異世界迷宮で縁壱を目指そう 作:異世界TS奨励委員会
「あ、繋がったみたいですね。音は聞こえてますか? あぁ、大丈夫みたいですね……。それじゃあ今週も始めましょうか」
撮影機に向かって笑顔を見せる。相川家の者として、演技の訓練をさせられたゆえ、たやすいことであった。
「毎週恒例、『世界一位を取るまで終われない配信』でございます」
流れていくコメントを見送る。
陽滝と始めた配信業であった。私も陽滝も、子役として同じ芸能の事務所に所属しているが、配信の許可は陽滝が取り付けて来た。
さまざまなしがらみから、配信による収益は事務所に入り、そこから私たちにまわってくる。私たちはまだ子どもゆえに本来ならば通らない収益化だが、大人たちの手により、それが通っているという現状だった。
「今回はこのゲームです。そうですね……、このゲームはいわゆるマルチプレイヤーオンラインバトルアリー
世間の流れに乗り、陽滝が配信を始めてみようと言ったのが始まりだった。たかが遊戯といえども、やはり日ノ本一の侍を目指した身として、天辺を取らねば気が済まぬ。
そうして始まったのが、『世界一位を取るまで終わらない配信』だった。
「じゃあ、やっていきましょう、姉さん。名前は、いつもどおり相川シスターズで」
「……む?」
入力したが、その名前はすでに存在しています、別の名前を入力してくださいと弾かれてしまう。
「真・相川シスターズでいきましょう、姉さん」
「では、相川姉妹で入力いたしましょう」
今度こそ、名前の入力に成功する。
にわかにコメント欄が賑わっていた。
名前のセンスにあれやこれやと言われて、隣の陽滝は落ち込んだような顔を見せている。
きっと演技であろう。妹は場の盛り上げ方を熟知しているゆえ、立ち回りは完璧であった。
「陽滝、すまない」
「姉さん。今からでも真・相川シスターズに……」
「…………」
名前変更の手続きをして、真・相川シスターズと入力する。
「む……」
すでに使われているようであった。
「そんなにダメですか? 私はいいと思うんですけど……。気を取り直して、まずは恒例の、お金の力で全キャラ解放です」
事前に入れてあったゲーム内通貨により、キャラを一息に解放していく。地道に遊んでいけば、一体ずつ解放できる類いのものではあるようであったが、のんびりと遊ぶつもりはない。
「このキャラクターにいたしましょうか」
解放をした中から選ぶ。それは侍の格好の登場人物であった。
近接攻撃に強く、高攻撃力、攻撃の際には深く踏み込めるよう。
「では、いつもの通り最高レート確認ですね……えっと一七六九……。初期が一五〇〇で、このゲームは、一戦あたり十くらいレートが上がる仕組みでしたから、三十戦くらいですか」
今は土曜、朝の十時。十分に時間はあった。一位を取るまで終わらないと謳っているが、事務所の規範として、十八歳未満の午後十時以降の活動は禁じられている。
無論、一位をとり、終わるつもりである。何度かこの企画をやっているが、その時間制限が問題になったことはなかった。
「さっそく……三対三の対戦ゲームですから、いつものように、最初の数戦はリスナーの皆さんから、交代でメンバーを募集しますよ。レート差が開いたらパーティーを組めないので最初の数戦だけです。画面にパスワードが表示されたら入力してください。早い者勝ちですよ」
画面にパスワードが表示された瞬間、私以外に二人が入り、部隊が結成される。
「えっと、百合愛し隊さんと……えっと……はい、真・相川シスターズさん……ですね」
コメント欄は予想外の盛り上がりであったが、対照的に、陽滝は不服そうな顔をしている。自身の考えた名前が他人に使われて不愉快とでも言いたげな顔であった。
そんな陽滝を尻目に、コントローラーを操作する。
「では、さっそく、対戦に移らせていただきます」
待ち時間は数秒もなく、すんなりと対戦画面に移る。
レートは全員が初期の値の一五〇〇であった。配信に合わせて始めた初心者ばかりなのであろう。
