妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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上陸してみれば魅了された兵士たちの無事は結局はボーラーが起因していた。
最初にボーラーを投げろと言う命令があったからこそ、投げることで手が空くまでは人を攻撃しなかったのだ。またこちらもボーラーがあるので躊躇なく投げつけて、拘束を狙えるのが大きい。そのまま牽制攻撃を続けて後退して見せれば、罠にかける事自体は難しくなかったと思われる。
もっとも相手の魅了速度が遅いのであれば、ボーラーを投げたり拾ったりしながらゆっくり進軍していたから掛かってしまったのかもしれないが。
「何だよコリャア。布に蝋が秘密兵器だって?」
「そうだよ。千切った布を耳に詰めて蝋をすり込めば簡易的な耳栓になるんだ。その上から布で巻けばそれなりの物になる。相手の声が魅了のキーみたいだから秘密兵器ってのは間違いじゃない」
さすがに今の技術レベルで完全な耳栓なんかつくれない。
だからこそ密封・多層・素材の差という三段階で妥協している。ドラを鳴らして補強したのもこの補助に過ぎないのだ。
魅了されていた大通連にその辺りを説明する。これから再進撃するために必要な事項だからだ。
「面倒臭えなあ。あの兄さんの魔法でどうにかできねえのか? 耳ん中に何か入れるのなんざ気色悪ぃんだが」
「掛けてもらうけど青悟さんの魔法は『やり遂げた』と思ったら解除されるから同レベルの相手が居ると扱いが難しいんだ。他にも上位個体は居るだろうから難しいと思うね」
「他にも?」
抗議されてでも駄目なものは駄目だ。
ボーラーじゃなくていつもの武器を使いたいというレベルの我儘なら許せるけど、耳栓無しで上位個体と戦うのはいただけない。おそらくこれから他にもいるだろうタイプが出て来るのだから。
こういってはなんだが一番最初に効果が現れるのが、音だからこそ広範囲に広がる魅了能力だったというだけだろう。
「ここに居るハーピーは大型種で上位個体は生態能力が強化される傾向のモノが多いんだ。それを考えたら魅了ってのはむしろレアだと思うね。普通に強い奴とか、魅了の歌じゃなくてブレスを吐く奴が居てもおかしくはない」
「そっちの方が楽しそうだなあ。オレはそっち倒し行くぜ」
「何を考えているんだ。魅了の声は遠くまで響くから危険なのだろうに」
話を聞かない大通連をすかさず紅包さまが止める。
修業中もこんな光景なのだろうなあと思われる一瞬である。それはそれとしてこれからの予測を立てて、次回で完了とはいかずとも計画的に攻略する必要があるだろう。
まずは上位個体の総数算定とその対策だ。ボスになり得る個体が居る限り、どこかに逃げてまた迷惑をかけるだろう。
「仮に番いで雄雌しかいないとしても、最低でもあと一体は居ると思う。仲の良い兄妹だとしたらもう少し居る可能性はあるね。なのでひとまず計算の上では居ると仮定する」
終わってから見ると判り易いとよく言うが、ある程度逆算ができる。
もし頭が良くて作戦を立てられる奴がいるなら、今回みたいなことにはならない。おそらくはもう少し引き付けてまとめて魅了してしまうか、あるいは一番強い個体に追撃させるだろう。
それを考えたら作戦初動でいきなり躓いたのは誤算だったけれど、今思えば運が良かったのかもしれない。別の場所から上陸してそっちに強い個体が居た場合は、なし崩し的にまとめて魅了された可能性もあったのだから(偶然魅了個体を最初に倒す可能性もあるけど)。
「これが島の地図だけど魅了を使う個体の居る範囲は中心部から離れてるので、餌や居住地の好みがあるんじゃなければ、純粋に強い奴か風を操る奴が中心に居ると思う。おそらくは隔絶して強いから、魅了が効かないんだと思うね」
「仕方ねえな。そいつと戦えるまで我慢してやるよ。……っていうか、上手く入らねえなあ」
ごそごそやり始めた大通連には悪いが、グリフォン級だろうというのは黙っておこう。
紅包さま曰く昔にお師匠さん達と一緒に討伐したらしく、そのレベルでは大通連は苦戦しなかったらしい。やはり投げても戻って来る魔法武具は、空飛ぶ相手には有益なのだろう。
ともあれこれで勝てる算段が付いたので、レアな上位個体が居たら気を付けないといけない。
「蝦衛視と紅梓さん。今回は監視に徹してくれる? 厄介な奴が居て、二人の狙撃で落とせそうなら話は別だけど。具体的に言うと音以外の魅了とか、魅了以外の魔眼とかね」
「承知しました」
「それでいいなら楽だからいいわよ。あいつらが戦い始めても放っておけばいいんでしょ?」
目の良い二人を遊撃隊に据え、後ろから観察するが戦わせない。
兵士たちが混乱し始めたら、その状況の理由を特定するための存在だと言えば良いだろうか? それこそ強い個体だろうが嵐を予防が放っておいて、状況を操作するタイプの上位個体に気を付けてもらうのだ。勝てるように作戦を組んで居る為、二人にはそれ以外に対処してもらう算段である。
それ以外は前回とあまり変わらない。ドラの音を響かせて魅了する上位個体の巣へ直行。護衛諸共に始末して、そこから余力次第でこの島のボス狙いとなるだろうか。
