異世界迷宮で縁壱を目指そう 作:異世界TS奨励委員会
「貴様が、セルドラか……」
この世界で最強の
「おまえは……新手の使徒か?」
「…………」
問いかけられる。陽滝の開発した呪術《リーディング》により、日本語と異世界の言葉が自動的に翻訳され、意思疎通が可能だった。
竜人セルドラの侵攻により、私たちは、三手に別れることになった。
陽滝と、老人の男は、拠点にとどまる。兄は、フーズヤーズの姫を連れて、ファニアという地へと、私たちの前に造り出された『理を盗むもの』の回収のために向かった。私と、若い女性、そして子供の姿をした者は、このセルドラの迎撃だ。
「ふふふ、驚きなさい! この子は、異世界から私たちが召喚した『救世主』。『月の理を盗むもの』相川理河よ? 前の三人とは違って、私たちに協力してくれているわ!」
私ではなく、年若い女性の姿の者が、自慢げにそう語る。
「異世界からの召喚……? お前たちは……っ、おまえたち使徒は本っ当にクソだ……! クソじゃねぇか……っ!! まだ子ども……それも召喚……って、ただの人攫いだろう、それは……っ!! それに……これは、ティティーと同じか……? 妙な『呪い』を……胸糞
竜人の口から出たのは否定の言葉だ。
使徒の行動は、人道という観点から見れば、確かにおかしい部分が多い。セルドラという男は、あるていど一般的な感性の持ち主だった。
「ここは……私が相手をいたします……」
渡された剣を握り、前へと出る。
刀ではない。西洋の諸刃の剣だ。扱いづらいが刀はなかった。
私の目的は、このセルドラという男であった。いわく、最強の生命体。あらゆる攻撃に『適応』し、攻撃を喰らえば喰らうほどに強くなる。
この世界の『最強』に興味があった。ゆえに、無理を言い、こちらへとついて来たのだった。
「そんな使徒どもの味方をする必要はないだろ……! 俺があいつらと戦ってる間に、おまえは逃げろ!! わかったか?」
だが、竜人の男は使徒へとばかり、殺意を向けていた。
この竜人の男には、私は敵として、見られていないことを確信する。
「なにいってるの? 理河は逃げないわ!! 私たちに協力してくれるって約束したのよ! それに、病気の陽滝……理河の双子の妹を治す約束もあるし……」
「は……っ! 家族が人質ってわけかよ……!! 余計気分が悪くなる……! おまえたち使徒は本当に……!!」
「世界のために働けるのよ! 光栄なことでしょ!」
セルドラは、竜の両翼を広げる。
竜人種と、名に違わず、『元の世界』では伝説で語り継がれていた竜が、人に混じっている。それだけではなく、変化している。翼に、爪と、徐々に竜の色が濃くなる。
「それを、他人に押し付けるのがクソだって、言ってんだよ! 『竜の風』ぇえぇ……え!」
翼をはばたかせる。
自然のものではない風に加速をし、私を飛び越え、男は私たちを召喚した女のもとへと、その竜に近づき肥大化した腕を振るおうとしていた。
跳び上がり、剣を用いて、その攻撃を受け流す。
「私の相手を……してもらおう……」
「……っ!?」
不自然な風な流れとともに、竜人の男が後ろへと
今の一瞬の接触により、男は私を脅威だと、ようやく認識できる。
「『異邦人』相川理河だ……」
「『
男が覚悟を語ったその後に、『魔力』が僅かに『世界』から溢れ、セルドラに集っていた。
いまの口上がなんらかの『代償』となり、『呪術』が成立していた。
「理河……危険だわ。ここは私に任せなさい?」
「いや……手出し無用……」
呼吸を用いて、身体能力の強化をおこなう。
――《月の呼吸・壱の型 闇月・宵の宮》。
刀ではないゆえに、本来の威力は出せない。
そもそも西洋の両刃の剣と、薄く鋭く研いだ片刃の刀では、用途が違う。繊細な加減ができない。
「く……っ、どうなってやがる!? 使徒じゃないのにか……?」
並の少女ではあり得ない身体能力を発揮する私に、男は困惑を隠しきれずにいる。
「カナミの《レベルアップ》のおかげ……、いいえ……それだけじゃ……ない?」
それ以外に、私の身体能力を底上げしている要因といえば、『呼吸』だ。
この異世界へと来る前に、陽滝により重ねられた身体強化は、兄の開発した《レベルアップ》にまぎれ、うやむやになっている。
「これが……最強の生物か……」
その強固な鱗は剣で裂いた。
