妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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覚悟を決める時

 日を改めて東領の公子たる緑青貴と話し合う事になったが、やはり女装だった。

彼の趣味かと思ったが、どうも妹と麗さんが友人なので偽装になるそうだ。逆に武人である自分だと問題になるからとのこと。

 

仕方がないので僕が双葉に化け、双葉は僕に化けて執務室で食っちゃ寝することになった。洞府に作った僕の別室(秘密ノートを隠しておく為に新たに作った場所)に通したが、女装男子同士で部屋に籠って対談とか百合と言うより造花である。

 

「我が父、東領公爵たる緑碧令の言葉を告げるぞ? 『大公の策略、誠に遺憾であり国家の重責を担うに値せずと断ずる。時あらばこれを討つにしかず。南領の勇士たちよ共にあるや否や?』。同じ言葉を妹が見合いの席で悌に告げる筈だ。そなたと悌で侯爵にも告げよ」

「それは……」

 単刀直入な暴力行使の宣言である。

必要ならば暗殺も戦争も辞さない。しかし丁度良いタイミングが来るまでは雌伏するし、共に立てと言っているのだ。また見合いの席で悌さまに告げるというのが奮っている。要するに東領と南領で縁戚を結んで同盟しよう、何だったら緋家だけでも良いとまで口にしているのである。

 

普通ならば思っていても最後まで黙っていると思われるのだが……。

 

「つまり態度を明確にしないと僕らが日和見するかもしれない。だがそれだけではなく、むしろここで宣言することで国家運営のイニシアティブを取るとおっしゃるのですか?」

「他に聞こえたか? 我が家は謀略を滅多に行わぬが、別に出来ぬというわけではない。長い歴史ゆえにその必要を認める事があまりないだけでな」

 東領の公爵とその親戚筋の貴族は歴史が深い。

この国は連合王朝に近い制度なので分国制度ではないが、東領と西領は独立王国に近い。中でも東はダントツに古い家が多いのだ。この緑青貴やその父親である緑碧令が貴族であるのにミドルネームを持つのは、その古い家系の二つの家から後押しを受けているというネーミングらしい。僕らの様に出身地でランドマークをミドルネームにしているわけではないそうなのだ。

 

そして今回はその長い歴史の産物で、陰謀に対して最も効果的な方法に直結したらしい。僕が抱いた考えをほぼそのままトレースしており、おそらくは大公の策略だけではなく僕が考えた対抗策も見抜いているのだろう。

 

「もしかして大公が考えた中央集権策をそのまま乗っ取る?」

「どちらでも良い。より国家の安定を確実に取れるのであればな。これまで通り外戚が支えるのでも良いし、独裁でも構わぬ。それこそ合議であろうと……だ。ところでもそっと寄こさぬか?」

「お酒に弱いのでダメです。また話が飛んじゃうじゃないですか」

 この緑青貴という男(少年というか少女にしか見えないが)は下戸ではないが酒に強くはない。

なのに下手の横好きと言おうか、蒸留酒をカパカパ空けるので手酌で呑ませる訳には居なかった。シラフの時はいっそ冷厳な感じがするのに、何倍も飲むと酔っ払いの馬鹿さんになってしまうのだ。もし女の子だったら居酒屋に連れて行ってはいけない。あと同性愛者の男も傍においてはいけないと思う。

 

そういえば青悟はスキンシップが妙に多くて危ない奴だと思ったことがあるのだが、この従兄弟二人は大丈夫なのだろうか心配になって来る。

 

「返事は?」

「既に分かっておいででしょう? 僕の一存で答える訳にはいきません。また違ったとしても悌さまに追従する事になるでしょう」

「では決まったも同然だな。悌は皇太子殿下にベッタリであったゆえ」

 この自信が何処に根拠があるのか分からないが、不思議と間違っていない気はした。

悌さまは人質暮らしが長かったし(麗さんは趣味)、皇太子殿下の外戚は公爵家だ。その家の公子が断言するのであれば二人の仲は良いのだろう。その上で利害が一致しないのであれば別として、共に大公から迷惑を掛けられており、手を取り合う可能性が高いのだから。

 

もっともこの男は天然気味なので、直感で言ってるだけだとは思う。ただ人間感情に関しては意外とそういうのが馬鹿にならないので、そうなのかもしれない。

 

「旗幟は鮮明にすべし、でなくば信用し合う事は出来ぬ。ゆえにこの場で言質を取りたいところであるがそうもいかぬであろう。悌の言葉次第として、なんぞ質になる物はあるか? この場合は大公に勝つ方法でも良い」

