平塚先生と結婚する話   作:Asarijp

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6 平塚先生が婚活を諦めそうになる話

「どうして……そう思うんですか」

 

 平塚先生はかすれた声で言葉を絞り出した。

 

「自分に男としての魅力がないというのはわかってますから。それでも、平塚先生に誘っていただいて食事をしたり、金閣寺を観光したりするのはとても楽しかった。一生の思い出です。本当にありがとうございました。……それから、僕がはっきりしないばかりに今まで平塚先生にお時間を使わせてしまって、申し訳ありません」

「どうだっていいですそんなこと。……逸見(へみ)先生は、私のこと嫌いですか」

 

 平塚先生は涙を浮かべていた。

 

「僕は平塚先生が好きです。……でも、それだけです」

 

 だんだん自分がみじめになってきて、平塚先生につられるように俺も目に涙が浮かんできた。平塚先生にしてみれば「なんでお前が泣いてるんだ、泣きたいのはこっちだ」と感じるだろう。

 

「僕には平塚先生に与えられるものはない。平塚先生とお付き合いや結婚ができるなら、僕は大いに得るものがあります。あなたは美しく、才能がある。そんな人と親しい関係になれたら、それこそ一生を賭けてもいいと思えるくらい得るものがあるでしょう。でも、平塚先生が得るものはなにもありません。僕は容姿に優れているわけではないし、才能があるわけでもない。今はよくても、少し経って気持ちが落ち着いたら『なんでこんな陰気な男と一緒になったんだ』と後悔するに違いありません」

「それを決めるのは、あなたじゃないでしょう」

 

 平塚先生の言葉に、俺はうなずいた。

 

「確かに、それを決めるのは平塚先生です。でも可能性の高い推測だと思いませんか。人間関係は精神的な意味も含めてお互いに利益がなければ続きません。平塚先生は僕のことが好きじゃない。その上なにかにつけて僕にお金も出してやらなければならない。それでどうして関係が続くというんです」

「……逸見先生は、私と結婚するのが嫌なんですか? まるで私と離れる理由を探しているみたいです」

 

 平塚先生は責めるような視線を俺に向けた。

 

「あなたと結婚できるものならしたいですよ。でもうまくは行きません」

「そんなの、やってみなければわからないでしょう」

「それでダメだったら、どうするんです? 平塚先生はそのとき何歳なんですか? そこからいい相手を見つけて結婚できるんですか?」

 

 抗弁を続ける平塚先生に対して、つい語調が強くなった。

 

「……平塚先生が結婚したい理由はわかりませんが、幸せな人生を送りたいというなら、僕を選ぶのは分の悪すぎる賭けですよ。平塚先生ならもっといい相手が見つかります。あなたと一緒に幸せになれるような相手が」

 

 鼻をすすりながら俺の話を聞いていた平塚先生が、俺の言葉を受けてキッと俺をにらみつけた。

 

「……どこにいるんですか。そんな相手が、どこにいるって言うんですか。あなたが結婚してくれないなら教えてくださいよ」

 

 平塚先生はシートベルトを外したかと思うと突然俺の胸ぐらをつかんで顔を近づけ、低い声でそう俺に言い募った。

 

「今までいろんな人にそうやって言われ続けてきたんですよ。ずっと探してきたんです、その『もっといい相手』を!」

 

 平塚先生の悲痛な叫びが響いた。

 

「逸見先生、私はあなたがその『もっといい相手』だと思っていました。確かに私はあなたに男性として魅力を感じていない。でも普段の仕事ぶりを尊敬していたし、人間としても信頼できる人だと思っていた。お金がないのも、私が倹約したり実家に頼んでどうにかすればいい。夫婦関係は別にセックスやお金だけでできているわけじゃない。あなたとなら穏やかな家庭を築けるという自信もあった。なのに……それなのに、あなたまで言うのか!『もっといい相手がいる』って!」

 

 そう叫んで俺を射抜くようにしばらく見つめた後、平塚先生は俺の胸ぐらをつかんだまま、俺の胸に顔を押し付けた。

 

「教えてくださいよ……その『もっといい相手』って誰なんですか? どこにいるんですか? いつ出会えるんですか? 明日? 来月? 来年ですか? 10年後ですか? その人は私と結婚してくれるんですか? 答えてくださいよ」

