妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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何事にも予想外の事は起きる物で、僕らから見ると紅包さま豪傑たちが負傷したことだった。
これで今後に一騎打ちで強引に突破するという選択肢が使えなくなってしまった事になる。少なくとも紅家の者たちが紅包さまだけは出撃させないだろう。
仕方ないのでその辺りも踏まえて計画を練り直す。今のところ白紗でいきなり大公を刺し殺すとかやるつもりはないので問題はない。やるとしたら廟堂で排除できないと判明する前後だ。そのタイミングならば強硬策になったとしても間に合う……と思われる。
「遊牧民対策もありますし、本営を南蜃砂の北まで前進させましょう。都市入りさせないのは、例の付け火は魔族がやったものだから警戒が必要だという事にします」
攻めてくるかもしれない遊牧民対策の名目で南領軍本営を部隊代わりにする。
都市の占領は終わり、いつでも出撃できるという態勢を演出するためだ。その前の戦いで南領の兵士たちは傷ついてるし、治療も終わってないのに無事な兵だけを抽出するのは不可能だ。そんなことは前世の軍隊でも不可能だし、転生後だと功績の管理やら負傷度合いの管理で大忙しどころではないだろう。
もし、強引にやるとしたら戦闘に参加せず無事な部隊を中心に、傷の少ない舞台を集中的に治療して千かそこらをでっちあげる程度だろうか。
「それならばいっそ国軍の旗印を立てさせるか? 中央から長駆してやって来たと思ってくれるやもしれんぞ?」
「いえ、それだと大公閣下の方で吸収する妙分が立ってしまいます。……合流したのだから早く来い。白紗攻めに対して先陣を申し付けると言われても困りますから」
「返す返すも大公閣下の意向には頭が痛いな」
中央からの先遣隊であれば後続が居ると思わせられ、傷ついた部隊であろうと問題ない。
しかしここで問題になるのは遊牧民対策というのは名目と言う事だ。大公に使い潰されないことが重要なので、却って相手の思惑に嵌ることになる。寄らば大樹の陰と言うか、養分として吸収されたくはないのだ。
ともあれ予備兵であり本陣警護に使っている兵があれば、二千弱ほどの軍勢をでっち上げる事ができる。これに傷の応急手当てを終え、編成を整え直した部隊を合わせれば三千から四千を見込める筈だ。当初の半数とはいえ、形だけは整ったことになる。
「ひとまずコレで急場をしのげます。中央からの国軍には『沿岸都市奪還中。急行軍で南蜃砂を落としたばかりに付き、編成を終え次第向かう』とでも報告しておきましょう」
「嘘では無いな。予定としては早い方といえる」
「戦場から逃げ戻った兵と共に追いつけねば、今ごろはまだ攻略の真っ最中だ。文句は言うまいよ」
緋二広や紅家の将と相談しつつ、用意しておいた草稿をまとめる。
既に何パターンか文面を書いておいたので、二人に見せて了承された物を選んで清書していく。概ね内容には間違いがなく、日にちやら兵数の見込みが違うだけなのだが。
後はここからどう進軍するかのペースとルートで白紗への到着がずれるというところか。
「報告書の大半はしたためてありますので、決定稿を文として書き起こしますね」
「聞いての通りだ。攻略成功の速報とのみ告げて通れば良い。急げと言って来たら、出来ぬものは出来ぬと言っておけ」
「はっ!」
中央からせかされているのは確かなので速報として送っておく。
当たり前だが軍隊の編成が瞬時に終わったら苦労はしない。転生前の知識やら計算とかで数字には強いが、人事面での苦労などしたことがない。特に説明はしていなかったが自営業だった身としては、将軍たちが平気で中央の使者に強く出れるのが羨ましいくらいだ。
何しろ生前は『安くできるよな?』とか『手伝ってくれるよな?』と言われたら頷くしかないのが小心の身の悲しさである。
