妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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気が付けば三つの難問が存在した。
小さくは魔族と密議を交わして人を裏切った罪、次に難易度が急上昇した上陸戦、最後に大公の中央集権化。今思えばこの『中央集権化』こそが原因だろう。最終的に自分に従う者以外を全て切り捨てるならば、どんな無茶でも通るのだから。
そして状況的に何とかし難い『嵌め手』であるというのが問題だった。
「普通は案件を個別に整理して解決策を模索するべきなんだけど、今回は違う。根本的な所を間違えると大変だからこう考えなきゃならない。大公閣下の本当の狙いはこうだ」
「この国を全て手に入れる……か。何とも壮大で判り易い」
横一本の線を引き、矢印の向こうに中央集権化を置く。
ただ単に国の首座であり続けるのではなく、これまでの権力体勢を見直し四人の侯爵が持ち回りで大公と公爵になって政権運営を支えるという構図を撤廃する事が最終目的なのだ。ただ一人の皇帝が上に立ち、全ての諸候がその威光にひれ伏す体制である。
連合王朝やそれに由来する縁戚体制というのは安定し易いが、特段に権力が強いわけではない。中央政権は弱く大公と公爵の機嫌を伺わざるを得ず、それだって体制を変更するような政策は他の諸侯が反対して頓挫するだろう。
「思えば大公閣下は基盤無く権勢第一の人であり続けるうちに、不満を覚えたんじゃないかな。魔族に攻められ本領はなくしたけれど、挙国一致体制の元に権勢は維持された。常に大公第一の貴族よと持ち上げられたけれど、責任だけ押しつけられて否定されるときは否定されてしまう。それは娘婿である皇帝陛下も同じようにね。そんな中でもう少しで何もかも手に入りそうだと野心を抱いた」
「だからと言ってクソ親父に微塵も同情できねえけどな」
貴族も官僚も軍人も持ち上げこそすれ口ばかり。
イザと言う時の責任だけ追及して、まったく協力的ではない。西領を奪還せよといっても他領だから、時期尚早だからと後回しにされる。そして自分ばかりか同情的で助け舟を出した皇帝陛下まで敬して遠ざけられる始末。こんな状態で不満を抱かない訳はないだろう。
それとは別に上手くやれば全ての権力を手に入れられそうな雰囲気があったのは確かだ。転生までの日本史で言うと、偶然に頂点へ立った藤原道長や徳川吉宗のように。
「問題なのは考えれば考えるほど放り出すわけにはいかない事なんだ。少なくとも先に解決してから大公閣下と対決することになるだろうね。まあそういう風に仕組んだんだろうけどさ」
目の前に魔族が居て、これを倒さないなんてことはない。
これを否定するのはおかしなことだし、時間を置けば遊牧民が攻めてくる可能性が高いのだから猶更だ。おそらくは適当な所で大公も遊牧民の話をするだろう。ここで奪還すれば問題ないが、遊牧民たちがなだれ込んで来れば戦争が長期化するのは目に見えていた。そのようになれば誰も軍を引き返そうとは思わないだろう。
お互いに魔族を倒してこの国を平和にするところまでは味方。そういう意識があるからこそ目の前にいる魔族を倒さないなんてルートはないのだ。
「ひとまずこれから起き得る色々な工作は、大公閣下の中央集権化という野望がある事を説明した方が良いね。『これは抵抗するけれど、そちらは知らない』とかやってたら僕らが各個撃破されちゃう。先に伝えておくことで、大公閣下の工作に注目してもらい信憑性を確保するしかないね」
「その挙句に暗殺と幽閉じゃあ世話ねえのにな……ただ、それはお前もだぞ? どうして親父の排除を提案しない」
「明らかに時期尚早だよ」
見解が分かれるところだが、ここで強硬策を採るべきではないだろう。
やるとしてもまだ早い。少なくとも今やったら西領奪還のための話が空中分解してしまう。別に今すぐ出征したいわけではないが、十年以上放置するわけにはいかないのだ。少なくとも諸侯を味方に付けた上で、状況証拠だけでも抑えなければこちらが悪役になってしまうだろう。
それに大公がどういう手段を取るつもりなのかおおよそわかって居るからだ。今焦って行動を起こすよりも一度に済ませてしまった方が良い。
「いいかい。大公閣下が用意する最後の切り札はおそらく『皇帝暗殺の疑いで皇太子の処刑』だよ。だからいつ行動を起こすか、どうするかも判ってるんだ」
「は? そいつは幾ら何でも無理筋ってもんだろ。いや……可能なのか?」
常識的に考えて、次期皇帝である皇太子が現皇帝を暗殺しようとするわけがない。
しかし『企てていた事にしてしまう』ならば全ての解決ができてしまうのだ。東領の公爵ほか邪魔者は全て捕らえてまとめて処刑してしまえばよい。理由自体は皇太子であるという才能がないと断定したとか、その事から不仲であった事にすれば名目なんか後でも作れるからだ。ちょうどキリーたち兄弟が親と不仲であるように、同じように考える者は居るだろう。
大公は嵌め手でこちらが絶対に選ぶしかないルートに誘導している。だが逆説的に言えば、どんな策を採るのか殆ど判っているのだ。古来より嵌め手という手段は、中身がバレたら手痛いダメージを受ける物である。
「間違いなくその方法が一番簡単で後腐れが無い。大公閣下としても何度も博打をしたくはないだろうしね。やるなら一気に、無理筋だろうが何だろうが勝てば官軍さ。でもここまでの手段を取る以上は、やれる機会は限られてくる。最低でも東と南は一気に仕留めないとね」