「はぁ……。まず、大まかなルールの説明ですが、この最初の位置が私たちの本拠地で、ここを攻め落とされたら負けです。そこから右側に進むと道が画面の上と下に分かれてますが、上下どちらにも二個ずつ砦があります。この砦が攻め落とされない限りは、本拠地にダメージが入りません。砦を順に攻めて行って、相手の本拠地を落とす、それが勝利条件です」
「私は……下へと参りましょう」
「下の最初の砦は耐久値が低いので、序盤の戦いの要です。レベルの低い状態でも強い姉さんのキャラがいいでしょう。中央の森は、レベルを上げると爆発的に強くなるキャラがモンスターを倒しながらレベリングするのがいいですね。あと一人は、適当に死なないように上を守りましょうか」
操作をしていない陽滝が饒舌に解説をする。毎週遊ぶゲームは違うため、初めてこのゲームを見る視聴者も当然ながら存在した。そんな人のためにと必要なことであった。
「あと、それと、このゲームはモンスターへのラストアタックを取った人にアイテムがドロップされる仕様です」
拠点から、砦に向かう間にうろつく中立のモンスターを手早く仕留める。経験値を得、レベルを上げつつ、すみやかに砦の最前線に向かわなければならない。
「ただ、特定の時間になると出てくる大型のモンスターを倒した場合は、倒した人だけではなく、味方全員に強力なアイテムが配られます。なので、この大型のモンスターを倒すために、敵味方が全て集まり、始まる集団戦が一つの見どころですね」
このゲームに詳しい人間が補足の説明をコメント欄で入れたことを確認する。
ただ、コメントを全ての視聴者が見ているわけではないため、同じ説明は後でしなければならないか。すぐに流れて消えて行ってしまう。
「最前の砦に到着いたしました……では……」
そのまま、敵の砦を崩しにかかる。相手も同じく一人。自陣の砦の周りにうろつくモンスターどもを倒している。
真っ直ぐに、まずは相手へと斬りかかる。
「頑張ってください! 姉さん!」
陽滝の声援を背に、気分はわずかばかりに高揚する。
高い攻撃力を生かし、相手を打ち倒す。
途中、反撃はされたが、全て躱した。『呼吸』により強化された身体能力により、高い精度でキャラクターを操れるゆえ、それが可能であった。
「……ふぅ」
一息つき、相手の砦に近づいて、ぺしぺしと崩していく。
視聴者たちの盛り上がりも十分であった。
砦の耐久を削り切り、破壊することに成功する。あとは相手の壊れた砦と自陣の砦との間に残った中立のモンスターを全て狩り、レベルを上げればいい。
「さすがです、姉さん。下の砦は脆いので、倒してしまえば、拠点から戻ってくる間にこのキャラの高火力な通常攻撃で壊し切れるんですよね」
砦を壊しきり、周りのモンスターを掃討して経験値を手に入れている最中にだった。
画面の端に、復活した相手がこちらへと戻る姿を捉える。
「きたか……」
しかし、そればかりに気を取られない。
中央の森からの刺客であった。
草むらに身を隠した相手からの奇襲。しかし読めていた。躱し、こちらの攻撃を叩き込む。
奇襲に失敗し、混乱、弱気になった相手の逃げ道に回り込み、一発二発と攻撃を与えることで、落とし切れる。
しばし遅れて、最初に倒した対戦相手がこちらに。相手の初撃が来る前に突撃をし、先手を奪い、再度、倒す。レベル差がついていたことにより、先程よりは楽であった。
「今のは相手がまずかったですね。下のファーストをやられたなら、中央の人は上に奇襲をかけにいくのが常道です。それに私の姉さんに勝てるわけありませんし」
「戦利品として、相手側の森のモンスターをいただくとしましょう」
経験値やアイテムを得られるモンスターは、物資ととらえることができる。敵の物資を奪い、地道に差をつけていくことが、このゲームの勝利の鍵であった。
相手の森を一周し、めぼしいモンスターを倒し切る。要所には監視のための道具を設置、これで敵の動きが掴みやすくなる。
一通り、これで、やることを果たし終えたか。
「姉さん。時間です」
「では、上に参りましょう。できれば、みな、集まっていただきたいです」
大型のモンスターの現れる時間であった。
