脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~   作:みずがめ

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31.見られているとがんばりたくなる

 ちょうど日付が変わった時間。小腹がすいたので、夜食を用意しようとキッチンへと向かう。

 

「おう祐二。こんな遅くまで勉強してたのか?」

「もちろんだよ父さん」

 

 父さんとエンカウントしてしまった。いつ帰ってきたんだろう。気づかなかったってのは内緒にしておこう。

 反射的にいい子の答えを口にしてしまった。明日は休みだと思って自室でゲーム三昧に明け暮れていただけだ。これでも受験生なのよね。

 

「父さんはこれからリフレッシュタイムですか」

 

 父さんが手に持っている缶ビールとおつまみの数々。これからお楽しみの時間が始まるのだろう。ふっ、簡単な推理さ。

 

「おうよ。付き合うか?」

 

 ニカッと笑う父。お世辞にも顔がいいとは言えないが、愛嬌を感じさせる笑顔が似合うおじさんである。

 たまには父さんの相手でもしてやるか。俺ってば親子のコミュニケーションを大事にする息子の鑑だよな。

 

 

  ※ ※ ※

 

 

 俺の父は某保険会社に勤めている。

 仕事ではあっちへこっちへ駆けずり回って大変らしい。おかげで顔を合わせること自体が少なかったりする。

 男手一つで俺を育ててくれた。とても感謝している。おかげでメイドカフェ通いができるほどお小遣いをもらっている。とても感謝している。

 

「父さんってさ、俺に期待していることとかってある?」

 

 缶ビールをちびちび飲んでいる父さんに尋ねてみた。俺はおつまみに手をつける。バタピ美味しいです。

 

「なんだ急に?」

「親って子供に何か期待してんのかなって。そういう、友達の話を聞いたんだよ」

「ほーん……」

 

 恋人の話だが、友達のことにしてしまった。さすがに親に紹介するのはまだ早い。

 

「俺の息子だからな。勉強だとかスポーツだとか、そういう学生の本分ってやつにはわざわざ期待なんかしてないから安心しろ。のびのび元気に育ってほしい。祐二に期待していることっていえばそんなもんだ」

「そっか」

「まあテストでいい点取ったら褒めてやるぞ。一〇〇点取ったら小遣い増やしてやろうか?」

「取れないと思って適当言いやがって。もし満点だったら今の倍にしてもらうからな」

 

 がははと笑う父。おい、ちゃんと頷けよな。

 正しい親がどんなのかは知らんけど、俺の父親が父さんでよかった。と、けっこう本気で思っている。

 

「まあ俺は勉強を見てやれんが、祐二の目標に近づく進路を選べばいいと思ってるよ」

「進路……」

 

 あんまり勉強してないし、そもそも勉強するのが苦手だし。進路をまともに考えていない受験生ではあるけれど、もう少し安心させられるくらいはがんばろうかな。

 

「俺、勉強するよ」

「おう、がんばれよ息子。ほどほどにな」

「おうよ。父さんもほどほどにして早く寝ろよな」

 

 自室へと戻る。つけっぱなしのゲームを切って、机に向かった。

 俺のがんばりを見てくれる人は少ない。だが父さんはもちろん、琴音ちゃんだって見てくれるだろう。ならもうちょっとがんばろう。

 

「そのためにも、今度また琴音ちゃんがいる時にメイドカフェで勉強しようっと」

 

 そう脳内スケジュールに書き込んだ。そして勉強している俺を彼女に褒めてもらうのだ。

 

 

  ※ ※ ※

 

 

 琴音ちゃんとは毎日メッセージのやり取りをしている。

 彼女の父親にけっこうな無礼を働いた自覚はしていただけに心配だったが、想像と違って家庭内は穏やかなものらしい。

 別に父親と仲良くなったわけではないが、琴音ちゃんへの暴言が格段に減ったのだとか。家に居づらくなった、という状況にならなくて安心する。

 だが、新たな問題が浮き彫りになり始めていた。

 それは七月に入って、そろそろ期末試験を意識する時期のこと。

 

「なあ祐二。藤咲さんの妹と付き合っている君に、言わなきゃならないことがあるんだ」

 

 井出が恨みがましい声でそんなことを言ったのが始まりだった。説明口調からは他意を感じる。

 さすがにあれだけ琴音ちゃんに関わっていたら、周りから恋人認定されてもおかしくない。

 なんとか俺に彼女ができたことを受け入れられた井出ではあったが、現実を受け入れることと腹が立つのは別のこと。俺だって、井出が可愛い彼女ができたとか言い出していたらグーパンチの一つも喰らわせてやりたくなっていただろう。

「今度僕にも彼女が作れるよう協力してくれよ!」と懇願された時には広い心で了承した。彼女ができると心にゆとりが生まれるのだ。友人として、井出にもそれを理解してほしいね。

 

「言わなきゃならないことって?」

 

 脳内で井出相手にマウントを取って上機嫌になる俺。

 そういうことを考えていたから罰が当たったのかもしれない。

 井出は声を潜めて、俺にしか聞こえないように注意しながら言った。

 

「藤咲琴音がバイトしている。と、うわさが流れているんだ」

 

 

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