「あー……そうですねえ。ちょっと待ってください」

 僕が頷くわけにはいかないが、悌さまに首を横に振らせる可能性のあるのは僕くらいだ。

本当に大公を除く気であり、協定する気ならば保証を寄こせと言うのも判る気はする。流石に『大公の策を大公自身に使う』というのは口にしない方が良いだろう。そういうのはギリギリまで喋っては駄目なやつだからだ。秘密とはどこから漏れるとも限らないのだから。三国志の漫画とかを見ると良い。女房だけなら良いかと思うと、女房が隠れて作った恋人に離してダダ漏れである。

 

とはいえ何らかの保証が必要な訳で、この部屋に通してしまった以上はここにあるモノで終わらせるのが運命という物だろう。

 

「僕は今まで色々と考案してきましたが、人間相手に使用するには過剰な装備であり、魔物に使うには微妙な物がございます」

「攻城兵器の類か?」

「大仰さではそこまで及びませんが、被害はそのくらい出せますね」

 以前に双葉が勝手に秘密ノートを持ち出し、中から料理のレシピを引っ張り出したことがある。

それだけならば問題なかったのだが、色糸考案した武装を書き記したノートを剛盾と大通連が勝手に再現したのだ。それからこちらに危険な内容の物を移し、執務室には問題のない物だけを置いている。

 

つまりはここにあるアイデアは、現在の技術レベルでは過剰な兵器ということになるだろう。

 

「名を銅張り鉄鋼馬車と申します。馬車を強化したものですが、兵を乗せるというよりは銅塀を乗せて移動し、最前線で矢弾を跳ね返すモノになります。常駐させる武装は大型の石弓を」

「……そなたは何と戦う気なのだ?」

 呆れた様な顔をしなくても良いと思うが、自分でも何となく自覚している。

これを数台連ねて壁にして、野戦築城どころか移動する城として使うのだ。移動する間は馬が弱点だが、設置さえすれば相手の攻撃はまず通じず矢戦だろうが殴り合っての消耗戦でも勝てるだろう。

 

とはいえ説得力としては十分だったようで、今までの技術では作れなかったが、鋼のパーツや大型化で構造を強化した馬車なら可能であるとの補足を書いた紙も見せるとウンウンと頷いていた。

 

「国を割って戦うのは愚策ですが、少数精鋭で短期間に勝負を付けるなら丁度良いでしょう。これに随伴させる兵を輸送するための大型馬車は既にあります」

「……危険な奴。だが、この場合は良かろう。今まで渋って居たという事は、本来は使う気などなかったのであろうしな」

「先も申し上げましたが過剰ですので」

 もし、もしの話である。悌さまや侯爵も頷いて大公との抗争になった場合。

大公が動く前に片付けるつもりであるが、それでは済まずに戦う場合はこの銅張り鉄鋼馬車を使う事になるだろう。兵員輸送車両は既にあるし、大公が使ってる屋敷に押し込む分には鉄鋼馬車もあまり数は要らない。

 

それこそ現在は西の島で投石器を造ってる剛盾と入れ替わりでこちらに戻ってもらえば、白紗を全軍で囲むころまでには何台か仕上げて貰えるだろう。その後の論功賞までで良いなら確実なはずだ。出入り口に突っ込ませて封鎖すれば良い。後は隠された出入り口を探すだけだ。

 

 緑青貴は納得して酒瓶を取りあげると爆睡するまで飲み続けた。後で聞くとここまでタガが外れるのは珍しいそうで、宮城や領地ではないから羽目を外しているのかもしれないとのことだ。まあ大公との戦いを決意したことで精神安定剤を求めているのかもしれないけれど。

 

「……何とか収める方法はないのでしょうか?」

『二羽や。そのような事が無理な事は判っておろう。一度動き出した時を押し留めることなど神にも不可能じゃ。大公とやらが決断し、東も南も対抗する事を決めたのであれば……もはや覆すことは不可能』

 娘々が来臨されておられたので、つい弱気になってしまった。

元より都合の良い方法などあるはずはない。ここまで来たら謀殺で終わるか戦争で終わるかの差でしかなかった。もし内戦したくないのであれば、非常手段に手を染めるしかないし、それこそ大公は躊躇しないであろうから。

 

そして悌さま達が動かない筈はない。まずお家の存続あってこその国家体制と考えるのが貴族と言う物であり、国家の秩序となどはその後で考えるべきものだからである。中央集権の野心に駆られた大公などは止まる事など考えても居まい。

 

とはいえ目の前の魔族を倒さねばならぬのは間違いがない。まずは魔物たちを駆逐し、僕も大公に備えるべきだろう。




 PCの接続が不良だったのですが、何とか原因を特定して修理できました。
お待たせしまして申し訳ありません。

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