妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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とある洞府の銀天君

 道士の朝が早いかどうかは別にして、普通の荘園領主よりよほど朝は早い。

何しろ領内はまだまだ平和ではなく、防衛体制がようやく整ってきただけなのだ。それも障害物で誘導し、その動きを遠くから眺める程度であるから大したものではない。

 

それら障害物の集まる北東部は対アンデッド湧きの最前線だ。洞府のある北西部から、いつもと変わりないかどうかを確認に行くのが日課になっている。

 

「どう?」

「このところアンデッドは減少傾向ですね。他の荘園でもうちと同じ防衛方法を真似してるのかもしれません」

 最前線の砦モドキというか、家屋を利用した見張り小屋。

そこを任せてるのは一緒に傭兵を止めた仲間の一人だが、僕が荘園主であることもあり敬語になっている。当然の処世術ではあるが現金な物だ。

 

ともあれこの発言から伺えることは二つ。

一つ目はアンデッドが減って助かっているという良い面と、他の荘園……おそらくは傭兵仲間の中で荘園主候補だった連中が真似ているという微妙な点だ。この世界に特許なんか無いし、有効な手段ならば真似るのは当然とも言える。

 

「そいつはしまった。真似て良いよと言う代わりに何かお願いしとけばよかったかな」

「はは。それはいいですね。うちで採れない作物でもあればよかったのですが」

 当時はそんなことを考えていなかったので後の祭りである。

ついでに言うと他の荘園も似たり寄ったりの場所で、エルフやドワーフと隣接していないという差くらいしかない。こうなってしまったら、メリットであると考えるしかないだろう。

 

例えばそう……この方法を教えて近隣を安全にしたのは僕の主導であるとか。

 

「うん。そうだね。そうしよう」

「はい?」

 僕の脳内思考について来られても困るので独り言だと言ってスルー。

リカバリィの話としては、今現在改良している防衛施設の改良とか配置に関して最新データを手紙を送るとしよう。そうすれば主導者として僕の存在が明確になる。放っておくと青悟あたりの手柄になってしまうから、やるなら早い方がいい。

 

そうした場合のデメリットは僕が試した経験を無償で配る事と、領主だる伯爵に睨まれる可能性だ。とはいえ今の処は領主との仲は悪くないし、放っておくとコピーだけされるので行動することは無駄じゃない。

 

(それに……この村は時々代官を派遣する程度で、自主性があったみたいだしなあ。村長に荘園主など知らん、出て行けと言われても困るし)

 思うのだが、ここの村長は領主の妾の子供とかが送り込まれた村じゃないだろうか?

前に言ったと思うけれど領主館が無いのだがその理由が判るし、村長自身が開拓領主でもない理由が判る。となると最悪の場合、僕と村長で対立する可能性もあった。

 

別に村の経営自体は村長に任せても良いのだが、些細な事で対立されても面倒くさい。僕自身は税金と労役の範疇で色々熟す気だけれど、相手の方に隔意が合ったらどうしようもないのだ。

 

(ここは静かに足元を固めないとね。先にこっちの方が有力だと判れば、無茶しない限りは文句は言わないでしょ)

 荘園主同士のネットワークがあって、領主の覚えもめでたい。

そんな状況で村長が問題を起こすとは思えなかった。やるとしたら領主の陰謀であるか、あるいは僕が重税をとったり村長をないがしろにする時くらいだろう。

 

村人たちは親戚が居る村やら町から順次戻ってきているが、村長もそろそろ安全地帯である伯爵の所から戻ってくるはず。もしかしたら伯爵から問題を起こすなと言われているかもしれないが、対策は先にやっておくことしたことはないだろう。

 

「と言う訳で僕は他の仲間に手紙でも送るよ。防衛に関して目新しい報告があったら教えてね。みんなに伝えるから」

「判りました、御屋形様」

 間借りしている村長宅に戻りながら、送る為の文面も考えておく。

僕が用意した地形による防衛の有効性に関して、必要ならば幾らでも流用して良いという追認。それに何かしらの新しいデータもあった方が信憑性が増すだろう。

 

見返りを要求されるかもしれないという懸念に関しては、魔物退治は民全体の為であるし、僕が信仰する神様は知恵とコツを分け与える神なので問題ないとしておく。その上で村の産物に関しては報酬次第なので相談して欲しいと切り分けておこう。コピーされるときは一瞬だが、こういう明文化は重要なのだ。