上下、同時に現れるが、まずは必殺技の待機時間を打ち消す持ち物を手に入れるべきであった。
やはり、配信を見て意思疎通ができているからか、上に出現した大型モンスターに集まってもらえている。上を守る役割の敵は、流石に三人相手には分が悪いと、一人で孤立し遠巻きにうろうろとしているようであった。
援軍が来る前に倒し切れるか。
「姉さん、敵も三人集まってきてます」
「ならば、私が足止めをいたします。お覚悟を」
まず、一人。躊躇いがあった。一人で向かってきた私に必殺技を使うかどうか。その迷いに付け込み、撫で切りにし、体力を半分ほど減らす。
次に二人目。今度は私の接近に、迷いなく必殺技が放たれる。下で二度対峙した相手であった。攻撃の際に高速で移動できる技を使い、背後に回ることで相手に傷を与えつつ必殺技を避ける。さらには必殺技の硬直に合わせ、斬撃を入れることで体力を軽く削る。
最後に三人目。自身の周囲一帯に放つ必殺技であった。これを躱すには、後ろに下がるほかないか。しかし、侍は引かぬ。
二つ目の技を使う。これは、発生時に相手の攻撃を受け付けぬ時間がわずかばかり発生する。それを用い、敵の攻撃を完全に透かす。その後の斬撃を喰らわせ、さらに後ろに回り込む。
ちょうど、三人の敵が手前に一直線上にならぶ形。
「侍とは……間合いをこう詰めるものだ」
必殺技を放つ。
何者にも止められぬ居合いの突撃に、敵三人が巻き込まれる。三人が三人、体力を削られていたため、みな、地に伏すこととなった。
立っているのは私のみ。
「お姉ちゃん! すごい!」
陽滝が抱きついてくる。
異様な速度で流れていくコメント欄であった。やはり、一人で何人も打ち倒すのは、視聴者の心に刺さるのであろう。
必殺技の待ち時間を回復する道具が手に入る。味方が大型のモンスターを倒したのであった。
その後、上の最初の砦を壊した後に、全員で下の大型のモンスターに向かう。
必殺技を繰り返し使える以上、もはや何者も敵ではなかった。妨害をしてきた相手は、迷いなく必殺技で攻め落とす。問題なく下側の大型のモンスターも取り切り、レベル差を確固たるものとする。
「……む?」
「どうやら降参したみたいですね」
最後まで攻め切る前であったが、これ以上は形勢を覆せないという判断だったのであろう。投降であった。
「百合愛し隊さん、真・相川シスターズさん、ありがとうございました」
チームを解散し、礼を言う。
同じように、数戦繰り返していく。
大胆に攻める姿勢は崩さない。やはり、視聴者は不利な戦いを勝ち取る勇姿を望んでいた。
「また、降参していただけましたか」
序盤で大差をつければ、簡単に投降する者が多かったゆえ、思ったほど一戦一戦に時間がかからない。
「そろそろ、レートが上がってきたので、リスナーの方々の参加は打ち切りたいと思います」
レートに大きく差があると、隊を組めない仕組みであった。ここまでくると、あまり、人の集まりはいいものと呼べなくなる。できないことはないが、手間を考えての打ち切りであった。
これからは一人で挑むこととなる。
「理河! 陽滝! そろそろ、ご飯にしないか?」
「あ……兄さん」
「兄上……」
「もうそんな時間ですか? じゃあ、ちょっと休憩ですね」
「皆さんも昼食をとっていただきたいです」
陽滝が機械を操作すると、画面が切り替わり、休憩中と書かれた下に、デフォルメされた私と陽滝、そして兄が仲良く食卓に並ぶ絵が映った。
陽滝と私で描いたものであった。
「じゃあ、三十分くらい休憩しますね」
家族らしく、私たち三人は皆で食卓を囲む。
今日は洋食であった。専門の料理人の作ったそれは、酷く食欲をそそる香りがする。
「それで、兄さん。最近、学校での調子はどうですか?」
「調子って……別にいつも通りだけど」
「それならいいのですが」
兄である相川渦波は『魔法』の記憶を陽滝により丹念に取り除かれている。そして、水瀬湖凪に関する記憶が失われて、父、母に関してはもとより疎遠で今は仕事で海外を飛び回っていると、そうなった。