「平塚先生……」

「私のなにが不満だって言うんですか? 美人で、胸も大きくて、頭もよくて、定職もある。実家はお金持ちで、あなたに貢ごうともしている。セックスがしたいなら、このままうちでヤっていったっていいですよ」

「平塚先生、やめてください」

「……男性の求めるものを、私は全部持っているはずです。なにが足りないって言うんですか」

 

 ふいに顔を上げた平塚先生が、涙に濡れた瞳で俺に問うた。

 

「どうして、私は選ばれないんですか……」

 

 平塚先生がしゃくりあげる音と鼻をすする音だけが、しばらく車内に響いた。

 普通ならここで抱き締めたり頭を撫でたりするのだろうが、フった手前そんなことができようはずもなかった。

 

「平塚先生が選ばれないんじゃない。僕にその資格がないってだけです」

「……なんですか資格って」

「僕も中学高校で平塚先生と同じようにいじめられていたり孤立したりしていたって、さっき話したでしょう? 僕は()()()()()からいじめられていたんですよ。そういう環境だったんです。事故で寝たきりになる前の母は、仕事から帰ってきたときに僕が勉強していると『勉強する暇があるなら家事のひとつもやれ』と小言を言いました。……平塚先生はそういう環境、想像できますか?」

 

 平塚先生が再び首を横に振る。

 

「そうですよね。大学に入って他の学生と話したときに、彼らはむしろ『勉強しろ』と親や先生に尻を叩かれて大学に入ったと聞いてカルチャーショックでした。……平塚先生、僕が育ったのはそういう環境なんです。だから……」

 

 鼻の奥がツンと痛み、目頭が熱くなる。

 俺が途中で黙ったことを不審に思ったのか、平塚先生は涙に濡れた顔を上げて俺を見た。

 

「だから、僕は()()()()()()()()()()()()()()んです」

 

 俺は「すみません」と小さく断って、あふれてきた涙を指で拭い、鼻をすすった。

 

「勘違いしないでください。平塚先生が悪いわけじゃない。あなたが恵まれた家庭に生まれ育ったことはなにも悪くない。それはむしろ素晴らしく、喜ばしいことです。悪いのはそんなことを思ってしまう僕です」

「逸見先生……」

 

 余りに自分がみじめで笑えてきたのか、自嘲するような苦笑いが出た。

 

「でもねぇ……でもダメなんですよ。『俺が平塚先生のような生まれ育ちだったら』って、どうしても考えてしまうんです。『そうしたら、もしかしたら俺の夢は叶っていたんじゃないか』って。もちろんそんなのわかりっこないし、あり得えない空想です。自分の無能さや努力不足を棚に上げた、都合のいい妄想です」

 

 平塚先生の肩をつかみ、そっと助手席に押し返す。

 

「資格がないというのはそういうことです。あなたを妬むような人間が、あなたにふさわしいとは思えません。それなのに、平塚先生と過ごす時間があまりにも楽しくて、つい夢を見てしまいました。……ごめんなさい、あなたの気持ちと時間を無駄遣いさせてしまって」

 

 平塚先生は涙を流しながら口に手を当て、なにも言わないまま助手席のドアを開け、車を降りた。

 

「さようなら、平塚先生」

 

 返事のないまま乱暴にドアが閉められ、平塚先生は足早にタワーマンションのエントランスに消えて行った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 逸見(へみ)先生にフラれて自宅に帰った後、私は着替えもせず、メイクも落とさないまま、4Lペットボトルの焼酎をコップに注いで一気にあおった。

 

「……水じゃないか」

 

 思い出した。これ音羽の滝で汲んで怒られた恋愛成就の水だ。

 なにが恋愛成就だ馬鹿にしやがって。フラれてるじゃないか。

 

「うまくいかんなぁ……」

 

 酒でも飲んで寝てしまおうと思っていたのに、買い置きの酒もないことに気が付いた。タバコすらちょうど切らしている。

 なにもかもうまくいかない。

 

 仕方なく割りものとして買ってあるジンジャーエールを飲みながらテレビをつけ、動画配信サービスでバラエティ番組を適当に探して再生する。

 そういえば逸見先生とやった文化祭の打ち上げで寿司屋に行ったときもジンジャーエールだったな……あの時は私が車を出したから酒が飲めなくて……って、なんで私をフった男のことを思い出してるんだ私は。

 

「なーーーにが『僕には資格がないんです』だ! 悲劇の主人公気取ってんじゃねーよばーーーっかじゃねえの! 私みたいな上玉逃がしたことを一生後悔しろばーかばーか! ばーか……」

 

 テレビから観客の笑い声が入る中、私は独り言を言いながらはらはらと泣いていた。

 別に好きでもない男にフラれたくらいでなんで泣いてるんだ私は……。

 

 もしかして10年後もこんなふうにバラエティ番組の音が響くだけの自室で泣きながら独り言を言っているのでは……?

