妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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そして最終局面へ

 暗殺というものは殺すだけなら、意外と成功し易いのを知っているだろうか?

ならば何故やる者が少ないかというと大きな問題が二つある。第一に影武者ではなく本人を確実に暗殺する必要があり、第二に実行犯と黒幕が生きのびる必要があるからだ。写真も無い時代に顔見知りでもない暗殺者が間違える可能性は大きいし、知人が実行する場合は当人や派閥の者がまとめて処刑されてしまう。

 

だからこそ実行犯は間違えることなく対象を暗殺した後、捕まることなく逃げねばならない。

 

「ほ、本当にそんなことが可能なのか?」

「可能です。魔族と遊牧民対策を兼ねて当日はこんな陣形を築きます。まず包囲網の一部に穴を開けてそれを表向きには隠し……」

 白紗奪還戦を口にしながら、書面で大公への対策を会議。

言葉とは裏腹に『大化の改新』をモデルにした暗殺計画を簡単に記していく。他にも歴史的な暗殺は数ある中で、この話を流用したのは状況が似ているからだ。日本の歴史の中で大きな転換期の一つである大化の改新。諸説はあるのだが……これは連合王朝から中央集権に移る過渡期の事件だと思えば判り易い。

 

古代の日本では大王家と四つの王家があり、筆頭である物部氏や大王家の有力な分家である聖徳太子の上宮王家は既に滅びている。ここで新しい筆頭である蘇我氏を滅ぼすことで中央集権が完成する。今回は逆で、中央集権を企む大公を僕ら諸侯が暗殺するのだが。

 

「つまり魔族に『自分だけは気が付いた穴』だと思わせて、そこを突いて油断した所を狙うと」

「むむむ……」

「古典的なカウンターです。陳腐ですがそれだけに有効かと」

 魔族に関してはもう包囲して徐々に削るくらいしかすること無いので簡単なものだ。

しかし複雑極まる宮廷事情の方は面倒くさい。緋二広は専門外なので軍事面以外はさっさと放棄したが、紅家の将は話について来ている。困難な状況で大公を狙うリスクを訴えたいようだが、大公が中央集権を実行するする場合は確実に侯爵以上の貴族は生き残れないだろう。暗殺の必要性を認めたようだった。

 

そして大公が中央集権を狙って強硬策に走るというのは、僕が妄想を抱いているという訳ではない。権力に執着している姿勢は以前からであるし、僕と同じ結論を東領の緑家も出しているからだ。

 

(思えば緑青貴さまが直接明言したのが大きいよな。あれで悌さま達も腹を括ったし。後はやり切るだけだ)

 大化の改新とはある種の意味で、有力者が示し合わせた暗殺手段の正当化である。

暗殺で一番難しいとされる犯人の逃亡・生存を考慮しなくても良くなるのが大きい。次に護衛も制限されるのが当然の状況であり、本人が参加しないと政治問題が起きるタイミングで暗殺を行うから後腐れがない。

 

この状況を作るのに一番厄介な、誰が首謀者で誰が全責任を負うのかが明確になったという点で緑家の決断は大きかった。あれがなければみんな決断で来たか怪しい。

 

 そして白紗攻めが始まり、最低限の確認事項をこの間にやっておく。

緑家の公爵さまや東領の諸候は当然ながら、陸路で駆けつけた南領の諸上層部も合流。相変わらずやる気のない北領が西群鎮台で残敵掃討を行っていると聞いた時は苦笑すらしたものだ。

 

公称では夏朝総勢五万というが、海路組を合わせてもその半分居るかどうかどうかであった。だが魔族の生き残りは五千どころか四千を切っている。被害さえ気にしなければまず勝てるだろう。

 

「既に書面で報告いたしましたが、遊牧民対策で布陣を終えております。また僭越ながら、現地の状況も確認しております。戦後に何らかの支援が必要かと」

「その辺りは大公殿が判断されるであろうよ。ご苦労であった」

 まずは悌さまに報告書を渡し、それを侯爵さんに送っておく。

もちろんここで暗号なんてやり取りはしない。軽く視線を合わせて意向が変わってないことを確かめただけだ。侯爵さんも傍目には労う言葉に頷いたようだが、非常手段を行う事に覚悟を決めたのだと思われる。普段の温厚な様子とは違い、厳しい顔で頷いていた。

 

真面目な話をすると、ワザワザここで伝えたり聞いたりしなくても、紅包さま経由で幾らでも直の話ができるからだ。詳しい確認をするとしても、親子である紅包さまの方がよほど深い話ができるだろう。