「それにしても、理河に、陽滝はすごいな……。この間のドラマじゃ国民的な子役になったし、今の配信活動でも大人気だ。もう、老若男女知らない人はいないってレベルじゃないか? 僕も兄として誇らしい限りだよ」
兄の言うドラマとは、生き別れの双子の悲哀を描くものであった。
偶然の出会いから、生写しの互いに愛情を深め、どんな障害も二人の手を重ねて乗り越えようとしていく姿が日ノ本じゅうの皆の胸を打った……そうである。
「兄さんは……」
「いや、僕はもうそういうのは諦めてる。二人みたいな才能は、僕にはないみたいだからね」
記憶を失おうと、兄がなにもかもを諦めているのは変わらなかった。
今の兄は、陽滝の実験によりあらゆる『代償』をつけ外しされ、その取り立てに『呪い』を関わる人間に振りまく存在と化している。
ゆえに、元から根付いてしまっていた消極的な性格を、陽滝は変えなかった。
「そういえば……。今やってるゲーム、僕も少しやってたんだ」
「兄さんが……? 珍しいですね……。はあ……兄さんは、いつも暗い部屋に閉じこもって、一人用のゲームをやっているイメージしかなかったので」
「いやいや、陽滝。僕は王道のRPGが好きだけど、それ以外をやらないってわけじゃないんだぞ? あれ? でも、そういえば……だれかに……いつも部屋に閉じこもってばかりじゃなくて、みんなと遊ぶようなゲームをやれって言われたような……」
そんなことを兄に言いそうな人間は、水瀬湖凪であろう。
私の『透き通る世界』が、兄に繋いだ『白い糸』をうねらせる陽滝の姿をとらえる。
「たぶん、それは姉さんが言ったことですね?」
「確かに……申し伝えた覚えがございます」
「理河だったか……? いや、うん、理河だった。理河、僕のことを気遣ってくれてありがとうな」
「……礼には及びません」
ひとまず、陽滝の作った流れに話を合わせる。
ここで対応を間違えてしまえば、兄が半狂乱になることは目に見えていた。
「そうです、兄さん。だったら、ちょっと配信に出てみるのはどうですか?」
「いや、別に二人ほど上手くないし……」
「ふふ、兄さんのこと、配信でもちょっとした話題ですからね」
「話題って……あれはそういうのじゃないと思うぞ?」
相川家の長男として、調べれば顔がすぐに見つかる兄であった。配信にうつるのが声だけであろうとも、その姿は皆の知るところ。
「とにかく、兄さんも出演してみましょう」
兄は妹の押しには弱い。いやいやながら、私たちは三人でカメラの前に座る。
椅子が二つしかないため、陽滝は私の膝の上に座り、その肩の上から私は顔を出している。
「これで、いいのか……?」
「えっと、それじゃあ、『世界一位を取るまで終われない配信』、再開します」
画面が切り替わる。
「では、兄さん。自己紹介お願いします」
「えー……。理河と陽滝の兄をやってます、相川渦波です。いつも妹たちがお世話になってます。よろしくお願いします」
「今回のものは、兄さんもやっていたゲームのようだったので、呼んできました。そうですね、何か兄さんに質問がある人はいますか?」
「えっと……どのくらい仲がいいかって言うと……いつも二人一緒にいるんだ。お風呂とか、一緒に入ってるし、寝るときも、同じ布団で寝てるくらい」
「兄上……その話は……遠慮していただけたら……」
「そうですよ、兄さん。そういう話はプライバシーの問題があります」
兄は調子に乗り、要らぬことまで答えていた。
陽滝とともに、その軽率な発言に対して抗議を入れる。
「あ……っ、ごめん。二人とも」
「えっと……あとの質問と。二人の見分けは……まぁ、僕くらいになれば簡単にわかるよ。僕は二人の兄だからね。次の質問、えっと、いつも連れていくのはご飯だからで……いや、わかってるよね? それと、TS……? これは答えなくてもいいかな……」
次々と、コメント欄にきた質問に対して兄は答えていく。
初めはあまり乗り気ではなかったようであったが、今やどこか楽しそうにさえ見える。
「それじゃあ、兄さん。質問タイムはそのくらいにして、ゲームをやっていきましょうか」
