異世界迷宮で縁壱を目指そう   作:異世界TS奨励委員会

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 かなみん視点です。



8.造られた『救世主』

 今では僕は妹たちのことをとても大切だと思う。でも、最初からずっと、僕はそう思っていたわけじゃない。

 

 なんでも完璧にこなす陽滝を、両親はよく褒めていた。

 僕も同年代と比べたら、良くやっていた方だとは思う。そんな僕でさえ、陽滝と比べたら、数段も劣ってしまうだろう。それが妹であるはずの、年下であるはずの陽滝という少女だった。

 

 幼少の頃、僕は陽滝と何度も勝負をした。陽滝は僕と勝負をしているなんて思っていないなかっただろう。勝負だと意識しているのは僕だけで、陽滝はただ無邪気に、親からの課題をこなしていただけなのだと思う。

 

 なにかを陽滝が果たしたとき、両親に誇るだけでなく、僕たち兄姉にも、褒めて欲しそうに寄ってくるのがいつもだった。

 それを僕は邪険に扱ってしまっていた。

 

 両親の愛情を独り占めにする陽滝のことが、僕は苦手だった。

 

 そんな陽滝には、双子の姉がいた。

 上の妹の理河は、子供の頃は病気で、部屋からは滅多に出ない子だった。

 

 長くは生きられないと医者には言われていたのを僕は知っている。不治の病で、大人になる前に死んでしまう、そんな境遇の、可哀想な妹だった。

 

「理河! 僕と遊ばないか?」

 

「……?」

 

 初めてそう話しかけたとき、妹が不思議そうに首を傾げたのを今でも覚えている。

 

 理河は病気で体を動かすことができないから、部屋でもできるような遊びを。そこで対戦ゲームではなく王道の一人用のロールプレイングゲームをやらせたのは、単純に、陽滝との勝負に負け続け、誰かと戦うことに疲れていたから。

 ただ、正直に言えば、僕の趣味も多分に混じっていた。

 

 僕は下の妹の陽滝とは上手くいってはいなかったけど、この上の妹の理河とは、たぶん上手くやれていたと思う。この上の妹の理河が病気で死んでしまうまでは、僕は理河の前では良い兄でいようと誓ったんだった。

 

 でも、あの日が来る。

 

「今のは、ひ、陽滝……? いや、あの痣は……み……理河なのか……。()()()……なのか……っ!?」

 

 考えてみれば当然だけど、双子なのだから、理河も陽滝と同じく特別な存在だった。

 竹刀で大人を打ち倒す理河に、僕は思わずそんなことを口走ってしまっていた。

 

 その後に、病気のせいで息を乱して苦しそうに胸を押さえる理河だったが、驚きから僕は動けない。良い兄でいようと誓ったはずなのに、理河を助けることができなかった。

 

 思えば、()()()()だったと思う。

 

 あの日の気まずさから、僕はいつものように理河を遊びに誘えずにいた。そうこうしているうちに、理河の病はどんどんと良くなっていく。不治の病のはずが、奇跡的な回復を遂げる。

 とうとう普通の日常生活が送れるまでになってしまう。

 

 病を完全に克服した理河は本当にすごかった。

 陽滝の双子の姉なのだから、当然なのかもしれないけれども、あの陽滝と『対等』に競えていたんだ。

 そう、僕では全く敵わなかったあの陽滝と。

 

 二人は両親の関心を得て、二人のどちらともに負け続けている僕は、まるでいない者のように扱われる。

 

 もしかしたら僕は、理河と遊ぶことで、自分よりも不幸な家族を憐れむことで心の安定をはかっていたのかもしれない。

 でも、理河は本当はずっと先にいたのだから、このときには、僕の心は折れてしまっていた。

 

 そこから僕は部屋に閉じこもることとなる。

 もちろん、学校には通っていたし、いないものと扱われていたとしてもお金は充分すぎるほどに振り込まれていた。

 だから、マンガやゲームといった娯楽に、僕が没頭することとなるのは自然な話だろう。

 

 家で一人きりの日々に、そんな日々に慣れてきた頃にだった。

 

「え……? 両親が……海外に……」

 

