よろしくお願いします。
「そこの旅の方、アナタこれまでに相当血を浴びていますよね?そんなアナタを見込んでお願いがございます。」
黒い外套にすっぽりと身を包み、同じく黒いハットを被った男が妖しげに金縁の丸眼鏡を煌めかせながらそんな言葉を俺に投げかける。
旅の途中で誰かに話しかけられることなどほとんどなかった俺は振り返った。
「ワタシはこの帝国のハンターズギルドの人事担当者でゴザイマス……以後お見知り置きを」
「冷やかしに用はない。さっさと消えろ。」
「いえいえ、冷やかしなどではゴザイマセン。言ったでしょう?お願いがございます、と。」
少しの間を破ったのは俺の方だった。
「用件を話せ」
「それでこそワタシが見込んだお方でゴザイマス……」
「御託はいい。何の用だ。」
「アナタにこの帝国を支える“ハンター”となっていただきたいのです。勿論報酬も弾みます……元々そういった生活をされていたのですからそう変わらない、そうでしょう?」
こちらを見透かすような発言に薄ら寒いものを感じる。
「お前はどこまで……」知っている、と続けた発言は曖昧模糊な発言に遮られた。
「今やヒトの生息圏の拡大はとどまることを知らず、海に船でこぎ出すのに飽きれば空へと進出しました。そして空を観測気球が網羅したのはそう最近のことではゴザイマセン。
ああ、そういえばこれは全く関係ことでゴザイマスが、最近この近辺で行き会ったモンスターを無差別に
「もういい、わかった。」
事実上の監視宣言に対して誘いを受け入れざるを得なかった俺を見て男は満足そうに二、三度頷いてから「それでは集会場でお待ちしております。我らが同胞……」と言って歩き去った。
俺はため息を一つ落として、国内地図を頼りに集会場へと歩き出した。
集会場に着くと先程の男が待っていて、すぐさま俺をハンター登録する手続きを始めた。
名前ももはや思い出せない上にこの国の国民ですらない俺の事をスムーズ過ぎるほどにハンター登録する様に俺は内心舌を巻いていた。
ずっと分かっていたことではあったがやはりただものでは無い。警戒心を強く持った俺を他所に手続きは終了し、俺は解放された。
国に準備された家のベッドに体を沈みこませる。
柔らかいベッドで眠るのはいつぶりだろうか、そんなことを考えていると瞼が重くなり、俺は意識を手放した。
それからの日々は実の所文字通り親の仇であるモンスターを依頼に応じて
ただ、モンスターの素材と別で報酬金が得られるようになったことで身を守るための防具を手に入れられるようになった。
また、ちゃんとした食事も取れるようになったことで体に筋肉がしっかりと付くようになり、それに伴って実力も村を出た頃と比べ物にならないほどに上がっていた。
俺が正式にハンターとして活動し始めて1年が経つ頃には全てのハンターの頂点に立つというG級ハンターとなっていた。
その間あのスカウトの男は現れず、その事も忘れかけていた。
そんな日のこと。
「お久しぶりでゴザイマス。アナタの活躍はワタシの耳にもしっかりと届いております。」
「何の用だ。」
「いえ、アナタにまた“お願いごと”がございまして。詳しくは裏でお話致します。」
「つまり、俺に裏で“ゴミ処理”をする汚れ仕事をして欲しいと。」
「ええ、我が国のハンターは他国とは少し事情が異なりまして、ギルドも帝国が運営している形態を取っております。
ですのでハンターなど国の警察組織だけでは手に負えない案件も多く、そこで我々が構想している『ギルドナイト』制度のテストケースになっていただきたい、そう思っております」
「拒否権は?」
「今回に関してワタシから特に無理強いをするつもりはございません。何せ汚れ仕事の依頼でございますから、強制した方があとのことが怖いというものです。しっかりと考えてから決断なさることをお勧め致します。ただ、」
厭に丁重な扱いに嫌な気配を感じる俺に男は言葉を紡ぎ続ける。
「アナタにもしも、辛い過去があるのでしたら、同じ境遇の方を減らす一助になることは可能かと思われますとだけワタシからは申し上げておこうと思います。」
その一言は俺の
父を見捨てたと俺に後ろ指を指して石を投げ、母を弱らせた彼らは悪人と認定するのに足るように俺の中では思えた。
そうだ、俺は正義に憧れていたんだ。
それなら汚れたこの身がいくら汚れようとも、もう手遅れだろうと考えた俺は、男の誘いに乗ることにした。
男は常から浮かべている薄笑いをさらに深めて、上機嫌そうに二度、三度頷いた。
「でしたらアナタに紹介しておかなければならない方がいます。入ってきてください。」
その呼び声に応えてドアが開き、部屋に金色のスーツを身にまとった男が入ってくる。
「ギルドナイトテストケースNo-2だ。」
そう名乗って短く刈り上げた頭を軽く下げ、上がってきた色眼鏡の奥からは鋭い眼光が覗いていた。
あまりの気迫に思わず刀に手をかけた俺を制止してハンターズギルドの男が相も変わらず胡散臭い口調で話す。
「これからアナタ方には当面の間2人組のギルドナイトとして活動して頂く事になります。これ以降お2人がギルドナイトとして活動する際には本名では何かと不都合があるかと思われますので、テストケースNo.1のアナタには『アルファ』、それからNo.2のアナタには『ベータ』として活動して頂きます。異存はありませんね?」
「ちょっと待てよ!いきなり見ず知らずの奴と勝手に組ませるなんて」
「ガタガタうるせぇぞ、坊主」
抗議の声は目の前の男のひと睨みとドスの効いた声で踏み潰される。
「一旦は通常のハンターとして狩りに出て頂いて連携などを確かめていただくのが良いかと思われますので、それでは頑張ってくださいね」
相変わらず気味の悪い薄ら笑いと共に俺を送り出した男の声と共に、No.2ことベータは俺を半ば引きずるようにして共に部屋から退出したのであった。
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