刃に忍ばせる心の色   作:初代小人

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前回と打って変わって今回はちょっとだけ長め。
足して割ればちょうどいいかもしれないなんて思う今日この頃。
今回もよろしくお願いします。

あと今回の投稿にあたってサブタイトルを「〇ノ段 其ノ〇」から「〇ノ段 〇(上・中・下)」に変更しますので過去投稿分も含めてサブタイトルが変更になるものがございますが内容は誤字修正等を除いて変更しておりませんので何卒よろしくお願いします。


弐ノ段 中

デルの操るアプトノスが牽く(ほろ)の付いた車の上で、アルがいつも通り険しい顔で後方を見つめている。

ガマは幌の上でより遠くの状況や風向きを確認して天候を読んでいる。

ベタはこんな時でもタバコをふかしていて紫煙が車内にたちこめている。

 

10年以上この猟団で旅をしてきた中でこれ程の速度で走ったことがあっただろうか、と思うほどの速度に俺は焦燥感に駆られながらも何もすることが出来ず無力感に唇を噛む。

 

その時、アルが誰に言うでもないような口振りでこう言った。

「いつでも戦闘できるよう備えろ。最悪に意識を向けろ。」

 

 

そのような指示がされたこともまた初めてで、俺は慌てて肩に太刀を担いだ。

と、頭上からガマの声が何やら聞こえてきたと同時に、地面が揺れ始めた。

嵐に加えて地震まで起きたのかと思った時、ガマが車内に入ってきて言った。

揺れはどんどん強くなって地鳴りすら伴うようになり、やがて車を牽いていたアプトノスも走っていられなくなったようで、車は完全に停止した。

 

 

そしてガマが車内に入ってきて何か言おうと口を開いたまさにその時だった。

爆発音が響き、同時に衝撃波を伴った咆哮が轟いて、車は完全に横転して、動けなくなった。

 

 

車から飛び出していったアルとガマに続いて俺は出口から這い出した。

ベタは俺が這い出したすぐ横にいつの間にか立って、片手で愛銃である鬼ヶ島をこんな時でも気だるげに構えている。

「煙草が湿気っちまったねぇ〜……この落とし前を取ってくれるのは君かぃ?」

言葉の通り煙を発さなくなったタバコを地面に吐き捨ててぐりぐりと踏みつけながら睨みつける先には、獰猛そうに鋭い牙が並んだ口を開けて威嚇し、その体躯を大きな翼脚で支える蒼と黄土色の絶対強者────ティガレックスがいっそ冗談であって欲しかった程の威圧感を放って対峙していた。

 

そうしてガマが閃光弾を投げてティガレックスの動きを止めて言いかけていたことを今度こそ言葉にする。

「数え切れないほどの異種のモンスターが今来た方向から来る!これは百竜夜行だ!」

「百竜夜行か……」

「幸いあの轟竜が突出しているだけで百竜夜行本隊との接敵までには時間がある。ここは百竜夜行本隊と轟竜の対応、二手にわかれるのがいいかと思うがどうする、アル」

 

アルは一瞬考えた後に言った。

「俺とガマとデルで本隊の対処、オーガはティガレックスの討伐に当たれ!ベタ、悪いがオーガのサポートに当たってやってくれ、それでは」

そうして百竜夜行本隊へと向かおうとするアルを思わず遮る。

「待てよ!俺にアレの対処?討伐?冗談だろ?」

「いつまでお子様気分でいるつもりだ?俺に教えられることはもう全て教えた。あとはお前の気合しだいだ。

それでは各々、最良を尽くせ。(サン)!!」

 

 

 

───────

 

 

「さて、私らもお仕事の時間だねぇ〜?ひとまず、これを使おうかねぇ〜」

ベタがそう言って俺に銃口を向けて引き金を引く。

反射的に俺は回避行動をとりかけるが銃の方が早い。

しかし予想に反して銃口からは赤い霧のようなものが噴き出した。

 

 

ぞくり、とした感覚と共にじんわり力が湧いてくる。

初めての感覚に戸惑う俺にベタは「それは鬼人弾だねぇ〜、鬼人薬を弾丸に込めて経皮吸収できるようにしたスグレモノ、って事になるかねぇ?さて、()ろうかねぇ?」と、飄々とした口調の中に決意を滲ませていた。

そんなベタと裏腹に、やはり俺はまだ覚悟を決めることが出来なかった。

(俺が、こんな大きなモンスターと戦う?未熟者の、俺が?)

