すべては君のために   作:eNueMu

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ヒーローとしての日常

 

 時は大きく遡り、千雨がデビュー後初のトップ10入りを果たしたビルボードチャート発表からさらに数ヶ月。大型新人「ダスト」の名は早くも全国に広まり、すでに多くのファンが彼女に声援を送っている。

 

 「て…てめえは確か…5位だか6位だかの…」

 「ダスト。順位はどうでもいいから名前だけでも憶えといてよ。といっても忘れられなくなるだろうけどね」

 「何を…」

 

 彼女の人気を支える要素の一つに、その容赦の無さが挙げられる。

ヴィランを殺害することなく拘束することが求められるプロヒーローという仕事は、当然大変な困難を伴う。彼らの社会復帰を手助けする意味でも、できる限り大きな怪我を及ぼすことは避けるべきなのだ。しかし、彼女はそれをしない。下半身をコスチュームごと塵化させ、高速でヴィランに接近。そして…

 

 「ぐああァアーッ!?」

 「ほいお終い。大人しくしてなよ、すぐに警察の人たちが来るからさ」

 「お…俺の!俺の足がぁッ!」

 

 両脚の膝から下を塵にする。彼女自身の塵化はあくまでも身体能力の一環。そういう身体であるというだけで、他者の身体は塵にしてしまえばそこまで。意図して塵にした上で固めたままにしておくこともできるが、一度粉々にしてしまえば二度と元には戻せない。彼は今後両脚を義足で補って生活するなり、車椅子を使うなりしなければならなくなったのだ。

 間もなく通報を受けていた警察が到着し、処置を施しながらヴィランを連行していく。その中には千雨にあまり良い視線を向けない者もちらほらといた。

 

 「(やっぱり嫌われちゃってるね…。そりゃそうか。警察の人の仕事を増やしてる上に毎回こんな感じだもんね。あのヴィランの人もこれから大変だろうし…でもやりすぎだとは思わないかな)」

 

 検挙数3位にも関わらずビルボードでは順位が落ちるのは、彼女のこういったスタンスが一因でもある。情けを掛けないその様子が、人によってはヒーローらしさに欠けるようにも見えてしまうのだ。しかし、大多数の人間には徹底した断罪は魅力的に映る。

 

 「いやー強ええなあ!流石ダストって感じするぜ!」

 「アイツ強盗犯だったんでしょ?自業自得じゃん」

 「あぁ!ダスト行っちゃった…てか速っ」

 

 そして千雨は愛想を振りまかない。仕事が終われば次の現場へさっさと向かってしまい、ファンに笑顔を見せたり手を振ったりということをしないのだ。そこもクールビューティなどと持て囃され、人気の理由になっているわけなのだが。

 

 「(多分そろそろなんだよね…そんな気がする。事故が起きたのは夜だったはずだから、1日のノルマの検挙数…さっさとクリアさせてもらうよ)」

 

 いつその時が来てもいいように。最近のプロヒーロー・ダストの日常には、そうした備えがついて回っていた。





ダストのコスチュームは個性に合わせた特別製…というわけでもなく、普通に一緒に塵にしたのをそのまま固めてるだけです。外見はバイオハザードRE:2のタイラントのコートと帽子みたいなのをご想像ください。コートには複数ポケットが付いていて、なかには色んな粉末やアイテムが入っています…が、多分利用する場面は殆ど出てきません()

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