妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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測量と建設計画を立てた頃に裏手の方も完成する。
さすがに全てが都合の良い場所は無かったので、水深の方は妥協した。代わりに大型船が入れるところまで艀を並べて即席の桟橋を作る事て港代わりにできるようにしたのだ。
裏とはいえそんなことをすれば空から見つかり易くなるので、不要な時は艀は分解している。人間ならば無理だが水棲種族なら水中作業できるから問題が無かった。
「これ以上は作戦全体の進捗次第だね。僕は一度戻って開拓地の方に居るから。残りの実行は亀老師たちがこっちに来てからになるかな」
「承知いたしました。この島はお任せください。沿岸偵察もやっておきます」
蝦衛視にこの地を任せて少数の兵と水棲種族のリーダーとしておく。
体面的にも両方の人が居るし、『人間の使い走りにされた』と思われない為にも、島の所有権は彼らに渡しておいて、作戦の間だけ租借するという形だ。
残す人間の兵に関しては順次送り付ける兵士への説明係と、人間視点での記録や陸の情報を残して置く為である。
「何人か先行で出しますが今のうちに伝えておくことはありますか?」
「えーっと戻ったら収穫前で、早便だと夏の間に到着するくらいだっけ? 無理には良いかな。伝えるとしても『予定表の通りに行動する事』くらいだしね」
「ではそのように」
緩やかな海流なので戻るのは風次第になる。
しかし水棲種族だけなら海流の強い所まで移動できるので、そこから船を使えばかなり早いペースで戻れる。しかしこれから収穫する時期と言うのは忙しい時期で、特に何もできることはない。鍛冶や細工の出来る剛盾が此処に居る以上は特に何もすることがないのだ。
とはいえ中央からの伝令が南領に寄るついでに『戦争のために早めに収穫して備えよ』と勝手な事を触れ回る可能性はあるので、その対策として『余計な命令は出してないので、従わないように』と伝えるくらいしかなかった。
「……うん。問題ないみたいだね。これなら上陸後も期待できそうだ。じゃあ剛盾さん後はお願いします」
「任せておけい。投石器くらいならば幾つか用意しておいてやろう」
即席の桟橋で海の深い場所まで歩き大型船に搭乗する。
ここに残しておくメンバーに剛盾がいるので、他の兵士と共に建造に時間の掛かる投石器はこっちで用意して置く予定だ。この桟橋も上陸後に向こうに移動させることで、大型船がどの海岸でも接舷できるようになる予定だった。ここで使えないから仕方なく作ったのだが、思わぬ収穫である。
ちなみに紅梓はキリーの連れて来た現地民数名と共に上陸しており、自分のペースであちこちを調べて回るらしい。これらの功績……というか調査・作業成果を以て二人は冒険者ギルドのギルドマスターの資格を付与する予定である。
(開拓地はようやく軌道に乗ったばかりで収穫なんてほとんど出来ないんだよね。種もみにしたり家畜を殖やしていかないと意味がないし。他の領主が居るから良いけど……もし誰も居なければ、勝手に収穫とか潰して肉にされてたりする可能性があるからなあ)
船に乗りながら先ほど蝦衛視と行ったやり取りを思い出す。
開拓地は切り拓いて一部を耕し、一部に家畜を放しただけだ。三圃式農業と大規模開拓を組み合わせているので、家畜を草だけが生えている場所に移し、家畜が居た場所を開墾し休ませる土地には根菜や豆を植えて終了。次の年は根菜や豆を家畜に食べさせ、家畜を放した場所を開墾……というサイクルになる。
初年度は家畜にそこらに生えている草を食べさせるだけだし、それほど数が居ないから開墾する場所の地力もそれほどでもない。元は湿地帯だった場所もあるから、上流から良い土が流れてきている可能性がある程度でしかなかった。
(ともあれ困ってる領主には仕事を斡旋できるし、領主間の領地問題も開拓地を渡すことで終了に出来たはずだ。できれば来年一杯まで領地経営に専念できれば南領は安定するんだけど……)
