妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
●
ある程度の方針が決まり、何とか対策を立てられそうだった。
しかし計画を立てる事と、実地で上手く活かせる事はべつだ。 だからこそ作戦はシンプルな方が良いとまで言われてる。暫くはその辺りの調整しつつ、現地の地形や魔物の情報を揃えるべきだろう。
そして季節は秋。収穫期を迎えて幾つかの行事がまとめて待ち受けている。具体的に言うと収穫祭と麗さんとの正式な結婚式、諸卿への公式な出征命令の伝達である。
「諸卿にも思う所はあろうが、まずは目出度いと祝っておこう」
「頭は痛いですがまったくその通りですな」
「まったくまったく」
開拓地に諸卿を集め、悌さまが音頭を取る。
お声掛かりで始まった開拓事業の成功を発表し、得られた最初の収支をこれまでの戦いに対する褒章金として分配。特段に優れたる者には土地を与えたのであった。僕に対しては開拓の成功も合わせて評され、一代限りながら三郡目の領地を貰う事になった。
何とか論功賞も終了し、収穫期を迎えたことで諸卿の懐も明るい見通しが見えたことで皆がホっと息を吐いたのは間違いがない。
「それにしても運が無いな。銀殿の計画が通っておれば楽が出来たものを」
「代案を聞いた時は驚いた物だが……それを公表してしまうとは上も何を考えていることやら。まっ。気を落さず」
「いえいえ。そう言って下さると幸いです」
大公の思惑に関しての情報は段階的に公表しておいた。
全てを伝えたのは悌さま(と侯爵)だけで、諸卿には大公がずっと権力を握りたがっているとだけ伝えたのだ。まあ中央集権を狙っていると言ったら、怒り狂って先制攻撃を主張しかねないからだけどね。
その際に海路を使う際に難所である城ケ崎を迂回する策を用意したが、大公が公表したために敵は布陣を変えるであろうことも説明した。僕の案通りなら敵は城ケ崎に閉じ込められたはずで、楽が出来たのにと皆から同情を受けたという訳である。
「二羽よ。新婚早々で悪いが出征に関して説明してくれるか?」
「はい。兵糧と予算の関係もありますし、余裕のある領から集めた先遣隊で迂回路の先にある島を占拠。後方拠点として確実に上陸できる場所を確保する予定です。おそらくは南領全体で三千ほどになるかと」
「ほう……」
既に確保して居る島の事などおくびにも出さずに説明を開始。
敵の防御が薄い場所場所を選ぶということから特に反対もない。緋家だけではなく南領全体でなら三千は難しくないし、懐に余裕のある領地からという名目で兵を募り報奨金を前渡しすれば、実際には困窮した貴族が次々に手を挙げてくれるだろう。
前述の通り実際には島を既に確保しているので兵士は何人でも良いのだが、大々的に集めてみせることで大公のみならず魔族たちを欺けるという利点があった。
「銀殿。道中の危険は?」
「水棲種族を味方に付けましたので、嵐で転覆する危険はありません。万が一の場合は周辺海域で用意できる小舟をこちらの倍は集められるそうです」
「それは頼もしい」
海戦最大の危険は戦争ではない。大自然の驚異に荒らされれば一瞬で海の藻屑なのだ。
しかし今回は水棲種族が居ることで、そういった最大の脅威が存在しないのだと保証して見せた。防御の薄い場所へ攻めるのだから上陸戦までは価値切れる事が保証されてるので諸卿の方は良い気分である。
僕や悌さまとしては、その後に大公の悪巧みや最悪戦いが控えている可能性があるので楽観視などできないのだが。
「その後に余裕を持って集め五千を追加。合計八千、現地で協力してくれる西領の民兵も合わせて公称としては一万を確保したいと思っております。何分、相手は魔物が二千はおりましょうから」
「そんなところであろうな」
僕と悌さまは頷き合って諸卿の士気を確認しておく。
最初から盛り下げても仕方ないので敵は少なく見積もっているし味方は多めに考えているが、実際にはそんなことはないだろう。魔物は三千くらいで、奴隷にされている現地民は良くて五百と思われた。むしろ情報提供や紅梓たちを匿ってくれる方がありがたいくらいである。
まあこの辺の読みが諸卿にバレても問題はない。大公の事まで考えているのは僕らだけで、彼らからみれば被害を出そうとも敵を駆逐するのは当然のことだからなのだが。問題なのは元寇よろしく防衛戦で褒章が出ないので不満を抱くと今から判っていることだった。
「一万の兵で敵二千を倒した後は、沿岸都市の奪還した後に西領中心部である白紗へ進軍します。場合によっては二千ほどを足止めに残して進軍することになるかと」
夢ばかり広がる計画だが、損耗率を考えなければ可能だろう。
無理に攻め立ててこちらの半数が負傷や死亡で戦えなくなり、残存兵力で四千ほど。その内の千を足止めに使って三千で挟撃に行くわけだ。主戦線でないから何とかなるだろうが、被害を考えたら敗北とどこが違うのか教えて欲しい比率になるのは間違いが無かった。
何が腹が立つって、その計算が妥当であり大公はそうなるかもっと手ひどくやられて功績なんか存在しないことを望んでいるという事だ。
(問題はなあ……。堅実に戦いあって半数の被害が妥当なんであって、どっちかが博打を賭けるともっと酷くなるんだよな)
こっちが博打を打って失敗するか、魔族が博打で成功するか。
