妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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出兵に際して先発組を選抜、戦いが長引いたら必ず早期に帰還させる事を約束しておいた。
既に橋頭保を確保しているが、普通ならば今から出発するのでどれだけ戦いが長期化するかどうか判らないからだ。こういうところも含めてやっておかないと中央のスパイが容易く見抜きかねない。
遠征時にはこちらが補給を用意するか現地調達なのだが……。経済状況的に問題がある貴族へ前渡しで資金を渡し、手弁当で自前の兵糧を持ってきてもらう。こうすれば彼らもプライドを刺激することなく資金が確保できるだろう。彼らに加えて戦意旺盛な者や功績を挙げたい者を編成することで無理なく戦力を揃える事がようやく可能になった。
「……帳簿は問題ないようですね。では正式に五塀さんへ組合長の引継ぎをさせていただきます」
「銀殿ではないが余禄の方がよほど大きいのに誤魔化しなどせぬよ」
河川協同組合の組み合長と金庫番は数年交代だが、僕は魔物の島確保で出ていた。
その間は業務を緋五塀老人に任せており、内容の監査を終えて問題ないことから正式に交代することにした。やがては緋家の誰かが名目上のトップに収まるだろう。
そして緋家から千名ほどの兵を先発で用意し、赤色港へ出発させる。途中で紅家が用意した先発組の千五百名と合わせて南領諸侯合わせて三千ほどが先行で出兵することになっていた。まあ既に島は落としているから、実際には合計で二千ほどになるはずだけどね。
「中央が援軍が必要だと言うかもしれませんが、本当にそんな時は所定の方法で連絡いたしますので信用しないでくださいね。各領の代官たちにも伝わっているかもしれませんが、その辺りの指導もお願いします」
「うむ。この老人は遠方への出兵には参加できぬゆえな。この程度は任せておけ」
今回は移動経路と距離の問題があるので年寄りや、後継である悌さまは同行しない。
代わりに連さまが暫く紅領で待機し、後発組で参加することになっていた。経験を積む意味でも交流を深める意味でも妥当な配置であり晴れ舞台なのだ、連さま派の五塀老人が裏切ることも誤魔化すこともないだろう。家臣団の留守居役として留まることになっていた。
こういったやり取りで向後の憂いを無くし、総兵力八千弱の部隊を順次送り出す。その予算と兵糧に道を付けた他、後は開戦まで規格化を広めた地域で作られる柵などの物資を送るくらいしかすることがない。先発組と一緒に向こうに渡ることになるだろう。
「エルフやドワーフも大々的に協力してくれるなら助かるんじゃが」
「そこは仕方ないですね。元が魔王が出現した時に対する古の協定でしたし、自由意思での参加を認めてくれただけでもありがたいですよ。集落ごとで協力するにしても、中央や西領は別の国という区分ですから」
魔族との戦いだが異種族が援軍を出したりはしない。
あくまで水棲種族とは同盟を結んだから協力してくれるだけで、それだって主戦線は人間が担うからだ。上陸作戦や囮役までなら良いが、それ以上は難しいとの返事をもらっている。またエルフやドワーフはもう少し引いた扱いである。
大昔に魔王が暴れまわったことがあり、その時の協定で『魔王が出たら損得抜きで協力する』という約束があった。また集落で親しい領主や国主と協力することがあっても、その場合でもこの近辺だと南領までである。
「冒険者ギルド経由で何人か加わってくれたのと、薬草師や錬金術師が販売面で協力してくれましたから、薬品の類が揃ったのはありがたいですね」
「まあ、それだけでも感謝する他ないのう」
紅梓や剛盾の影響もあるのだろう冒険者が増えた。
戦いたいわけではないので傭兵だったら参加しないが、見聞を広めるという意味でなら協力するという連中が居たのだ。ほとんどは狩人などで魔法は使えても補助魔法や強化系くらいだが、それでも専門分野では人間以上の特化系なのでありがたい。
また特に安くなっているわけではないが、通常ならば少数しか出さないような効果の高い薬を売ってくれたのはありがたかった。ゲームみたいにその場で傷が治ったりはしないが、破傷風などの心配がないと言えばどれだけありがたいかが判るだろう。
「しかし……もう少し。もう少しだけ先延ばしにしたかったもんじゃ。いや、手を尽くしてくれた銀殿に文句があるわけではないが……。そういう意味では大公閣下に恨みの一つも言いたいわい」
「仕方ありませんね。どうやら西領よりも西の遊牧民がこちらを伺っているそうですから」
「何じゃと!?」