 

「率直に聞く。勝てると思うか?」

「総合すればこちらの方が数は多いですから。加えて言うと城というものは防御機能こそ高いですが、逆に言えば分断され易いという欠点を備えていますので」

 悌さまの質問へ僕は即返答した。

ちなみにこれは二広や紅家の将とやっていた、文面での秘密会話ほどではないが、二重の意味を持っている。判り易く言うと魔族・遊牧民という単語を、大公とその勢力と言い換えれば意外と通るかもしれない。

 

要するに、大公が地元ゆえに諸候の数倍の護衛を引き連れ、居城に無数の兵を置いたとしても……。こちらの諸侯が引き連れた護衛の総数の方が多いのである。朝議に兵を引き連れたまま参加できない以上は、城と言う構造に分断される訳だ。

 

「おそらくは戦い始めて幾らもしないうちに、兵力分散に気が付いて脱出を敢行するでしょう。追撃する準備は整えています」

「なるほどな。国境沿いに兵を伏せたのか」

 この作戦も既に伝えた内容なので繰り返す意味はない。

大公の使う脱出経路をこちらのメンバーが確認し、暗殺時にはそこを通らせないように待機させるという意味になる。これに関しては白紗に潜入させたが、特に工作させずに見守ってもらった甲斐があるという物だ。

 

大公の手の者が入り込み、イザと言う時に使用できるか確かめていたそうである。

 

(まあ非常口が一つとは思えないし、この通路って大公自身が暗殺に使う場合に備えて確認させたんだろうな)

 当然の事ながら大公が城そのものから脱出するための通路は見つかって居ない。

何処かの部屋から城の外に落ちのびる通路など調べようがないし、大公の手の者に教える筈もないだろう。諸侯がまったく手を貸さずに独力で攻略する必要があれば別だが、今回判ったのはそういう場所では無かった。そうそう都合が良くは進まないという事だろう。

 

大公の手勢が確認したのは、謁見の間の周辺に兵を伏せたり別の場所に移動するための通路である。こちらの暗殺に備えつつ、同時に機会があれば暗殺用に兵を伏せる場所と思われた。

 

「イザとなれば室に優れた部隊で攻め入る必要があるが、二広は大丈夫として、お前のところの豪傑は?」

「大通連は残念ながら負傷している上に、目立つので警戒されているでしょう。最悪、僕が突入部隊の指揮を取り二広殿に戦っていただくことになるかと」

「お前がか?」

 豪傑三人のうち飛び道具の得意な大通連は、だからこそ連れていけない。

タフだから怪我をしても実務に耐えられる緋二広は、能力面が偏るからこそ遅滞戦闘向きで速攻は期待できない。もっとも強くて確実な紅包さまが怪我して居て家臣たちが過保護というのが最大の問題だった。二人とも無理して連れていけなくもないが、どちらかといえば『封じられることで、大公に安心させる為の見せ札』にしかならないだろう。

 

だがここで僕が居る意味が出て来る。記憶力が保持され前世の記憶もあるので、僕ならその場で『白紙の訴状』で罪を問うことも不可能ではない。まさしく大化の改新と言う訳だ。鎌足を気取れるような才能があるかと聞かれたら自身はないけどね。

 

「いずれにせよ遊牧民に対する備えもあります。時間との勝負ともあれば多少の無理をせざるを得ないでしょう。場合によっては紅包さまも戦線に復帰されるでしょうし」

「委細はすべてそなたに任せる。これは私だけの言葉ではないぞ」

「御意に」

 どのみちここで動かねば後はない。

そのまま僕らを遊牧民なり魔族への密通疑惑で捉え、対策を対策ではなく協力だったと行って処刑する。もし白紗でやらなくとも夏都でやるだろう。ここまでなら大公の権力の方が遥か上であり、対抗できる東領の公爵さまをその場で拘束すれば良いのだから簡単だ。

 

僕もここまで果断に動くつもりはなかった。場合によっては夏都で仕掛ける手もあったからだ。しかし大公の工作員に兵員輸送車両を燃やされたり、事故に見せかけて壊されて定数を減らされてしまった。向こうがやる気ならば応じるまでだ。

 

そして大公に例えた魔族が、僕らの作戦通りに動き始めたのは会見の暫く後であった。




 と言う訳で城攻め開始、おそらくはこのまま落ちるでしょう。
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