腕に、足、翼に胴体……あらゆる部位が切り刻まれ、瀕死とも言える状態に、男を追い詰めている。
だが、男は余裕の顔を崩さない。
「くはっ……。クハハッ……! 並の斬撃は、飽きたはずだった……いや、関係ない……。もう、すでに、『つまらない』……」
「……もうか……」
血まみれの腕に、その竜の鱗に、剣が抑えられる。
先ほどまで通用していたはずの斬撃が通じなかった。
わかってはいた。
この男の竜の鱗は、徐々に徐々に、斬り難くなっていたのだ。鬼の血鬼術のような、『適応』という性質は使徒により、聞かされていた。
だが、鬼のように傷が忽ちに治るわけではない。まだ、成長途中。竜人として、完成の域にあるわけではないのだ。
今ならまだ、
――《月の呼吸・弐ノ型 珠華ノ弄月》。
一段階、呼吸を深くする。
痣が僅かに広がった感覚がある。
生半可な覚悟の上で、相手をしていいような敵ではなかった。
その『適応』を完全に果たされる前に、一太刀にて仕留める。討ち損じては、さらに強くなり立ちはだかる。厄介極まりない。
腕の鱗を裂き、さらに深く。
「クハハッ……。確かに俺は『適応』した……それをこの短期間に越えた……。いや、さらにそれに『適応』し返したのか? 人間の女か、これが……?」
軽口を叩きながらも、こちらの攻撃に対応していた。
目線や、筋肉の動きに、惑わし、判断を誤らせる動作を混ぜるが、天性の勘か、引っ掛かろうとも、致命となる一撃だけは必ず躱す。
「…………」
息がさらに深くなる。
このままで、『呼吸』だけでなく、『朱い糸』に頼らなければならなくなる。
――否。
「『竜の風』……ぇえぇえ!!」
非自然的に圧縮された風が爆発し、私とセルドラの間に距離が空く。足が宙に浮き、踏み込めず、追撃ができない。
一瞬だった。わずか一瞬で、風に乗り、セルドラは私たちへと背を向けて、すでに遠い空へと離脱していた。
「逃げたか……」
致命傷こそ避けていたものの、身体中が傷だらけで、相当に血も失っていたはずだ。
長く戦えば、状況が悪くなるのはあちらだった。
「アイカワ・ミチカ……ぁあ!! その使徒どもには従うな……!! 逃げろ!! 逃げろぉおお!! 何が『救世主』だ!! 何が『理を盗むもの』だ!! クソみたいな使徒どもの言いなりになるな……ぁ! 力があったって、『生まれ持った違い』がなんだろうと……
世界を震わせるような振動だった。
ただの声ではないだろう。これは、『魔力』を振動へと変換した呪術だ。はるか彼方からでも、その慟哭は届く。悲痛な感情さえともなって、こちらへと届いてしまう。
「あんな捨て台詞を吐いて……! 私の理河より弱かったくせに!」
「セルドラ・クイーンフィリオン……」
加減をしていたとはいえ、仕留めきれなかった。
この体たらくで、果たして次に戦うときは、妹に勝てるのだろうか。頭に疑問が浮かぶ。
思えば、『元の世界』を滅ぼしてから、緩んでいた。命を削るほどの鍛錬を日々繰り返さなければ、妹には
いま、私が『対等』に相手をできているのは、奇跡にも等しい……。
そこまで考え、思考を振り切る。
この『
「……ふぅ……。はっ……ひっ……」
「え、理河……!? 大丈夫?」
***
「お姉ちゃん……大丈夫?」
セルドラとの戦いから帰る際、私は発作を起こしてしまった。
使徒シスに運ばれて、陽滝の元へと戻ってきていた。
「あぁ、大したことはない。自力でも帰れはした……」
身体の限界を越える力を無理やり引き出したときに起こる発作だった。
「陽滝……」
「お姉ちゃんは、病気。力を使えば使うほどに、その病は進行していく」
私の頬の痣をなぞり、陽滝は囁く。
私には『朱い糸』を繋げることにより、『呼吸』の代償から逃れる術があった。本来ならば、あの状況で、限界を迎えるはずがなかった。陽滝に不意を打たれた以外にない。
それは『白い糸』を陽滝が私につなげているからだ。陽滝は私との『繋がり』を断ち切られることを嫌がるため、私たちが競うとき、基本的にそういう妨害はしてこなかった。
「これ、見て……」
陽滝の指差した先は、机で、地図が敷かれている。
その地図の上には、駒が。私と陽滝に似た駒が、まず目に入る。なぜか、その二つの駒は、王冠をかぶっていた。ともに『フーズヤーズ』と書かれた上に置かれていた。
「兄に……セルドラ……。これは……」
