異世界迷宮で縁壱を目指そう   作:異世界TS奨励委員会

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11.運命は書き足されて

 完全に慢心していた陽滝の虚を突く出来事があった。

 

「どうして……あなたが……?」

 

「ひひっ……ただいま」

 

 悪戯が成功した子どものように笑うのは、兄とファニアへ旅に出たティアラだった。

 彼女はフーズヤーズの姫で、私たちの兄である相川渦波を好いていた。

 

 陽滝の予定では、このファニアでの旅で、兄と仲を深め、兄が『元の世界』から引きずってきた『たった一人の運命の人の死』という呪いによって死ぬはずであった。

 

「いえ、ティアラ……よく帰ってきましたね」

 

 陽滝は驚きを取り繕う。

 最近の杜撰さは目に余るものだった。こちらへ寄ってきたティアラにまで、その陽滝の感情の揺れ動きは、察せられてしまっている。

 

「へへへ、陽滝姉のおかげかな……?」

 

 確か、陽滝は兄とティアラが旅立つ前にいくつか助言をしていたことを思い出す。表向きはそのことについてであろうが、その言葉に含まれた意味はさらに複雑であった。

 

「ティアラ、あなたは兄さんのことが――」

 

「師匠のことは確かに好きだけど……『恋人』っていうのは、全然違うかなー。むしろ、陽滝姉の方が、師匠とお似合いじゃない?」

 

「私が兄さんと……? ふふ、ティアラはとてもおかしなことを言いますね……」

 

 陽滝は演技で取り繕ってはいるが、怒っていた。その身の内で『太陽』の力を燻らせている。

 平成の世の日ノ本では、血の繋がりのあるものたちが交わることは禁忌とされていた。この『異世界』では事情が違うからこそ、ティアラはそう言っているのだが、陽滝の持った不快感はそこからくるものではない。

 

 まず、陽滝は兄との血縁関係を信じていない。家族ではなく、陽滝は兄を他人として見ている。

 私にねだってくる数々のことを考えるに、陽滝は家族という関係に忌避感を抱くより、むしろ――( )

 

「あぁ、やっぱり……陽滝姉も、理河姉も……絶対に私は()()()()()()よ」

 

 それは宣誓をするようであった。『世界』へと、私たちの道を阻むと、ティアラは言葉を足していく。

 

「いいえ、ティアラ……終わる、終わらないの話ではなく、もう、()()()()()()んです。ですから、ティアラ……あなたのやろうとしていることは、そもそもとして、()()()()()

 

 束となった『白い糸』を足もとからティアラへと、這わせている。

 それでも、ティアラという少女は、毅然とした態度を崩しはしない。

 

「違う、間違ってる……。陽滝姉たちの『異世界』での『冒険』は()()()()()()()。絶対に()()()()()()なんて言わせない! 決して、二人じゃ完結させない」

 

「ティアラ……はぁ……あなたは……。可愛くないですねー」

 

「私は好きだよ? 陽滝姉のこと」

 

「はぁ、本当に……そういうところが可愛くないと言っているんです」

 

 そうして陽滝は、ティアラという存在から視線を外す。陽滝のその超常的な思考能力で、ティアラという存在が、すでに終わっているものになったということがわかる。

 

「ティアラ、あなたは確かに()()。戦いにはなるかもしれません。それでも、手も足もでず、()()には敵わないんです。私たちの絆は誰よりも強い!」

 

 結末まで読み飛ばし、陽滝はそれを伝える。

 ティアラへと、諭すように語りかける。確かにその眼にはティアラが映っているはずだが、心はすでに私へと向いているとわかる。

 

「へぇー、ふーん。そうなんだ。じゃあ、理河姉はどう思う? 陽滝姉のこと。だいぶ惚気てるけど」

 

 陽滝の言葉を軽く受け流し、私へと話を振る。

 考えうる中で、最適な選択をティアラはとっているとわかる。

 

 じっと、陽滝がこちらを見つめている。こちらだけを見つめている。

 

「答えるに値せぬ……ことでしょう」

 

 陽滝がほくそ笑んだことがわかる。手を握って、腕を絡めてきていた。

 

「いいでしょうティアラ。私が相手をしてあげます。あなたの好きな『決闘』は、姉さんとしていますけど、その片手間なら……。――あなたは相川渦波の『たった一人の運命の人』として、死ぬ。必ずです。もう、そう決まっています」

 

「絶対に……、絶対に生き残るよ! 陽滝姉の、最後の頁まで!」

 

「はぁ……それはとても難しいことですよ……?」

 

