異世界迷宮で縁壱を目指そう 作:異世界TS奨励委員会
太陽が都会のコンクリートを熱し、かげろうが揺らめく。
世間では地球温暖化と騒がれてはいたが、この茹だるような暑さはそのせいではなかった。
この異常な暑さに、街では倒れる者が続出していたが、その者たちはみな、深く眠って目を覚まさない。
「あぁ……お姉ちゃん。もう、この世界はあと少し……」
「…………」
――
この夏の暑さにより倒れたものは、陽滝の白い糸により繋がれ、『魔力』の供給源とされる。
兄を使った非人道的な実験を経て、実用に至った技であった。
陽滝のその目には、この世界の人間たちは決して映り込んでなどいない。
際限なく『魔力』を吸収し、変換し続ける陽滝の体質であるが、陽滝はそれをも肯定し、この世界の全ての生き物を『魔力』の宿る供給源としか思っていない。
それが、私たちの間を繋ぐ『白い糸』と『朱い糸』から伝わってくる。
もう、陽滝のその考え方が手に取るようにわかってしまっていた。
陽滝は、終わらない『魔力』の吸収を続けるために、この世界を終わらせ、別の世界へと移動をするつもりであった。
「お姉ちゃん。ふふふ、
陽滝の目には私しか映っていない。私と共に世界を渡り歩き、永遠に競い合う。
狂ったように、その結末だけに向けて、陽滝はその思考を最大限に活用していた。
もちろんのこと、ただでやられる人間ではない。かつて、鬼の脅威に鬼殺隊が立ち上がったように、また、この世界の終わりを防ごうと、立ち上がるものたちがいた。
この、世界を覆い尽くしかけている《
核兵器や、毒ガス、生物兵器といった禁じ手まで、ありとあらゆる人類の持てる手札が、私たちへとぶつけられる。
ただ、そのどれもが効かなかった。
私たちは、特別な力を持つ以上、生物としての
そして、人類も私たちの力の解析を始める。
もし、まだ時間があったのならば、私たちに対抗しうるなにかを開発する可能性も、あったのであろうか。しかし、陽滝はそんな時間を与えなかった。
もうすぐ《
こうして、備えの不十分なまま、人類は最後の攻勢に出ることとなる。
陽滝により狂うほどの暑さをぶつけられ、遠目に戦闘機が墜落する姿が見える。まるでシューティングゲームでもやっているかのような気軽さで、陽滝は戦闘機を落としていた。
脱出により、死者はないであろうが、逃げ延びたその先で、暑さにやられ、陽滝の手に落ちるのが関の山。
「陽滝……少しばかり行ってくる」
「あ……うん。いってらっしゃい」
人の往来の激しかった日ノ本の首都であるが、今や陽滝の《
私の目指す先は地下に潜る鉄道であった。
今行われているのは空からの攻撃であるが、陽滝には届かないことが相手としても目に見えていた。
相手も馬鹿ではない。何度となく繰り返して、なんの成果もなかったのであるから、それくらいはわかっているはずであった。
そして、陽滝や私の『糸』。この『糸』は、地下空間では形状を保ち辛い。陽滝がいうには、次元がずれているということらしい。
これだけ時間があったのだから、相手もそのことに気がついている可能性が高い。だからこそ、空からの攻撃を陽動として、地下を通じて本命が来る。
そんな予感から、私は地下にやってきていた。
「来たか……」
刀を構える。
この刀は『魔力』に実体を持たせたものであった。あぁ、鬼のときの刀と同じく、たとえ折れようとも、いつでも再生させることができる便利な品だ。
「――っ! ――、――」
防弾、防刃のチョッキを身にまとい、ヘルメットで顔を隠した、がたいの良い男たちが整然と二列に並び進行していた。
先頭の者が異常を察知し、何かを喋り、さらには手で合図をしている。隊はすぐさま横一列に並び、こちらに銃を向けた。
「あらゆる国籍の軍の寄せ集めのようであるが……見事な統率……この短期間に素晴らしきものだ」
男たちの人種がバラバラであることは、『透き通る世界』にてわかる。
この世界を終わらせまいと、あらゆる垣根を乗り越え、集まったのであろうことが、それだけで理解できる。
「――っ!」
銃声が鳴り響く。十を超える男たちが一斉に引き金を引いたことにより、その音は轟音となってこの地下空間に反響し、滞った。