 お、恐ろしい……。そんなことがあってはならん!

 

 だいたい、偏差値70超えの頭脳と誰もが振り返る美貌、170cm超えの長身に大きなおっぱいを持つこの平塚静がフラれるなんて、お天道様が許してもこの私が許さん! 婚活再開じゃあ! なんなら逆ハーレム作っちゃうもんね!

 まずは2件立て続けに入っている友人と親戚の結婚式だ。私より先に幸せになりやがってちくしょうめ! しかし新郎側の友人など独身男性出席者は狙い目だ。どちらも出席者は医師・上場企業勤務・官僚・弁護士・経営者が多いと聞いている。そして私が30過ぎて独身彼氏なしなのを知っている友人や親戚は、私の動きをそれとなく援護してくれるはず……!

 

 そういうことを考えながら、鼻をズビズビすすりつつクローゼットを開けて結婚式に行くドレスを探す。夏休みに親戚の結婚式で着てクリーニングに出したばかりなのに、こんなすぐにまた着ることになろうとは……。

 

「めんどくさいな……」

 

 ため息と独り言が出た。

 

 考えてみたら逸見先生と食事に行ったりするのは楽だった。もう何年も同僚をやっているから仕事の話すれば場は持つし、今日は趣味の話もできそうなことがわかったし、なにより変に気を使う必要がなかった。フラれたけど。

 

 そしてたぶん私はもう、長続きしないかもしれない人間関係を一から築くことに飽き始めている。

 

「もう婚活も最後にするか……」

 

 親戚のおばちゃんに頼めば見合いのセッティングしてくれそうだし、今回ダメだったら最後の手段としてもうそれでいいか……。

 

 逸見先生、悪くない相手だと思ってたんだけどな……。「あなたの生まれ育ちが僕には合いません」って言われちゃったらもうどうにもならんよなぁ。

 

 そもそも「生まれ育ち」なんてことをこれまで生きてきて意識したことがなかった。「どうやら私の実家は他よりちょっとお金持ちらしい」ということにちゃんと気づいたのは、おそらく就職してからだ。それまで私の周囲にいたのはどうやら「いいとこの子」で、私もその一人だったのだと気づいたのもそうだ。

 

 逸見先生は今まで生まれ育ちでなにか言われたことがあったのだろうか。この21世紀の日本で、生まれ育ちに関して後ろ指を指されるような環境があるのだろうか……。

 逸見先生が最後に話した環境は、確かに私には想像もつかないし理解もできない。逸見先生が言うとおり、私と逸見先生は「住む世界が違う」のかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 習慣とは恐ろしいもので、男にフラれても一晩寝れば翌日からまたちゃんと「先生」ができてしまう。

 

 しかし私が修学旅行の後に逸見先生にフラれたのと同時に修学旅行で仲よくやっていたはずの奉仕部でも問題が起こっていたし、奉仕部以外に生徒会役員選挙でも立候補者が集まらないという大問題が起こっていて、極めつけはやっと出てきた生徒会長の立候補者が勝手に立候補させられていたという最大の問題だ。

 

 修学旅行までは順風満帆ではなにせよ大体うまくいっていたのに、修学旅行が終わってから怒涛のごとく問題が押し寄せてきた。どうしてこうなった……。

 踊り出したいところだが、そんな暇もないくらいには忙しい。

 

 一色と城廻を連れて奉仕部に生徒会長立候補の件について依頼した後、私は職員室に少し急いで戻った。

 

「厚木先生。すみません、遅れました。例の生徒たちは?」

「手の空いてる先生がた総出で話聞いてもらっとるとこ」

 

 職員室には厚木先生と教頭先生しかいなかった。他の先生方はみんな今回の一色の架空の立候補に推薦人として署名した生徒たちの事情聴取に回ってくれているらしい。

 こういうときは一度に全員を一人ずつ指導しないと口裏を合わされたりして厄介なことになる。そのため、手の空いている先生方を動員して30人を一人ずつ別室に入れて事情を聞いているというわけだ。

