妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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魔物の島を奪取したとはいえ、特に何かがいきなり変わるわけではない。
西領への上陸作戦はまだ先の話だし、森を焼き払ったら煙が見えるレベルの位置である。今から大改造しても魔族の軍隊に奪取されて沿岸の要塞化が進むだけだろう。まずはゆっくり周囲の観察と建築計画になる。
と言う訳でまずは魔物が居なくなったのを良い事に、この島の周辺地形を確かめつつキャンプ地を作ることになった。
「死体はまとめて風下側に埋めるけど、そこは暫く禁足地にするから。死体が病気を持っていても困るからね」
「こいつらのフンもまとめてで構わないか?」
「二尾さんの判断に任せます」
まずは後片付けをするわけだが、戦える奴が残っているかもしれない。
直属の兵で一番強い橙二尾に任せておけば、彼は僕と同じように猟師出身で傭兵経験があるから問題ないだろう。紅梓と蝦衛視はしばらく休んでおいてもらい、集中力が回復した所で近隣の島に斥候に出そう。
次に拠点造りなので剛盾と亀老師を呼んで……あー。亀老師はまだ橋を掛けているんだったか。南領が平和な状況の演出とはいえ、大工仕事に慣れ始めた彼らの力に頼りたいところだ。
「周辺の木々は間伐して材料にするけど、拠点造りと上陸戦を優先して欲しいかな。目に見えて外から伐採が判るのは困るし、どうせ作るなら運ぶのに困る物をこっちで作ろうと思う」
「その辺りは任せて置け。こいつの怒鳴り声で慣れておるからの」
「あんたがボンボン切ろうとするからでしょうに」
剛盾と紅梓の相手をしながら計画を立てる。
ここの周辺の島々から上陸し、その後は後方の補給基地を兼ねた療養所としながら戦い続ける予定だ。その後は水棲種族に渡して陸に近い拠点としつつ、近隣での商売をし易くするために使う。海の中にいる強力な魔物が出た場合は、過ぎ去るまで上陸して難を逃れるために使うはずだ。
それらを考えると陸側から見え難く、荷物を積んだり下ろしたりし易い方が良いだろう。
「それで何を作る? いちおう工具の方は持ってきておるが」
「肝心の部品もあるかな? 裏手の高台の中にクレーンを設置出来たら理想だとは思う。船が接舷できなきゃ意味が無いから、海流とか水深の問題もあるけどね」
紙がもったいないので地面に棒で絵を描いていく。
高台に設置することで木材の消費を抑えつつ、船から荷物を島の中心部に持ち込めるようにするのだ。できれば脇道を通って砂浜から登って来れるくらいの位置が良いだろう。もちろんそれらは理想形になるので、駄目ならば何かを諦めるしかない。
あるいは人の登り降りもクレーンまたは似たようなナニカで済ませてしまうか? 水棲種族の避難用だと考えれば、魔物がよじ登って来れない方が良いわけだし。
「クレーンの他に巻き上げ機を使って板を持ち上げても良いかな。これはクレーンみたいに横へは動かないけど、複数の支点で支えて安定させる。もちろん板じゃなくて箱でも良いけどね」
「ふむ。クレーンも悪くはないが、ワシとしては新しい方が興味をそそられるのう。余った時間でちょいと作ってみるか」
提案したのは簡単な昇降装置だ。
エレベーターというほどに複雑でも快適でもなく、板を平行に持ち上げて荷物でも人でも上下移動させるだけだ。クレーンみたいに横移動での積み下ろしはできないが、支点を複数に分けているなど遥かに簡単で頑丈なため、鋼のパーツで補強する必要もない。
これらを高台に設置することで、海から直接に荷物を運べたら島の中心部への移動が楽になると思われた。
「そいつが役に立つのは判ってる。俺たちにも水棲種族たちにもな。……肝心の作戦の方はどうなんだ?」
「大公閣下は間違いなくこちらの作戦をバラすだろうから、常識的に言って城ケ崎に兵を少し増やして、増援を含めて沿岸都市に駐留させるって流れになると思う」
キリーの質問に対し、この島の位置と城ケ崎の位置を簡単に描いてみる。
南領から直接海路で来る場合は、どうしても通る場所の二つの少し大きな島がある。この島からはずっと東な訳だが、そこは一つ目の島が干潮時に陸続きになる島で、二つ目の島も近いから守り易い城塞だった。
僕らは遥か南経由で既に西領側へ来ているわけだが、普通ならば海路で来ると聞かされれば城ケ崎への兵を増やすだろう。とはいえ島の上にある要塞なので、基本的に補充するための戦力は沿岸都市に居るという訳だ。
「ひとまず千ほどの兵を城ケ崎に置いて、沿岸都市に最大で二千。こちらの動きに合わせて都市から兵を送るし、嘘だったら引き揚げさせるという算段だと思うよ。だから……僕らはその後方を遮断して増援第一波か第二波を撃破し、城ケ崎の兵を孤立させることで優位に立つ」
「遊兵を作らせ、敵の後ろを取るってやつか」
敵の増援そのものは全て防がない。
城ケ崎に集めるだけ集めてから無力化させれば良いわけだ。干潮時に陸続きになると言っても補充し易いというだけで、別に戦闘まで楽になるわけでもない。
もちろん陸側にも施設があるが、この場合は誘引する場所であり兵を閉じ込めて置く場所扱いだ。そこに駐留するために増援を派遣したところを、後方に回り込んで陣形が整ってない内に叩くという訳である。