驚かしたくはないが、後で吹き込まれるのも厄介なのでここで喋っておく。
留守居役の彼くらいは知っておかないと、大公が大袈裟に発表した時に騙されるからだ。流石にここで遊牧民の侵攻に対して手を打っているとは口に出来ないが、僕が知っていて悌さまがデンと構えて居れば、後は五塀老人がなんとかしてくれるだろう。
青い顔をしてこちらを伺う彼に、僕は頷いて問題ないのだと端的に示した。そこから先は落ちつくためと言うか、この会話を誰かにせねばならない時に対する打ち明け話だ。
「大丈夫なのか? 奴らは動き出せば疾風の如くというでは無いか」
「西にも水棲種族が居て情報をくれてます。今の季節は西からこちらに風が来ますので、船便なら馬よりも早く速報が届く筈ですよ。もちろんこちらも斥候を出します」
察知する術はあると教えるが、対処手段は教えない。
これだけで大公のスパイが居る問題で詳しくは喋らないのだと察してくれるだろう。もし大公が『遊牧民が攻めて来そうだから援軍出せ』と言い出した場合、動揺する火入れの諸候に『銀殿ならば対策を打っているそうじゃ。詳しくは聞かなかったが』と伝えてくれるだろう。
もちろんタイミング的には既に魔族を駆逐して居るし、場合によっては大公との決戦時の筈だ。しかし向こうの出方が判らない以上は、迂闊に残存兵力への悪影響を与えられても困るのである。
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五塀老人にしたような話を、もう少し詳しく僕の領地でも行った。
もちろん正妻である麗さんと代官である黄三硯の二人だ。情報が錯綜する為、万が一の場合は行政に関しては三硯が優先で家督に関しては麗さんが優先とする。もちろん『反乱疑惑があるから、無実を証明するために正妻が人質に来い』なんて言われても無視するのは当然だ。
そこまでやる時は南領に攻め入る時に備えてだろうから、逆説的にいえばそこで行かない方が良い。
「万が一の時は洞府を崩してエルフの領域にでも逃げて。娘々の御力は順調に回復してるし、洞府自体は惜しいけどまだ作り直せばいい」
「承知いたしましたわ。しかしこの私が居る限り、娘々の御座所に指一本ふれさせません」
「……」
前に三硯が口にしたことを今度は麗さんが言っている。
まあこの辺はオリジナリティーは関係ないし、神さまなんてモノに出逢った一般ピープルの反応なんてこんなものだろう。万が一の時もエルフ側とドワーフ側のどちらに逃げても良いのだが、エルフの領域を通って水棲種族の早便が来るので、やって来たエルフに連れられて逃げる方が早いだろう。ドワーフの方は守り易い山脈が広がっているが南領の他の貴族が居る領地の筈なので攻められ難い以上の意味がない。
そして双葉だけは一緒に連れて行く。世間的には正妻である麗さんの方が上なのだが、昔からの付き合いで考え方も能力も判っている……いや、一心同体の恋人であるからこそ何か問題があるならば一緒にいたいのである。
(もし大公に負けて一時的に逃げ出すとしたら、付いてきて欲しいのはやっぱり双葉なんだよね。悪いけど麗さんとはお互いに家同士の付き合いの方が大きいし。娘々に傾倒してるとか悪い子じゃないんだけど)
そこまで考えて後ろ向きに成って来た事を自覚する。
もし南領から外に出るとしても、逃げ出すよりは別の意味が良い。逃げるだけとかみじめ過ぎるし、双葉の為に何かするにしてもバカンスであるとか、面倒が嫌いな双葉の為に他人の目を気にせずに食っちゃ寝ができるリゾートを作る方が面白い。どうせなら神さまの信仰を広めるための場所であればなお良いだろう。
そんなことを考えて来たら、色々やりたいことが出てきた。貧すれば鈍するというが、やはり後ろ向きなのは面白くないのだ。ここは是非とも魔族も大公も蹴散らして、楽しい今後を考えるとしよう。
「……? 何か思いついた?」
「新しい御菓子とか、夏場に涼しい建物の研究して水棲種族に場所を見繕ってもらって遊びに行くのも良いかと思ってさ」
「あなた。戦争は暇潰しに行くのではありませんわよ? 勝利を前提にしているのはよろしいですけれどね」
微妙にフラグになりかけたところで麗さんがツッコミを入れてくれた。
何だか後ろ向きだったことが馬鹿馬鹿しくなってきたが、それだけに無事に勝たねば意味がない。
ではひとまず魔族を倒しに行こうじゃないか!
と言う訳で次回から戦争編です。
先に二万字くらいまとめて執筆して、字数を増やしているから仕方がないのですが
読み返してみると『負けないように』『騙されないように』と後ろ向きだったので
原点に返って、面白い事をする為に考えを改めた感じです。