やれやれ。僕は投稿した。
「たくさん出るんだ。そう、たくさんだ」
たくさんだ、君は繰り返しそう言った。
「何がたくさん出る」
糞尿の類かと下衆めいた言葉が割って出かけたが、何とか押し留めた。君はそういう話をひどく嫌がる。
「妖怪だよ」
「妖怪?」
「妖怪。僕らと異なる存在。異なるが故に仲間になれば心強い」
心強い、と言った君の顔はなんだかいつもより疲れているように見えた。
「ねえ、聞いておきたいんだけど」と僕は言った。
「妖怪とは比喩なんかじゃなくて、たとえば広辞苑を引いた結果そこに載っているようなもののことでいいのかな」
やれやれ、と君は溜息を吐くと、お世辞にも洗練されたとは言えないデザインの腕時計を叩き、ローイレと呪いめいた言葉を吐いた。あるいはそれは、シースーやザギンといったような業界用語だったのかもしれない。
「奇奇怪怪だよ、奇奇怪怪。わからなくてもいい。ただ、友達は大事だ」
「カイカイ、キキ?」
「奇奇怪怪。世の中には不思議な事がある」
不思議な事、と君は部屋の一点を見据えながら言った。
「たとえば朝寝坊」
「朝寝坊」
「そう、朝寝坊。夢の中では起きたはずなのに、寝ているんだ。布団の中から出て歯も磨いて、もしかしたら時間に余裕があってマスターベーションもしたかもしれない。それでもそれは夢の中の話なんだ。そう、妖怪のせい」
「それは自分が悪い」と僕は言った。
「妖怪のせい」と、君は強く繰り返した。「知らなかったの」
「知らなかった」
呆れた、と君は半ば軽蔑したように僕を睨みつけた。慌てて僕は、出来の悪いサンドイッチのように話を合わせた。
「妖怪のせいなんだね。そうなんだね」
やっぱり妖怪のせいなのだと僕が言うと、君はひどく嬉しそうな顔をしたような気がした。僕は合わせながら、口に出す言葉を探す。軽い失語症になっていた。まるで初めて生まれた赤子のように。「うん、そうだな。これは一つの参考意見として聞いてほしいんだけど──妖怪が居なかったらどうする」「居るから、大丈夫」
「ああ」僕は頷いた。
「ところで」と君は言った。「今、何時」
僕はスマートフォンを取り出すと、画面の指紋を服の袖で拭って時刻を確かめようとしたが電源が入らない。
「一大事」答えて、僕は思い至った。「まさか」
君は、妖怪のせいと呟いた。どこかマタタビの匂いがした。
「大好きなあの子にふられるのも、大嫌いなピーマンを急に食べられたのも、悪いことも良いこともそう全て」
妖怪のせい、と君は言った。
「だとすれば」と僕はずっと感じていたことを口に出さずに居られなかった。
「急激な便意も妖怪のせい」
「妖怪のせい」
やれやれ。僕は脱糞した。