そのどちらかで残り三割を切る事は普通にあり得た。相手が派遣軍でしかないから良いが、精鋭だった場合は最悪、こちらが壊滅することも普通にあり得るだろう。というか精鋭でなくとも、向こうが都市の守りを捨て大攻勢を掛けたらそうなりかねない。
そういう意味で紅梓や現地民による偵察が行えている事が本当にありがたかった。先に待ち構えてあちこちの調査をしているため、魔族が妙な作戦を建てたらこちらが先に気が付けるからである。
(向こうの大博打は多分防げる。全軍での突撃されたら相手にせずに逃げれば良いんだし。後はこっちが前提通りに動いてくれるかかな)
魔族率いる魔物は気性が荒く攻勢的なので攻めでは無類の強さを誇る。
もし全軍突撃なんて言う大博打を食らったら八千が本当に一万居ても勝ち目は薄いだろう。しかし横合いや裏手から攻め立てればそう恐ろしい程でもない。アンデッド浄化作戦の様に無傷で勝つとは言わないが、死亡者を抑えて程ほどの損耗で戦えるとは思うのだ。
あるいは水辺であり水棲種族がやる気であるならば、前後から挟撃という作戦でも良いのだし。もっともこの辺は相互連携が難しいので、シンプルな作戦にしたいのであれば相当苦労することになるだろう。
●
その後は引き出物の鏡台を麗さんへ、手鏡と違い二つもあっても仕方ないので分割。
一つをうちの領地に持っていき、もう一つを緋家に献上する形で実家に遊びに行く時に使用するという事になった。悌さまの娘とかに受け継がれてしまうかもしれないが、その時は代わりの鏡を提供することにしよう。
領地に戻ってのパーティではお馴染みになったハンバーグ・薄切りに焼肉・ステーキといろいろ揃え、串焼きや串揚げなども用意した。中でも評判だったのはようやく完成した蒸留酒で、牛や鶏などで交換する為の注文が列をなしたというオマケつきである。
「ん? あれは……」
「双羽。もう浮気?」
「違うよ双葉。見慣れない顔が居ると思ってさ」
開拓地での婚礼はともかく、領地での宴会では恋人である双葉も顔を出した。
正式に結婚したので妾となり、もし僕が上級貴族になったら第二夫人ということで決着したからである。その上で宴会好きなので料理を頬張り、この後で出るお菓子も楽しみにしている。
そして僕が気になった人物は、今まで見たことのない貴人であった。大人の貫禄がある悌さまには及ばないが、若武者である紅包さまくらいの気品はある。
「誰?」
「……むかし北でさ、町に出た時に僕と双葉で踊ったことない?」
「えー? あの時って双羽は……え? そういう事なの? あの人」
僕が違和感を感じた貴人は姫騎士と言った風情の装束を着ている。
ファンタジーだからといって『姫騎士なんか居るか!』と言いたい人も居るだろうが少し待って欲しい。お姫さまで騎士なんかおかしいだろうとか、僕もそう思うのだ。せいぜいが士気を鼓舞するために式典騎士団と言われる近衛隊でも花形のお飾り部隊くらいだろう。
もし、それが本当に女性であればの話だ。北領で踊った時は御遊びで僕は女装し双葉は男装し、二人で双子の真似をしたことがある。同じ村の出身者はどこかで血がつながっているから無理ではないしね。
「多分だけど本人は変装のつもりなんだと思うよ。世間知らず……純粋だからそれで良いと思ってるんだ、きっと」
「んー? じゃあもしかしなくてもエライひと? 皇太子殿下とか?」
「さすがにソレはないよ。でも近い人かもね」
僕らに近づくために変装する必要のある人間で、世間的に知られている人物。
そしてこちらが話をする必要があるから無視されることはないと確信しており、皇太子殿下は流石に無いにしても悌さまや紅包さまを知ってる双葉が、相当な身分の人物と思ってしまうような相手だ。人物リストかなり絞られるので、貴族社会には疎い僕でも想像することが出来た。
おそらくは東領の公爵さまの子弟なのだろう。その中で軍装を着ておいてもおかしくない人物と言う訳だ。
「東の緑青貴さまとお見受けします。お話よろしいですか?」
「妹の緑青姫ということにしておいてくれ。というか気が付いたならそうしておけ」
本名は緑貴。東領の公爵家の何人目かは知らない。
ただ武人で童顔、緑家と青家の血を引くサラブレッドで青悟の従兄弟であると聞いたことがある。とはいえ僕も聞いたことがある程度で人物名鑑かなにかを欲しいと思うくらいなので、唐突な来訪と言えるだろう。
察するに青悟が司教になったから目を付けられているので代わりに来たとか、大公に関する作戦に付いて聞きに来たという所だろうか?
「詳しくはここでは話せん。お前の部屋で仔細を詰めたいが、この酒を持って行っても良いか?」
「構いませんが男子の服に着替えてからにしていただけませんか? さすがに婚礼後に浮気と思われるのはいかがかと」
「麗なら顔見知りだから知ってるぞ?」
「僕が周囲の目を気にするんです」
麗さんが知ってるから判るだろう、話さなくても問題ないだろうという気だったらしい。
しかし周囲に白い目で見られるのは僕なので止めて欲しい所だ。そしてこの短いやり取りで判るのは、大通連とは違うタイプの天然だということであろう。
なお酒好きな割りに酒に強いわけではないので、オモチカエリーに成りかけて真面目な作戦なんか話せなかったといっておこう。
と言う訳で東領から使者が来て、やれそうなら同盟と言う話です。
まあちゃんと魔族や大公の手勢と戦うための伏線設置でしかないのですが。