺ちょっと探してくる!」
ファットガム「ちょっ、まっ!」
万丈はそういうとファットガムの静止も聞かずに走り出して行った。取り残されたのは気絶している天蓋、切島と乱波、ファットガムの4人。どう考えてもまずい。
今乱波にでも攻撃されようものなら…。と最悪な考え事をしていたファットガムだったが…
乱波「なんもしねえよ。あばらも肩もイカれちまってろくに動けねえ。てかヴィランの俺がいうのもなんだが、俺を捕まえずに怪我人放置してどっか行くって、相当のアホだなアイツは」
ファットガム「そうやな…俺がおるからって安心しきってたなぁ。あとで説教やこりゃ」
2人は万丈の脳みそを憂いて苦笑いした。
万丈「ぶぇっくしゅん!…なんか噂されてんのか?まあいいか!」
一方で万丈は馬鹿扱いをされているとも知らずに呑気に戦兎達を探しに走りまわっていた…。