僕にとっては二回目、開拓地や万鹿柵付近の領主にとっては一回目。
青色吐息だった緋家の財政事情はようやく息を吐いたに過ぎない。これから赤字を取り返し、疲れ果てた兵を休ませる時期なのだ。今年はこのまま休むのは当然ながら、来年も領地経営に専念したいというのは当然だろう。日本の応仁の乱と違って、領地を増やしたわけでもないから、良いニュースで領地が潤っているとか無いものね。
しかし中央から見れば自分達だけ平和を謳歌してズルイという事らしい。しかし領地が奪われた西領出身者はともかくとして、夏都の兵で守られ続けた中央には言われたくない所である。
(南領の派遣戦力は公称一万、実戦力は誰から見ても五千~八千というところだよね。どうやっても足止め以上の事は出来ないんだけど……大公閣下は何処までやらせる気やら)
大公閣下が領地である西領を取り戻すには十分だ。
魔物の三割を南領が引き受け、二割が国境沿いに張り付き、残りを白紗と陸地対策で分けねばならないから問題なく勝てるはずだった。しかしそれはあくまで『西領を回復し、予定に従って外戚としての権力を返上する』場合の話である。
魔物に追われて故郷を捨て、代わりに中央の貴族たちと癒着した彼が何を考えているかまでは判らないでいた……。
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南の海域を大回りして南領までたどり着いた時。
事態はまた七面倒くさいことになっていた。中央の工作と言うか身内切りがエスカレートして、もはや利敵行為クラスになっていたのである。
何が起きたかと言うと無茶な手段でこちらの情報をすっぱ抜いて、これまた無茶な手段で大々的に公表したのである。
「はぁ? 大回りして城ケ崎を無効化するんだから確実に沿岸都市を取り返せって? 本当にそう公開で命令したの?」
「ああ。ご丁寧に名目上の総司令官である皇太子殿下の令旨付きで海路勢全体にだ。紅家の侯爵殿は頭ごなしの命令にカンカンだぞ」
水棲種族との同盟という表向きの成果を報告するため、キリーは先に帰国していた。
こともあろうにその報告を聞くや否や、即座に評議を開いて来年中の西領奪還作戦を発したらしい。今ごろは各地にその旨が達しているはずだが……この様子ではどんな内容になって居ることやら。
しかしこの話には『皇太子殿下』という無視できない要因が存在した。
「こちらの作戦を表沙汰にした上、東領の姫を母に持つ皇太子殿下の命令で? これは参ったな。迂闊に出来ないと言うと東領の公爵さまのメンツが丸潰れになる。まさかこんな手で来るとは」
「それについてはすまん。俺の部下が家族に人質を取られたそうだ。おそらくは東領の方も同様だろうな」
外戚が権力を握り、たらい回しにするこの国の権力構造。
国の安定のために仕方ない方法であり、これまでは上手く機能していた。しかし大公閣下はこのシステムを利用すると同時に、伝統を破壊しかねない手で来たのだ。しかも息子の部下を人質で脅すという最悪の手段まで使って。
さすがのキリーもいつもの厚顔ぶりは発揮できていない。まさか父親と仲が悪いとはいえ、自分の国のエージェントにそこまでするとは思わなかったのだろう。
「それに関しては悔しいけどここで終わっておこうよ。人質とられたら誰にでもあり得る話だしね。むしろ善後策と、この後に同じことを起こさない為の対策を立てないと」
「そうだな。そうするしかあるまい。……見てろよクソ親父!」
こういうとなんだが、どんな世界にも一回だけはOKな卓袱台返しが存在するものだ。
身内から情報をすっぱ抜くとか、直接利用できないはずの皇太子殿下を使った命令を行う事だ。その場の勢いやら権勢の強さで強引にやり遂げるわけだが、繰り返すと陳腐化するし警戒されたり反感も買うからそうそう繰り返せない。
だからこの件で情報を持っていかれたキリーや青悟(実際には東の公爵)と喧嘩する程の意味はないし、その時間も惜しかった。
「とりあえずこれから情報は段階的に分けて開示しよう。抜かれた情報で誰が何処で聞いたか、すぐに判るようにレベル分けするんだ。例えば国境対策(草)は僕らと、話さざるを得ない人だけ。あの島(元ハーピーの島)に関しては移動途中で話すっていう風にね」
