脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~   作:みずがめ

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2.学園のアイドル……

 後輩に傘を渡す。イケメンポイント五〇ポイントくらいか。スマートにできたらって話だけどな。

 昨日は後輩少女に格好つけるという恥ずかしい言動をしてしまった。ベッドでのたうち回ること三時間。奇跡的に立ち直れた。

 立ち直ったとはいえ、後悔が消えるわけじゃない。あの後輩少女からすれば不審者みたいなもんだ。……通報されてないよね?

 困ってる女の子がいたら助けたくなるのが男の性ってもんである。それが俺の気の迷いの理由だ。

 だけど、それだってスマートにできなきゃ意味がない。

 

「はぁ~……」

 

 昨日と変わらないため息。変わったことはため息の理由くらいなものか。

 それでも世界は回っている。学校にだって行かなきゃならない。学生はつらいよ。

 いつも通り登校し、静かに教室に到着した。

 誰も俺に注目しない。そりゃそうだ。誰も見てないところで恥をかいたって、そんなこと誰も知るはずがない。昨日は本当に後輩少女と二人だけでよかった。俺の恥を知っているのは彼女だけだ。

 

「おはよう会田くん」

「うぇっ!? あ、えっと、お、おはよう藤咲さんっ」

 

 油断した。

 着席したところで隣の席からあいさつが飛んできた。突然の可憐な声に自分でも気持ち悪い返事となってしまった。圧倒的後悔。

 隣の席の女子は静謐な空気をかもし出していた。クラスで一人だけ存在感が違う。

 大きくくっきりとした可愛らしい目は見つめられるだけで恋に落ちてしまいそうだ。それほどの魔眼の持ち主である。実際に犠牲者となった男子は多い。

 鼻筋はすっと通っていて、魅惑の唇はいけないことを考えてしまいそうなほど。

 彼女の長い黒髪はキューティクルを極めたのかってくらい艶やかだ。対照的に肌は雪のように白く透き通っている。どちらも互いを生かし合っている白と黒。

 スタイルは制服越しでもわかるほど抜群のものをお持ちである。思わず男の本能のまま見つめてしまうが、それを見つかれば女の敵認定である。なんというハードモード。

 そんな彼女の名前は藤咲(ふじさき)彩音(あやね)。学園の誰もが認める美少女。つまり学園のアイドルと呼べる存在だ。

 せっかく藤咲さんに話しかけられたってのにまともに返事できなかった。悔やんでも悔やみきれない。

 どもる俺に呆れてしまったのか、藤咲さんは興味を失ったみたいに視線を外した。

 チャンスはピンチってか。昨日に続き、今日もついてない。

 改めて席に着く。一瞬頭がピンク色になったが、すぐにブルーに逆戻り。上げて落とすってのは残酷だと思うんだ。

 

「あのー、ここに会田祐二先輩はいますか?」

 

 教室の入り口から俺を呼ぶ声が聞こえた。

 俺に用事とは珍しい。ていうか初では? 顔を向けてみれば最近見覚えのある亜麻色のツインテールが目に入った。

 いや、最近っつーか昨日会った後輩少女だな。

 なんの用だろうか。という疑問は彼女が手にしている傘が教えてくれた。どうやら律儀に返しにきてくれたらしい。

 

「呼ばれているわよ会田くん。早く行ってあげて」

「あ、うん、そうだな」

 

 またもや藤咲さんから声をかけてくれたってのにチャンスを無駄にしてしまった。まあ俺と藤咲さんとの間にチャンスが生まれる隙なんてないんだろうが。

 さっと立ち上がり後輩少女のもとへと向かう。心なしかクラスの視線が突き刺さっている気がした。

 

「あっ、昨日はどうも」

「いえこちらこそ」

 

 でも納得。この後輩少女はなかなかの可愛さだ。男なら目にしたら五秒くらいは釘付けになってもおかしくない。

 

「てか、よく俺の名前わかったね。名乗ったっけ?」

「あの、傘に『会田』って書いてましたよ」

 

 おお、小学生のころからの癖がこんなところで役に立つとは。物に名前書くとか知られるのは恥ずかしいけど、こうやって可愛い女子が会いにきてくれるのならよかったと思っておこう。

 

「いや……俺のことフルネームで呼んでたよね?」

 

 貸した傘にはそこまで書いていなかったはずだ。それに学年やクラスを書いた覚えもない。

 

「それはその……。あたし、お姉ちゃんがいまして……会田先輩と同じクラスだったから覚えがあるって教えてくれたんです」

「お姉ちゃん? それって誰なんだ?」

 

 ちょっとだけ言いづらそうにしてから、後輩少女は教えてくれた。

 

「……藤咲彩音、です」

 

 藤咲彩音……。えっ、マジか!?

 振り返って藤咲さんを見る。彼女はこっちを向くことなく涼しい顔をしていた。

 後輩少女へと顔を戻す。言われてみれば似ている気がする。藤咲さんを少し幼くしてツインテールにしたら。そこまで想像すると、なるほど姉妹だと納得できた。

 

「そっか。妹さんだったんだな」

「本当に知らなかったんですか?」

 

 そこ疑われても困るんだけどな。そもそも藤咲さんに妹がいることすら今知ったし。彼女のすべてを知るほどストーカーではないつもりだ。

 

「あたしがお姉ちゃんの妹だから、優しくしたとかじゃないんですか?」

 

 妹だからって、そこにどんな意味があるのだろうか。藤咲さんへのアピール? どんな遠回りアピールだよ。

 

「俺、言ったよな。雨に打たれたかっただけだって。本当にそれだけだよ。あの時たまたま君がいただけで、藤咲さんの妹とか、全然関係ない」

 

 つーかそこを掘り返してほしくない。また今晩もベッドでのたうち回りたくはないね。

 そんな心のせいか、言い方がぶっきら棒になってしまったのだろう。後輩少女改め藤咲妹はしゅんと頭を垂れる。

 

「あ、ごめんなさい。先輩は親切で傘を貸してくれたのに……ごめんなさい」

 

 ごめんなさいって二回言ってるから。そんなに大事なことじゃないよ。

 それと頭を下げないでほしい。俺が後輩少女をいじめてるみたいに見えるから。背中にクラスメートの視線が突き刺さってる気がするから。

 とにかく傘を受け取ってさっさと自分のクラスへと戻ってもらおう。そろそろチャイムが鳴る時間だしな。

 

「わざわざ傘もってきてくれてありがとう。じゃあ気をつけて教室に戻るんだぞ」

「は、はいっ。会田先輩っ、この度は本当にありがとうございました!」

 

 声が大きいってば。まあ後輩っぽくて悪い気はしないけどな。

 傘を受け取って、藤咲妹は踵を返した。

 これで彼女との縁もなくなってしまった。そう思うとけっこうもったいないことした気分。可愛かったし。

 

「あっ、名前聞くの忘れた」

 

 別にこれから関わるとは考えていない。でも名前くらいは聞けばよかったとは思う。

 学園のアイドル、藤咲彩音の妹。後輩少女のことで俺が知ったことはそれだけだった。

 

 

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