転生したら、終わった世界だった 作:ミコトちゃん29歳
最初はちょっとした暇つぶしのつもりだった。
ふとゲーマーの友達に「何かオススメない?」って聞いたらちょうどオンラインゲームにハマっていたらしく、1つのタイトルを薦められた。
そんなふうにして、わたしが友達に誘われて始めたのが、FINAL FANTASY XIVだった。
月額1480円のオンラインゲーム。少し高い気もするけれど、特にやりたいこともなかったし、つまらなかったら1ヶ月でやめればいいか、なんて思って気軽に始めてみた。それがまちがいだったかもしれない。
友達の狙い通り、わたしはどっぷりとそのゲームにハマってしまった。大学から帰ってきてはログインしていろんなコンテンツを遊ぶ日々。画面の向こうの友達と高難易度コンテンツに行ったり、ハウジング*1を買うために必死にクラフター*2で金策したり、買ったら買ったで内装にこり始めて一日中ゲームの中の家に引きこもったり。
まあ、そんな感じで……わたしはこのゲームを楽しんでいた。今日もルレ*3行って黙示*4溜めてハウジングの内装の続き考えないと。やることが多い……!
※
■x月xx日(木)17:00より、緊急メンテナンス作業を実地いたします。
メンテナンス作業中、ファイナルファンタジーXIVをご利用頂くことができません。
メンテナンス時間帯にエターナルセレモニーの予約を行わないようご注意ください。
詳細はニュースをご覧ください。
FreeCompany - Sakura Amamoriがログインしました。
[FC]<Sakura Amamori> こんにちわー!
[FC]<Raira Kui> さくやんこんこん
[FC]<Sakura Amamori>:ライラさんやほやほ、あれ5時からメンテなんだ
[FC]<Raira Kui> なんかuchino鯖のグリダニアがバグってるんだって。テレポで飛ぶと落とされるらしいよ
[FC]<Sakura Amamori> そんなことあるんだねえ。1回試してみようかな
[FC]<Raira Kui> あ、さくやん今日時間あったら極ダイヤいこー。サブの装備ほしい!
[FC]<Sakura Amamori> おっけー!夜ならみんないるだろうしその時に!
そして私は試しにグリダニアへテレポで飛んだ。画面が暗転する。左下のチャットウインドウが動いた。
■x月xx日(火)17:00より、緊急メンテナンス作業繧貞ョ溷慍縺?◆縺励∪縺吶?
ファイナルファンタジーXIVをご利用頂くことができません。
ファイナルファンタジーXIVをご利 頂くこ がで せん。
ファイナルファンタジーXIVを縺泌茜逕ィ鬆ゅ¥縺薙→縺後〒縺阪∪縺帙s縲
よくわからない文字化けを見た瞬間、わたしの目の前がブレた。
※
時間にしてわずか3秒後、高崎明梨は目覚めた。
いったい今のは何だったんだろう。なんだかちょっとだけふらっとした気がする。貧血かな。
明梨が画面を見るとブラックアウトしていて「サーバーとの接続が切断されました。」と書かれている。
ライラさんの言うとおり、グリダニアのエリアがバグってるのは本当だったようだ。そろそろ5時だし、メンテ空けるまで他のことをしてようかな、なんて思いながら明梨は席を立った。
普通の女子大生である高崎明梨の話はここで終わりである。これからもこのゲームを楽しんでプレイしていくことだろう。3秒間で自分の身に何が起きたのか、決して知ることはない。
1.おなかすいた
分厚いガスマスクを付けた2人の男が、白い霧が立ちこめる森の中をただ歩く。まだ昼間だというのに分厚い雲に覆われ太陽の光は見えず、鳥の声すら聞こえない。そこら中にある枯れたかつての巨木たちは見る影もなく細くなり、悲鳴をあげているかのようにねじくれている。点在している建物も長い間使われていないのか、所々が白色の謎のつる植物によって浸食され朽ち果てていた。
「ここがあのグリダニアだったなんて信じられないッス……」
子供のように背の低い男、デューンフォーク族のウェッジが震える足でおっかなびっくり歩きながらぽつりと呟いた。
かつてグリダニア新市街と呼ばれていたこの森には、ところどころに人骨が散乱している。ウェッジの目の前には無造作に横たえられた頭蓋骨があった。死んでから埋葬すらされず、この地にずっと朽ち果てたまま捨て置かれているのだ。
「何が起きたか分からないまま死んで、誰も埋葬してくれないなんてあんまりッスよ……」