「うん、わかってる。でも、最後まで……、ちゃんと最後まで生きていれたら、その時は……『対等』――( )そう、『対等』って認めてもらえる?」

 

「そうですね。ティアラ……その時は私と『対等』と言う他にない。その時がきたのなら、しっかりと認めてあげましょう」

 

「陽滝姉、それ、約束だよっ!」

 

 すでに陽滝から()()()()()()()ことをティアラは、気がついていなかった。

 陽滝の誘導により、決定的な間違いをティアラは犯している。

 陽滝との勝負に目を向け、陽滝から目を外した。ゆえに陽滝は冷ややかに笑う。

 

 もしティアラが、『対等』へと至れたとしてもティアラは――( )

 

 

 

 ***

 

 

 

 その男は、異形の姿だった。

 

「カナミの上の妹か……」

 

 黒い泥が流れながらも形をとった、その能面のような顔を、こちらへと向けている。

 

「『闇の理を盗むもの』ティーダ・ランズ……」

 

 兄の相川渦波が、ファニアから連れ帰った『理を盗むもの』だった。

 

 ファニアでの物語は聞いている。『火の理を盗むもの』を嵌め、炎を生み出し続ける装置に変えた領主をすげ替える大立回りを、兄とティアラはする羽目になったという。

 その際に、兄たちは『闇の理を盗むもの』を仲間にした。

 

 救出した『火の理を盗むもの』は、まだ幼かったがために、戦いのない遠い地で、新しい人生を歩ませることとなった。『闇の理を盗むもの』は、ファニアでの兄への恩を返すべく、こうしてフーズヤーズの地まで付いてきたそうであった。

 

「病と聞いたが……、元気そうで何よりだ」

 

「寿命が蝕まれるものでございます……少しずつ、体に限界が来始める」

 

 痣による寿命の死の症状を、説明する。

 平成の世の日ノ本で、解明済みな部分に更に、この『異世界』でも詳しく検査された内容も付け加えていく。

 血流のながれから、体にかかる負荷を見る際には、兄の『次元の力』が役に立っていた。

 

「――なるほど……私の『闇の力』で何か手を貸せないかと思ったが……、どうやら無理のようだ」

 

 そうして、あっさりと匙を投げる。

 このティーダという男は、陽滝の治療の際も、最初こそ張り切っていたものの、まるっきり役に立たず、すごすごと退散していた。

 

 その顔の表情はわからないが、『透き通る世界』で感情を見る限り、気落ちしているのは間違いがない。

 

「まだ、時間はあるので……焦る話でもないのでしょう」

 

 診断された寿命まで、まだ猶予があることを伝える。

 図らずも、呪術《レベルアップ》で私の症状が改善されていると、私と陽滝以外はそう思っている状況であった。

 

「『月の理を盗むもの』か……。聞いていた通りだ。その立ち振る舞い……私の剣術では、まるで勝てる気がしない」

 

「武術は……素人のようにお見受けしますが……」

 

「あぁ、そうだ。剣を振るうのに鍛錬は一切要らない。そうやって私は戦ってきた」

 

 自嘲するような、それでいて誇るような、そんな言葉だった。

 

 戦いというのは、身につけてきた技量だけによって決まるわけではない。戦術があり、戦略があり、この男のその考え方としては、陽滝と近いものなのだろうと予想がつく。

 

「けれど、今私はフーズヤーズの騎士だ。あぁ、騎士らしく、剣術の鍛錬をするのも悪くない」

 

 ティーダは、フーズヤーズの騎士として、人生をやり直していると聞く。騎士として、まじめに、勤勉に働き、人のために、フーズヤーズのために役立っていることに間違いはない。

 

「手をお貸しいたしましょうか……?」

 

「いいのか? 私なんかに……、君ほどの達人が指南をしてくれるのなら、心強いことこの上ないが……」

 

「とはいえども……基礎程度しか、お教え切ることはできぬでしょう」

 

 私の『透き通る世界』によって、ティーダ・ランズの剣術の才が見透かされる。

 おそらく『呼吸』には至れない。剣を正しく振れるようになるにも、多くの時間を要するであろう。

 

「だが、本当にかまわないのか……? 私にそんな技術を教えて……裏切るとは思えないのか?」

 

「大丈夫、ティーダは裏切らないよ」

 

「カナミ……!」

 

 兄の登場に、ティーダは嬉しそうであった。その能面のような顔でも、感情がわかるくらいだ。

 

「盗み聞きでは……」

 

「いや、……いや、理河……違うんだ。少し理河の場所を知りたいって、『次元の力』を広げたら……ティーダと話し込んでいたみたいだから……」

 