「うん、そうだね……」
本来の企画へと移る。どこか兄は名残惜しいような様子であった。
そんな兄を心に留めつつ、仕切り直しに陽滝が集音器へと語りかける。
「はぁ……。一位のレートは変わらず一七六九。対して姉さんは一六三二。今まで無敗で順調にレートを上げてきました。残るレート差は一三七、果たして後どれほどの時間で一位までたどり着くことができるのでしょうか」
陽滝用のゲーム機のあった場所には、今は取り替えた兄のものある。
私と兄でコントローラーを握り、始める。三人まで隊を組めるが、陽滝は今回は見ているだけのようであった。
「よし……っ、頑張るぞ!」
マッチングに、兄は気合を入れ直していた。
兄のレートは一六〇三とそこそこに高い。それなりにこのゲームをやっていたのであろう。
やはりというか、兄は魔法使いを選んでいた。
兄の戦い方は、堅実であり、単騎での突出など、見栄えのする戦法は取らない。着実に、相手の嫌がることを繰り返し、繰り返し、自身の有利の展開に持っていく戦い方であった。
「理河……! こっちに敵が二人だ!」
「今、助太刀に参ります……」
「大丈夫だ。二人くらいならまだ耐えられる。今のうちに理河は……あっ」
後ろからの三人目の奇襲により、兄は体力を全て失い倒れてしまう。
相手の嫌がることを繰り返すゆえに、相手からの怒りを買いやすい。三人がかりでも倒したい敵と認識されてしまったのであろう。
「いや、ちょっと待って……」
自陣の安全地帯に、敵三人が集まっている。
まだ砦を壊されていないゆえ、拠点への攻撃は通らないはずであった。そこに集まる意味はないはずであろう。
「で、出れない……! ちょっと待って、これ、三人に押し込まれて出られないんだけど……!」
「助太刀に……」
兄の危機に、すぐさま向かうべきであろうと咄嗟にそう伝えようとする。
「ほっとこ、お姉ちゃん」
真顔の陽滝にそう進言された。
「陽滝……。それもそうか……」
試合を考えると、隣で、封印されしカナミって、なんかちょっと格好いいなと呟く兄の助けには行くべきではないのは確かである。
この試合をすぐに終わらせることが、せめてもの弔いであろう。
そうして、勝利数を無事に伸ばすことができた。
「大丈夫だ……。今度こそ僕が……」
「兄さん……はぁ……後ろです」
「あ……っ。なんで……」
何戦か繰り返したが、やはり兄は執拗に狙われる運命にあった。格好をつけここは任せろと言うが、最後には情けない声を漏らして倒されてしまう。そんな試合が何度も続いた。
兄のいう大丈夫は、いつもまるで大丈夫ではないようであった。
「うん、これで抜けようかな。理河のレートもだいぶ上がってきたみたいだし……このままじゃ妹にキャリーされてるみたいだからね」
「そうですね。それがいいです。兄さん、お疲れ様でした」
「視聴者のみんなもありがとう。楽しかったよ」
当たり障りのない台詞を残し、兄は部屋を退出した。
妹の一言により決まった兄の参加という突発的な事態を、視聴者は楽しめていたようであった。
わずかながらに顔が綻ぶ。だが、一位を取るためには、ここからが勝負であろう。
気を引き締める。
「さあ、姉さん。一位まで残りレートは約三十です。少し、私は休憩させてもらいますけど、姉さんは気にせずに試合を続けていてください」
「わかった……」
陽滝は私の膝の上から降りると、部屋の外まで歩いていく。離れていった陽滝に、一抹の寂しさを覚える。
一位までもう一息。次の試合に移る。
ここまで来ると、敵も一筋縄では勝たせてくれない。
比類なき連携であった。こちらは、相手と比べてしまえばバラバラな動き。やはり、隊を組めていなければ厳しい。
個の動きでは勝っていても、全体で有利をとられ、接戦にまで持ち込まれる。
見せ物ではなく、戦術として、無理をするほかないか。
「ふぅ……」
ホオオオと呼吸独特の息の音が漏れる。
感覚を限界までに研ぎ澄ませての大立ち回り。相手を誘い、一対三の状況ができる。
好機だと、囲み込む敵。多少の被弾は気にせず、致命的なもののみを避け、一人一人、撃破をする。