 話を聞けば、国外への高飛びらしい。

 違法薬物に関する犯罪の証拠が警察に掴まれそうなことに勘付いた両親は、身柄を拘束されるより一歩早く海外へと逃走したそうだった。

 

 そのことに関して違和感はなかった。

 もとより僕たちの両親は、悪人と言えるような、そういう人たちだった。犯罪に手を染めているのはまず間違いがなく、それを権力者の特権だと悪びれないようなそんな大人だった。

 

 そして、こんな事態に陥れば、まず間違いなく自らの身を第一にそうするだろう。

 子どもを見捨てていくことも、なんら不思議ではなかった。

 

 僕たちの残された部屋には、家宅捜査だと、見知らぬ大人たちが私物を物色していく。

 大人たちに怯えて、廊下の隅に手を繋ぎ合って縮こまる妹たちを見つけて、僕は思い出した。

 

 

 ――あぁ、まだ二人は子どもだった。僕よりも小さい子どもだった。

 

 

 両親に見捨てられてしまった以上は、誰かが二人を守らなければいけない。

 両親の愛情を得ようと、勝手にわだかまりを作っていた僕だったけれど、僕たち兄妹で、一番大人なのは僕だったから。

 

(みち)()()(たき)……今まで……ずっと……僕が悪かったんだ。陽滝にも、理河にも、ずっと……。でも、僕は長男だから……! お兄ちゃんだから……っ。これからは二人のことは僕が守っていく。こんな僕のこと、信用ならないと思うけど……っ、どうか約束させてほしい……っ!」

 

「兄さん……?」

 

 今まで疎遠だった兄からそんなことを言われても、妹たちとしては困惑しかないだろう。

 手を握り合って離さないくらい、妹たちの絆は深い。今までずっと一緒に助け合っていたのだから当たり前だろう。そんな中、僕が今更なにかを言っても遅いということは重々承知だった。

 

「そうですね、兄さん……初めからやり直しましょう」

 

「ひ、陽滝……!!」

 

「私は……兄である貴方を……信じておりました……」

 

「み、理河……!」

 

 そこからは、矢の如く時間が流れていく。

 海外の両親から、僕たちの口座には必要なお金が振り込まれていたから、家は変わらなかったし、暮らしも変わらなかった。もちろん、両親からの連絡はないままだったけど。

 

 驚きなのは、税金に関する手続きがスムーズに進んだことだった。僕たちの生活に関わるような税金のかかるものは、数ヶ月前に僕たちの所有になっていたそうで、両親が海外にいても問題がなく支払うことができている。

 

 置いて行ってはしまったけれど、僕たちの生活に不自由がないようにしてくれているところは、どこか、両親らしいとも思った。

 

 そうして、やり直しが、僕たちの兄弟らしい生活が始まっていく。

 

「理河、陽滝……父さんも、母さんもこんなことになったわけだし、子役の仕事は、もういいんじゃないか?」

 

「兄さん……ふふ、少しでも、私たち家族のためにです。お金も、あって困るものではないでしょう?」

 

「それもそうだけど……」

 

「これも、私たちの道楽のようなもの……心配には及びません……」

 

 僕たちの両親は、疑惑、海外逃走とインターネットやゴシップ系の雑誌では騒がれ続けていたけれど、表向きはただの海外活動。

 両親がこんなことになってしまっていても、妹たちのやっていた芸能活動は、変わらずに行われていた。

 

 本当に妹たちはすごかったと思う。

 両親の疑惑というマイナス要因を打ち消して、圧巻の演技で国民的な子役となるには、そう時間がかからなかった。

 

「こうして親しき人に見られるのは……少しばかり……」

 

「ええ、姉さん。私たちが映っているのをこうしてみんなで見るって、なにか少し恥ずかしいですね……」

 

「あぁ……すごい。本当にすごい……」

 

 元から二人には僕とは違い、才能があった。

 二人と肩を並べて、二人の映る液晶画面を眺めていたけれど、僕は泣いてしまっていた。一つ一つの仕草に意味がある。本当の『演技』とはこういうものなのだと、強く僕は胸を打たれていた。

 

 もちろん、二人の出演した番組は、ドラマに、番組の宣伝のためのバラエティも含めて録画して、保存してある。

 身内びいきではなく真面目に、永久に残しておきたくなるくらいに価値のある、そんなものだった。

 

