破裂音に思わず目を瞑る。
しかし予想に反して激痛はいつまでたっても訪れない。
更に背後から怯むような嘶き声がして、同時に鼻を衝くような刺激臭が漂い始める。
「は……?」
「ペイント弾だよ。気配が読めないんならこれ使うしかねぇだろうが。」
「ならさっきのは何だったんだよ。」
「オオナズチは古龍の中でもかなり知能が高い。だから油断を誘うために一芝居打った。」
逃げるように山の上へ飛び去って行くオオナズチを見やりながら言うベータに再びふつふつと怒りがこみあげてくる。
「それでも親父のことは」言いかけた俺に被せるようにベータが言う。
「ああ、その件については悪かった。」
思いのほか素直に謝罪したベータにたじろぐ。
「俺にも親父がいる。血は繋がっていないし色んな奴が碌でもないと言うが自慢の親父だ。お前の親父のことを知りもしない俺が何か言うのはお門違いってもんだった。芝居とはいえ言い過ぎた。悪かった。」
俺は今抱えた感情の遣り場を見失って、何も言えなくなった。
マーキングが消える前に追いかけようぜ、そう言ったベータの後ろを警戒しながらついていく。
今度は不意を打たれないように、今度こそ反撃に出られるように。
刺激臭が強くなる。
すぐ近くに奴がいるという確信が強まる。
その時だった。
何もないところ、丁度ベータの死角から紫の霧が噴き出て、ベータの全身を吞み込んだ。
「ベータ!」
思わず上げた声に、「来るな!」と苦し気な怒声が返ってくる。
毒霧が晴れた時、そこには血を吐いて倒れ伏すベータの姿があった。
たまらず駆け寄った俺に「ポーチの二番目に小さいポケットの中に青い瓶がある……それを出してくれ……」
言われたとおりにポーチを開けて小瓶を取り出してベータに渡す。
ベータは震える手でそれを握って、口元に近づけて中身を一息で飲み干した。
「
「嗚呼。」
そう言って立ち上がり、太刀の柄を握りなおす。
五里霧中、そんな言葉が似合う景色の中に溶け込んだオオナズチの気配を探る。
さっきベータと喧嘩したときに思い出した。
はるか遠いところに感じる生前の親父は「なんのために太刀を握るのかを考えろ」と言っていた。
もし今この得物を振るうことに理由が必要なら、俺はあのいけ好かない銃手を助けるためにこの太刀を握る。親父、俺に力を貸してくれ。
「ここだ」という直感に従って刃を振るう。
キィンと甲高い音と共に振るわれた刃に人のそれよりも少し黒く濁った血飛沫が載り、更に刃に霧に溶け込むような白い光が宿る。
一瞬遅れてオオナズチの悲鳴が上がる。
同時に驚きのあまり透明化を維持できなくなったか、眼前にオオナズチが姿を現す。
その長い首には一筋の長い太刀傷がついており、ここにきて初めて大きな目玉でこちらを睨み、敵意を露わにしていた。
更に地を震わせるほどの大きな咆哮を上げる。
体が思わず震える。初めて体感した純粋な殺気に対する恐怖を、口角を上げて押し殺す。
虚勢に乗って気が昂る。
「やっとお互い
老獪な古龍と意気軒昂な若人が正面からぶつかろうとしていた。
読了頂きありがとうございます。
感想、高評価並びにお気に入り登録頂けると作者のモチベーションにつながりますので何卒よろしくお願いします。