妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
西領上陸戦
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再び訪れた島は既に以前とは比べ物にならない。
水棲種族が快速艇を泳いで則継ぐ早便を使い、時間差で一週間くらい前から既に大々的な工事を始めたからだ。剛盾は現場監督として自分が居なければ作れない物を建造しているそうだ。クレーンなどのパーツも持ってきているので、こちらの到着待ちかもしれない。
ともあれこの段階で『しておかねばならない事』と『やっておきたい事』が存在する。
「お疲れ様です。ありがとうございました。しかし、すっかり黒くなりましたね」
「木を切り倒して日差しが増えたからのう。日焼けしてしもうたよ」
隠れ棲むように少しずつ開拓していったり、投石器を造って居た時とは違う。
僕らが緩やかな海流に乗って到着したころには、移動や開拓に邪魔な余分な樹は切り倒されて建物用の資材になっているのだろう。目の良い紅梓がこの島を見たら、怒ってすっ飛んでくるかもしれない。
現地で活躍したスタッフの功績を剛盾に紙面で貰ったら、最低限の引継ぎは終了だ。さて、この段階で『しておかねばならない事』というのは面通しになる。連れて来た兵士たちに水棲種族と面会して少しずつ慣れてもらわねばならないのだ。味方を敵だと思われても困るし、怯えて本来の任務に刺しつけ当たり情報共通を嫌がるとか困るからね。
「打ち合わせの通り自分の隊から数名ずつ選んでください。水棲種族との合同訓練を開始します。ある程度を熟したら順繰りにメンバーを入れ替えます」
「承知した」
「うむ」
サクラと言う訳ではないが、緋家の武将である緋二広や紅家の武将に根回しをしておいた。
発言力の強い彼らが真っ先に頷くことで、これからの訓練や上陸作戦を既定路線で終えることができる。彼らは前もって水棲種族と出逢った事がある為、問題なく進めることができるだろう。
そしてこれから行う合同訓練こそが『やっておきたい事』になる。面通しを行って水棲種族に馴れなければならないというのは後ろ向きだが、そこでやる訓練は効果的な物だからだ。やればやるほどに意味が出る筈だ。
「訓練内容は?」
「上陸訓練です。この辺りにある幾つかある小島の中には、前もって調べた上陸地点と似たような場所が数か所あります。自分達だけで上陸する訓練を終えた後で、作業を終えた水棲種族たちと合同した場合の労力差を比較してください」
「なるほど。水棲種族の力を借りれるかどうかで随分と楽になるようだ」
当たり前だが水棲種族たちは泳ぐことも、水底を歩く事もできる。
以前に立てた作戦では、彼らに規格化した木材を持って上陸してもらう予定になっていた。自分たちが苦労してボートを漕いでいる脇で、次々に柵が立てられて陣地が出来上がるわけだ。それだけでも十分に心強いだろう。
そして合同訓練では、ボートを引いたり押してもらう形で上陸作戦をするとどのくらいのペースで上陸できるかを計算する。普段は不要でも、一刻を争う時には重要だろう。
(ついでに言うと、こういう感じで実地を模した訓練慣れしてると『色々』と楽になるんだよね。解放区が増えたら『屋敷』での戦いに備えてみるかな)
特殊部隊での訓練を参考にしたわけだが、ああいう部隊では事前に似た建物を使うらしい。
財政に余裕のある軍隊の特務だと、更に突っ込んでソックリの建物を建ててからやるらしいが……。今のところ、大公が使ってる王都の屋敷や、西領での本拠地である白紗の城での本丸に対して使う可能性があるくらいだ。そこまで無理をする事もないし、以後を考えればやっておいた方が良い事でもある。
しておかねばならない事だけだと何処か後ろ向きだが、やっておいた方が良い事に関しては今後の苦労が減るのでやり甲斐があった。
「ここに居る二千の兵の内、上陸作戦へ赴く五百ほどが馴れることをまずは優先。その後に後発の部隊がやって来る時期に前後して、状況次第で先に上陸します。その時点で陣地を築くか、それとももう少し内陸の森か何かに隠れるかは魔族の動き次第ですが」
「そんなところだろうな」
「異存はない」
多少流動的だが仕方がない。
紅梓や現地民たちが情報を集めてくれる手はずになっているが、魔族の動きが分からないからだ。ないとは思うが全部隊で待ち構えているならばその場所から遠い方が良いし、個別に分散しているならば各個撃破できる位置に誘い出した方が良いからである。
これらの訓練と周辺の島々を開拓する事が冬の間にやるべき事だろう。春になって最初の農作業が終わり、暫くは問題ないと判ってから後発組が来ることになっていた。全てはそこから始まる。