 

「平塚先生、立候補させられた生徒は大丈夫そうかの?」

「本人は気丈に振る舞ってますが、場合によってはなにか追加で手を打つ必要があるかもしれません」

「とりあえず様子見か。生徒会選挙は?」

「奉仕部に話をしてきましたが、どうなるかは不透明です。申し訳ありません。すぐに別の立候補者を探します」

「まぁ最悪の場合は既に立候補がある副会長と会計を会長と副会長にスライドさせて、とりあえず体裁だけつけるって形になりそうだが……やっぱりそれじゃあなぁ……」

 

 生徒会役員選挙の候補者がいないのは、実を言うと生徒会担当の私にとってかなりまずい。事前に1・2学年の担任の先生方にめぼしい生徒に声をかけてもらっていたが、会長候補は立候補させられた一色以外におらず、書記の立候補者もまだ出ていない。

 正直に言えば、雪ノ下が会長に立候補して残りの奉仕部メンバーもそのまま生徒会にスライドしてくれると、私にとっては一番都合がいい。しかし奉仕部があの調子ではそれも望み薄だ。

 

 本当になにもかもうまくいかんな……。

 

「平塚先生。生徒が立候補せんのは平塚先生だけの責任じゃないけぇ。生徒会は生徒の代表じゃからまず1・2年の生徒全体の責任であり、立候補が出るような指導ができなかったわしら教員全体の責任よ。あんまり一人で抱え込まんようにな」

「はい……」

「やることはやっとったんじゃから堂々としとったらええんじゃ」

 

 厚木先生がめずらしく上長らしいことを言うので、思わずホロリと泣いてしまいそうになった。

 

 事情聴取が終わって具体的な状況や生徒の言い分が明らかになったのは、すっかり日が暮れた頃だった。

 問題の生徒たちを一旦家に帰し、生活指導部の教員で善後策を協議した結果、問題をしでかした生徒たちには保護者に事情を伝えた上で反省文の提出を求めることに決まった。同時に一色のいる1-Cの担任には、いじめに発展している可能性もあるので教室での動向に注意してほしいと伝達したが……。

 

「ありゃあいかんわ」

 

 という厚木先生の言葉が端的に表すように、1-Cの担任はけっこうアレだ。問題が延焼しないことを祈るが、授業で1-Cに行く先生方にも話を通して気にしてもらうべきだろう。

 一番身近な1-Cに授業に行く教員は逸見先生だ。あんなことがあって話をしにくいというのが正直なところだが、仕事となればそうも言っていられない。

 

「逸見先生。今いいですか?」

 

 私は斜向かいの席で残業している逸見先生に声をかけた。修学旅行中に職員室内の席の配置が変わり、私の隣の席だった逸見先生は私の斜向かいの席に移っていた。

 

「はい。さっきの件ですか?」

 

 逸見先生は問題を起こした生徒たちの事情聴取を手伝ってくれていたので話が早い。

 

「架空の立候補をさせれられた1-Cの一色いろはなんですが、逸見先生、授業で1-C行かれますよね? その後もなにか問題がないかどうか気にしてやってもらえませんか」

「わかりました。……クラスの半分近くが関わってたとなると、一色はしばらくやりづらいでしょうね」

「そうですね……一色は普段の授業態度はどうですか?」

 

 私は1-Cに授業に行かないので、彼女の普段の様子を見たことがない。

 

「うーん、あんまり真面目ではないですね……成績も可もなく不可もなくというところです。僕も授業に行くだけなので詳しくはないんですが、聞くところではあんまり同性に好かれるタイプではないみたいですね」

 

 逸見先生はマイルドな言い方をしたが、あれははっきりと同性に嫌われるタイプだ。今回の一件を契機にうまくやる術を身につけてくれるといいが。

 

 それにしても、逸見先生の私への態度が本当に変わらないのには感心してしまう。私はおろか逸見先生だってボロボロ泣くくらいのことだったのに、まるで何事もなかったかのようだ。まぁ私も同じだからお互いさまか。

 

「そういえば平塚先生、生徒会の立候補者は揃いました?」

「いえ、会長と書記はまだです」

「そうですか……」

 

 副会長候補となっている本牧牧人は担任の逸見先生が本人に打診して立候補した生徒だが、本牧の態度を見るに、おそらく逸見先生が頼み込んで立候補()()()()()()と言うほうが近いのではないかと思う。