 兄は『次元の力』を用いることにより、離れた対象を把握したり、斬らずとも内部の構造を理解できる技術を手に入れていた。

 

「それを盗み聞きと言うんですよ、兄さん。プライバシーの問題もありますから……『次元の力(それ)』を無闇に使うのは控えた方がいいです」

 

 兄とともに、陽滝が歩んでくる。

 あるていどの治療が進んだゆえ、陽滝の顔色はいい。だが、まだ体調は不安定で、調子の悪い日は寝たきりで過ごすこともある。そういう具合だった。

 

「で、でも……もし誰も見てないところで理河や陽滝が倒れたらって考えると……!」

 

「はぁ……兄さんは心配症なんですから……」

 

 もとより、陽滝が植え付けた性格であった。あまりにも白々しい。

 陽滝のおこなった改造により、陽滝の思う理想の兄に近づいている。この兄を見れば、妹の好みがよくわかった。

 

「え……お姉ちゃん……?」

 

 後ろから忍び寄り、陽滝を抱き寄せる。気がつけば、私は陽滝が望む行動をとっていた。

 

「陽滝……」

 

「もう……っ、お姉ちゃんは……」

 

 少しうっとうしいくらいが、陽滝の望みだった。呆れたような言葉であるが、陽滝は満更嫌でもなさそうな表情のまま頬を赤く染めて、嬉しさに身体を震わせている。

 

「ねぇ、ティーダ。こうして二人が仲良くしてる光景をみると、幸せな気分になるんだ」

 

「……そうか、カナミ。それはよかった。しかし、あまり返答に困ることは言わないでくれるか?」

 

「うぅ……、でも……。うん、治すよ。こうして二人がいつまでも仲良くできるように……二人の病気は絶対に治してみせる」

 

「……うーん。私は、カナミのことは応援したいが……うーん、これは……いいのか?」

 

 兄の調子に面食らい、ティーダは困惑しているようだった。仕方のないことでろう。

 

「ティーダ……僕はシスコンと言われても構わないんだ。むしろ、そんなふうに言われるのは名誉なことだと思ってるくらい」

 

「いや、そこまでは言っていないぞ? 確かにそうは思ったが……」

 

「可愛い妹たちがいれば、僕はそれだけでいい。そうだ、ティーダ……陽滝と理河は『元の世界』で……」

 

「あ、あぁ……」

 

 しまいには、聞かれてもいないことを喋り出す勢いだった。付き合わされているティーダには、憐れみを覚える。

 人の良さからか、兄の妹自慢を、遮ることなくティーダは聴いていた。

 

「はぁ……兄さんは……。恥ずかしい。ねぇ、お姉ちゃん」

 

「あぁ、そうだな……陽滝」

 

 一歩引いて、そんな彼らを二人で眺めていた。

 こうして兄の奇妙な行動を見ながら、陽滝と文句を言い合う時間も、もうそれほどないとわかる。

 

 私は、陽滝の言う戦争が起これば、この地を裏切ることになるであろう。

 その時に備え、『理を盗むもの』たちと、簡単に接触し、いくつかのことを確かめておかなければならなかった。

 

「そうだ、理河……! スキルだ。理河もスキルに名前をつけないか?」

 

「…………」

 

 今、兄はティーダとテレビゲームの話をしていたはずであった。

 思わぬ方向に話が飛ぶ。

 

「あ、お姉ちゃん。そうなんだ、兄さんが私の思考能力に、『並列思考』、『収束思考』、『逆行思考』、『分割思考』っていう名前をつけて」

 

「うん、いいだろう? 名前をつけるってことは、『代償』にもつながる。ただ漫然と使っていたものが、一つの技能へと昇華されるっていうのもいい」

 

「兄さん……いろいろ言ってますけど、それは兄さんの病気で……ちゅうにびょ――( )

 

「あー、とにかく……名前をつけよう!! 理河……!」

 

 口では兄に苦言を呈してはいるが、陽滝も乗り気なようであった。というよりこれは、明らかに陽滝の嗜好に寄っているとわかる。

 だが、そもそもなんの技に名前をつけるつもりなのか、わからなかった。

 

「兄上……私は名前をつけられるような技能を持ってはございません……」

 

「いや、陽滝から聞いたんだ。理河は……達人特有のっていうのかな……こう、僕の『次元の力』みたいに、筋肉の動きとかそういうのが透けてわかるって」

 

「透けて……? それは驚いた。達人とはそういうものなのか? 私には想像もつかない世界だ」

 

「…………」

 

 陽滝を見つめる。

 まるで関係ないと言うような顔をしている。見事な『演技』だった。

 