「なぁ、陽滝……その機材って……」

 

「ふふ、兄さん。姉さんと一緒に配信活動をやってみようと思ったんです。最近、流行りでしょう? どうですか? 兄さんも一緒にやってみませんか?」

 

「いや……僕が陽滝たちと映るのは、とてもじゃないけど見劣りするだろ……。それにしても、陽滝たちはなんでもするなぁ」

 

「はぁ……兄さんは、そういうところが……。まぁ……いいですけど……」

 

 呆れたような顔の陽滝に、僕は申し訳なさを感じる。

 陽滝たちに比べて、僕の演技は拙い。いや、陽滝たちの実力が高すぎるからというのはわかっているけど、そんなレベルの高い二人の世界に踏み込むのは、どうしても気後れしてしまう。

 

 ただ、僕は陽滝とこうして仲良く話せていることが嬉しかった。幼少の頃は苦手で避けていたけれど、一度わだかまりを乗り越えてしまえば、ただの世界一可愛い妹だった。

 あぁ、あれは僕が変に意地を張っていたからいけなかったのだろう。

 

「そうです。配信では、兄さんの好きなゲームをやってみようと思うんです。ゲームですよ? げ、え、む。兄さんの好きな」

 

「ゲームか……それはいいな……」

 

 ゲームは現実と違って、レベルが上がれば強くなれる。魔法やスキルが覚えられる。

 それが、努力すれば必ず報われているみたいで、王道のロールプレイングゲームが僕は好きだった。

 

 そのゲームという選択に、なんとなく、陽滝が僕のことに気を遣っているような、そんな心配りが見て取れる。

 

「やっぱりすごいな……理河に、陽滝は……」

 

 配信を始めて、瞬く間に妹たちは再生数を伸ばしていった。

 もともと有名だったこともあるけれど、なによりもその配信の内容の奇抜さが視聴者に受けていることは間違いなかった。

 

 世界一位を取るまで終わらないと銘打ち、毎週違うゲームで一位をとる。

 そんなヒロイックな大活躍に、みんなが熱狂していた。

 

 配信やっている最中に、ご飯に呼ぶのだけれど、そのせいで視聴者に僕のことをいろいろ言われてしまう、そんなこともあった。

 

「あ、兄さん……後ろです」

 

「え……ちょっと、待って……。あ……」

 

「仇討ちは……私にお任せください」

 

 三人で仲良くゲームをする。

 一人用のRPGが好きな僕だったけれど、こうしてみんなで協力をして遊ぶことも悪くはない。悪くないと思えるようになった。

 

 ずっと妹たちを遠ざけていた頃の僕に、暗い部屋に閉じこもり一人でずっとゲームばかりしていた僕に教えてあげたい。

 少し勇気を出して妹たちに歩み寄れば良かったのだと、そうすれば大切な家族との楽しい日常が待っているのだと。

 

 過去の僕に、そのことを教えてやりたい。

 

「ふふっ」

 

 どんどんと有名になる妹たちのことが、我がことのように嬉しかった。

 立派になる妹たちを影で支える。それだけで僕は十分だったんだ。

 

 もう、両親からの愛情にこだわって、妹たちに醜い感情をぶつける僕はここにはいない。まるで生まれ変わったような気分で、清々しく二人のことを応援できる。

 

 妹たちさえいれば、僕は――

 

「陽滝……?」

 

 目の前で、陽滝が倒れてしまう。

 急いで救急車を呼び、病院へと運んでもらう。すぐさま命に関わる状態ではなかったけれども、医者から陽滝の容態が説明される。

 

 検査の結果、異常値がいくつも見つかったこと。幼少の頃から体を酷使されないと、こうはならないこと。また、原因不明の症状がまだあること。もっと詳しい検査に、療養のため、長期の入院が必要なことなど。

 

 淡々と、いくつものことが説明された。感情を感じさせない声だったけれど、その医者の目の奥には、身近にいた僕を責め立てるように怒りが滲んでいた。

 

「兄さん……すみません……倒れてしまって……。また、すぐ……動けるようになって、働きますから……」

 

