妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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洞府

 エルフから得る物を得つつ、早急に洞府(どうふ)を設営していく。

川がそのままの流れと水路に分岐するよりも少し前で、周囲に山がある中を抜けて来る場所を選んだ。他者が恵みを得る前に一番鮮烈なエネルギーをという心配りである。

 

なお色々捧げると神さまの力は強くなっていくが、感謝の気持ちや信仰心を間接的に受け取っているだけだ。当然ながら無駄な物や余計な物を捧げてもダメである。排熱とか汚染を捧げて強くなる神様が居ても困るだろう。……まあそれらをクリーンにする神様として認識されて信仰されれば別だろうけど。

 

「保全能力の限界と、洞府の機能……か」

 ここで僕が持つ最大にして、今のところ唯一の能力について説明しよう。

これはおおむね三つの特性を持ち、限界はとてもカッチリしている。その管理をしやすくするのが洞府の開設だった。

 

特性1『保全』

 対象一つ、ないし明確に指定できる状態一つを保持する。

最初に魔力を支払って決定し、洞府がある場合は収穫したエネルギーを充てることができる。

また環境が元の状態とかけ離れれば離れるごとに用意した魔力・エネルギーを消耗し、消耗すればその効果は消失。

 

例として、寒いので暖かさを保ちたいという場合に『暖気』という明瞭でない物を指定するのは割と簡単だ。しかしそのままでは急速に失われるので、厚着するなり建物の中に入らなければ、直ぐに効果は消失する。

 

特性2『消耗度の比例』

 保護する対象が空間などである場合はサイズが大きくなるたびに消耗度が大きくなる。

保護強度という物は存在しないが、便宜的に保護段階を弱めて消耗速度を下げることは可能。

 

例として、子供でも大人でも……居るかは判らないが巨人でも対象は一つ。

しかし建物などは敷地や空間も覆わないと意味がない場合が多くなる。しかし広げれば広げる程に消耗は早い。これに対してテクニックとして、例えば突風を完全に防ぐか消失するかの二択にするのではなく、風の強さを一段階下げたりすることはできる。あるいは家を全てから守るのではなく、虫食いだけを防ぐならば蝗害でも無い限りはコストは大幅に下がるはずだ。

 

特性3『抵触の禁止』

 保護を一定の敷地に掛ける場合は結界と呼び、結界同士が抵触すると双方が消耗する。

このため同じ場所に敷く場合は、より大きな結界の中に小さな結界を用意しなければならない。

例外は洞府の結界だけで、大枠として見た場合の結界に小さい方の結界が抵触しても消耗は起こらない。

 

「問題は洞府の規模をどうするかなんだよな」

 洞府は基本的に結界の大きいバージョンだが、異なる特性が二つある。

逆に言えばその能力は、先に結界で軽く説明した二つの能力しか差がないのだとも言える。

 

特性1『エネルギーの収集と分配』

 有益な様々なエネルギーを僅かずつ集め、それを結界の維持に充てることができる。

ダメージを変換することは出来ず、火炎や濁流をエネルギーに替えることはできないのが残念だが、二つ目の能力がこの特性を大きなものとしていた。

 

特性2『内部の結界を組み込める』

 結界同士の抵触無しにその大枠の中に内包する。

さらには組み込んだ結界は洞府の一部区画である為、その維持に洞府が回収したエネルギーを充てることができる。

 

通常の結界は最初に支払た魔力のみで維持できるだけだ。

しかしながら洞府に組み込むことで、維持管理がとてもやり易くなる。結界なんてものは目に見えないので建て替えが面倒だし、他の魔法の補助で知覚精度を上げる場合など(一番近いアンデッドの反応など)は一々その援助を必要とする。これらの厄介事を忘れることができるのはありがたい。また結界同士の重なり合う部分が洞府側の優先なので、若干ながらエネルギー効率も高まったりするのは余禄としては美味しかった。

 

ただ、便利な機能を有するが設営できる洞府はあくまで一つだけ。

そして何より、その大きさと維持コストの問題が多方面に影響を与えるのが頭が痛い所である

 

 

「荘園の西北から東の……駄目だな。もう少し洞府の『領地』を狭めよう。魔物避けに組んでる余裕は無いや」

 面倒な話だが洞府を設置するにあたって入念な設計が必要になる。

エネルギーの流入と放出のバランスが重要になるというか……。サイズを広げると、それに比例してコストが増大する。また大枠は問題ないが、内部の結界同士は当然のように抵触問題が残っているのが厄介だ。狭過ぎるとやはり消失してしまうのである。

 

それらをコントロールしようとすると広い空間ではコストが膨大になって維持できず、狭い空間にするとガッチガッチで直ぐに限界が来てしまう。なので程ほどの空間に絞り内部結界同士の建て替えに対応することで、将来の発展に備えなければならない。

 

「やってることは殆どストラテジーゲームだよな。僕だと洞府以外に管理する方法知らないし、早く何とかしないと」

 感覚的には施設配置型のタワーディフェンス・シミュレーションだろうか?