 たしかに、前世の弟も『透けて見える』と言っただけ。みながみな、好き勝手に呼んでいただけで正式な名称はなかった。

 

「うーん、透けるから『透視』とか……いや、これじゃ超能力みたいか……。じゃあ、ちょっと捻って『透見』かな。うん、スキル『透見』だ。これがいい」

 

「陽滝……」

 

「お姉ちゃん。こうなったら、兄さん、きかないから……諦めるか、もっといい名前を考えるかしないと……」

 

 やれやれと陽滝は肩をすくめる。

 無関係を装っているが、これは明らかに陽滝の作った流れだった。

 このまま好き勝手にとされるのは今ひとつ納得がいかないゆえに、口を挟む。

 

「そもそも、透けて見えるだけのものでは……」

 

「え……それだけじゃないの……?」

 

「そうですね……姉さんの『剣術』は、本当に読めない。普通なら、どこを攻撃してくるか、『流れ』は読めるはずなのに、どうやっても読めない」

 

「『流れ』……? 読めないって、陽滝でもなのか……?」

 

「ええ、めいっぱいに頭を使って予測して、誘導して、あとできることといえば、それで防げると祈ることですかね。姉さんが全力なら、間合いに入った時点で普通は戦いになりません。身体を動かすという点なら、姉さんは本当に抜群で、理不尽なくらい。【相川陽滝も敵わない】と言えるくらい」

 

 とても自慢げに、陽滝は私のことを褒める。頬を緩ませて、ベタベタと触ってくる。

 だが、そんな陽滝を尻目に、兄は【相川陽滝も敵わない】という言葉を重く受け止めていた。

 

「陽滝でも……か。うん、やっぱり理河は……。『流れ』……意識みたいなものかな……それが読めないって話だったから、じゃあ、スキル『無我』ってかんじでいこう。スキル『透見』と、スキル『無我』だ」

 

「二つに……?」

 

「うん、二つにするよ。理河の中では、一つの技能(スキル)かもしれないけど、二つのほうが、何ができるのかいろいろとわかりやすい」

 

 私の『透けて見える』力と、その際の『殺気を感じさせない』という結果に名前がつけられる。

 分けられるようなものでもないとは思うが、その兄の提案の裏には陽滝の意図がある。きっと、意味のあることなのであろう。

 

 その『無我』と名付けられた技能に、かつての前世の弟を思い出す。

 強者特有の覇気のようなものはまるで纏っていなかった。攻撃をする直前まで、鬼舞辻という鬼の始祖にその強さを悟らせないほどだった。

 

 今の私もおそらく、少女という見てくれも含めて、立ち振る舞いからは初めて見ただけでは強さはわからない。

 

「……よくわからないが、強そうでいいじゃないか」

 

 ティーダは先の会話では、私の振る舞いから、強者であることを察せるようなことを言っていた。だが、私の実力を客観的に見れば、それは違うとわかる。

 ティーダ自身、剣の素人であることと、兄からの情報の先入観。あるいは、ティーダが自分の判断を信じきれないというのも原因に含まれているか。

 

 ティーダには、『不信』の『呪い』がある。

 身に余る力に、払いきれない『代償』が残り、未だに取り立てられるそれだ。存在するだけで、自身にも、そして周囲にも『不信』を撒き散らし、誰も、自分の心すらも信じられなくなるという『呪い』であった。

 

 戦争が始まり、私が裏切ったときには、まず――( )

 

 この『闇の理を盗むもの』の行く末は、暗いものであろうことが今からでもわかってしまう。

 

 だが、陽滝と『対等』に戦うには、全てを利用するほかない。顧みることなどない。覚悟などとうの昔に決めている。

 どんな手を使ってでも、陽滝には置いていかれはしない……今生こそはという誓いは、まだ守られている。

 

 

 




 ティアラの難易度は原作よりかなり高めです。パーフェクト姉上ムーブを決めて妹様ポイントをたくさん稼いだ人がいるせいですかね……。『対等』になっただけじゃ足りないです。
 かなみんは今、かなり調子がいい。
 まだちょっと日常が続く感じで行きます。



 前回は日刊ランキング四位までいきました。本当に高評価、お気に入りをしてくださった皆様には頭が上がらない思いです。

 「異世界迷宮の最深部を目指そう」キャラファイングラフ、オーバーラップストアにて売り切れから復活してました。8巻、10巻、15巻の表紙です。特に、8巻のはこの作品にも登場しているかなみんと妹様のイラストなので是非一度見ておいても。ちょっとグロ注意ですけど。

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