 

「というか……この手の話に関してはエルフの方がフットワーク軽いよな。……まあ僕らが生まれる前から政治家やってた連中に勝てるとは思わないけど」

 温室に関する技術と経験提供に対して、森の産物という代価はちゃんともらえた。

桃や蚕に関してはそのまま要望が通った感じだが、恐ろしい事に桑の木ッポイ植物が山ほど送り付けられてきたのだ。そりゃお蚕さんには必要な食糧なのだが、どうしてそれほどと思った事はある。普通ならば桑の葉っぱを売りつけるか、取りに行く許可を出すくらいだと思うだろう。

 

これに対する反応は、ノーマルな衣服の生産と桑の木の世話をこちらに押し付けるという算段であった。ファッションとか無関係な防寒着とか上着に関して交易品にあがってるのはともかく、送りつけて来た桑の葉っぱに関して要求されたのは笑うしかない。まあ要するにそれだけエルフも蚕の食欲に関しては持て余していたという事だろう。

 

「誰だよ……エルフはノンビリしてて政治とかより慣習を重視する昔ながらの社会形態だなんて言ったやつ……」

 まあ天然ボケがリーダーやってたら、とっくに滅びているという事なのだろう。

族長は定期的に変わるらしいし、人間よりもよほど上手くやってる気がする。暫くは利用されることも覚悟しつつ、より良い隣人暮らしをしたいものである。

 

ちなみにドワーフの方は質実剛健で怒ると怖い連中と言うイメ-ジとあまり変わらない。とはいえ単純に表に出さないだけでやはりお馬鹿さんであるなんてまったく思えないので、こだわりのある職人集団とでも思って置くことにした。

 

「はいはーい。ちょっといいかなー?」

「……紅梓さん。何が起きたんですか? というか何を押し付ける気なんですか」

 村長宅に戻ると今しがた話したばかりのエルフが待っていた。

もっとも族長たちと違って素直なヨイ子……考えなしな面がある人なのだが。それだけに満面の笑顔を張り付けた胡散臭い顔だと気になってしょうがない。

 

こういう時は色々と問題があって、それを押し付けたい時なのだ。

 

「いやーちょっとした魔物……獣が出てね、面倒くさいことになりそうなのよ」

「それを退治しろってことですか? 山狩りするから人手を出せって事じゃないですよね?」

 真面目な話、エルフが自分の領域に自ら他人を招き寄せるとは思えない。

呼ぶとしたら自分が絶対的に有利な状況で、ありがたく援助をしてやろうという時くらいだろう。

 

そう思っていたら斜め上と言うか、答えから行ってしまうと単に紅梓のミスを押し付けられただけである。

 

「うーん。実はね、もうこっちの荘園に入っちゃったのよ。勝手に追いかけるわけにもいかないし、一応は追いかけて良いか許可を取るべきかなーって。放っておいて良いならそうするけど」

「対処法は二つですね。僕が狩ってエルフ族に文句を言うか、紅梓さんが依頼を僕に出すかです」

 怒りが湧いたが……勝手に入って事後承諾で片付けてない分だけ良しとしておこう。

無視して後から文句を言われる前に通報に来た善意の第三者だと言えなくもない。きっとエルフの仕業だと判る攻撃を当てて逃げられたのだとは思うが、今は手掛かりの方が惜しい。

 

あと、ついでに紅梓に貸しができるというか……似たような事例が起きた時の慣例として積み重ねておきたい。

 

「えー!?」

「エー。じゃないですよ。こういう案件は僕得意ですから、ちゃっちゃと決めてください。依頼を出す場合は地域やら生息やら判ってる分だけ料金は安くしますんで」

 かわい子ぶられても色んな意味で困る。

何十歳と年上で性格が難儀してるのでとうてい口説く気にはならない。ついでに言うと髪を染めるのはともかくタトゥー入れてる人は好みでは無いので遠慮したい。

 

それにこの人も判っててこういう仕草をしてるのだと思えば、馬鹿馬鹿しくて本気で口説く気になる以前の話である。

 

「えーとねー。思ったより足早くないけど……すばしっこくて気配を消すのが得意で、ちょっとした魔法には抵抗力があるのよね。あと外見とサイズは馬より小さいくらいのオオトカゲ……」