この決戦、連携こそ相手に劣るものの、仲間も並ではない実力者だ。私の開いた突破口に、的確な判断をくだし、差を確かなものとする。
そのままジリジリと差を伸ばして行き、結果として勝利を奪うことができる。
次の相手と試合を進める。
あと数戦と経てば、問題がなく一位となれる。
自身の名前の右横には、2ndの文字。現在、二位であることを表していた。
「……なっ」
決まった対戦相手の名と、その順位を見て驚く。
――『相川シスターズ 1st』。
先ほどまでは、一位の名前は違っていた。いや、名前はいつでも変えられ、変えてから数日ならば、名前を戻すことも可能。加えて、変えて数日は、今の名前も元の名前も自分以外は使えない。
見るのは、今はいない陽滝の席。
こんなことをするのは一人しか考えられない。
いつの間にか隣のゲーム機で起動していたボイスチャットにより、音声が流れる。
「ふふふ、お姉ちゃん。レート的に考えて……私を倒せば、お姉ちゃんが一位。それで配信は終わり。もしお姉ちゃんが負けた場合は、私が一位ってことで配信は終わり。勝負をしよう。お姉ちゃん」
「陽滝……粋なことをする」
私と陽滝、どちらが強いか日ノ本中に知らされるということである。
俄然、やる気がみなぎるというものである。
視聴者たちの盛り上がりも最高潮に達している。
やはり、陽滝はこの配信としての盛り上げ方も熟知しているか。
「最終戦。始めさせていただきます」
試合が始まる。
事前の宣言により、上、中央、下と三人が分かれる。私は下を攻める役であった。
個の実力は高くなるが、それでも攻める姿勢は変わらない。下の砦を防衛する敵を難なく倒す。まず最初の砦を削り切る。
条件が同じならば、たとえ陽滝にでも負ける理由はない。
「使っていたキャラを考えれば、おそらく陽滝は中央……。少し暇な時間をいただけるよう……」
陽滝のことだ。こうなれば、戦略として、完全に下は捨てているはずだ。唯一陽滝ならば、私相手に耐えうる可能性もあったが、出てこないともなれば間違いはない。
確実に上の砦を落とし、最初の集団戦で有利を取ることが目的であろう。
下のモンスターを狩り、経験値を独占している間に、上の砦が壊されたと通知が入る。
大型のモンスターの登場に合わせて上に向かうがどうなるか。
「やはり、ここでか」
上に向かう最中に陽滝と接敵する。
ここで私が増援に向かえなければ、上は順当に二対二。砦を壊されている分不利なこちらが負ける可能性が高い。
陽滝は移動速度低下といった状態異常を攻撃に乗せ、遠距離範囲攻撃を繰り出す。着実に足止めできるキャラを選んでいた。
「お姉ちゃん。相手をしてもらうよ」
「陽滝……ここは押し通らせてもらう」
迷いなく必殺技を使い、その技の際の高速移動で抜ける。陽滝を巻き込みダメージを与えることは忘れない。
高威力の技を使ってしまい、後に不利になることは目に見えてしまったが、やむを得ない。
二対二で互いに体力を消耗している戦場に飛び込み、隙を突いて敵二人を刈り取る。
陽滝が来るまでの勝負であったが、問題はなかった。
いかに陽滝といえど、私を含めた三人が居る状況に飛び込む勇気はないのであろう。
邪魔はなく、上の大型モンスターは私たちがいただく。
こうなれば、下の大型モンスターは消化試合。相手側に残っていた上の最初の砦を壊した後、下へと皆でむかう。
下の大型モンスターを倒し切るまで相手の妨害はなかった。
「油断したね、お姉ちゃん!」
下の大型モンスターを削り切った瞬間を狙って、妹の攻撃が襲って来ていた。私は直感でかわし切ったが、ほか二人が私から少し離れたところで攻撃を受けてしまっている。
「アイテム使用不可か……」
それが陽滝の攻撃に乗った状態異常。混乱のうちに仲間には、陽滝の連続の攻撃、そして必殺技が浴びせられる。
「お姉ちゃんは来ないでね」
「く……っ、低速化……」
仲間の手助けに回ろうとしたが、焦りの中で陽滝の攻撃に当たり、動きが遅くなる。
そのうちに、仲間がみな、陽滝に翻弄され、やられている。
