妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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南蜃砂の戦い:前編

 本土から来る後続が来たことで南領総軍が本格的な進撃を開始。

途中でペースを調整して、予め探っておいた場所で魔族の軍隊と会敵した。有利な地形とはいえガップリ四つに組んでの戦いなので負傷者が続出、後方基地に送り返して療養するという日々が続いていた。

 

こうなることが判っていたので無理をしないように言っていた僕や紅家の将軍はまだマシだが、他の諸卿は苦い顔をしていた。

 

「二広殿、義兄上。それほどに魔族は強いのですか?」

「ここは銀殿から説明した方が早いかと」

「承知しました。失礼して……」

 本隊と共に訪れた連さまが副将格として質問したので、こちらも説明を始める。

説明用に用意した大きな木の板に、簡単な数字を書き込んだ小さい板を置いていった。数字は1~6、これはレベルと脅威度を表すと言えばゲームをやった者には判り易いと思う。

 

要するに今相対している敵の戦闘力を簡単に表したものである。

 

「この数字は魔物の強さを単純に示した物です。10で魔王とお考え下さると判り易いですが、問題なのは一般的な人間との比較の方です。1が民兵相当ですがコボルトは若干素早く、2は兵卒相当ですがやはりゴブリンの方が強いです。3・4はそれらの頭目、5・6となれば部族の長やオーガで体力・膂力に優れるとお考え下さい」

「なるほど。相手の方が五割増しくらい強いのですね。それと正面から戦った、と」

「ぐむむ……」

 こちらの方が人数多いので騎士たちは自分の部下を率い躊躇なく殴り合った。

しかし単純な数字で比較すると、純戦力は同じくらいか相手の方が多いくらいなのである。予め優位地形に陣取り、色々と手配して居なければ今ごろボロボロだったかもしれない。しかしまあこれも仕方がないのだ。何しろ諸卿は僕の分析をそれ程信じては居なかったのだから。

 

ゲームとかで屈強な魔物と弱い人間と言う図式を知らなければ、僕だって人数多くて地形が優位なら勝てると思うだろう。

 

「とはいえ将軍の御采配で出血は最低限に収まっております。本隊の到着で問題なく街道までは突破できるかと」

「それは当然の話です。とはいえ敵戦力が判っているのにこれで終わっては義兄上の指導不足と言う事になります。何か策があるのでは?」

 ロクに諸卿が従わない状況で責任問題を問われても困るが……。

実際に策を実行中なので仕方がない。南領の総大将である紅家の侯爵さんから強力な采配を委ねられていたわけで、策の為に『あえて強引な指示を行わなかった』ということになるだろうか? それにしても言い方が気になるが、連さまが笑って聞いているのが救いである。

 

おそらくは大公の使者か何かに僕を突くようにキツク言われたに違いない。連さまとしても波風を立てたくないから、こうして冗談めかして居るのだと推測された。

 

「ここで明かすのもどうかと思ったのですが、別口の情報が入りましたので仕方ありませんね。情報は二つ。現在の状況は大公殿が今後もこの国の首座に立つべく、こちらの情報を漏らしていたそうです。次に遊牧民の同行が確認されました。まもなく中央からの発表も追い付いて来る頃かと」

「なんだと!? 遊牧民が!」

「それにしても大公めが、返す返すもいやらしい!」

 肩をすくめた連さまにならって僕も肩をすくめて話し始める。

その上で緋二広や紅家の将に目配せをしておき、適当な所で雑談を打ち切る準備をしてもらった。その間に僕は魔物のレベルを示した木の板を片付け、別の板を用意しておく。

 

青の板が南領を含む我が夏朝の軍隊。赤が魔族の軍隊。そして黄色が遊牧民である。

 

「西群鎮台を抜いたはずの国軍本隊は足踏みして居ます。おそらくはこちらを消耗させつつ、一気に白紗を陥落させることで遊牧民たちを威圧するつもりでしょうね。我々が被害を抑えながら殴り合っていたのは、同様の策だと思ってください。沿岸都市である南蜃砂を落とした後で即座に白紗へ向かいます」

「なるほど。その為に無理な攻めはするなと」

「意図は判ったが、本当に可能なのか? 我々は少数の魔族にすら苦戦していたのだぞ?」

 二広と将軍が交代で是非両方の言葉を繋ぐ。

ここから重要なのだと理解して、諸卿たちも押し黙った。もしこの場で代わりに提案しろと言われても無理なので、黙るしかないのもあるが。

 

僕は諸卿が静かにするのを待って、少しずつ駒を動かしていく。まずは黄色の遊牧民たちを一定距離で停止、そのままUターンさせた。

 

「遊牧民たちは勝てそうだから来ているのと、あくまで魔族を我々が退治できないという大義名分で動いています。ですので南蜃砂や白紗を落とせれば引き返す可能性は高いでしょう。もちろん策は打って居ますが、重要なのは都市の方なのでこちらを先に説明します」

 彼らは生存のために動いているので、イザとなれば大義名分など無視するだろう。

しかしこちらが勝つ可能性もある間は無理には動かない筈だ。食料問題はあれから何とかなったと報告を受けているし、そもそも現在の彼らに強力な指導者がいないのである。だからこそ統領の一人である羅虎がこちらで呑気に交渉できたというのもあるだろう。

 

裏を返せば強力な指導者が現れたら大義名分など気にもしないのが遊牧民なので、これはあくまで諸卿の説得用なのだけどね。

 

「南蜃砂は沿岸都市と呼ばれる通り、水際なので水棲種族の力が借りれます。それとは別に以前の戦いで城壁が万全ではない為、事前に工作班を送り込めば裏側から城門を開ける事が出来ます。もちろん次の戦いで魔族が逃げ遅れたら、我々も同時に雪崩込むのですが」

「それは判った。次の戦い次第と言う訳だな? では肝心の戦いの方を尋ねよう」

「うむ」

 大公の指示で沿岸都市くらいは落とせと言ったのを覚えているだろうか?

