刃に忍ばせる心の色   作:初代小人

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あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします(遅い)
投稿が遅れてしまってすまない……冬は調子が出ないんです。
今後は、今後は頑張りますから……


感傷・肆

じわり、と嫌な感じがして目が覚める。

荷車の中まで白いモヤが立ち込めている。

「霧……?」

「ああ、もっと正確に言うなら霞、だな。」

 

ベータの言葉が指すこと、つまり───「もうここは奴さんのテリトリーって訳だ。坊主、古龍と戦うのは初めてか?」

「嗚呼。」

「そうか。兎も角あまり勝手に動くんじゃねぇぞ。はぐれたら合流出来ないと思え。さて、行こうか。」

「応。」

 

 

そろり、そろりと二人背中合わせで一歩ずつ進んでいく。

その時だった。

 

 

ヌルっとした「何か」が背中を這って、腰に提げたポーチの蓋がひとりでに開いて、携帯食料が吸い込まれるように消えていく。

 

 

「……は?」

「出やがったな。」

気の抜けた声しか出せない俺と対照的にベータは銃を抜いて携帯食料が消えた方に向ける。

それと同時に幕が剝がれたように虚空から紫色の奇怪な龍が現れて、大きな目玉をぎょろりとこちらに向けてから再度霧の中に融けていった。

 

 

「なんだよあれ……」

「オオナズチは透明化するって予習は完璧だったんじゃねぇのかよ」

独り言ちた俺にベータが皮肉る。

 

 

「いや、霞込みであんなに分からないとは思わなくてさ。」

「まあお利口なだけじゃやってけねぇよなぁ。で?太刀使い特有の気配読みはどうしたよ。」

「は?」

「気が使えるような奴は敵の動きとかある程度わかるもんだろ?俺も昔太刀をかじってたがその時に教わってた奴はそう言ってたぞ。」

 

「嗚呼、そうなのか。」

「なんだ知らなかったのかよ。お前に太刀(けん)を教えた奴は相当ボンクラだったらしいな。」

 

ベータが変わらない様子で吐いたその言葉に瞬時に頭に血が上って胸ぐらをつかむ。

 

「取り消せ。俺の親父を馬鹿にすんな。」

「取り消さねぇ。大体テメェみてぇなガキ狩場に放り出してる奴が碌な親なわけねェだろ。」

語気と眼光を強めて言い放ったベータに腕を振りかぶる。

 

 

一歩下がって身を躱したベータは鬼ヶ島を構えて宣う。

「おいおい、目ぇ覚ませよ。今闘うべきなのは俺とじゃねぇだろ?」

「うるせぇ!なら今言ったことを取り消せよ!」

 

そう言った俺にベータが深くため息をついた。

 

俺は更にこぶしを握って殴りかかる。

しかしそれは当たらない。

 

「お前、そんなんでよく今まで生きてられたな……」

「安い挑発してる暇があるならちょっとは反撃してきたらどうだ!だいたいずっと偉そうにしやがって、何様のつもりなんだよ!」

その言葉にもベータは頭を搔くばかりで具体的な返事はない。

 

「何とか言えよ!」

業を煮やして振るった拳はとうとうベータの鼻先を捉えた。

 

ベータがふらりと数歩よろめいてから大きな舌打ちをする。

やってやった。そんな達成感にも似た何かはしかし数秒で霧散する。

 

 

「もうそろそろいい頃合いか。霧も深くなってきやがったしな。」

そう言ってベータは銃を俺に向けて構えなおした。

顔から血の気が引いていくのが分かる。

 

「ガキの守なんてめんどくせぇ事やってれねぇわ。よくやった方だろ。さっさと済ませて帰った方が得策に決まってらぁ。」

そう言って二度、三度首をポキポキと鳴らしたベータはスコープを覗く。

 

 

辺りがほとんど見えない深い霧の中で乾いた銃声が一つ、鳴り響いた。

 

 

 

 

 




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