地図の『ファニア』と書かれた上には、兄、その他に三つの駒が。『ヴィアイシア』と書かれた場所の周辺には、セルドラ、さらに二つの駒が。
「『理を盗むもの』……それと、『理を盗むもの』にこれからなる者たちか……」
まず、『ファニア』の二人が、兄が回収に向かった『理を盗むもの』だ。
そして、セルドラと共にいるうちの一人が、私たちの前に造られた『理を盗むもの』の三人の中で最後の『理を盗むもの』だろう。セルドラの言葉で、セルドラが『理を盗むもの』の一人と良く知る間柄ということは想像がついていた。
さらに、今は『理を盗むもの』ではないセルドラの駒がある。あぁ、あのセルドラという男から感じるものがあった。
セルドラは、間違いなく――
ゆえに、残った駒は、これから『理を盗むもの』へと至る者たちだとわかる。
「ふふ、お姉ちゃん。これから戦争が起こる」
陽滝はペンで、『フーズヤーズ』と『ヴィアイシア』の間に線を入れる。
北と南に大陸を分けた戦争が起こると示す。
「わかれて……戦おうとでもいうのか……」
私は、自分の駒を『フーズヤーズ』から取り上げて、『ヴィアイシア』の上に置いた。
王冠がついた駒は、私と陽滝のもののみ。そういうことだろう。
「『理を盗むもの』を多く味方につけた方が有利になる。互いに味方の『理を盗むもの』をそれぞれにぶつけて消耗させて、『理を盗むもの』の『魂』を私たちで総取りしつつ、最後に私たち二人で戦う。同じでしょ?」
陽滝は、遊技のことをいっているのであろう。
この世界に来る前に、〝ゲームのような世界にしよう〟と言っていたことを思い出す。であるから、
盤上から、王冠を被った陽滝の駒を取り上げる。
「あっ……」
「であれば……共にはいられぬか……」
常に一緒にいることにこだわってきた妹だ。陽滝から、そんな提案がされるとは、思いもよらなかった。
取り上げた、陽滝の姿をした駒を懐に仕舞い込む。木彫りで、手作りのものだった。
「お姉ちゃん……。大丈夫、これでいつでも会えるからね……」
陽滝が指をさした先には扉があった。この部屋の入り口のものではなく、本来ならこの部屋にはないはずの扉だった。
陽滝のやろうとしていることは想像がつく。
私の住むところにも、同じ扉を置いて、空間を繋ぐ術を用い、いつでも会えるようにしようというのだ。
敵対した陣営に所属するはずなのに、こともなげに密通する。その不実さと、節操のなさに、自身らが世界の敵であると実感する。
最近陽滝は、いろいろと思いつきだけで行動することが多い。最終的には、自分が勝つと、高を括っているからだろう。そんな思考が行動からも如実に伝わってくる。
明らかに陽滝は、気を緩めて、全てに手を抜いている。少なくとも、私の目には、そう映る。だが、陽滝は、それでも世界一つを我が物にできる強者であった。
「…………」
「私に勝てるのは、お姉ちゃんだけ……」
陽滝が指を鳴らすと、転移のために使う扉が消える。存在ごと消えたわけではなく、ただ、光の加減が調節され、見えなくなっただけのようだ。
陽滝は、『異世界』に来て浮ついている。
このままでは、本当に何をしでかすかわからない怖さがある。
「ふふふ……」
私の駒を地図の上から拾い、陽滝は懐の中に入れる。
残った駒と、地図は、陽滝の使う『太陽』の力で焼き尽くされた。この世界も、陽滝にとっては机上の地図同然の存在か……。
陽滝は、私と接触した、セルドラに『白い糸』を繋いだ。
そして、セルドラは、帰った先で『理を盗むもの』と、その候補に接触した。私の力に制限をかけたのは、セルドラを確実に生きて帰らせるため。
その気になれば、今すぐにでも世界全てを『白い糸』で覆うこともできるだろうに、それをしない。
陽滝はできるだけ楽しみながら、この世界を滅ぼそうとしているのだった。
「あぁ……」
そんな、妹の『趣味』につい、溜息がこぼれてしまう。
今の妹様は原作の後日談の渦波さんレベルでけっこう適当に生きてます。夜鍋して『理を盗むもの』の形の駒を作るくらい、かなり心に余裕がある感じです。
セルドラは使徒たちにかなり不信感があって、レガシィはステルスしてますね。
評価、お気に入り、感想ありがとうございます。更新頑張っていきます。
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