あれは要するに詳しく知らない上層部からみれば『城壁に不備がある城』など強攻すれば落ちるだろう。せいぜい犠牲を出して落としてこいということなのだ。これら城壁や遊牧民の情報を聞いていたらもっと楽だったし、諸候も少しは大公に協力的だったのではないかと思う。

 

それはそれとして、これらの情報から急拵えで直した部分だけを強攻する。万全な状態の城門には裏工作で当たるという訳だ。諸卿の手前、敵軍と一緒に侵入するといっているが、実のところ冒険者や傭兵出身の連中であったり、現地民の中で有望な者を集めて既に送り込んで居たりする。ここまで足踏みしていたのは、この時間を稼ぐためだ。

 

「策は三つ。地形を利用するのは同じですが、第一に攻城兵器を投入して倒す意味の薄い雑兵たちを間引きます。第二に後方で療養していた者たちで構成する部隊を伏兵に充てます。知っての通り緒戦で傷ついた者たちは既に治療が終わっておりますので」

 これまでは城攻めに使うというお題目で置いて行かれた剛盾製の投石器。

戦線が膠着したことで追い付けたこと、そして諸卿が相手の強さを理解したことでようやくお披露目できる。とはいえ剛盾を本土に戻してしまったため、用意できたのは数台でありバラバラではそれほど役に立たたない。あくまで援護射撃を行う程度でしかないだろう。

 

だから地形を利用してまとめて使用し、濃密な弾幕で主力のコボルトやゴブリンの数を減らしておく。

 

「アンデッド戦で使ったという作戦ですね? では改めて質問を。オーガ以上に限っては下手な騎士より強いと思いますが、耐久力と膂力で突破してしまうのではないでしょうか」

「それに関しては第三の策を。こちらで一番強い豪傑たちをまとめて投入します」

 連さまが口にしたのが騎士たちに投石器が置いて行かれた主な理由だ。

上陸戦では組み立てる時間が無かったとはいえ、相手の動きを待っても良かったはずである。しかし水辺であった為に水棲種族たちに協力してもらい、四方八方から攻め立てたことから使う事が出来なかった。その後は優位地形にあった事と数がこちらの方が多かったので、余計なことはせずに沿岸都市まで取っておけと言うことになったのである。

 

まあこの辺は『無理な攻めをせずに戦ってくれ』としか言わなかった僕も悪い。先に言った通り、相手の強さを知らなければ、優位地形で数が勝って居れば普通なら勝てるからだ。

 

「我らをか?」

「その通りです。紅包さまならオーガなど一捻りでしょう。遊戯盤では最強の札同士をぶつけ合うよりも、最強の手札で相手の強い札を損害なく下す方が確実ですから」

「なるほどな。不満はあるがどうせこの辺りには相手になる者もおるまい」

 これまでは紅包・二広・大通連の三名は個別に戦っていた。

紅包さまは上級貴族の子弟だし、二広は緋家の武将。そして大通連は好き勝手に戦うタイプで普段は適当に暴れている。そこで今回はコントロールして相手の動きをシャットアウトするために使うのだ。トランプで言えば絵札で数字の9や10を潰すような物である。

 

こちらの強い騎士とオーガを数値化すると共に5であるとするならば、例え勝ったとしても負傷するような戦いになるだろう。だが紅包さま達なら数値は7~8、特に紅包さまの命中精度だけならば9に及ぶ。急所狙いなり大振りな技を使ったとしても見切られることはないので、サクサクと倒してくれるに違いあるまい。

 

「戦としての流れはこうです。優位地形で待ち構えて投石器を放ち、それでも乗り越えて来る部隊を迎え討ちます。そして相手がオーガ達をまとめて突撃させたらこちらも三名で、個別に来るのであれば交代しながら戦っていただきます。復帰する部隊はその後に追撃用ですね」

「良いのではないでしょうか。騎士たちにも主力として戦うという役目がありますしね」

 この作戦のミソは豪傑たちはあくまで遊撃隊ということだ。

騎士たちを蔑ろにしては作戦に従ってくれないし、敵も優位地形の中で一番通り易い場所を抜けて来るのだが、それ以外からも回って来れないわけではない。その辺りを考えれば最初から豪傑たちに頼るわけにはいかない。ロボットのアニメと違って、敵軍のエースを倒したら終わりではないのだから。あくまで彼らの出番は、戦線が膠着して敵味方の様子が判ってからである。

 

作戦的には投石器の使用や豪傑の集団投入以外は常識的な物であり、特に反対も無く連さまが賛同したことで決定した。仮に大公のスパイが何か手を打って来るとしても、このタイミングでは本隊の動きと連動しているので悪さをし難いのだ。投石器を燃やされたり沿岸都市ごと僕らを焼き払われないように注意は必要だが、それ以外は手を出してこないだろう。




 と言う訳で大規模な戦闘の説明会。
前回に実戦経験が少ないからと侮られていた部分を盛り返し、策を考案。
一気に全ての手札を投入して、勝ちに行く感じですね。
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