「魔族率いる魔物の群れは強力で二千も居れば人間数千と互角以上だからね。南領が船をどうかき集めても八千人分というところだから、五千の兵を楽に倒せるだけの戦力を送り込めば十分過ぎる。だけど逆に言えば、その自信が命取りだ」
「強兵だからこそってやつだな。千を無効化された連中の顔が見てみたいところだ」
おそらくこちらの内情込みで向こうは把握しているだろう。
中央から本隊が進軍する為、魔族が戦力を送り込めて三千程度だと思われる。それ以上は過分すぎるし、送り込み過ぎたら本隊の方が一気に迫って来るだろう。その上で一騎当千の兵力を、嘘かもしれないリーク情報だけで必要以上に城塞に送り込むだろうか? まあそんなことはない。
まず効率的に配置できる最大数を送り込み、こちらの出方を待って追加するはずだ。時間を掛けて大回りする可能性自体は魔族だって考えているだろう。ソレを踏まえれば兵の殆どは沿岸都市に配置して、必要ならば増援を送り、不要ならば本拠地にしている白紗に戻るというところだろう。
「ふむ。言いたいことは判った。しかし果断な判断をする将であればどうだ? 全力を叩き付ければ良いという者は一定数存在するが」
「俺も知りたいな。見知った顔を味方に集めても無駄死になりかねん」
確かに脳筋でなくとも、攻撃的な武将ならば全力攻撃を選択することもあるだろう。
状況的にも使用できる戦力を一気に投入して、さっさと白紗へ戻って本隊に備えるという判断は間違いではないからだ。逐次投入する方が効率的だが、逐次投入する戦力を分断するのはやり易いものね。それを警戒するような将軍や、あるいは単純に部隊のドクトリン(得意戦術)として全力突撃を行う者は居るだろう。
こちらは各個撃破を狙っているので、ソレをされたら倒せないのだが……。
「その辺は問題ないですよ。僕らはそもそも勝つ必要はないですからね。命じられているのは海路で攻め込むことだけです」
「「何?」」
意外そうだったので幾つか地図を描いて説明することにした。
一つ目のパターンは全ての戦力が城ケ崎とその手前の砦に集中する場合だ。この場合はこちらは予定通りに上陸し、ひたすら足止めしながら投石器でも使って居れば良い。敵兵は集中しているが、挟撃される可能性も無くなるのでやり易い。もう一つは中間地点に陣取ってこちらの上陸を待って行動するのだが、この場合は籠る拠点がないのでゲリラ戦が可能になる。
いずれの場合も敵が全兵力を出すならば、守りながら沿岸都市を奪還する事が出来るのだ。
「要するに敵戦力の中で遊撃隊を足止めし、本隊の進軍を邪魔させるな。というのが海路に対する命令の趣旨になります。白紗に居るであろう五千の兵の内、三千を引き受ければ功績としては十分ですよ。どのみち敵は沿岸都市を維持できませんしね」
「そうなのか?」
「食料の豊富な場所じゃないからな。言われてみればそうなんだが……」
上陸戦を無事に成功させ、相手の大戦力を足止めする。
これが功績を挙げていない、何もしていないとしたらおかしなことになるだろう。魔物が三千も何処かに籠って居たら五千~八千の人間では倒すのはとても難しい。公称一万の兵が全て存在するとしても、かなりの損耗を要求されるだろう。
だが大した消耗も無しに三千の魔物を足止めしたのであれば、キルレシオからして功績足り得る。褒められた行為ではない! という事にされたとしても少なくとも『何もしていない』ということにはならないのだ。作戦の当初案としては完遂しているのだから。
「どちらかと言えば困るのは沿岸都市からまるで動かずに籠城して、白紗の危機になったら都市を焼き払って逃げ帰られる方が問題ですね。追撃戦で一方的な攻撃を与えても、足止め失敗と言う事になりますから」
「それは最悪のパターンだな。俺としてはやられたら一番困る」
「僕もですよ。住民だけは絶対に助けないと」
三千の魔物が立て籠もったら倒すのは難しいので強攻は出来ない。
その上で敵が捨てるべき都市を焼き払ったら、その消火にあたらないといけないのでロクな追撃戦もできないだろう。騎兵も連れて来ては居ないので、少数の快速部隊で僅かに蹴散らす程度であると思われた。
もっとも魔族の性格と戦力を考えれば、無駄に都市に籠って居るかと聞かれたら怪しい所ではあるが。
「都市への放火は他の連中も考えそうですので対策はしておきましょう。……いずれにせよ、こちらの利点は拠点がここにあるので相手の出方を見て動けることです。確実に足止めして国全体として勝ち抜きたい物ですね」
「親父ならやりかねないな。いや、無駄に焼くとかは考えたくないが」
大公閣下ならば白紗を取り戻す一環で、立て籠もる魔族軍を焼き払えるならやるだろう。
簡単に奪還できるのに無意味な焼き討ちはしないだろうが、白紗へと戻る兵が多数居るならばやりかねない。多少燃えた程度では都市全体の価値は落ちないし、キリーの失敗ということにして領地を取り上げれば元は十分に取れるのだから。
こうして僕らは西領奪還を見すえて準備を始め、この島を拠点にしながら南領の進軍計画を実行に移し始めた。
と言う訳で状況は順調に推移中。
奪取した島を改造し、将来の戦闘に備える感じですね。
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いつも誤字報告、誠にありがとうございます。