「それが黒薔薇だ。一度使われたらその土地に立ち入ることすらできん。本当に恐ろしい兵器を使いやがったもんだ。来る前から覚悟はしてたが、ここまでとはな……」
死んだことすら知覚できず、弔いすらされないこの人達の魂は、いったい何処へ行くというのか。ただ、何もわからぬままエーテルの世界に還るというのだろうか。
ウェッジの前を歩くのはビッグスというゼーヴォルフ族の大男だった。この2人はガーロンド・アイアンワークスという世界でも有数の技術者集団に属している。
そしていま、
「ビッグス……あの人たち……せめてオイラたちの手で弔ってあげたいッス。ダメ……ッスか?」
「ダメじゃねえさ。でも、この地で失われた命の数は俺達2人の手にはあまりに大きすぎる……。俺達ができることは、この白い瘴気を何とかして、1日でも早くこのグリダニアに縁ある人間がまた帰ってこられるようにすることさ。技術の力でな」
「……そう、ッスね! オイラたちには、オイラたちのできることがあるッス!」
ウェッジは努めて明るくそう言った。それが空元気であることをビッグスは知っていたが、あえて触れることはなかった。
「ああ、やってやろうや。それが生き残っちまった俺達の役目ってやつだろうからよ」
そうして2人はグリダニア市街の中心へと足を進めていく。
ガーロンド・アイアンワークスが対黒薔薇用エーテル停滞阻害ガスマスクの開発にこぎつけた時、初めて黒薔薇が戦争で使用されてからすでに3年の月日が経過していた。
黒薔薇とはその外見から毒ガス兵器とされているが、実際のところは生物のエーテルの流れを強制的に停滞し数呼吸の後即死させる光属性のエーテル兵器である。一度吸えば人は死に絶え、エーテルバランスの狂いによりモンスターは激変し土地は朽ち果て、食べられるはずの作物は全て猛毒となる。
数年前、突如それはガレマール帝国によってギラバニアへ投下された。
エオルゼア同盟・東方連合の反転攻勢により戦局が悪化した末の奥の手だったという。
黒薔薇がまき散らすガスは瞬く間にギラバニア全土を不毛の大地とし、共和制アラミゴを滅亡させた。
悪魔的兵器である。
それを皮切りにあらゆる場所に黒薔薇は投下されていき、いつしかこの星で人間がまともに住める場所は殆どなくなりつつあった。それに気づいた頃にはもはや遅かった。
黒薔薇が共和制アラミゴを滅ぼしてから3年、エオルゼア・東方連合とガレマール帝国の戦争はいつしか生きるために資源を奪い合う獣の闘争に代わり、国という概念すらもはや失われ始めていた……。
※
わたしは目が覚めたら霧の濃い森の中にいた。パソコンの前に座っていたのに、グリダニアにテレポしようとした瞬間に気がついたらここにいた。意味が分からないけどそう言うしかない。最初は夢だと思った。でも何日も寝ても起きても何も変わらない。
池の水たまりに自分の顔を写す。ごつごつした蟹の鋏のような白い角。病的に白い肌。紫色の瞳。アウラ・レン。Sakura Amamori。見慣れた自分のキャラクター。でもそれはゲーム内だけの話で、現実じゃない。
「もうやだよお……」
ここは現実なの? いや、絶対に夢。そのうち部屋のベッドで目が覚める。そう考えるたびに泣きたくなる。そんなことをしても何も変わらない。周囲を歩いてみても、何度見ても同じように朽ち果てた建物と無造作に転がったたくさんの人骨だけがある。
「帰りたい……お父さん、お母さん、お兄ちゃん……」
返事は帰ってこない。不安。悲しみ。でも、涙は出なかった。そんなに体力があるわけでもないのに、身体は今まで感じたことがないほど異常に軽いし力がみなぎる。ご飯をほとんど食べなくても疲れすら感じないのだ。自分が自分じゃないみたいで、おそろしい。
ただ、ここにはいたくない。たとえ帰れなくても、ここではないどこかへ行きたい。足は動く。とにかく、歩くことにした。
※
「ビッグス……オイラ気になることがあるッス。ここに来たときもそうだったけど、建物とかになんか見たことない白い植物が生えてるの気にならないッスか? とくにアレ……今まで見たのよりビッシリ生えてる」
ウェッジは下り坂の先にある1つの建物を指差した。かつてカーラインカフェと呼ばれていた冒険者ギルドの名残である。そこの屋根にはツタのように不気味に白光りする植物が寄生して食い荒らすように壁や屋根にはびこっていた。言われてみれば、とビッグスは目を細めてそれを注視した。
「そうだな……ウェッジ、グリダニアにあんな植物あったか?」