囲碁の様なMAPに色々な施設をコスト内で設定し、その利益や防御力で領地を運営していくアレだ。囲碁盤にもサイズがあるが、サイズごとにコストが大幅に違うと思って欲しい。

 

ゲームと違う事は領地のサイズ設定から自分でやる必要があり、施設の枠バッティングでぶつけ合うと結界が崩壊するというシビアな点である。もちろんコストの数字など出る筈もなく、体験してみないと維持管理とかまったく分からないので、ドンブリ勘定で多めに考えるか経験の長い神様に頼らざるを得ない。

 

「どうしよう……。銭湯と鍛冶場は外にしちゃうか? でも、そしたら得る物があっても意味がなくなるしなあ……でも入れ無い方が計算簡単なんだよね」

 ちなみにエネルギーの出入力管理ができるのは、今のところ洞府だけ。

外の結界では内部でエネルギーが得られようとも意味をなさない。結界のバランスを崩したりもしないという事だけが利点である。分社を置けば神様へのネットワークが繋がり、それなりに感謝や尊崇の念が届くかも……というレベルでしかないのだ。

 

とはいえ戦闘や鍛冶場よりも内側……温室までで留めると確実にエネルギー流入の方が高くなる。温室なんてものはこれまでになく、その畏敬を丸ごと吸収できるし、範囲その物が狭くなるからだ。

 

「……養蚕とか桃林もあるしこの範囲までなら間違いなく成功する。でも入れるとなあ……転生知識で何か作れないか後で剛盾さんに相談してみるか」

 将来的にまだまだ荘園が伸びるならば、銭湯・鍛冶場まで広げる意味がある。

しかし普通の施設だけで終わるならば、広げ過ぎて崩壊する可能性もあった。大枠が崩れるだけならば良いのだが、温室や養蚕場に張った結界まで一気に消えてしまうのが困り物であった。

 

洞府をロスなくして建て替えたり、その外に別枠の管理システムを作ることは僕は出来ない。可能だったとしても僕は習ってないので神様でなければ知らないだろう。建て替え出来ると期待して小さくして置き、実はできなかったら大変な事になる。

 

「少し大きめにして拡大を予定するまではいいんだ。何か作りたい物と言うか……作れる物あったっけ。石鹸や香水はもう発明されてるしなあ」

 確実なのは広くしておき、エネルギーをどうにか増やす方法だ。

建て替えが期待できない以上は、広い方が色々施設を追加し易い。追加施設で収支が合うかどうか判らないが、結界を統合することでメリットも出せる。

 

洞府以外の結界は使い切りなので、最初に張った後はゆるゆると消えていくだけ。再び張り直す必要があるのだが、洞府の大枠の中であればまとめて管理できるようになるのが大きい。それこそ冷め難いお風呂や、高温を維持し続け易い炉などは魅力的だろう(火傷し難いだけでもいいけど)。

 

「今のところ思いつかないや。高品質な武具でも増やしといて、一人前に成ったらプレゼントするくらいかな。……後はログインボーナスで配るとか……アハハ」

 素晴らしいアイテムや施設でエネルギー収支が増えたりなどはしない。

しかし結界の再利用が可能になり、何かしらの維持をし続ける価値があるならば、鍛冶場や銭湯を結界内に入れる意味は大きいだろう。

 

そういった意味で銭湯の方は思い付かないので、どうしても鍛冶場で生産されるアイテムに考えが寄るのは仕方が無かった。なお非常に残念な事に蒸気機関とかの開発へ目が向くのは、この後に何年も経ってからの事となる。

 

「その辺も含めて冒険者ギルドは北部のこっち側として……。頭痛く成って来た。休憩するか」

 この領地は盆地であり西南がエルフの森に面し、東南がドワーフの山に面している。

北西から川が流れて西側の道はどんどん細く成り、東から北にかけてが街道へ連なる道だ。

 

アンデッドは国の中央から西側の穀倉地帯から発生するので、勢い、冒険者ギルドのような防衛向きの施設は北寄りになる。結界内に会議室や資料庫だけは入れる様にしないとならないなど結界を前提にすると色々と面倒が増えるのは確かだった。