このゲームでは、倒れた際、相手にアイテムが奪われる。
下の大型モンスターを倒してから、陽滝のアイテム使用不可により仲間はアイテムを使えなかった。つまり、レベルの上がるアイテムが二つ、陽滝によって奪われたのだ。
接戦に、視聴者は盛り上がっている。
そうしているうちにも、陽滝の仲間は合流してくる。陽滝に加え、その仲間を相手にするのは無理があるゆえ、必殺技を用い一度離脱をする他なかった。
完全に有利な盤面が覆された。
そこからは、一進一退の攻防が続いていく。重要な大型のモンスターの前での集団戦、砦前の攻防……とって取られを繰り返して、それでも試合は進んでいく。
そして、最終局面にまで絡れ込んだ。
「あぁ、お姉ちゃん、こうなるんだ」
「これが一番、わかりやすいか……」
私たちを残し、他の者はすでにやられている。後半特有の長い復活への待ち時間により、おそらくはもう帰って来られない。必殺技は互いに撃ち尽くしている。
互いに使えるものを使い、死力を尽くした結果にこうなった。
最後に私たち二人の決闘で、決着がつくというかたちとなる。
レベル、そして今まで重ねてきたアイテムによる強化の数、わずかながら陽滝が上回っているようであった。
「うん、いくよ!」
牽制に放たれる状態異常の乗った攻撃を躱す。陽滝相手に、何の傷も受けずに立ち回ることはできない。
わずかにでも受ければ、動きが遅くなるという厄介さに歯噛みをする。
獲物を絡めとる蜘蛛のように、陽滝は私のことを着実に追い詰めていた。長期戦は、陽滝の有利か、短期決戦に思考を切り替える他ない。
これで、陽滝により一つ選択肢を奪われたことになる。
「陽滝、望むところだ」
互いに張り付いてでの近接戦。
私に有利な戦い方ではあるものの、削れる体力の速度を考えれば、一撃でも攻撃を外したら負ける。
極限の中、互いに攻撃を受け合う。
あと二撃、あと一撃で削り切れるところであった。
「お姉ちゃん。これで私の勝ち」
陽滝の必殺技の待ち時間が過ぎ、もう一度、使えるようになった瞬間であった。
冷気の派手な演出がなされ、周りを包み込む。だが、私に対抗策が残されていないわけではない。
陽滝の技は、一瞬で体力を削られるものではなく、比較的長い残留時間により、徐々に体力が奪われていくというものであった。
攻撃の発生時に、ダメージを受け付けない技を用いて、回避を試みる。
通常ならば、陽滝の攻撃はこの私の避け方では、時間が足りずに躱し切れない。
しかし、陽滝のかけた低速化により、その時間もわずかばかりに伸びているため、そこに一縷の希望を見出す。
「……陽滝……よき戦いだった……」
陽滝の必殺技を凌ぎ切った。
残る体力は数値にすればおそらく一桁。
後の斬撃により、陽滝にとどめを刺す。
「あぁ、やっぱり
陽滝が倒されたことにより、陽滝の軍は降伏をした。
結果を映す画面に、1stの文字が映る。
映る侍のキャラクターの姿に、一位の文字。
――日ノ本一の侍か……。
そんな場違いなことを思い、感傷的な気分となる。
「お姉ちゃん、あれで勝つなんて……やっぱり、
別室で今まで戦っていた陽滝が、やってきて抱きつく。
上の姉妹としての威厳が示せ、なによりであった。
「陽滝……お前も強敵だった……」
「ふふ。一フレームでもズレていたらあれは耐え切れなかった。それを当然みたいに……、ふふふ」
興奮をしたようで、こちらの話を聞いている様子ではない。背中をさすり、宥めながら、撮影機へと顔を向ける。
「『世界一位を取るまで終われない配信』、これにて終了いたします。長時間、たくさんのご視聴ありがとうございました」
「あ、来週、このゲームの公式大会があります。私が実況、姉さんが解説で出演するのでよかったら見に来てくださいね」
無事に配信が終了する。
穏やかに進む時間。陽滝はこの世界を心置きなく楽しんでいる。楽しんで、楽しんで、この世界からなんの未練もなくなるように。
そして、この妹の行き着く先は――
312:名無しのゲーマーさん 2018/3/10 20:35:00 ID:17syouMe4
侍が一位取ったぞ?