「基本的には軍を整え、南領として挟み撃ちをできる体勢を最低限の目標とします。先遣隊を斥候代わりに向かわせるのはアリですが、半端な陣容では遊牧民に侮られますし、先に申した通り吸収されて使い潰されてしまいますから」
「その辺りは軍師殿に任せる」
「銀殿の方がこういった管理には軽い。我々が口を挟む義理ではないよ」
封をした羊皮紙を伝令に渡すと、今度は次の目標を紙に書き込みながら表向きの話をする。
もし中央が『良いから来い! 厳命だぞ!』と頭ごなしに入って来たら遊牧民対策の話を持ち出すまでだ。遊牧民対策で西回りのルートを通りつつ整然として進軍するなら文句は付けようがない。中央の国軍から情報が全く入らないわけではなく、遊牧民の話は既に出ていると判って居るのだから。
その上で紙には実質的な数字を書き記した。遊牧民対策は既に出来上がっているという話をここで彼らにしたのだ。
「おそらく遊牧民は食糧問題が起きているのでしょう。農作物ではなく牧畜方面での飢饉かもしれません。そういう意味で我らが既に守りを固め、西領を奪還したことで食料輸出が再開できると判れば攻めてこないかもしれません」
「なるほどな。そういうことであれば国境沿いを伺いつつ……ということになるか」
「部隊の一部を派遣しておくのもよいかもしれませんな」
口ではこんなことを言っているが、『食料を売っても良いと交渉を終えている』と紙面にだけ書き記した。
二人は目を見張るが、口ではなく秘密裡に二人だけに伝えている意味を瞬時に理解した。僕にそんな余力はないと知っているので、事前にこの話は解決したのだと理解したのだ。その上で『念のために備える体勢は重要』であるとか『大公に素直に従わない為』と納得したのだ。
そして最後に、最も重要な事を周囲から誰も窺って居ないことを確認して書き記した。
「大公閣下としてはせっかく西領を奪還するのだから我々を使い潰しつつ、遊牧民に備えたいのでしょう。この国を守るという意味では協力すべきですが、使い潰される必要はないはずです」
「……左様。我々は大公閣下の臣ではないのだからな」
「……なんという、いや、なんというか。戦うは武人の本懐ですが、無用な戦いは避けるべきでしょう」
それは大公が王国を再編し、中央集権国家を作るために全員を処分するという事。
東の公爵すらその対象とし、当然ながら南を率いる紅家の侯爵さんも同様であると書き込んだのだ。流石の二人も驚いた物の薄々は大公の強引さから察していたのではないだろうか。この国の首座は持ち周りであったのを、ずっと権力を持ち続けようとする……と言う話までは今までしていたのだから。
そして書き記した紙を特殊な薬剤に放り込んで溶かし、別のことを書いたメモ用紙を茶を沸かす為の火の中に放り込んで証拠を隠蔽しておく。これでもし誰かが魔法か何かで紙を復元したとしても、ただのメモが蘇るだろう。
(これで二人も僕がやってる対策が、大公への対策だと理解したはずだ。既に送り出してる部隊に気が付いたとしても、その辺りの工作だと納得してくれるだろう)
今回の都市攻略戦では、敗残兵と共に雪崩込んで勝利したことになっている。
実際には既に街中に工作班を忍び込ませていたし、周辺の情報も紅梓たち経由でしっていたのだ。それらで稼いだ時間と兵士の余力を、既に白紗方面に派遣して道中の調査に当てている。
もし暗殺者の類が居れば見逃さないし、白紗攻めでも同様の工作を行うつもりであった。ただし……それは白紗を落す時に使うのではない。白紗を拠点に大公が速攻を掛けようとした時に、先に潜んだこちらが向こうの工作兵を捕捉する為だ。
そして稼いだ時間で負傷兵を搬送する為と称し、銅張り鉄甲馬車を組み立てる準備を始め、最終戦に備える。
と言う訳で最終戦に向けての仕込みになります。
魔族相手だけじゃなくて、大公さんが動く場合に備える感じですね。