 

「……おやつ?」

「うん。お茶にしようか」

 甘い物に目が無いあたり双葉もやっぱり女の子だな。

これで紅梓を呼ぼうとしない辺り、取り分が減るのが嫌なのだろう。ゲンキンというかなんというか等身大でよろしい。

 

それはそれとしてこの国で手軽なお菓子というのは、保存が効く物か簡単に作れる物になる。

 

「今日のおやつは、なにかな?」

「ガレット。面倒くさいしね。こないだ貰ったお試しのジャムでも使おうか」

 知ってる人も居るとは思うが、雑穀を水で溶いて布状に焼いた物がガレットだ。

これを小麦で作って薄く延ばせばクレープだが、生憎とそんな贅沢をする余裕はない。

 

ここでエルフたちから果物の樹を仕入れる際に、どんな味になるのかお試しで貰ったジャムを使う。もちろん砂糖なんか使ってないのだが、煮詰めている分だけ甘さは増してるのがありがたい。

 

「またポンって爆発しない?」

「その辺は止めてるから大丈夫。どっちかというと乾燥の方が厄介かな」

 以前に食べた時、発酵して空気が膨張して大きな音がしたことがある。

意外に臆病だな……と思ったら、窓の外を伺っていた。どうやら音が怖いのではなく、音がして紅梓がやって来るのを警戒したのだろう。

 

ちなみに今回やってる発酵を止めるのも結界の応用で、多重結界を作って空気の伝播や温度変化を小さな区画に押し込めてあった。もちろん対象の状況を細かく限定することで、エネルギー消費がどの程度なのかを実験するためである。

 

「じゃあ私が作ってみるね。任せて!」

「任せるけど……あんまり大量に使い過ぎないようにね。次は買わなくちゃいけないから」

 そう言って双葉が取り出したのは大き目の箱が2つ。

それぞれに別の結界を試してあり、片方は小さく割った薪で湿気を止める物。もう片方は温度計モドキで、温度によって色が緩やかに変わる石を保存している。どちらもサイズと形状が違い、やはりエネルギー消費を測る実験用の一環だった。

 

なお温度計は保全能力の前提として、温度変化を把握する過程で作った二次品と言えるだろう。本当は温度測定の結果を保全したかったのだが、間違って結界を張った箱に入れてしまい結界同士の抵触で吹っ飛んでしまったのは良い思い出である。

 

(こういう感じの『A or B』の測定に使う応用は簡単なんだよな。消耗だって全然少ないし)

 あくまで保全する能力の応用なので、使い道が限られるのは仕方ない。

貯金箱に銅貨以外が入るのを防ぐというのは簡単だが、偽の銅貨と本物を区別することはできない。次に明確な本物以外を弾こうと思ったら、含有率が低いだけの悪貨を弾いたというような結果もある。どこまでを偽物と判断するか微妙だと思ったのも良い思い出だった。

 

だが凄く狭い能力だと考るならば応用可能であるというのは面白い。

今はこういう使い道を試しつつ、神様が語れるようになったら色々と他の方法やら、アイテムとして固定するような方法が無いかお尋ねしたいものであった。

 

そして場所を区別する為の石を設置し、結界を定礎したのはそれからほどなくの事であった。




 と言う訳で教団としての拠点を設定しました。
内容は現世利益を追い求め、豊かな生活を送ること。
知恵とコツの神さまを崇めるごく狭い範囲の教団になります。
おそらくは大地母神か知識の神の使い神とか、使徒あがりの神様扱いされるでしょう。

●保全能力・結界
 作中にもありますが、基本的な能力は三つしかないです。
それも殆どは注意事項なので、『何かの現象の減少を固定する』『状況を保つ』
という能力だと思っていただければ幸いです。
貴重な文献を守る為に、『湿気ない』『燃えない』『虫が付かない』という使い道。
それらをお社に使う事で、管理し易くし、信仰も集める機能が洞府になります。

●洞府
 一番重要なのはエネルギー収穫と、配分機能。
川が流れ清水が湧き出たら微量な蓄積だけど、自然現象なので徐々に増大。
他にも暖かさだったり人々の活気を微量ずつ集めていく感じですね。
お酒が揮発する『天使の取り分』よりは少ないはず。

そしてそれらのエネルギーを洞府自体の運営や、組み込んだ結界維持に使用可能。
神社を守る結界が、信仰とか人々の活気があふれる限り続くような物です。
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