「ひ、陽滝……! すまない! お前が無理してたこと……僕は……。僕は……」

 

 あぁ、そうだ。

 僕は幼少の頃のトラウマから、陽滝を特別視しすぎていた。

 どんなに無理をしようと、このくらい、陽滝ならば問題がないのだろうと高を括って、注意の一つ、気遣いの一つもしなかった。

 

 毎週の配信に、企業からの案件、さらにはその他の芸能活動。そんなスケジュールだって、冷静になった今の頭ならば、過密すぎると一目見てわかるはずだ。

 

 陽滝だって人間なんだ。

 そんな当たり前ことを、今更になって気がつく自身の愚かさには、呆れるしかない。

 

「兄さん……」

 

「もういいんだ。もういいんだ、陽滝……。ゆっくり休んでいいんだ」

 

 そして、僕の妹は陽滝だけではない。

 同じスケジュールをこなしていた双子の姉が陽滝にはいる。もともと病で、まともに体を動かせなかった妹だった。

 

「み、理河……」

 

 今日は確か、病院での定期的な検査だった。

 もしかしたら、治ったはずの病気が再発しているかもしれない。そんな懸念により、理河は定期的にこうして病院で検査を受けている。

 そういえば、この陽滝の運ばれた病院に検査に……。

 

「やはり、そうですか……」

 

 本当に偶然だった。

 理河を見つける。近くには白衣を着た医者がいて、立ち話をしているようだった。

 

 確かあれは、理河がよくお世話になった先生だった。

 こっそりと、話を盗み聞きしてしまったが、理河は、きっと大丈夫だと励まされているようだった。

 そして、詳しく再検査をするという言葉も拾う。理河の病気が再発している可能性が高いのだとわかってしまう。

 

 立ち尽くすしかない。

 もし、普通の暮らしができていたら、理河は病気にまた悩まされることはなかったのかもしれない。

 最初から健康な身体の陽滝でもああなってしまったんだ。だったら、理河の病が再発するのも。だというのに、僕は楽観視をして止めなかった。

 二人の妹の窮地に、僕はなにも出来ずにいた。

 

「お姉ちゃん……」

 

「陽滝……」

 

 二人は、手を繋いで励まし合う。

 陽滝の病状も悪化の一途をたどるばかり。一向に快方に向かう様子が見えず、陽滝は病院のベッドの上に一日じゅう伏せっていた。

 

「陽滝……理河も……。きっと、良くなったら、また、三人一緒にゲームをしよう。きっと、良くなったらだ。いや、絶対に良くなる。だから、約束しよう」

 

「兄さん……、そうですね。はい、きっと、良くなります。良くなりますよ。……そうしたら、また、三人一緒に遊びましょう。絶対です」

 

「私も……約束いたしましょう。三人で、また、ゲームを……」

 

 ――あぁ、だから。

 

 二人が突然、行方不明になる。陽滝の病状がもう取り返しのつかないくらい悪くなったときにだった。

 あの二人はとても仲が良かったから、どこに行くのもずっと一緒。互いの残りの寿命が少ないのならば、残された兄に心配をかけないように、ひっそりと、二人で――( )

 

 最悪の想像が頭に浮かぶ。

 おそらく、あの二人なら、誰にも見つからないように病院から抜け出すのは、造作もないことだっただろう。

 

「陽滝……! 理河……!!」

 

 全力で探し回る。もちろん、警察にも連絡した。

 息を切らして、走りながら、体裁もなく大声で叫ぶ。心当たりのある場所は、すぐにあたったが、どれも空振りだった。

 

 それは、二人がいなくなり、数日と経とうとした頃の出来事だった。

 

「え……?」

 

 気がつけば、魔法陣のような紋様の上に立っていた。

 ローブを着た男たちが、見知らぬ言語でしゃべっている。ファンタジーのゲームでよくみる『エルフ』に『獣人』のような特徴を持った人たちもいた。

 

「なんだよ……! なんなんだよ、これ……」

 

 そして僕は、その場から走り、逃げ出してしまう――

 

 

 




 かなみん……頑張れ、かなみん。

 ちょっとかなみんを掴むのに手こずってます。
 それと、この回想は現代編でやればよかったかもしれません。次回からは視点戻ります。
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