大正の世ではまるで想像のつかないほど、短い間隔で、連続に、大量の銃弾がばら撒かれる。
さすがにそれらを全て刀で受けることは、手間だ。
飛び上がり、躱す。彼らの頭の上を通り過ぎる。乗り越えざまに、刀で数人の男の腕を切り裂くことを忘れない。『透き通る世界』により、腱を正確に断ち、武器を扱えぬ負傷者とする。
陽滝により、殺すなと言われていた。
養分とするのならば、それは多い方が良い。だからこそ、一人も殺さず無力化することが最善。その理屈こそはわかる。
だが、実際、何十億と存在する人間なのであるのだから、数人を殺したところで大した変わりはないはず。
だからこそ、それは陽滝の良心ゆえのことなのやもしれぬ。
「ふぅ……」
自身の『呼吸』を深める。
振り向きざまに、また数人の脚の腱を切り裂く。
兵士たちは、目の前の対象である私を見失ったことにより、目を泳がせていたが、仲間のうめく声に、私の位置を再度確認する。
いや、一人、私を目で追い続けられていた者がいたか。
「一撃で終わりそうも……ないようだな……」
――《月の呼吸・陸ノ型 常世孤月・無間》。
放つ斬撃により、敵を一掃する。
月の刃は、繊細に敵の急所を避けつつ、的確に筋や腱、靱帯を切断し、無力化していく。
傷口は『魔力』の結晶で覆い、失血死のせぬようにだけ配慮をする。
やはりというか、一人だけ立っているものがいた。
「なぜ、お前たちはこんなことをした……っ!!」
「……日ノ本の者か……」
自身の銃を構え、こちらを威圧している。自分以外立っていない、その絶望的な状況においても、その目は意思を失ってはいなかった。
「こんなふざけたことをして……っ! お前たちは何がしたい!」
「陽滝が生きているゆえだ……。私が生きているゆえだ……」
『魔力』を自身へと集め続けなければならない陽滝の性質によるところが大きい。
また、この止まらない『呼吸』に寿命を削られる私も、その陽滝の力の恩恵をうけている以上は、この世界の滅びの根源の一つであろう。
「生きているから……? そんな……なにか別の道はなかったのか! 他の方法は考えなかったのか……!」
「私は、ただ、『妹を助ける』のみ……」
――《月の呼吸・壱ノ型 闇月・宵の宮》。
振るう刀に、相対する男は小銃を犠牲に後ろへと退避する。月の刃と剣戟により、手放された銃は木っ端微塵となる。
「これを躱すとは……良き反応だ……」
「……くそっ」
敵は拳銃を構え、こちらへと銃口を向ける。
連射の利くものであったが、小銃と比べれば一定時間に放てる弾の数が段違いに少ない。一発一発、刀により銃弾を弾きながら、一歩一歩、歩を進める。
「刀を持てば……それなりにはなったか……。増援がいるかどうかは知らぬが……お前を倒せば……残りは容易く済みそうだ……」
――《月の呼吸・弐ノ型 珠華ノ弄月》。
鬼殺隊との戦いを思えば、
陽滝は僅かな時間に世界を追い詰めたゆえに、あれほどのものたちも現れなかったのであろう。
「く……っ!」
敵は月の刃を体に受けるが、身を捩っていた。かすり傷と言えるだろう。そのまま私の剣を小刀の一振りで受ける。
「『呼吸』か……面白い……」
偶然か、あるいは危機に瀕したゆえの本能か、男は『呼吸』へとたどり着いていた。
むろん、縁壱のような完璧なものではない。であるが、はじめてにしては、その体に馴染んでいるようにさえ思えた。
惜しい。
刀を持てば精強な剣士となれたであろう。
才能の芽を潰してしまうのは心苦しいが、しょせんは陽滝により、終わらせられる世界。
――《月の呼吸・伍ノ型 月魄災禍》。
ゆえに構わず型を振るう。
「くそ……っ!! 負けるか……!」
私に小刀一本で立ち向かうその姿は、賞賛に値するであろう。
空間に舞う月の刃に、その装備が削られ、剥がれ落ちていく。身一つ、刀一つでの戦いであった。そこには心躍るものがある。
型をいくつか放とうとも、傷を作りながらもギリギリで男は避け切り向かってくる。
極限状態がそうさせるのか、痛みを感じる様子さえない。
「ここまでか……」
「ぐう……」
だが、死兵といえども限界はある。何度かの打ち合いの果て、徐々に男は出血をし、体力を失ってしまっていた。
そろそろ、死なずとも、意識は失う時間であった。
他に増援が来ている様子もない。