「情報対策はそうしよう。それはそれとして、上陸計画はどうする? 大幅に手直しが必要だと思うが」
事態が面倒くさいのは皇太子殿下経由ということだった。
この国は連合王朝みたいなものなので、皇帝家の権力はそれほど強くない。強力な外戚がバックアップすることでその代わりを果たしているのだ。強権的な命令をやったら求心力が削がれてしまうだろう。
しかし皇太子の外戚は東領で、皇帝の外戚は西領というのが問題を生じさせている。無理やりだが皇太子殿下に命令を出させたことで、問題がそこでストップしてしまうのだ。
「どうやら大公閣下はついでに中央集権問題へ手を付けたいようだね。……公表された情報が大回りする事だけってのが幸いだけど、出征の時期も公表しそうだなあ。表向きの話にしておいて良かった」
今回の件に逆らうにしろ文句をつけるにしろ、下がるのは皇太子の権威である。
ひいてはその外戚である東領の求心力であり、現在権勢を欲しいままにしている大公率いる西領勢はそれほど困らない。むしろ皇帝の元に権力を集め、問題を起こしたという理由で東領の影響が強い皇太子を廃せば良い。何だったらキリーも同時に排除して『愛する息子すら泣く泣く罰した』という建前で言い繕う気だろう。
これに対してこちらは現時点では、南領の盟主である紅家の侯爵さんが系統違いの命令されたことを激怒しないよう宥めるくらいしか打てる手がない。あとは東領の公爵さまと連絡を取って『大公が悪いから問題ない』と伝えるか、対抗すべく彼らを盛り上げるかどうかの差だ。
「千は押し込める計算だったけど……沿岸都市に二千を置いて城ケ崎に五百、遊撃隊として五百ってとこかな? 紅包さまが言ってた攻勢タイプの将軍の場合は沿岸都市に五百、城ケ崎に三百、残りを手元ってとこだと思う。えーっとこれに対しては……」
こちらが何処に上陸するか判らない以上、向こうは遊撃主体にするだろう。
沿岸都市を拠点として本隊を置くか、拠点を作らずにどこかに陣所を作るかと言う差だろう。一応はそんな可能性も考えてはいたが、情報をすっぱ抜かれたことで余計な守備兵を割いてないのが痛い。倒さなければならない相手が多くなってしまったのだ。
こうなった場合はゲリラ作戦で行く予定であったが、遊撃隊が多いとその対策もされ易くなってしまうのだ。それこそ先に沿岸都市を全力で攻略する方が話が早くなってしまう。
「せめてもの幸いは既に後方拠点を落してる事かな。向こうの動きに合わせて派遣戦力の一つを先制して倒そう。沿岸都市を落とせとまで言われたのは誤算だけど、君の事情を考えればまあ納得は出来る」
「重ねてすまんな。あのクソ親父の所為で余計な苦労をさせる」
敵戦力の使い方・分け方次第な所もあるが、こちらに対応して動くならまだ各個撃破できる。
問題は全軍をまとめてぶつけられた時だが、確実に沿岸都市まで攻略しろと言われてるので防御に徹して時間稼ぎをする事は出来ない。どうにかして撃破した後、沿岸都市に撤退しないように追撃しないといけないだろう。
頭を痛めながら色々と健闘していた所に、思わぬ客人が突撃して来た。大公閣下による第二の矢であろう。
「申し訳ないが西南終公子と銀双羽殿に魔族との密通嫌疑が掛かっておる。この疑いを払拭するためにも沿岸都市を奪還するのは勿論の事、北上して白紗回復の為に兵を率いよとのことだぞ」
「それはそれは……。たいそうな激励の御言葉ですね」
やってきたのは以前に邪神の徒である嫌疑が掛かっていた時にやって来た光の教団の司教だ。
窓際族の彼はフットワーク軽くこの南領までやって来て、僕らの監視をすることになったらしい。どうやら皇太子経由での命令が東領の公爵さまに対策されたらしく、今度は宗教組織を使って追い立てるつもりのようだった。
楽に勝てる戦いの筈だったのに、どうしてこうなったかと頭を抱えたかったものである。
と言う訳で仲の悪い味方による謀略で面倒くさい羽目に。
まあ権力のある敵対者が馬鹿な筈はないので仕方ないですよね。