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その後は予測通りに行ったことと、行かないことが混ざり合っていた。
純粋に強い上位個体が群れのボスで島の中央に居たのだが、魅了する個体を助けに来たのだ。こちらの包囲網を外から食い破ろうと襲い掛かって来た。増援来襲を知らせるドラの音が、耳栓をしても『ジャーンジャーンジャーン』と鳴り響くのが判った。
特殊な音は遮断しているので魅了で呼び寄せられたわけでもないだろう。今思えばやはり番いであり夫婦であったのかもしれない。
「来た来た来た!」
(……あいつやっぱりか。先に魅了する個体を倒して専念できるようにしろって言ったのに)
刃の付いた盾を投げていた大通連はキャッチと同時に外へと走った。
護衛の殆どを蹴散らしあとちょっとだったので、先に始末して欲しいと思わなくも無かった。とはいえ彼の性格を考えたら予想できなかった訳でもない。
アタッカーを大通連から紅包様に変える指示を出し、既に向かおうとしている彼の邪魔をしないように陣形を変える。
(本隊は包囲殲滅陣を維持。足止め部隊だけがヌシに牽制攻撃)
((承知))
逆にマニュアル型の水棲種族たちは指示通りに陣形を維持している。
ボーラーを使い果たしているので、回収しながら包囲網を狭めていった。飛んで逃げる相手じゃなければ、牽制用のボーラーなんかもう要らないのだが……。
到着すると同時に紅包さまは、その辺りを理解して大上段からの攻撃を多用している。おそらくは安易に空へと逃がさない為だろう。
「ではそろそろ終幕と参るぞ!」
(……あれが紅包さまの能力か。確かにこういう時は便利そうだな)
エンピツやシャーペンを揺らしたら数本分に見える。
紅包さまが魔力を注ぐとあんな感じで槍の本数が増えていくのだ。視覚の錯覚ではなく実際に実体を持っているのが神の加護たるゆえんであろう。あの幻影とも陽炎ともつかぬアレを全て避け、あるいは防がねば防御したことにならないという有用な部類の加護である。
だがあの能力を使っても即座に倒せないのは、その能力の欠点や実情を示している。当たり判定は沢山あっても、あくまで本体の槍は一本なのだ。ゲーム的にはフェイントの上位互換であっても、攻撃回数は一回しかないというオチであった。
『ケー!』
(とはいえ時間の問題だな。……ちょっと前にも同じことを思ってこの有様だけど。まあもう増援は来ないだろ)
槍の幻影に実体がある為、飛び上がろうとして羽根に当たっている。
おかげで空を飛ぶ前にバランスを崩し、魅了する個体は空を飛べないでいた。助けに来た強力な個体も大通連に阻まれているので援護は出来ない。もう少しすれば槍がどこかに本格的に跳べなくなり、直撃して地面に落ちる事になるだろう。
そうなれば普通に槍で突き刺すか、後はボーラを絡めて槍で突き刺すかの差でしかない。
(警戒態勢。上位個体を討伐)
((承知))
ここで新たに指示を出し、状況の変化に備えさせる。
もう増援は居ないと思うが過信するのは馬鹿のすることである。ありえないがいきなり魔法を使ったり魔族が乱入して、その隙に逃げ出す事が皆無ではないのだ。周囲に注意を呼び掛け警戒を厚くすることで、紅包さまがトドメを刺すのを皆で援護することにした。
だからこそ最終局面での変化を大人しく見守る事が出来たのだ。
『ダー!!』
「ちっ! やはりこちらか!」
「おっ! やらせるかよ! 行け! 大通連、小通連!!」
ヌシは一度飛びあがると猛烈ない勢いでダイブして来た。
そのインパクトたるやもはやグリフォンと変わらない。しかしこうなることは既に予想済みではある。紅包さまは後ろから挟撃しようとする敵に気が付き、大通連は横入りして飛び抜けようとするハーピーの主に投擲攻撃を続けた。
彼の代名詞たる魔法武器『大通連』、以前に渡した大型ブーメランの改良版が次々にカッ飛んでいったのである。
「来ないか! ……良し。これで、トドメだ!」
流石に魅了されても居ないのに、命がけで助けには飛び込まなかった。
投げられた武器が掠った段階でヌシは軌道を変えて飛び去ろうとし、魅了個体を逃がさない様にだけ注意していた紅包さまは改めてトドメに入る。ヌシの方は逃げられてしまいそうだが、既に傷ついているので問題ないだろう。
最後まで諦めずに逃げようとした魅了個体を槍で叩き、今度こそ胴を穂先で貫きトドメを刺したのである。その後に異常な生命力を発揮しはしたが、バタバタとあがいて動かなくなった。
「おし! これでもうウザってえ耳栓は要らねえ……て。あいつ逃げやがった!」
「……どうして他にも魅了個体が居ると考えないのかな。まあ居ないようだから良いけどさ。傷ついてるし島の中心部に逃げたなら問題ないでしょ。時間は掛かるとしても明日には終わるよ」
大通連は勝手に耳栓を外してヌシを攻撃しようとした。
しかし魅了個体と心中する気はなったようで、傷ついた体で己の巣まで飛び去って行った。そこまで戻ろうとする気力があるのは凄いが、島の外に逃げなかった時点でもう終わりである。
僕の予想通りに翌日の内にヌシを倒し、この島の制圧に成功したのである。
と言う訳でハーピーの島を奪取。
ここを基地に改良し、近隣の島も制圧して上陸の為の中間地点とします。
次はその辺の準備作業、その次に南領に戻って作戦を仕切る感じでしょうかね。