「そうだな。北はやる気が無いし、何なら唯一の大諸侯と口約束でいいか」
名目は最終戦の軍議でも、あるいは再編後第一回の朝議でも良い。
理屈をつけて諸侯を呼び寄せ、少なくとも東の公爵さまと南の侯爵さんたちを捕まえる。そして彼らの審議の為に弁明に来いと言っておいて、集めたメンツをまとめて始末するなり幽閉すれば終了である。
だがこの流れで行くなら一気に終わるが、できる流れは限られてくる。その時までに諸侯のエージェントと話し合っておく必要があるだろう。
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おおそよの流れが掴めたところで、目の前の問題を片付け無ければ意味がない。
陰謀に関しては最終手段に踏み切れないでいるが、どのみち僕には取るべき選択肢じゃない。やるとしても侯爵さんが動く時か、あるいは悌さまが人質にでもされた時くらいだろう。
一応はカウンターではなく先制して何とかする手段も思いついたけれど、キリーに教えたら勝手に実行しそうな仲の悪さなので教えていないだけだ。
(人を呪わば穴二つってやつだよね。大公閣下に関しては最悪自分が用意した手段で決着付けてもらうとして……魔族を倒せかあ)
こういっては何だが大公が一番確実にこの国を取れる手段が、諸侯の皇帝暗殺計画を捏造する事だ。
しかしその過程は全て彼自身にも適用されるのである。まさか大公も自分が用意した捏造を、自分に使われるとは思っても居まい。偽の実行犯やら証言を大公に適用すればゲームセットだ。
だが将来的にその手段を取るにしても、こちらの味方になる諸侯が必要なので今は動けない。目先に魔族が居る事から、先に上陸作戦を組まなければならないだろう。
「大公閣下の目論見自体は判り易いんだよな。要するに魔族が沿岸部を捨てて白紗や中央との境で決戦を挑まないようにしろってこと。僕の案だと確かに捨てて行く可能性はあったわけだし」
海路で進む南領は船の問題で最大八千。後方の維持も考えると戦えるのは五千程度でしかない。
これに対して魔族は魔物を中心とした部隊なので、三千も居れば五千を容易に倒せるだけの戦闘力を持っているのだ。だから僕としては彼らが最大の能力を発揮できないように封じ込めたかったのだが、大公によってバラされてしまった。
一応こうなった場合はゲリラ作戦で疲弊させると大筋で考えていたが、今のところ決定打が存在しなかった。
(出征タイミングまでは公開されてないけどそれも到着予定に合わせてばらされるはずだ。せめてもの救いはこっちが既に島を占拠しているとは大公閣下に知られていない事。水棲種族の力を借りた時の巡航速度と島の攻略時間も合わせて、余裕は一週間から十日ほど。ゲリラ作戦自体は可能かな)
五千の兵で引き気味に戦い、守りながら残りの戦力でゲリラ戦。
被害は出るだろうが他行の注文通りの戦いは出来る筈だ。しかしソレでは彼の思惑通りになってしまう上、もし魔族との戦いの後に戦う羽目になったらまず勝てないだろう。
だから当初案では防衛戦を進化させ、野戦築城で籠城するつもりだったのだ。しかし情報をばらされる上に北上しろと言明されていてはどうしようもない。
(駄目だな。僕に現場指揮で名将に成れる自信なんかない。せいぜいが小競り合いだってのに……もっと根本的な所で優位に立たないと。水棲種族に頼んで数で勝つか後ろを取るか……駄目だな。そもそも彼らは上がり切ったらそれほどでもない)
小説に出てくる英雄ならば『我に続け!』で良いのだろうがそんな自信はない。
軍師格とは言え用兵とかの経験なんかないのである。兵站や立案はともかく、現場で勝てる指揮なんかやれる自信も保証もなかった。もちろん最終的には腹を括る必要があるのは判っているのだが……。
こういう悩むときは原点に返るべきなのだが、籠城作戦は出来ないしゲリラ作戦だって感知されずに実行しきる事も……アレ?
(待てよ。籠城作戦やゲリラ戦……もしかして、バレてしまっても構わないのか? 普通は防衛主体で被害を抑えてから沿岸都市に向かうって思うよな。と言う事は……あえてこっちからバラす?)
先に籠城してバレバレの状態で防戦を行い、目に見えて判るようにゲリラ戦。
そうやっておいて、本命は別というのはどうだろう? 例えば三国志とかだって時間を稼いで水攻めとか火攻めとかよくやるよね。
そして思うのだが……籠城するとして、兵は南領の兵で在る必要はない。ゲリラ戦もまた同様だ。それこそ水際で水棲種族に任せて、丸ごと逃走させても良いのではないだろうか?
(金蝉脱殻の計だっけ? 数だけ出してもらってダミーを並べて引き付け、僕らは先制どころか布陣が終わった後から出撃するのはどうだろう? そして全軍でゲリラ戦をやるんだ)
水棲種族ならば水際でも平気で脱出できる。
その上で魔族が攻撃態勢に入った所で、こちらは少数のゲリラ戦から全軍でのゲリラ戦を行う訳である。目指すは兵糧とか大将首だけで良いだろう。そして目的を果たしたら下がって、水棲種族が籠った陣地がもぬけの殻だと判った所で改めて戦えばよいのである。
そして下がった水棲種族たちには、僕らが逃げ込む場所を用意してもらうとか、あるいは彼らにも水際でのゲリラ作戦をやってもらうのも良いだろう。
こうして作戦案を考えたことで、僕は全体構図を修正することにした。
と言うわけで陰謀に対する陰謀を考えつつ、先に戦争への考慮になります。