作者の所属するサークルで行った「作者人狼ゲーム」で発表した作品を投稿します!
「ねえサム、僕はこの世界にある、ありとあらゆる生命というやつに絶望したよ」
「どした急に。いつものことながら」
ある晴れた6月の日の事。
ここは王国の城内にある訓練所。
大勢の騎士達が、今日も鍛錬に励んでいる中、木陰のベンチで二人の若い騎士が昼食をとっていた。
「例えばだよ、鳥や獣。それに虫や微生物。
あいつらは自分たちで栄養を作れないから他の生物を食べて栄養にしてる。
つまりは他から命を奪ってきて生きてる訳だ。
それに、これは最近気づいたんだけど、あの一見無害そうな植物だってさ、実は同じなんだよ。
あいつらは自分で栄養を作れるけど、その為の材料を同族で奪い合っているんだ。
周りよりたくさんの養分を摂ろうと根を伸ばし、自分だけがより多くの陽の光を浴びれるように葉を茂らせる。
どいつもこいつも自分一人で生きてゆけない癖に、自己中心的で独りよがり、協調性の欠片もない。
なんて醜いんだろうか。
あの植物でさえそうなんだよ? いわんや僕ら人間においておや。
この星の生き物は、他者から何かを奪わないと生きられないように、デザインされている。
人は一人では生きていけない。
それはそうでしょ。自分には何もないから、他から奪ってこなければならない。
ねえ、サム。
ここじゃないどこかにはさ。
己一人で完結した生き物たちが暮らす、誰も傷つく事がない、残酷ではない世界があると思うんだ。
ある意味、ユートピアだよね」
「そんな世界、きっと楽しくないんじゃないか。進化も発展も無いわけだから」
「そらあ、楽しくはないと思う。でも同時に辛くもないはず。誰も、何も、失わなくてもいいんだからさ」
「スティーブン。前から思ってたけどおまえ滅茶苦茶優しいよな。貴族の子供なのに」
「貴族は関係ないでしょ。僕はね、性善説より、性悪説の方を信じてるけど、だからってみんなが天に裁かれるべきとかそうは思ってなくて、僕はどんな悪党でも、少なくとも不幸にはなってほしくはないと思ってるんだ」
「ほら優しい」
「優しくないよ」
「やっぱ面白いわおまえ。スティーブン、お前王様になれよ。そんで俺を騎士長に拝命してくれ。二人でこの国、牛耳ろうぜ」
「言い方よ」
「この俺が手伝ってやるよ。二人で理想の世界を作ろうぜ」
これが戦乱の世において、後世まで語り継がれる事になる王国きっての善王と、自国のみならず敵国からも尊敬を集めることになる王国軍最強の騎士の、幼少の頃の他愛無い日常の一コマである。
注釈
『スティーブン』とはギリシャ語で「冠」を意味する「ステファノス」あるいは「ステパノス」に由来する。
『サム』は男性名「サミュエル」の愛称で、旧約聖書の『サムエル記』に登場するユダヤの預言者の名。