 

「一色いろはの件で奉仕部に話を持って行っているので、彼らが揃って立候補してくれると私としてはありがたいんですけどね……」

「雪ノ下、生徒会長向いてそうですもんね」

「そう! そうなんですよ。でも奉仕部は今ちょっと……アレなんですよね……」

「なにかあったんですか」

「詳しくはわかりませんが、なにかあったんでしょうね。部室の空気がギスギスでした」

「修学旅行ではあんなに仲よさそうだったのに……」

 

 人間関係なんて変わるときは急に変わるものだ。私と逸見先生の関係みたいにな!

 

 

 

 

 

 結論から言えば、生徒会役員選挙は無事に終わり、12月に入ってやっと新生徒会が発足した。

 

 あまりに選挙が後ずれしたので、新生徒会がやるべき仕事は城廻の代の生徒会に処理してもらったものも多い。

 城廻には近いうちにラーメンを奢ってやろう……来年の春には卒業してしまうし、私もおそらく今年度で転任だ。

 

 そして新生徒会には、ちょうど海浜総合高校からお誘いがあったクリスマスイベントの開催を命じた。

 

「マジですか」

 

 一色はあれこれと理由をつけて仕事を回避しようとしたが、言われ仕事というのはいつでも突然降ってきて回避できないものなのだ。すまじきものは宮仕え。若いうちから知っておけ。

 

「マジだ。一色、新生徒会の初仕事だぞ。存分に力を発揮してくれ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、きみの意欲には期待している。まぁ発足直後の生徒会には少し荷が重いかもしれないが、()()()()()()()()というのも手だな、うん」

「はぁ、わかりました……」

 

 肩を落としてトボトボ職員室を出ていく一色を見送る。

 奉仕部は生徒会選挙が終わってもどこかちぐはぐなところがある。一色の依頼をきっかけにまたうまく歯車が噛み合ってくれるといいが……。

 

 比企谷の策略の結果として一色が生徒会長をやる気になったというのは、雪ノ下から話を聞いてなんとなくわかっている。しかし一色自身がやる気になったという体裁は大切だ。

 一色に責任感が出てくるにはまだもう少し時間がかかるだろう。1年生で生徒会長というのは大変だろうが、一色にはこれから1年間頑張ってもらわなければならない。私はすぐにいなくなってしまうだろうから、1年後の姿を見ることはできないが。

 

 総武高校での勤務年数を考えると、私は3月いっぱいでおそらく転任することになるだろう。せめて今の2年生が卒業するまで……奉仕部の連中が巣立っていくまではいたかったが、こればかりは巡りあわせと考えるしかない。

 

 そして、逸見先生とも今年度でおそらくお別れだ。もちろん今年度いっぱいで逸見先生も異動ということはあり得るが、異動先が同じということはまずない。

 もうフラれたんだしどうでもいいじゃないかと頭では思う一方、釈然としない気持ちもある。あんな終わり方でよかったのだろうか……。我ながら未練がましいことだが、そういうことをくよくよ考えてしまう。

 

 とりあえず今週末の友人の結婚式でいい人に出会えるかどうかだな。

 生徒会選挙期間中に行われた親戚の結婚式で得たのは、ディスティニーランドの無料券2枚と引き出物だけだった。「一人で2回行けるね!」じゃないんだよなぁ……。

 

 

 

 

 

「静、今日は来てくれてありがとう! ごめんねー受付頼んじゃって」

 

 今回の結婚式では受付を頼まれているため、早めに式場に入って新郎新婦に挨拶をする。友人の結婚式で受付をやるのももう何回目になるだろうか……。

 

「なに、友人の晴れ舞台なんだ。構わんさ。任せておけ」

「新郎側の受付の人はもう来てるんだけど、その人も独身だってよー?」

 

 新婦が肘で私を小突く。

 

「……ど、どんな感じの人?」

「んー見た目ちょっと怖そうな感じだけど、腰の低い人だったよ。静と一緒で高校の先生なんだって」

 

 ご同業か。やっぱり教員というのは会社員と比べると特殊な面も多々あるし、同じ教員だとその点付き合いやすいよな……。

 そう思いながら式場の係員さんに案内されて受付に行くと……。

 

「あ」「え」

 

 そこには逸見先生がいた。

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