 

 

これまでにアル達が襲ってきたモンスターと戦っているのは何度も見てきた。

しかしいつも他のみんなが撃退、あるいは討伐してくれていたためどこか他人事のように感じていた。

“気刃斬り”も出来ない俺に、できるはずがない。

そんな考えが頭を過り体を固くする。

 

結果として閃光玉の目眩しから解き放たれたティガレックスが小手調べ程度にした翼脚すら回避できない。

 

(ほうら、ダメだった。)

そんなふうに投げやりに、アルの思い違いだったんだと半ば責任転嫁しながら最期のときを迎える覚悟をしたその時だった。

薄汚れた黄色い影が視界に飛び込んできて、俺を抱えてその場を離脱した。

 

 

「ベタ」

ありがとう、と続けようとしたその時だった。

 

「おうガキィ、いつまで(ほう)けてんだ。」

ベタの口から今まで聞いたことのないドスの効いた声が飛び出した。

 

「は?」

今日何度目かの俺の困惑にも動じずベタは上手く注意を自分に引き付けながらそのまま話を続ける。

 

 

「テメェはなんださっきから。この忙しい時に何様のつもりだ?

まだ見習いだから?未熟者だから?

戦場にンなもん関係ねェンだよ!!!

今全員でお互いを守る為に命懸けて戦ってんだろうが!」

 

 

その言葉どおり、ベタはティガレックスの猛攻を全て紙一重で避けていく。

翼脚に血管を浮かせて怒り狂うその視界にはもはや俺などという弱者は入っていないようでベタを執拗に狙っている。

それでもベタは声を上げることを止めない。

 

 

「いいかよく聞け!

この期に及んで(タマ)張れねぇようなやつは必要ねぇ!殿(ケツ持ち)位はしてやるからさっさとこの場から消え失せろ!それかさっさとこのデカブツの胃袋の中に納まって永遠におねんねしてろ!

その刀はなぁ!俺が知る中で最も勇敢な男が握ってたモンなんだ!手前(テメェ)のような意気地無しが握っていいもんじゃねぇんだよ!」

 

 

「そんな事言ったって無理なものは」

「ンなこと聞いてねえ!!!」

あまりの言われように言い返そうとした言葉は聞くまでもなく切り捨てられた。

 

 

手前(テメェ)も鬼の猟団の団員だろうが!いつまでも見習い気分で居るんじゃねぇ!腹ァ決めやがれ!」

 

その言葉を聞いて俺は目が覚めたような気分だった。

いつからか俺は皆と自分を切り分けて考えていた。

みんなは強いからきっと大丈夫だなんてそんな訳もないのに心のどこかでそう思っていた。

 

 

そうだ、俺もこの猟団の一員なんだ。

ふぅ、と息を吐き出して目を瞑ってそれから見開く。

視界はもう、澄み切っている。

 

 

 

一歩。

肩に掛けた鞘から太刀を抜き。

二歩。

鞘を腰の位置へと移動させる。

三歩。

俺に発破を掛けた偉大な先達を突き飛ばして、矮小な人間を噛み砕いて飲み込まんとする(あぎと)の前で鞘に太刀を納める。

 

 

凶暴な(あぎと)がまさしく閉じられようとしたその刹那。

甲高い金属音を立てて人の身には余るほどの長大な刃が抜き放たれる。

同時に体を半回転させながら横に移動してティガレックスの(あぎと)から逃れる。

刃は正確にその凶悪な牙のない口角の部分を切り裂いた。

 

 

そして数瞬の後。

斬斬斬(ザザザン)という音を立ててティガレックスの頭から大量の血が噴き出す。

俺の右手に握られた太刀の刀身には、確かに白い光が宿っていた。

 




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