「大事じゃないですか! どうして逃がしたんですか!!」

 話に出てきたのは六本脚のトカゲである。

確かに足早くないがそれは馬と比べての話。前世で言うとドサンコ馬くらいのサイズと速度のオオトカゲだ。皮はそれなりに厚くて微妙に鎧の材料にはならないというラインである。

 

トカゲの仲間なので足音や気配を消すことができ、探知魔法も効き難いから隠れられると面倒だ。草食性で森の中に棲んでることが多く、亜種になると沼や川にも棲むという。

 

「ホラ、アレよ。前に言ってたじゃない? 繁殖させて馬の代わりにできるか試したいなーとか」

「うちの荘園に迷い込ませた理由にはなってませんよね? 族長には告げ口しないし、依頼料は格安にしますんで、サッサと何処に逃げ込んだかを教えてください!」

 もしエルフの領域で飼っていて、僕の為に送り込んだならばまだヨシとしよう。

しかし子供くらいならパクリとやってしまいそうなオオトカゲを野放しにしている理由にはならない。

 

木の上に棲む事が可能なエルフには無害だからと言うのも当然なしだ。というか普通のエルフは普通だから地面に家を建てて暮らすしね。

 

「とりあえず僕は捜索の準備をしますんで、依頼書を早く! 実は同じ特徴の別の生物とかいうオチもなしですよ!?」

「そこはちゃんとするわよ、もう!」

 時間を争うのでサッサと用意することにしよう。

故郷でレアな山鳥や獣を捕まえる事が得意だったのだが、その時の経験を活かすべきだろう。

 

というかまんま保全能力を使用した小道具の作成何だけどね。

 

「剛盾さん! 円盤ない? 鍋の蓋とかみたいなの。できれば大小揃えて二つ、もしくは一枚と人形みたいなのでもいいけど」

「何じゃい? 地図でも作るのか?」

 この世界にコンパスはないが、円盤を地図の上に置いて方位の測量くらいはする。

だいたい今程度の角度に……というくらいなのだが、今回はニアピンだ。方位を図ってオオトカゲを追い詰めるために使用するのだ。

 

このアイデアの元はうちの神様がエライ主神さまを助けたという指南車がモデルになっている。こっちの世界に来るときに、転生特典を渡すことができない代わりに幾らか教えてもらったアイデアである。

 

「ええとね。仮に円盤だと仮定して、重要なのは円盤の上と下を抵触させない事。だから複数の円盤でも良いし、高さを作るという意味で人形でも良いんだ」

「ちょっと待っとれ。そのくらいなら今作ってやる」

 結界同士を抵触させると消耗して消えてしまう。

そこで数枚の円盤に分けるか、人形を使って区分する訳だ。そしてこの二か所に使う保全する対象を使い分けて、相手がどこにいるのかを追っていくわけだ。

 

物理的な指南車は、決めた場所とそこからどれだけ動いたかを計算して、元の方向へ戻すという機械だ。確かエンジンだかコンピューターだかにも利用されている仕組みでしかない。

 

これに対して保全能力を活かしたこの応用技は固定対象1つを指定、この方位に対して逃げている相手を移動対象として設定する。そして固定対象への方向と移動動対象への方向で針とか円盤を動かすことでおおよその位置を把握するギミックである。もちろん複数の固定目標と移動目標を設定できれば詳細に把握できるけど、コストの問題と抵触厳禁の問題で難しいのが難点だ。

 

「今のうちに何人か人を動かして封鎖しよう。この能力は結界と同じ能力だから、あちこちに張ってる場所に入られるとアウトなんだ」

「ほー。面白い仕掛けじゃが万能ではないのう」

 こうして指南車モドキを作成し、オオトカゲ包囲網を作ることになった。

相手の居場所が全く分からず、結界に逃げ込まれたらどうしようもないという意味で、その辺のアンデッドよりも難儀しそうである。無傷で捕まえて飼いならせたら、ロバの代わりに使えるかもというのがせめてものリターンであろう。




 とりあえず今後の問題対処と、ついでに馬の変わりが登場します。
馬ほど高速で動かないけど、しぶとい感じのナマモノになります。

次回は仙人ぽいアイテムを作って追いかけっこするというお話予定でしょうか。

●道士名
 『真人』と『天君』で迷いましたが、銀羽真人より銀天君の方が良さ削げなので。
あと名前に羽があるからとネーミングにも入れたら、妖怪仙人ぽいからですね。
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