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何のかんのと忙しい冬が過ぎ、順調に作戦が始まったのだが馬鹿馬鹿しい前哨戦が起きてしまった。敵がある程度の戦力を分散させ、こちらの上陸しそうな場所を固めて来たのだ。各個撃破のチャンスだったので出撃したのだが、運の悪い事に敵が早期に気が付いて泥仕合になってしまった。戦そのものは訓練のおおかげでスムーズに行ったわけだが……。
蓋を開けてみると『撤退して別の位置に移動すれば、有利にやり直せる段階だった』のに、戦意旺盛な部隊が強行して上陸戦を開始したとのことだ。
「やれやれ、何もかもは上手く行かないな」
「銀殿。そこは仕方ない。誰も彼もが上層部に忠実ではないし、やり直すよりも強行する方が確実と判断する者もそれなりに居るものだ。ましてや一番槍の功績を得るチャンスとあってはな」
「そこは判っているのですけれどね」
さすがに都合よくは行かせてもらえないらしい。
まだまだ先は長いというのに、功績争いの延長上でハッスルする者が出てしまった。彼らから見れば味方が多めで水棲種族が直ぐに援軍として来る状況である。手柄の立て放題だと思ってしまったのだろう。大公に備える必要性なんかしらないだろうし、よい気分であると思われた。
三国志や戦国時代の話で、混成軍を率いる時の苦労が少しだけでも判った気がする。直接の部下でも苦労するのに、一応は同格である諸卿を束ねるのは非常に難しい。
「ともあれ此処から巻き返していきましょうか。命令系統の統一と言う意味では問題ですが、上陸成功と敵部隊の撃破は勝利ですしね」
「そうだな。魔族は強いから何とも言えんが、幸先は良い方だろう」
騎士や貴族には裁量権と言う物が存在する。
与えられた任務の範疇でなら何をしても問題はないというやつだ。もちろん住民を虐殺とかしたら大問題になるが、それだって綱紀を乱し他の領主の財産を処分したことが問題なだけで、貴族ではない一般人の命は計算に入ってはいない。
そして何より、指揮官や軍師の命令を逸脱しようとも『成功すれば問題ない。功績を挙げて認められ、領地を貰う方が重要』だとなってしまうのである。今回は国土奪回であって功績争いはそこまで必死ではないのだが。
「上陸部隊は敵部隊を拘置。敵味方の増援を待ってそのまま防衛戦で相手の出血を誘います。迂闊に飛び出すことは禁止すると、その点だけ厳命してください」
「言いたいことは判るが、緒戦でそれは慎重過ぎぬか? もっと積極的に……」
「いや、銀殿は臆病風に吹かれているわけではない。理由があるそうだ」
紅家の武将が苦言を呈しようとするが、二広が止めたことで一度話を切る。
僕らは三人で目を合わせた後、ハンドサインで顔を近づけて内密の話をする事にした。ただここで大公の話はまだ出せない。備えるにしても極端なことになるし、スパイがそろそえ増え始めるからである。
だからここで、前後する予想の方を先に出しておく。大公が発表する前に国元で留守居役の緋五塀に話をしたのと同じ理屈だ。
「……実は国境線で遊牧民の動きがあります。対抗策を授けて分隊を送り出しましたが、ここは被害を抑えて一気に都市攻略を行う必要性があります」
「なんと……」
ただ遊牧民の話を伝えるわけにはいかない。
重要なのは対策を立てている事、ここで被害を出すわけにはいかない事、そして都市攻略のために仕込みをしている最中だと言う事だ。特に最後のはちゃんと伝えておかないと、『遊牧民が来る前に攻め落とさねば!』などと張り切ってしまうので逆効果であった。
ゆえにここは最初だけ時間を掛けて見せ、二戦目三戦目こそが重要だと強調しているのである。
「避けられる損害を出したのは痛いですが、相手に悟られぬように水際に誘い込めました。その意味ではまだリカバリーは効くでしょう。敵がこちらを包囲した所で、別口に回った部隊を使って逆包囲を掛けます」
「水棲種族の戦いぶりは見させてもらった。挟撃どころか四方八方より攻め立ててくれよう」
ある程度をはなせば即座に戦闘方法を理解してくれる。
水際で戦い別動隊が後ろを突く。それだけならばオーソドックスな戦いなのだが、水際でも戦闘力が落ちないどころか水底に潜める彼らは天然の海兵隊だ。半島の様な場所に誘い込めば、平気で水辺から強襲し、しかも自分達だけは逃げ帰られる。これが詐欺だと言わずに何と言おう。
そして思わぬ損害を出したものの、逆包囲戦で勝利をもぎ取りつつ、国境沿いや都市部への潜入を誤魔化すことに成功したのである。
と言う訳で戦争の始まりです。
入念な準備をした割りにいきなり失敗しましたが、何とかできるのOk。
主人公は戦慣れしてないので『なにが軍師じゃ、ワシの方が経験豊富!』
という騎士たちの心境を理解してなかった感じですね。