「白い花は見たことあるけど、白い茎とか白い葉っぱは見たことないッス。もしかして黒薔薇の影響で変異したのかもしれないッスね」
「有益なサンプルかもな。持ち帰れば黒薔薇への対抗策の助けになるかもしれん」
「大丈夫ッスか……? 自分で言ってなんだけど危なそうな気がするッス……」
「危険を承知で調査に来たんだ。そのくらいのリスクは背負わないとな」
ウェッジが震えていると、ビッグスはそのままずんずんと建物の壁まで歩き、壁に生えている白いツタの1本をぶちっとちぎった。その瞬間だった。
『クアアアアアアアアア』
地獄めいた圧力を伴った声が木霊した。思わずビッグスは動きを止める。
「っちょっ、なんだ!?」
「ビッグスウウウウウウウウ!!!! 早くそこから逃げるッス!!!! 建物の屋根にバケモンがあああああ!!!!!」
ウェッジは両手両足をじたばたさせながらビッグスに叫んだ。ビッグスは上を見た。ぞっとするほど幻想的に白く光る巨大な花がのそりと屋根の際から顔を出し、2本の触手がビッグスを捉えんと振り上げられていた。
「うおおおおおおおおおおおおお!?」
ビッグスは目を見開くと全速力で走り出した。すんでのところで触手の凶撃を避けウェッジのもとへ急ぐ。
「早く逃げるッスよおおおおおおお!!!!」
「言われなくてもわかってるううううううううッ!!!」
「白い植物の正体はこいつだったッスかあああああ!?」
『クオオオオオオオオオオ』
2人は元来た道を全速力で走った。しかしそこは化け物と人間の速度差。その差はどんどん詰められていく。
「このままだと2人とも奴の餌食になっちまう! っすまねえウェッジッ。俺の不注意でこんなことにッ」
「大丈夫ッス……! こんな時のために開発していたこれを使うッス!」
ウェッジは突如白い花の化け物に向き直った。そしてリュックをまさぐると一匹のドローンを飛ばす。
「シュワシュワケトルXXV世、ムーブ・オン!! 焼却モード!! 奴を倒すッス!!!」
『シュワワ』
果たしてシュワシュワケトルと呼ばれた缶の側面から2本のアームが現れ、その先から火炎放射を放った。炎は白い巨大花を容赦なく焼きこがしていく。
「白くても植物は植物ッス! なら炎攻撃は効く……はず……!?」
ウェッジの声が止まった。花の化け物は苦しまない。特に意に介していないようだった。見た目に反して火には強いらしい。そんなのありかよ。と2人は思う。
「ハハ……効いてないな……」
「これは……ヤバイッス……」
もはや逃げられない。化け物の2本の腕が振りかぶられた。もはやここまで。ビッグスとウェッジは目を閉じた。その時だった。
「ラフディバイド」
あいつは鼻歌でもやるような細い声と一緒に現れた。と後にビッグスは邂逅する。影が高速で疾走し巨大花に取り付く。そして一瞬にしてその5枚の分厚い花弁をバターのようになで切りにした。
『クオオオオオオオオオオオオオオオ』
花の中心から地獄めいた悲鳴が漏れ、影を振り落とそうともがく。やがて影は飛び上がり地面に降り立つと人の形を取る。病的に白い肌と側頭部から伸びるいびつな角が見えた。女だ。手にはたった今花をなますにした銃剣、ガンブレード。
「ブラッドソイル」
女はバレルに素早くソイルを装填する。その隙を狙い2本の腕が槍のように放たれた。危ない! ビッグスは叫ぼうとした。声を出す前に女は再び影と化した。
「ビートファング、ジャギュラーリップ」
ソイルの爆発による銃撃が巨大花の片腕を爆散させた。そして女はその勢いのままぐるりと回転しておぞましい剣気を放つ。
「サベッジクロウ、アブドメンテアー」
もう1本の腕が切断される。巨大花は白い体液をまき散らしながらうねった。
『クアアアアアアアアアアアアアアア』
「ウィケッドタロン、からの! そのうるさい口を閉じてッ!! アイガウジ!」
飛び上がり一直線に剣を花の中心へ突き刺した。体内でソイルが爆発する。内臓を焼かれひときわ高い悲鳴と共にびくんと巨大花は2度痙攣すると、やがて脱力したように萎れて体液を垂れ流しながら動かなくなった。
女はずるりと花から剣を抜いて地面に降りると、ビッグスとウェッジの方をまっすぐに見つめた。思わず2人は身構える。息を呑むと、数瞬の後に口を開いた。
「お」
「「お?」」
「おなか……すいた……」
女はそう言うと板のように固まったまま前のめりにばたりと倒れた。
「…………」
「…………」
ビッグスとウェッジは顔を見合わせた。目の前で何が起きているのか、さっぱり理解できなかった。