お前ら侍のことさんざんこき下ろしてたよな?
謝れよ
331:名無しのゲーマーさん 2018/3/10 20:41:16 ID:pGRzNGgIe
>>312
侍は防御が紙で近づかないと攻撃できないから
そりゃ当たらなきゃ強い
当たらなきゃな
337:名無しのゲーマーさん 2018/3/10 20:47:17 ID:Vme/qqOl7
>>312
なんの話かと思えば相川シスターズかよ
ついにこっちにも来ちまったのか……
338:名無しのゲーマーさん 2018/3/10 20:49:58 ID:i5FWmlw+p
相川シスターズ?
なんの話だ
373:名無しのゲーマーさん 2018/3/10 21:00:19 ID:N5pREYRWh
>>338
あの子役の相川姉妹がゲームやってる実況ちゃんねる
ランクマで一位取るまで終われない配信を毎週やってる
375:名無しのゲーマーさん 2018/3/10 21:06:44 ID:i5FWmlw+p
一位取るまでって……
子役でしょ?
取れるのか?
396:名無しのゲーマーさん 2018/3/10 21:13:26 ID:17syouMe4
>>375
配信見てないのかよ
ちゃんと毎回一位取って終わってるぞ?
ちなみに今回はこのゲームで姉さんが侍使って一位になった
397:名無しのゲーマーさん 2018/3/10 21:19:52 ID:PHWkl6yXR
こっちには来ないで欲しかったなぁ
405:名無しのゲーマーさん 2018/3/10 21:26:29 ID: i5FWmlw+p
>>397
来ると何か問題なのか?
406:名無しのゲーマーさん 2018/3/10 21:29:48 ID:P9ktCkNqT
視聴者層が低年齢だからキッズが増えるんだよ
それに姉はプレイヤースキルのおかげで立ち回りめちゃくちゃでも一位取れてる
真似するやつが増えるから配信した後のゲームはだいたい地獄になる
407:名無しのゲーマーさん 2018/3/10 21:29:50 ID:i5FWmlw+p
あぁ……そういう
433:名無しのゲーマーさん 2018/3/10 21:39:20 ID:17syouMe4
>>406
姉さんは立ち回りも上手いからな
あのプレイヤースキルだったらあれが最適だろ
にわかか?
それに姉さんは来週の公式大会の解説やるぞ
実況は妹ちゃんな
434:名無しのゲーマーさん 2018/3/10 21:40:40 ID:ouxRK3L3j
マジか
運営はあいつらに魂を売っちまったのか
464:名無しのゲーマーさん 2018/3/10 21:52:09 ID:NPktx22Xf
>>434
前のなんかの大会のとき実況解説で出たら同接十倍になったからな
有象無象の配信者とは格が違うんだと
480:名無しのゲーマーさん 2018/3/10 21:58:39 ID:17syouMe4
>>464
あのときのコスプレ可愛いかったよな
今回もなにかコスプレしてくるかな
489:名無しのゲーマーさん 2018/3/10 22:04:53 ID:YjY0dEaRw
大会の実況に解説って
あんな子どもにできるのか?
509:名無しのゲーマーさん 2018/3/10 22:11:03 ID:QiPF0yfdc
>>489
ハイスペック姉妹だぞ?
お前の子どもの頃とは違うんだ
514:名無しのゲーマーさん 2018/3/10 22:17:05 ID:oieekOmr5
例の配信盛り上がるとこだけ見てきたけど姉さん強すぎじゃん
それと最後の頂上決戦は別ゲーだった
意味わからん
519:名無しのゲーマーさん 2018/3/10 22:23:31 ID:Z4WzHHbrQ
まぁ俺はこのゲームが盛り上がってくれればそれでいいよ
最近暑いからみんな家に篭りっきりでゲームの需要上がってるみたいだけど
535:名無しのゲーマーさん 2018/3/10 22:30:13 ID:Tqh3ZcQPl
たしかに暑いよな
これが地球温暖化か……
それにしたってだよ
まだ三月だ
妹様は対等な相手と現代を遊び尽くしています。
多分配信&掲示板回はもう二度とやらないと思います。掲示板形式のタグが邪魔になるかもしれないので、後で掲示板の部分は削除するかもしれません。
次回で現代編は終わりです。