地面をうめく兵たちの中には、自爆や、自害を試みている者たちもいるようであったが、全て失敗している。戦いの中でも、そちらに意識を割き、気絶させる余裕があったゆえだ。
「時間をかけてしまったが……陽滝になんと言われるか……」
気を失った男たちを引きずりながら、地上へと戻る。
地上へと放り出せば、『糸』が繋がり、《
あとは、私たちの家へと向かうだけだった。
この終わりかけの世界でも、陽滝といつも通りに暮らす家であった。
何事もなく、歩いてたどり着いたのだが、一つ問題がある。
「陽滝……何をしている……」
陽滝が、頭の半分を失い倒れている。床には鮮血が撒き散らされている。
倒れているそのそばには、先程戦った部隊と同じ格好の者が立ち尽くしていた。
私の声に反応して、手に持つ銃をこちらへと向ける。
「あ、お姉ちゃん……お帰り」
頭の半分を欠かしたまま、陽滝は起き上がった。その程度、陽滝にとっては何でもないことだった。
すぐさま、『白い糸』が集まり、かけた肉体の補修が始まる。それは編み物さながらに。
「な……、あ……」
倒したはずの陽滝の復活に、部隊の者は言葉にならない声を漏らし唖然とする。
あの程度で陽滝が死ぬはずがないことを知らなかったのであろう。
そのまま陽滝が手を翳すと、『太陽』の暑さがその男に集まって、悲鳴を上げてその男は倒れ込んだ。
「陽滝……何があった……」
「高くから降下してきたみたい。見逃したら……ちょっとね」
この陽滝だが、こうして不覚をとることもあるのだと、出し抜けな気分となる。
大方、最後には自分の思う通りになんとかなるだろうと、油断していたには違いないが。
「お姉ちゃん。これで……今日で人間全員が《
「そうか……」
鬼舞辻でも、ここまではやらなかった。
日ノ本、あるいは世界を終わらせるほどの力があの男にはあったのやもしれぬが、不滅を願うただの鬼であった。
しかし、陽滝は一つの世界を終わらせてみせた。
「あぁ、『ずっと一緒』って約束したから。お姉ちゃんは対等でい続けてくれた。ここまで来たのにお姉ちゃんは……」
全ての人間に、『白い糸』を、そして『目に見えない神経』を植え付けていき、陽滝は間違いなく強くなった。そんな陽滝に追い縋るために、私は死力を尽くし、自身のあらゆる力を磨き続けた。
「あぁ、そうだ……陽滝。『お前のことは、私が助ける』。『いつでも、どんなときも』」
世界には『白い糸』とともに、『朱い糸』が広がっている。
兄での人体実験では、『日の呼吸』への糸口を掴めなかった。けれども、この他人の体に『朱い糸』をめぐらせて、『呼吸』を増強し、さらには負担を肩替わりさせる術は、その時に完成した。
「手を出して」
「こうか……?」
手が重なる。身体の『魔力』が蠢くことがわかった。
「協力……ううん、
「時間をか……」
「それで、本当の意味でこの《
虹色の光で世界が満たされていく。
陽滝から生み出された光が、空へととどまる。本来の太陽とは別に、もう一つの太陽が天高くに生まれてしまう。
その光は、どこまでも明るく、どこまでも届く。たとえ、この地球の裏側でも、分け隔てなくその『もう一つの太陽』の光の明るさにより照らされてしまうのだと、一目見て、すぐさま理解できた。
そして、その光により、地球の時間は止まっていた。
「それじゃあ、行こう。お姉ちゃん。次の世界へ」
「あぁ……」
陽滝の願いは永遠に、二人で。
この『魔力』を取り込み続けなければならない私たちは、一つの世界を終わらせたのち、生きるには別の世界を目指す必要があった。
「どうせなら、楽しい世界にしよう。ゲームみたいな……」
さりげなく、兄の影響を受けているのか、陽滝はゲームが好きだった。
飴玉を舌の上で転がすように、陽滝は楽しげに次の世界を選んでいく。
現代編は終わりで、次回から異世界編です。
ちょっと毎日投稿が厳しくなってきますがご容赦ください。
おかげ様で評価に色が付きました。とても感動です。これからも頑張っていきます。
それと私ごとですが、『異世界迷宮の最深部を目指そう』のキャラファイングラフを注文しました。6巻と13巻、16巻のやつですね。もっと『異世界迷宮の最深部を目指そう』が盛り上がることを祈ってます。